地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

2月号-No.082
2002.02.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●制作基礎知識シリーズVol.15


●公共ホール音楽活性化事業レポート

●ユニークなアクティビティで、子どもたちを音楽の世界に!
 4年目を迎えた「公共ホール音楽活性化事業」。本年度は、全国20地域でこの3月まで各地で開催されています。コンサートに先立ち、さまざまな場所で実施する “アクティビティ”がこの事業の特色ですが、本年度は過去3年間の蓄積の上に、これまでにないユニークな企画が生まれました。なかでも注目を集めたのは、ひたちなか市文化会館がピアニストの白石光隆さんの協力により実施した企画です。今号では、ひたちなか市の事例を中心に、本年度の事業の模様について紹介したいと思います。

●ワークショップ「ピアニストを写そう」
 ひたちなか市は、茨城県の中部、太平洋を臨む海沿いに位置する人口約15万人の市です。文化会館がオープンしたのは1984年。これまで、鑑賞型事業を中心に展開してきましたが、子どもを対象とした普及事業に取り組むきっかけとして、今年度「公共ホール音楽活性化事業」に参加しました。
 子ども対象と言えば、本事業でも実施例が多いのが学校訪問コンサートです。ひたちなか市でも、市内2校の訪問コンサートを企画しました。しかし、ひたちなか市の取り組みがユニークだったのは、子どもたちが受身で演奏を聴くだけではなく、主体的に表現に関わってもらう仕掛けとして、学校訪問の前に「ピアニストを写そう」というワークショップを行ったことです。
 これは、舞台で演奏中のピアニストを子どもたちが自由に撮影するというワークショップで、カメラを媒介に、演奏を“見る”“切り取る”面白さを体感してもらおうというもの。しかも、撮影した写真は、チラシなど宣材に使用されるという特典つきです。対象は小学3年生以上とし、市内外から希望者を公募しました。

ワークショップ「ピアニストを写そう」の模様。演奏する白石さんを取り囲み、子どもたちが思い思いにシャッターを切る(10月8日)
 2001年10月8日、ワークショップの会場には、カメラ持参の子どもたち18人と保護者らが集まりました。通常のコンサートでは、もちろん撮影はご法度。客席の保護者らが興味津々で見守る中、ワークショップが始まりました。
 子どもたちはまず、写真家の北村光隆さんにカメラの扱い方の指導を受け、北村さんによるデモ撮影の後、白石さんの撮影に挑みました。演奏曲は、ショパンの幻想即興曲を含め5分程度の曲を2曲。最初は緊張気味だった子どもたちも、白石さんのダイナミックな演奏に吸い込まれるように鍵盤に近づいていきます。子どもたちと対峙する白石さんも真剣そのもの。上からのアングルも狙えるようにと用意された2台の脚立も大人気で、子どもたちが夢中でシャッターを切る姿が印象的でした。
 撮影を終えた子どもたちは「腕の動きがカッコよかった」「写真が楽しみ」と興奮さめやらぬ様子。緊張感溢れる演奏の一瞬一瞬が、子どもたちの胸に間違いなく刻まれたワークショップとなりました。

●写真を素材にした宣材作成
 次に会館が取り組んだのが、この写真を素材とした宣材の作成と広報です。まず、撮影会の翌週に品評会を開催。そこでカメラマンと子どもたちに「自分の1枚」を選んでもらい、18種類のコンサート情報入りポストカードを作成しました。それをワークショップ参加者に記念に渡すとともに、10月25日、26日に市内の小学校で行った出前コンサートでも児童たちにプレゼント。両親や祖父母宛てに演奏を聴いた感想を書いてもらい、DMとして会館の経費で郵送しました。さらに、コンサート本番のチラシにも、子どもたちの撮影した写真をレイアウトし、広報に活用しました。
 1月12日のコンサート当日。ロビーでは、ワークショップ写真作品展も行われ、会場内はたくさんの親子連れで埋まりました。子どもの書いたカードを見て興味をもったという父母もいて、“見る”“切り取る”“伝える”で繋がった一連のアクティビティが、結実したコンサートになったと言えそうです。
 今回の事業を担当したのは、文化会館の安和人さん。ワークショップを企画するにあたり、子どもが楽器などで演奏に“参加”するという方法はあえて避けたと言います。「音楽自体の質は変えずに、子どもたちが主体的に表現に関われる方法はないかと考えたんです」。そこで、目をつけたのが写真。どの家庭にもある身近な素材でありながら、感性次第でアートとしての側面ももつ写真を媒介に、子どもたちと音楽の “幸せな出会い”を演出できないか。その写真を用いた宣材を作成することで、子どもたちにコンサートの協力者として関わってもらうこともできる。そうして生まれたのが今回の一連の企画でした。子どもたちの意識を高めるため、プロのカメラマンを講師として招いたのもポイントとなりました。
 今回の企画が実現したのは、何といっても通常あり得ない設定を快く了解してくれた白石さんの協力があってこそ。白石さんは「耳で聴くだけが音楽じゃない。コンサート全体が僕らの作品ですから。こうした企画を通じて、皆さんが自分なりの音楽の楽しみ方をみつけてくれれば嬉しいですね」。

