地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

7月号-No.039
1998.07.10(毎月10日更新)

●特集「'98 夏のフェスティバル」

●浜松市アクトシティ音楽院(静岡県浜松市)
●ママディ・ケイタコンサート(岡山県美星町)
●ISHIKARI Wonder Land 風舞台'98(北海道石狩市)
●人形劇カーニバル飯田(長野県飯田市)
●アートは楽しい9ー手のわざ・時のわざ(群馬県渋川市/ハラミュージアムアーク)
●ミュージコCity探検隊(静岡県大井川町/大井川町文化会館)
●猪熊弦一郎と子どもたち(香川県丸亀市/丸亀市猪熊弦一郎美術館)

●制作基礎知識シリーズ<美術編(1)>


特集「'98 夏のフェスティバル」

 
今年も夏のフェスティバルシーズンがやってきました。恒例となった夏のフェスティバル・野外企画の特集ですが、今年は夏休み子ども企画情報も加え、増ページでお送りします。


●地域が育てた2つのフェスティバル
 
 今年、長野県飯田市の「人形劇カーニバル飯田」が20周年を迎えます。今や日本で最も大きい人形劇フェスティバルに成長しました。今年は「世界人形劇フェスティバル」を併せて開催、350を超える世界の人形劇団が集まります。このカーニバルを支えているのは約2000人の市民ボランティア。会期中には、街中の商店街のショーウインドーに人形が展示され、お祭り気分を盛り上げます。
 
 同じく、飯田で開催されている「アフィニス夏の音楽祭」 も今年10周年。この音楽祭は、プロのオーケストラの若手団員に研鑽の場を提供すべく開催されているセミナー&コンサートです。人形劇とクラシック、一見関係なさそうですが、実は、人形劇カーニバルが開催されている飯田市の雰囲気をみて、音楽祭を飯田で開催する話が生まれたそうです。今年は10周年を記念して、世界のトップクラスの演奏家と国内24の楽団から集まった若手演奏家によりフル・オーケストラを特別編成。世界的なチェロ奏者として知られるM.ロストロポーヴィッチを指揮に迎え、オーケストラコンサートが開かれます。
 
●参加型企画が盛りだくさんの夏の美術館
 
 夏休み、参加型のワークショップや、子どもを対象とした展覧会が各地の美術館で開催されます。先行するいくつかの館を除くと、全国の美術館で、こうした企画が開催されるようになったのはここ5、6年のこと。企画の内容も、「作品を分かりやすく解説する」といったスタイルではなく、作家とともに制作するワークショップや、ゲーム方式での美術探検など、自由な目線で美術と遊んでしまおう!というような企画が多いのが特徴。各館独自の企画が目白押しで、東京の世田谷美術館では、子ども達が館蔵品を使って実際に展覧会を制作するそうです。
 
 一方、ホール・劇場の夏休み子ども企画といえば、肩の凝らない「ファミリーコンサート」が主流でしたが、最近ではプロデュース公演やワークショップ、バックステージツアーなど、ヴァリエーションも多くなってきました。夏休みの体験をきっかけに、その後も足を運んで欲しい、というのが美術館、ホール共通の願い。今年の夏休み、どんな美術館やホールが子どもたちにとって「忘れられない場所」となるのでしょうか?


●浜松市アクトシティ音楽院スタート

「イーストマン音楽学校夏季セミナー」など3プログラム
 
 「"音楽のまちづくり"を進めている浜松市では、今年の4月に新しく『浜松市アクトシティ音楽院』をスタートさせました。アクトシティの計画当初から音楽学校をつくろうという話はあったのですが、国内で音楽学校の需要が少なくなってきているきびしい現状を調べていくと、果たして新しい音楽学校が望まれているのだろうかと…。
 
 それで平成8年に市民の代表に懇話会をつくって協議してもらい、これまで音楽振興課をはじめさまざまな部署で行ってきた音楽セミナーなどをとりまとめながら、音楽の人材育成と市民への還元を行う『音楽院』をつくりました。
 
