地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

11月号-No.043
1998.11.10(毎月10日更新)

●「公共ホール音楽活性化事業」スペシャル対談

●制作基礎知識シリーズ 美術編 (3)


「公共ホール音楽活性化事業」スペシャル対談

クラシックが変わる、地域が変わる
沢崎恵美×津村卓
 
 財団法人地域創造では、本年度から新規事業として「公共ホール音楽活性化事業」への取り組みを始めました。この事業の主旨は大きく3つあります。1つが公共ホールの職員にクラシック事業を企画する機会を提供する、2つ目が才能のある新進アーティストに活躍の場を提供する、3つ目がアクティビティとよばれるミニ・コンサートやワークショップなどを行い、アーティストと地域の人々との交流を図る、というものです。今回は、公共ホール音楽活性化事業スペシャルとして、紙上対談を企画いたしました。参加ご希望のホールには詳しい資料をお送りしますので、お問い合わせください。


 前号のレターでもお知らせしたとおり、現在、「公共ホール音楽活性化事業」の次年度参加ホールの募集を行っています。今回は、事業に協力していただくアーティストの代表として、声楽家の沢崎恵美さんにおいでいただき、実際に事業に参加しての感想や抱負を伺いました。聞き役は財団チーフディレクターの津村卓です。

◎背景がわかると聴き方も変わる
 
津村●この事業についてどのようにお知りになりましたか?
 
沢崎●事務所の方からお話をいただきました。公共ホールの職員の方と一緒に企画を立てて、地域の人たちと交流する事業があって、アーティストとして応募しておいたから、自分として考えられるプランを出してほしいと。
 
津村●どんなプランを出されたのですか?
 
沢崎●私の専門は日本の歌曲で、今、野口雨情について勉強しています。それで、ただ童謡を歌うだけでなく、作詞をした背景や中山晋平さんとの親交などについて語りながら「しゃぼん玉」や「七つの子」などを歌うというプランを出しました。
 
 2年ほど中学の非常勤講師を務めたことがあるのですが、最近の子どもに教科書に載っているような昔の歌を歌わせても、エーッて感じで。「花の町」という曲を教材で取り上げた時にも、「こんなダサイの歌いたくない」と言われたので、曲の背景を説明したんです。「美しかった町が原爆で一瞬にして灰になり、家族も友だちも死んだ。でもここで希望を捨てないで、またこの町に花が咲くようにしようよ」という歌なのよって。そうしたら、子どもの中で何かがはじけて、彼らはその歌が大好きになって、気持ちを込めて歌えるようになりました。聴きに来てくださるお客様も同じで、歌の背景がわかると聴き方が随分、変わってくるのではないでしょうか。


◎アーティストの人柄にふれる
 
津村●クラシックはとても堅苦しいイメージがありますよね。演奏家も怖そう(笑)ですし。
 
沢崎●そんなことはないんですが。この前、今年の「音楽活性化事業」で呼んでいただくことになった北海道の新冠町に打ち合わせに伺った時に、「近寄りがたいイメージがある」と言われましたね。通常はマネージャーが間に入るので、ホールの方とお話する機会がほとんどありませんでしょ。実はオチャラけた人が多いのですが、そういう人柄をわかっていただく機会がほとんどなくて。
 
津村●クラシックは高級で知的で、わからない人は相手にしなくてもいい、みたいな売り方をしていた時期がありましたから。
 
沢崎●今でもそういう考え方の人はいらっしゃるんじゃないでしょうか。私は両方あると思います。歌のお姉さんではないので、お客様が喜ぶから何でも歌えばいいとは思いませんが、お客様との距離が少しでも縮むよう努力すべきだと思っています。例えば、ミュージカルですが、私も好きでよく観に行きます。ミュージカルはミュージカルでとっても素晴らしい。でも、声楽家の立場から言うと、ああいうマイクを通した声ではなく、それとは違った生の声の魅力が絶対にあると思っています。それぞれのもっている良さで勝負すればいいのですが、クラシックは固いというイメージがあるため、一般の方にはなかなか聴いていただけない。ちょっといい曲だから聴いてみたいとか、お客様に気軽に興味をもっていただけるようにしていかないと、聴衆も育たないし、これからのクラシックはダメなんじゃないかと思っています。
 