子どもたちが撮影した1枚



白石さんの「おしゃべりピアノコンサート」会場ロビーでのワークショップ作品写真展(ひたちなか市文化会館、1月12日)
 事業が終了して、「反省点も多くありますが、手応えはありました。この企画は大人対象も可能ですし、ワークショップから広報まで、精度を高めてインフラとして残していきたいです」と安さん。クラシックの普及事業の可能性を広げる面白い事例となったのではないでしょうか。

●ひたちなか市文化会館事業の概要
◎ワークショップ「ピアニストを写そう」
[会場]ひたちなか市那珂湊総合福祉センター
[日程]10月8日(撮影)、10月13日(品評会)
[出演]白石光隆(ピアニスト)
[講師]北村光隆(写真家)
[参加者]小学3年生〜6年生18人
[内容]舞台で演奏するピアニストを子どもたちに自由に撮影してもらうワークショップ。カメラは各自持参(使い捨てとデジタルカメラ以外はすべて可)してもらい、フィルムは会館が提供(ISO1600/36枚撮)した。ワークショップでは、プロの写真家を講師に迎え、子どもたちが自由な視点で撮影できるようアドバイスをしてもらった。撮影した写真は、会館が現像し、1人につき1枚を、ポストカードに作成(18種各100枚)したほか、チラシに使用した。
◎訪問コンサート
[日程]10月25日、26日
[会場]佐野小学校、磯崎小学校、ひたちなか市総合福祉センター
[出演]白石光隆
◎白石光隆おしゃべりピアノコンサート
[日程]1月12日 15:00〜17:00
[会場]ひたちなか市文化会館小ホール

●平成14・15年度登録アーティスト決定
 平成14・15年度の公共ホール音楽活性化事業登録アーティストが決定しました。アーティストは、全国公募のオーディションにより選ばれた10名。オーディションでは、演奏技術はもちろんのこと、地域の方々がクラシック音楽に親しむためのコミュニケーション能力などを重視しました。登録アーティストは下記のとおりです。
◎登録アーティスト
浜まゆみ(マリンバ)、竹内直子(ハーモニカ)、田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)、唐津健(チェロ)、磯絵里子(ヴァイオリン)、神代修(トランペット)
●公開プレゼンテーションのお知らせ
 4月24日(水)、北とぴあつつじホール(東京都北区)を会場に、登録アーティストによるプレゼンテーションを実施します。これは、平成14年度事業に参加するホール担当者が、出演アーティストを決定するために開催するものですが、事業に関心のある公共ホール関係者を無料でご招待します。ご希望の方はぜひご参加ください(詳細については、担当までお問い合わせください)。
●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 宮地・小澤 Tel. 03-5573-4065

制作基礎知識シリーズVol.15 文化政策に関する法律知識(1)

●公共ホールとそれをめぐる法律について


 講師 小林真理(静岡文化芸術大学文化政策学部 講師)
世界人権宣言から日本国憲法まで〜文化権と公共ホール

 4今回から3回にわたって公共ホールをめぐる法的な問題について考えることにします。まずはその1回目として、公共ホールとそれをめぐる法律全般について、述べたいと思います。