 世界的に活躍できる人材の育成を目指す『マスターコース』、全国的に活躍できる人材の育成を目指す『ゼネラルコース』、市民が気軽に参加できる音楽講座の『コミュニティコース』があり、例えばこれまで音楽振興課が行ってきた『浜松国際ピアノアカデミー』『浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバル』はマスターコースに、浜松市楽器博物館が行ってきた『世界の音楽講座』『世界の楽器のレクチャーコンサート』などはコミュニティーコースに移行されました。音楽院ができたことで、これまで市、教育委員会、財団が別々に行っていた事業の連携がとりやすくなったところがあります。今後は学校現場との連携なども、積極的に考えていきたいと思っています」

(浜松市アクトシティ音楽院 金山岳史)

◎おすすめプログラム
「イーストマン音楽学校夏季セミナー」では音楽家を目指す人を対象にした個人レッスン(1時間×4回)と授業が中心になっていますが、8月9日には地元の子どもたちへの指導会があり、市民に無料公開しますので、ぜひご覧ください。

◎おすすめスポット
やはり浜松市楽器博物館でしょう。楽器のコレクションが充実していて、国立民族博物館にもない珍しい民族楽器もあります。アドルフ・サックスがつくったサックスもあります! 世界の名器をはじめ、文化財的な貴重な楽器が盛り沢山です。
 
●浜松市
○第4回浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバル 7月25日〜29日
○イーストマン音楽学校夏季セミナー 8月2日〜11日
○音楽体験教室(楽器づくりワークショップ) 7月22日〜31日
[お問い合わせ]浜松市アクトシティ音楽院 Tel. 053-451-1150


●日本一の星空と野外コンサート ママディ・ケイタコンサート
 
  「今年も"中世夢が原"でアフリカ音楽の野外コンサートを開催します。出演は、ギニアの民俗楽器ジャンベ奏者、ママディ・ケイタさん。自分で言うのも何なんですが、ここは日本一の野外コンサート、しかもアフリカ音楽に向いている会場じゃないかと思っているんです。"中世夢が原"は、中世の武士の屋敷や民家などを再現した歴史公園なんですが、その武家屋敷前の広場がコンサートの会場となります。コンサートの開始は日の暮れかけた7時半。なにしろ電気もガスもない中世ですから、かがり火を焚くんです。コンサートが盛り上がり、暗くなるにしたがって、どんどん、どんどん、火を大きくしていく。コンサートが終わる頃には辺りは本当の闇。見上げれば満天の星空です。このロケーションにアフリカ音楽がすごく合う。
 
  恒例の子どもたちへの太鼓ワークショップのほか、今年は、オスマン・サンコンさんに、ギニアの生活や音楽について話してもらう企画も。ぜひ、最高の星空と、野外コンサートを味わいに来てください」

(中世夢が原 日高奉文)

◎おすすめスポット
その名の通り、星のきれいな美星町。歴史公園の敷地内には天文台があり、星の観察ができる。
 
●岡山県美星町(びせいちょう)
[日程]8月6日
[会場]中世夢が原
[お問い合わせ]Tel. 0866-87-3914
 

●20代の若者が結集した夏祭り

 ISHIKARI Wonder Land 風舞台'98
 
  「一昨年、石狩市制記念事業として町が呼びかけて野外劇をつくりました。市内の文化団体が全部出演して、実行委員会にも文化団体の代表が出て、みたいな催しだったんですが、総勢1500人が参加して、新旧住民とか若者とかお年寄りとかみんな一緒にやってものすごく盛り上がった。僕も演出班で参加したんですが、これまでこういう機会がなかったよね、またやろうよと声をかけたら40人ぐらい集まった。それでTEAM0133を旗揚げして、自分たちで資金集めから全部やって去年も野外劇をつくりました。今、TEAM0133には会員が100名くらいいますが、7割が20代。石狩は札幌市のベッドタウンで人口が急増したんですが、これまで町おこしをやる団体もなくて、新住民は帰って寝るだけ、みたいな。それがここに結集したって感じです。地元のJCの青年部の人とか、役所の人とかも参加していますがみんな個人の資格。普通、町おこしとかいうと商工会が中心だったりしますから、こういうの珍しいんじゃないですか。僕ですか? 僕は寺の坊主で35歳です。今年は、頭も下げないのに(笑)市役所とか教育委員会とか観光課とか第三セクターとかみんな協力してくれて、総合夏祭りになりました」