津村●子どもの頃からずっと訓練を積まないとクラシックの演奏家にはなれないので、僕らみたいな雑な人間からみると、特別な環境に育ったお嬢様がやっていて口もきいてもらえない、と思ってた時期もあります。でも「仲道郁代音楽学校」でピアニストの仲道さんとお付き合いさせていただいて、なあんだ大丈夫だって(笑)。
結構、サービス精神が豊かというか、話すの大好きですよね。そういう演奏家の人柄に触れる機会が増えれば、クラシックファンももっと増えると思いますよ。
 
沢崎●そうですね。ケンカだってしますし。ウチなんか声楽家同士で結婚しているので、ケンカをするととってもうるさいんです。ふたりともノドを痛めないように、妙に正しい発声でお腹から声を出して「ど〜してそんなこというの〜♪♪」(笑)なんて。中には本当にクラシック一筋でほかのことは一切、目に入らないタイプの方もいらっしゃいますけどね。


◎アクティビティで広がる人間関係
 
津村●今年の「音楽活性化事業」では、沢崎さんに4地域に出かけていただくことになっていますが、実際に地域に行かれて打ち合わせをされた感想はいかがですか?
 
沢崎●先ほどの新冠をはじめ、香川県三木町、長崎県大島町、広島県瀬戸田町にうかがいます。ホールの方と話をしていて、皆さんが自分たちの暮らしている地域のことを本当に愛していらっしゃるのがよく伝わってきました。皆さんが一生懸命につくられた企画書を見せていただくと、この機会にあれもこれもやってほしいというのが溢れていて、「ウーン、無茶させるなあ」(笑)ってところもあるんですが。その辺は正直にお話ししながら、一緒に考えさせていただいています。
 
 出身地域でもない限り、ホールの方とやりとりしたり、地域の方と交流するということってないんですね。歌だけ歌って帰るのは、声楽家としては楽ですが、今回のような人の広がりはもてない。この広がりが次につながる可能性もありますし、私としてはこういう機会を与えていただいて、とても感謝しています。


◎音楽で生活するための第一歩
 
津村●沢崎さんは、年間どのくらい、声楽家として活動されていますか?
 
沢崎●年によってかなりばらつきがありますが、多い時で月に3回ぐらいですか。小さなステージではほとんど毎週末歌っています。それと、自分たちが持ち出しで企画するものが年間5回ぐらいあります。
大きな公演に出演できる演奏家や声楽家は限られてますから、自分たちでこれからどういうものをやっていきたいかを企画しながら場をつくっていかないと、なかなか歌うチャンスがない。私の地元は横浜のはずれなんですが、そこにある公共ホールで年に2回、クリスマスのオペラ・ハイライトやミュージカルを企画しています。若手の演奏家や地元のバレエ団がボランティアで協力してくださいます。
 
津村●例えば、自分が拠点にできるホールがあれば、演奏家としての活動や聴衆育成に取り組みやすくなると思いますか?
 
沢崎●ええ。全然違ってくると思います。たとえ年に1回でも、シリーズでやれるのとそうでないのとでは大変な差です。地域の人との交流でも、その場限りではなく、次に向けての積み重ねがつくれるようになります。
 
津村●今回の事業で僕が一番期待しているのは、これまでアーティストと直接交流した体験のないホール職員や地域の人たちが、その壁を破ることで、地域のホールが何をやるべきかを考えるきっかけになればということです。それで、5年、10年かけて、自分たちの町や村で若いアーティストの一人ぐらい育ててやろうという気概が生まれるところまでいければ、最高なんですが。
 
沢崎●私は、自分が今まで勉強してきたことを皆さんがどう聴いてくださるんだろうか、というのを楽しみにしています。それともう一つ、音楽や芸術を専門としている人たちが、それで生活していけるような環境をつくる第一歩になればと思っています。
 