●公共ホールを運営する法的根拠はない?
 突然ではありますが、公共ホールの担当者のみなさんは、なぜ自分たちが文化施設を運営するのか、考えたことはあるでしょうか。文化施設というのは民間でも運営していますし、特に日本では文化事業や公演、そして劇場などの運営はこれまで一般的に民間主導で行われてきました。例えば歌舞伎座、宝塚大劇場、サントリーホール等々、目立った公演や演奏会を行っている文化施設は民間で経営されています。もちろん民間だからと言って必ずしも利益があるというわけではありません。では、“文化ホールに公的資金を投入して運営をする根拠は?”と問われたらどうでしょうか。
 実は文化施設と言っても博物館や美術館は、日本国憲法第26条の「教育権」を頂点に、それを実現していくための教育基本法、社会教育法、そして博物館法という法体系の下で、がっちりと位置づけがなされています。従って博物館や美術館は日本国憲法の教育権を保障する立場から運営していると堂々と言えるわけです。
 それに対して一般的に公共ホールの位置づけは曖昧です。ちなみに国立の劇場については、国立劇場法という法律が存在したのですが、日本芸術文化振興会が設立された時に日本芸術文化振興法に改正されました。それゆえ、現在は劇場法と名の付く法律はありません。
 それというのも実は、国法のない分野として自治体が自治の可能性を見出すために取り組んできたのが自治体文化行政の起源でもあり、その象徴的施設として公共ホールが建設されたという経緯があるからです。また、自治体文化行政が興隆した中で、社会教育からの脱却というテーマもありました(注1)。国法レベルでの法的根拠がないのは当然とも言えます。
注1 松下圭一[1986]『社会教育の終焉』(筑摩書房)。自治体文化行政の思想、また本稿に関するさらに詳しい内容については、伊藤裕夫、片山泰輔、小林真理、中川幾郎、山崎稔恵[2001]『アーツマネジメント概論』(水曜社)、後藤和子編[2001]『文化政策学−法・経済・マネジメント−』(有斐閣)を参照してください。

 従って、独自の運営方針をつくって、堂々と運営をしてこそ意義があるものと言えるのです。しかしながら、実はなぜ公共ホールや劇場を自治体が運営していくのかという点が詰められていないために、その存在が脆弱なものとなっているのが現状です。また残念ながら日本の公共ホールは、学校、図書館、公民館などのように生活に不可欠な施設というところまでには至っていません。従って、財政的に余裕がなくなると、効果の見えにくいサービスを評価するのは難しく、担当職員は行財政にうるさい市民や議員からそのあり方を問われてたじたじとなってしまい、自分たちの仕事に自信すらなくなってしまうことになります。しかし、拠り所、あるいは根拠はあるのです。それが「文化権」です。

●公共ホールを運営する根拠としての文化権
 国際的なレベルでは芸術文化を享受したり、文化活動に参加することは権利として認められてきています(これらを総称して「文化権」と言います)。例えば、世界人権宣言(1948年)の第27条には「文化生活に参加する権利」として、
1. すべての人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する。
2. すべての人は、その制作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する、
とあります。このように、世界人権宣言は「文化生活に参加する権利」を基本的人権として宣言しているのです。この宣言は世界中の諸国家のための「指導基準」を示すものです(注2)が、法的拘束力はありません。しかし、日本国憲法98条3が遵守を求めている「確立した国際法規」と理解されているものです。
注2 世界人権宣言は、18世紀以来今日まで、世界中の各人権宣言が進化発展を続けてきた成果の国際的集大成として宣言されたものである。これまでの基本的人権の歴史において、きわめて重大な地位を占めていることに疑いはなく、その点については、それが法的拘束力を有するかどうかは、それほど本質的な問題ではない。宮沢俊義[1974]『憲法2. (新版)』(有斐閣)。

 さらに1966年に国連総会で採択された国際人権規約(注3)は、批准した国家を法的に拘束するものですが、そのうちの「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)の第15条にも「文化への権利」(注4)の規定があります。この国際規約は略称、社会権規約と言われるもので、ある人権を保障するために国家に何らかの作為を求める権利(社会権)として保証されているものです。また、子どもの権利に関する条約(1989年)の第31条「休息、余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加」(注5)にも同様の規定があり、文化権の範囲が子どもにも及んでいることが確認できます。
注3 国際人権規約は、(1)「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)、(2)「市民的及び性寿的権利に関する国際規約」(自由権規約)、(3)自由権規約に付随する「選択議定書」から成り立っている。我が国では国内法との抵触から一部を留保して、1979年に批准している。
注4 第15条「文化への権利」
1. この規約の締結国は、すべての者の次の権利を認める。
(a)文化的生活に参加する権利
(b)科学の進歩及びその利用による利益を享受する権利
(c)自己の科学的、文学的又は芸術的作品により生ずる精神的及び物質的利益が保護されることを享受する権利
2. この規約の締結国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には、科学及び文化の保存、発展及び普及に必要な措置を含む。
3 この規約の締結国は、科学研究及び創作活動に不可欠な自由を尊重することを約束する。
4. この規約の締結国は、科学及び文化の分野における国際的な連絡及び協力を奨励し及び発展させることによって得られる利益を認める。
注5 第31条「休息、余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加」
1. 締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。
2. 締約国は、児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利を尊重しかつ促進するものとし、文化的及び芸術的な活動並びにレクリエーション及び余暇の活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。