(TEAM 0133代表 飯尾亜紀仁)

◎おすすめスポット
  海浜植物が群生している「ハマナスの丘公園」にはぜひ寄ってください。それから今回の会場になる「番屋の湯」もいいですよ。第三セクターがつくった温泉で、露天風呂からは海岸線が見わたせて夕日が沈むところなんか最高です。有名な明治創業のシャケ料理専門店「金大亭」(要予約)もあります!
 
◎宿泊アドバイス
  民宿2軒、旅館1軒しかありません。10名以上の団体なら「番屋の湯」に泊まれます。現在、温泉の横に「番屋の宿」を建設中で、来年4月にはオープンします。札幌市内に宿泊した場合、車で40分程度です。
 
●北海道石狩市
[日程]7月25日、26日
[会場]「石狩温泉番屋の湯」駐車場特設ステージ(25日はソーラン祭りと芸能バトル、26日は野外劇ほか
[お問い合わせ]TEAM0133事務局 Tel. 080-370-9382、(社)石狩市観光協会 Tel. 0133-72-4611
 

●20周年を迎え大規模に

 「人形劇カーニバル飯田」「世界人形劇フェスティバル」
 
  「飯田には300年の歴史をもつ人形浄瑠璃が2座あります。国際人形劇連盟日本支部の関係者が、飯田の人形劇を見て、ぜひここで全国的な人形劇の祭典ができないかと市長に提案したのがきっかけとなり、1979年にスタートしたのがこのカーニバル。基本的に人形劇団は自主参加。1回目は市内17会場、60劇団の参加だったのが、昨年は283劇団が参加、会場数は90以上にもなりました。今年は、世界人形劇フェスティバルを併催。参加劇団は350以上になる見込みです。カーニバルが始まって20年、ここまで大きくなるとは誰も思ってなかったのではないでしょうか。
 
  始まった頃は、正直、市民は『一体何がはじまるんだ?』という感じだったんです。ところが今では飯田の夏の風物詩としてすっかり定着。約2000人の市民がボランティアとして運営を支えています。市内全域の公民館や学校で、それぞれの地域の人が劇団を受け入れ、公演と交流を行うという『分散公演方式』をとったことが、ここまでフェスティバルが大きくなり、定着した理由でしょうか。今や、誰もそのすべてを見ることができないほどに大規模なフェスティバルとなってしまいました。
 
  今年は海外から12劇団を招聘する一方、伝統人形劇芝居の連続公演も実現。世界の前衛的な人形劇芸術と、日本の伝統が出会う貴重な機会に、ぜひお越しください」

(飯田文化会館 原国人)

◎おすすめプログラム
  初来日のポーランドの人形劇団シアター3/4は非常に人気が高く、おすすめです。そのほか、私たちの身のまわりにある日用品(ブラシやホース、スプーンやフォーク)が命を吹き込まれて登場するドイツのテアテラ人形劇場や、笑いあふれるスウェーデンのドックテアターなど。また、伝統人形劇芝居の連続公演もぜひ見てほしいですね。
 
◎おすすめ情報
  「竹田扇之助記念国際糸操り人形館」をカーニバル期間中特別公開します(本格オープンは来年4月)。また、飯田市美術博物館では、NHKテレビの人形劇『三国志』などの作品で知られる川本喜八郎氏の人形美術展が開催されています。
 