津村●そうですね。そのためにも、沢崎さんのような、アクティビティの重要性について理解されている演奏家が、増えてくる必要があるのではないでしょうか。


●平成11年度「公共ホール音楽活性化事業」概要
 
[主催]地方公共団体、公益法人(都道府県・政令市及びそれらが関わる公益法人は除く)
[共催]財団法人地域創造
[制作協力](社)日本クラシック音楽マネジメント協会
[実施時期]1999年8月頃〜2000年3月
[実施会場]地域の公共ホール等
[演奏者]協力アーティストのうち、ソロから数名程度のアンサンブルまで
[支援措置]演奏家の出演料、交通費等及び関連事業、研修会開催に係る経費の一部を地域創造が負担します。
[申込締切]11月27日
 
●コーディネーター
 
児玉真(カザルスホール・チーフプロデューサー)/箕口一美(カザルスホール・プロデューサー)/能祖將夫(青山劇場・青山円形劇場演劇プロデューサー)/室住素子(オルガニスト・杉原音楽教育研究所所長)/吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員)/最上紀男(元・盛岡市文化振興事業団・事業担当プロデューサー)/津村卓(財団法人地域創造チーフディレクター)
 
●協力アーティスト
 
ピアノ(川井綾子、竹村浄子、朴久玲、中道リサ、高橋多佳子、大島妙子)/ヴァイオリン(高木和弘、田中晶子、白石禮子、川口ヱリサ)/ハープ(山崎祐介)/トランペット(辻本憲一)/フルート(岩間丈正)/声楽・ソプラノ(須藤由里、沢崎恵美、竹村佳子)・メゾ・ソプラノ(河野めぐみ)・テノール(中鉢聡、久住庄一郎)
 
●問い合わせ・資料請求先
 
財団法人地域創造芸術環境部 鈴田博之・海野一郎
Tel.03-5573-4064 Fax.03-5573-4060
 

制作基礎知識シリーズ 美術編 (3)

展覧会の仕組み

講師 村田真(美術ジャーナリスト)

 
●いかにして企画展はつくられるのか
 
  美術館はコレクションから始まった、と前回述べた。つまり、コレクションを展示・公開することが美術館の原点だということだ。しかし、いつ行っても同じ作品しか見られなければ次第に飽きられてしまう。そこで、コレクションの常設展示だけでなく、あるテーマのもとに作品を集める企画展示が行われるようになった。特に、コレクションの量・質ともに乏しい日本では、内外から作品を借りて企画展を開かなければ、美術館として体をなさないという事情もある。そのため近年では、初めから常設展示室と企画展示室を分けている美術館が多い。
 
では、企画展はどのように組み立てられるのか、時間軸に沿って述べよう。
 
  まずはテーマの設定である。これは、館の方針および予算から逸脱しない限り、原則として学芸員ないし館長の自由裁量に委ねられるべきものだ。館の方針とは、その美術館を特徴づける専門分野や地域性のこと。西洋美術館なら西洋美術、写真美術館なら写真や映像をテーマにするはずだし(ただし、活性化のためにあえて逸脱することも時に必要かもしれないが)、また地方公立美術館であれば、その地域に関連したテーマのほうが望ましいということだ。そうした大まかな範囲内で、いかに独自の企画展を組み立てられるかが学芸員の腕の見せどころとなる。
 
  テーマが決まれば、展覧会名や内容を詰めて企画会議にかけ、OKが出ればそこからスタートだ。出品リストをつくり、所在を調べて出品交渉し、契約を済ませ、展示プランを考え、作品を集荷して会場を設営……といった作業が続く(図参照)。


●美術館同士の共同企画
 
  しかし、せっかくいい企画を立てても、単館だけで大きな企画展を打つのは難しい。そこで共同企画という方法が出てくる。これには大きく分けて、1)複数の美術館との共同企画、2)新聞社やテレビ局との共催などがあり、さらに1)+2)の方式もよく見られる。
 
1)は、同じような傾向の美術館、あるいは似たような問題意識をもつ学芸員が協力して1つの展覧会を組織し、それぞれの美術館を巡回する方式。例えば、豊田市美術館から始まって、川村記念美術館、水戸芸術館を巡回中の「なぜ、これがアートなの?」展がいい例だ。この3館はともに現代美術を中心とした活動を行い、鑑賞教室に関心の高い学芸員もいるため、相互にコレクションとコネクションを提供するかたちで共同企画が実現した。
 
  ちょっと異色なのは、昨年から今年にかけて国立民族博物館と世田谷美術館を巡回した「異文化へのまなざし」展である。これは、国立と区立、博物館と美術館、民族学と美術といった違いを超えて、共通する問題意識をもつ学芸員が協力し合った学際的な試みで、こうしたユニークな企画展は美術界を活性化させてくれる。ちなみに同展にはこの2館のほか、産経新聞社とNHKが主催に名を連ねている。


●なぜマスコミが関わるのか?
 