 なぜこのような人権に関する規約が国際的なレベルで採択されたのでしょうか。それはファシズム、特にナチスドイツによる目に余るような人権侵害を止められなかったという歴史的反省があったからです。人権侵害は文化分野にも及んでいました。戦前のナチスドイツでは、芸術文化活動の囲い込みをすることによって、囲い込みされた団体や個人には保護や援助を行う反面、国家目的に合致しないものを排除するという文化政策を行ってきました。従って、戦後人権を保障する立場から確認しなければならなかったのは、まず“文化を創造していくのは国家ではなく、国民が主体であり、文化の自由と多様性を保障することこそ重要な問題だ”ということでした。そしてその「自由」と「多様性」を保障していくための環境整備が、国家に求められてきたのだと言えます(もちろん環境整備はハード面にとどまるものではありません)。

●日本国憲法の中での文化権
 しかし、これら文化権を明らかにした国際規約(子どもの権利条約を除く)より前に成立した日本国憲法においては、文化権が明示されているとは残念ながら言えません。とはいうものの、文化の自由に関しては、文化(あるいは芸術)という言葉こそ使われていないものの、人間の精神活動の所産としての文化に関連する重要な規定が存在します。具体的には第13条「幸福追求の権利」、第19条「思想及び良心の自由」、第21条「表現の自由」、第23条「学問の自由」に規定された一連の精神的自由権です(注6)。その中で「芸術の自由」については、人間の内心を表現するものとして、第19条「思想及び良心の自由」や第21条の「表現の自由」に含まれるものとされています。いかなる文化をどのように享受するか、また創造するかというこれらの精神的自由権の問題は、もっとも深く人間個々人の内面にかかわる営為であり、公権力による介入や統制が行われてはならない領域です。従って、国や自治体による文化政策を行う際にも、この点に十分に配慮する必要があるわけです。
注6 「これらは国民の権利の行使の結果が「人間文化としてのまとまりを示すものと期待されているような『文化的自由』にほかならないのである」。兼子仁[1978]『新版 教育法』(有斐閣)

 それでは国民が自治体に、文化の自由と多様性を保障するより良い文化政策を求めていく社会権的な意味での文化権はどこに根拠を求めればいいのでしょうか。第25条第1項の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文は、日本の憲法の中で「文化」という文言が条文に表れたものとして最もよく知られています。しかし環境権、文化的な環境に生きる権利、文化財享有権などをめぐって起こされた裁判において、この条文によって保障される範囲はいまだ限定的です。とはいうものの私たちにとって「健康で文化的な最低限度の生活」がどのようなものかは、問い直していく意義のあることです。
 実際に文化の自由が保障されていると言っても、大都市(それも東京)に芸術文化活動が集中している日本の現状を考えてみると、すべての人に文化権が保障されているとは言えません。商業ベースで考えれば、芸術文化活動は大都市に集中せざるをえません。それを是正し、すべての人に文化権を保障していくことこそが、まさに各自治体、そして文化ホール等に課せられている課題なのだと言えます。

●文化芸術振興基本法の制定
 ところで文化芸術振興基本法(注7)という法律が2001年の第153回臨時国会において成立しました。日本には文化政策の根拠となる法律がなかったことから、その立法化についてはかなり前から議論されてきました。自治体に関しては、国との連携を図りつつ、「自主的かつ主体的に」地域の特性に応じた政策を展開していく責務が記されています(第4条)。自治体とすれば地域の固有性や住民のニーズを反映させていく上でも、独自の指針を確立させていく必要があります。国の基本方針と照らし合わせて、独自に判断していくための指針です。それがなければ全国金太郎飴的な施策が展開されることになるだけです。基本法を受けて、まずは自治体独自の文化政策の理念を明らかにすることが必要です。それがひいては文化ホールの現場の運営理念にも関わってくることになります。
注7 この法律は全35条から成り、文化政策を行う際の基本的理念を定めたもの。対象とする文化芸術の範囲は大変広範なものとなっており、また条文の大半は国の責務や役割を明記したものです。

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