●長野県飯田市
[日程]8月2日〜9日
[会場]飯田文化会館ほか市内全域約100会場
[お問い合わせ]飯田文化会館 Tel. 0265-23-3552
 

●高原の美術館でモデル体験

 ハラミュージアムアーク〜「アートは楽しい9ー手のわざ・時のわざ」
 
  伊香保グリーン牧場の中、赤城山を一望できる高原の美術館、ハラミュージアムアーク。周辺にはアンディー・ウォーホルや宮脇愛子などの作品が展示され、自然の中で美術鑑賞が楽しめます。さらに、夏のおすすめは、参加型のイベントも盛りだくさんの現代美術の展覧会「アートは楽しい」。
 
  「今年のテーマは『手のわざ・時のわざ』。『わざ』という言葉を手がかりにして現代美術を眺めていきます。出品作家の一人、アイディーブティックは、ポケモンをプリントとした柔道着や、迷彩模様のセーラー服、ゆかたスーツなど、びっくりするような素材とデザインの衣服を仕立ててしまう作家。会期中、美術館のエントランスでファッションショーも開催してしまいます(8月15日)。現在、このショーのモデルを募集中! 経験のない方も大丈夫。プロのモデルが『モデル歩き』の指導をいたします。でも、体型によっては着れない服もあるのでご容赦を」

(ハラミュージアムアーク 柳田依子)

 そのほか、吉田重信によるワークショップ「虹ヲアツメル」「虹ノカンサツ」(小学生以上/8月1日、2日)や、佐藤紀雄+黄敬ギター デュオ コンサート(8月8日)など。
 
◎おすすめ情報
  「カフェダール」は、赤城山の稜線と伊香保グリーン牧場の広大な緑を一望できるオープンテラスのカフェ。展覧会に合わせて手作りする「イメージケーキ」やグリーン牧場特製のアイスクリームなどをお楽しみいただけます。
 
◎おすすめスポット
  いで湯の街で有名な伊香保温泉や上毛三山の榛名富士を映し出す榛名湖、うどんで名高い水沢観音などもすぐ近く。
 
●群馬県渋川市
[企画展出品作家]小金沢健人、中村哲也、村上 隆、吉田重信、アイディーブティックほか
[日程]7日4日〜9月27日
[会場]ハラミュージアムアーク
[お問い合わせ]Tel. 0279-24-6585
 

●"ミュージコザウルス"現る

 「ミュージコCity探検隊」
 
  大井川町文化会館ミュージコのバックステージツアーでは、その名も"ミュージコザウルス"が、小学生を劇場の世界に案内する。「この企画は、職員と一緒にボランティアの方10人ほどが、アイデアを出し合ってつくっているんです。子どもたちが親しみやすいキャラクターが欲しいと考えていたら、メンバーの一人が、「ミュージコにはピンク(!)の恐竜だ」と言い出して。イラストもメンバーが描き上げて、当日には手作りの"ミュージコザウルス"の看板が子どもたちを迎えます。前半は、ホールや楽屋、照明室、音響室などをまわるんですが、矢印や足跡を追いながら、探検隊スタイルで巡る予定。もちろん、見るだけでなく、指令を受けて、引き割り幕を実際に操作したり、楽屋でメークをしたり、曲当てクイズをしたりと、盛りだくさんの内容を考えています。それから、後半では、ホールで実際に簡単な舞台づくりにチャレンジしてもらう予定。詳しい内容は当日のお楽しみです。
 
  今年初めて行うんですが、受付初日に定員を超える申し込みがあって、嬉しい悲鳴でした。とりあえず来てもらえれば、いろんな発見があるはず。絶対楽しいと保証します!」

(大井川町文化会館 佐々木明美)

●静岡県大井川町
[日程]8月6日
[会場]大井川町文化会館ミュージコ
[お問い合わせ]Tel.054-622-8811
 

●猪熊画伯と子どもたちのおしゃべりが作品に

 「猪熊弦一郎と子どもたち」
 
  丸亀市猪熊弦一郎美術館は、香川県出身の猪熊画伯の作品を中心に、現代美術を収集・展示する美術館。これまでも、毎夏、子どもを対象としたユニークなワークショップを開催してきましたが、今年の夏休みは約1カ月、子どもたちと猪熊弦一郎の"対話"をテーマにした企画展を開催するとのこと。
 