2)のマスコミ関連企業との共催は、日本独自のシステムといっていい。もともと新聞社が展覧会事業に関わるようになったのは、戦後まだ美術館の数も予算も少なかった時代。海外とのパイプと国内への宣伝力を武器に、国民の啓蒙と自社の文化的イメージアップを狙って、美術館やデパートの催事場で展覧会を催してきたという経緯がある。しかし美術館が増えるにつれ、学芸員の数も能力も飛躍的に伸びてきたため、少なくとも実務面では新聞社の手を借りなくても済むようになった。にもかかわらず近年では、新聞社ばかりかより国民への影響力の大きいテレビ局まで参入してきている。
 
  マスコミとの共催方法は力関係で決まる。すなわち、新聞社やテレビ局がカネを出して主導権を握れば、美術館は単なる貸し会場になるし、美術館の独自企画にマスコミが乗れば、主に宣伝広報の面で協力することになる。この関係は美術館ごと展覧会ごとに異なるが、極端な例が国立美術館である。国立美術館と共催事業を行う時、予算のほとんどは企業が出し、入場料から普段の常設展料金を引いた額(×入場者数)と、カタログやグッズ類の売り上げが企業に入る。残った常設展料金は、美術館を素通りして国庫に入るという仕組みだ。
 
  いずれにしても、マスコミ関連企業が展覧会に関わることの最大のメリットは、観客の大量動員が見込まれるということである。反面、デメリットも少なくない。ひとつは、ジャーナリズム本来の機能である公正中立な報道や批評が成り立たなくなる、という危険性だ。実際、自社の主催する展覧会だけは大きく扱い、他社のものは小さく、または無視するといった事態がしばしば見受けられる。
 
  もうひとつは、新聞社もテレビ局も企業である以上、いくら文化事業といえども収益は出したい。その結果、質は高くても商業ベースに乗りそうにない企画より、大量動員の見込めそうな人気作家展に偏りがちになる。デパートで行うならいざしらず、これでは学芸員の立場がない。にもかかわらず文句を言えないのは、美術館側の予算が少ないことに加え、「人の入る企画をせよ」というお達しがあるからだ。
 
  一方マスコミ以外にも、メセナが定着し始めた1990年前後から、一般企業が展覧会に関わるようになってきた。だが、こうした企業の多くは展覧会事業のノウハウをもたず、カネや技術を提供するだけなので、主催に名を連ねることはなく、協力か協賛というかたちを採っている。
 
  さて、この1)と2)をつなぐ組織として、最後に美術館連絡協議会(美連協)についてふれておきたい。これは、読売新聞社が中心となって運営し、全国の公立美術館(現在約100館が加盟)が協力して82年に発足した団体。花王株式会社が協賛し、展覧会の共同企画や巡回展などを行うほか、学芸員の研修助成にも力を注いでいる。具体的には、ある美術館が企画したものを美連協が吸い上げ、そこで予算や日程などを調整して、巡回を希望する加盟館に回していくという方法だ。美術館の全国的なネットワークをつくり、各館の企画をすくい上げるという点では、確かに美連協は重要な役割を担っている。
 
  しかし、こうして美連協を通した展覧会には、主催に当の美術館のほか美連協および読売新聞社が名を連ね、協賛に花王の名が入ることになる。ちなみに98年度の美連協主催の巡回展を見ると、「少女まんがの世界展」「ボイマンス美術館展」「フランス現代美術展」など34企画もあった。地理的に不利な地方公立美術館にとって、美連協は願ってもない“互助組合”といえる。だが、それをマスコミ関連の私企業が仕切っているという現状が、逆に日本の文化行政の貧しさを物語っていないだろうか。


●主要参考文献
「芸術経営学講座1 美術編」東海大学出版会/「現代美術館学」昭和堂
 

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