  「展覧会に先立って、ギャラリートークを行い、猪熊画伯の作品から受けた印象をもとに子どもたちに作品をつくってもらいました。集まったのは小学生を中心に180人。針金など身近なものを組み合わせた"対話彫刻"という作品の前で、『猪熊画伯は、自分なりのきれいと思うものをみつけるのが得意だったんだよ』と話をすると『こういうのもありかあ〜』と子どもたちの声。応募があった作品は100余り。拾ってきた畳2枚分の段ボールに端切れや切手をコラージュした共同制作作品や、虫の死骸を張り付けた作品など、子どもたちの『きれい』が表現された作品が集まりました。こうした子どもたちの作品などを、夏休み期間中、猪熊画伯の作品とともに展示します。
 
  会期中にも、展示室で作品を見た印象をその場で表現できるワークショップを行うほか、いつでも作品をつくれるよう造形室を開放します。子どもたちには、猪熊画伯とのおしゃべりを存分に楽しんでほしい。友達と一緒に、夏休み中何度でも来てほしいですね」

(丸亀市猪熊弦一郎美術館 大西晶子)

画伯と子どもたちのおしゃべりの数だけ、作品が増えていくというこの展覧会。最終日には一体、どうなっているのでしょうか?
 
●香川県丸亀市
[日程]7月25日〜8月23日
[会場]丸亀市猪熊弦一郎美術館
[お問い合わせ]Tel. 0877-24-7755


制作基礎知識シリーズ 美術編(1)

美術業界の構造

講師 村田真(美術ジャーナリスト)

  美術界を知るためには、まず初めに、日本の美術界のいびつな構造について触れておく必要がある。でなければ、わが国の美術館や画廊の特殊性が理解できないからだ。結論を先に言えば、日本の美術界は大きくふたつの世界に分断されている。ひとつは、日展、二科展、院展といった公募団体系の世界であり、もうひとつは、そうした団体に属さないでインディペンデントに活動する現代美術系の世界である。


二分された美術界の構造と、日本の画廊・美術館の特殊性
 
●分断されたふたつの世界
 
  公募団体とは、文字どおり作品を公募して入選作を展示する美術団体のこと。全国に100以上あり、主に上野の東京都美術館(*1)で定期的に展覧会を開く。いわゆる画壇を形成しているのはこうした団体系の作家たちである。その公募展で何度か入選を重ねれば会員や同人に推薦され、そのうちのトップクラスが理事になり、理事長にまで上りつめて文化勲章でも受ければゴールだ。このようなピラミッド構造の歪んだ部分は、出世するには芸術性より政治力や協調性や師弟関係がものをいい、新しい創造や実験的な試みはむしろその妨げになりかねないことである。これはまさに日本の社会の縮図と言っていい。
 
  もともと日展(*2)は、明治時代に文部省が開いた文展を前身とするが、その文展から分かれた二科会(二科展)(*3)にしろ、日本美術の振興を目的とした日本美術院(院展)(*4)にしろ、出発点は高邁な理想を掲げる革新的な在野団体だった。ところが、時が経つにつれ理想は形骸化し、在野精神も薄れて保守的・権威的になるのが世の常。その歴史性と安定感において団体展は大衆的人気を得ているものの、もはやそこからアートの革新は望めそうにない。
 
  例えば、公募展には洋画・日本画・彫刻・工芸などの部門が設けられているが、そうした旧態依然としたジャンル分けには括れないインスタレーション、ビデオアート、パフォーマンスなどの新しい表現はすべて抜け落ちてしまう。したがって、現代美術を目指す作家たちは、たとえ公募団体に入りたくても門前払いを食うことになる。もっとも現代美術は個人の能力がすべてなので、初めから団体などに属そうとは思わないはずだが。
 
  こうした現代美術系の作家たちは、組織に縛られず自由に制作・発表できる反面、生活は安定しない。しかも現代美術というと難解だと思われがちで大衆的人気もない。だから彼らの多くは国内で評価されるよりも、むしろ海外のアートに照準を合わせている。つまり、世界のアートマーケットで通用する可能性があるのは現代美術系のほうなのである。


●平山郁夫と河原温
 
  例を挙げよう。公募団体系の代表を平山郁夫、現代美術系の代表を河原温としてみる。日本美術院の理事長を務める平山は、国内では知らぬ者はいないほどの国民的画家だ。デパートや美術館はこぞって彼の個展を開き、毎年高額納税者の上位にランクされるが、海外のアートマーケットや、欧米の美術館、国際展で彼の作品に出会うことはあまりない。
 
  一方の河原温は、団体に属さないのはもちろんのこと、日本という“団体”にすら背を向け、欧米を舞台に活躍する一匹狼である。日本では知名度は低いが、世界ではトップクラスのアーティストであり、主要な美術館ではしばしばその作品にお目にかかる。今年ようやく東京都現代美術館(*5)で大回顧展が開かれたものの、企画したのは海外の美術館であり、それが日本に逆輸入された構図だ。
 
  このように、国際化が進むにつれ現代美術系の重みが増してきていることは確かである。ただし断っておくが、いま述べたことはあくまで国際的評価を基準にした時の見方であって、どちらが正しいということではない。そもそも美術の場合、国際的評価イコール欧米の評価と言ってよく、それのみを絶対視するのが危険であることは言うまでもない。かといって、それを無視して国内にしか目を向けないのはもっと危険であるが。ともあれ、日本の美術界はこうした価値基準の異なるふたつの世界に二分され、それぞれの評価も内外で正反対を向いているという事実は押さえておきたい。


●貸画廊という独自の制度
 
  我が国では美術館も画廊も、このふたつの世界を基盤に成り立っている。まず画廊から見ていこう。画廊といえば展覧会を企画して作品を売る企画画廊(*6)を指すが、それとは別に作家にスペースを賃貸する貸画廊(*7)もある。この日本独自の貸画廊に対して、そもそも作品を売るはずの画廊が逆に作家からカネを取ることへの批判は根強い。とはいえ、カネさえ払えば自由な作品発表が保証されるというメリットは小さくない。したがって貸画廊を借りるのは、ほかに発表の場を持たない現代美術系の作家が多いようだ。ちなみに、日本一の画廊街として知られる銀座には292軒の画廊があるが、貸画廊はそのうち129軒を占める(『美術手帖年鑑97』調べ)。
 
  彼らはまず貸画廊で作品を世に問い、認められれば企画画廊にステップアップして、作家として自立していく。美術館に作品がコレクションされて、ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタなどの国際展(*8)に招待されれば一人前だ。これが現代美術系の出世コースであり、貸画廊はその登竜門に位置づけられる。これも一種のピラミッド構造といえるが、公募団体と比べれば自由度は高い。
 
  しかし近年、貸画廊を巡る状況は変化しつつある。それは、若手作家を対象とするコンクールや非営利のギャラリーが登場し、また、新世代の画商(*9)が現代美術を扱う企画画廊を相次いで開設していることなどによる。つまり選択肢が多様化し、貸画廊を通らなくても作家への第一歩が踏み出せるようになったということだ。さらに、画廊や美術館といった既存の美術施設ではなく、屋外や廃屋で展覧会を開くことも珍しくなくなった。もはや大金を払って貸画廊で発表する時代ではないのかもしれない。
 
  こうしたことから貸画廊も危機感を抱き、単にスペースを貸すだけでなく、若手作家の企画展を開いて現代美術に貢献していることをアピールし始めた。銀座の10軒の貸画廊が結束し、「新世代への視点 画廊からの発言」(ルナミ画廊、コバヤシ画廊、ギャラリーなつか、かねこ・あーとギャラリーといった銀座界隈の代表的な貸画廊10軒が、1993年から時期を合わせて開いている若手作家の企画展。95年まで毎年、以後隔年で開催)と題する企画展を開催しているのはその表れだろう。


●変わりつつある美術館
 
  では、美術館はどうか。美術館というのは本来コレクションがあって、それを一般に公開することで初めて美術館として成り立つ。ところが日本の場合、自前のコレクションを持たずに単にスペースを賃貸するだけの展示会場にも美術館の名を冠したのである。このように画廊にしろ美術館にしろ、スペースをレンタルするという発想は日本独自のものと言っていい(詳しくは次回で述べる)。
 
  例えば上野の東京都美術館。設立は1926年(当初は東京府美術館)に遡り、公立では最も歴史の古い美術館だ。ところが、この美術館は前述のように多くの公募団体の貸会場として使用され、館独自の活動はしてこなかった。まだ美術館の役割が確立されていなかった時代なので仕方がないとも言えるが、問題は、後に各地に林立することになる公立美術館の運営に、悪しき前例を残したことである。それが、ソフト(中身)がなくてもハード(建物)さえあれば美術館になるとするハコモノ志向であり、そうしたハコモノ行政を、各地に支部を持ち政治力もある公募団体が支えていったのだ。
 
  東京都美術館はその後、75年に企画展示棟が新設され、コレクション展示と企画展示が可能になった。しかし、企画展が開かれている間はコレクションが見られず、機能的には不十分だった。これを解消したのが95年、木場に開設された東京都現代美術館である。ここでは、上野から移されたコレクションの常設展示と館独自の企画展示だけを行っている。
 
  その結果、上野では相変わらず公募団体が展覧会を打ち、木場では館独自の企画で現代美術を紹介するという2本立てになった。つまり、公募団体展に独占されていた美術館に現代美術系が入り込み、両者の棲み分けが可能になったということだ。それはとりもなおさず、現代美術の価値が認められてきたということであり、また、ハードだけでなくソフトの重要性が認識され始めたという証にほかならない。


*1 1926(大正15)年、公募団体の貸会場として上野に開館。41(昭和16)年からコレクションを開始し、75年に隣接地に移転した際、企画展示棟を新設。木場にコレクションを移してから、企画展示棟では主に新聞社主催の大型展を開いている。
 
*2 1907(明治40)年から始まる官設の文展(文部省美術展覧会)が前身。帝展、新文展を経て戦後の46年に日展(日本美術展覧会)となる。58年に社団法人化された。
 
*3 1914(大正3)年、文展の革新的な作家たちが審査を新旧二科に分ける運動を起こし、在野団体として二科会を創設。ここからさらに多くの美術団体が分離独立することになった。芸能人が出品することでも知られている。
 
*4 1898年(明治31)年、東京美術学校を辞職した岡倉天心が日本美術院を創設。その展覧会を略して院展という。経営難のため茨城県五浦に本拠を移したが、天心没後の1914(大正3)年に再興された。
 
*5 1995(平成7)年、木場に開館した日本最大級の美術館。約3500点のコレクションを順次展示する常設展示室と、企画展示室に分かれる。購入作品の価格を巡って都議会で議論を呼んだのは記憶に新しい。
 
*6 「企画画廊」という言い方は、貸画廊と区別するための便宜的な名称にすぎない。現代美術を扱う画廊では、東京画廊、西村画廊、フジテレビギャラリー、佐谷画廊あたりが代表格。
 
*7 スペースレンタルする画廊のこと。レンタル料は、30平方メートル弱で30万円前後(6日間)が平均的。人が来なければ作家も借りないので銀座に集中している。最近は貸画廊でも企画展を行う割合が増えている。
 
*8 ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア)とドクメンタ(ドイツ)は、現代美術の動向を占い、アートマーケットにも影響を与える重要な国際展。その他、サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル)、シドニー・ビエンナーレ(オーストラリア)、光州ビエンナーレ(韓国)など世界中で開かれている。
 
*9 90年代以降、30歳代の画商が海外をにらみつつ同世代の作家を扱い始めた。レントゲンクンストラウム(南青山)、ワコウ・ワークス・オブ・アート(西新宿)、オオタファインアーツ(恵比寿)、小山富美夫ギャラリー(佐賀町)など、銀座以外の地で店を開くのも特徴。

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