地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

8月号-No.088
2002.08.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●制作基礎知識シリーズ


●ステージラボ岐阜セッション報告(2002年6月25日〜28日)


 新しいコース構成でリフレッシュ
 今回のラボは、ホール入門コースを除き、コース構成を大幅に変更しました。これまで演劇、音楽といったジャンル別構成だった自主事業部門を、自主事業入門コース、自主事業企画・制作コースとした他、マネージャーコースを新たに文化政策企画・文化ホール管理運営コースとして衣替え。政策立案能力の向上も視野に入れたカリキュラムづくりを目指しました。
 会場となった岐阜市文化センターは、平成10(1998)年から創作子どもミュージカルに取り組み(本年度は中国杭州公演を実現)、一昨年からは子どもや先生を対象とした邦楽ワークショップを実施するなど、多彩な自主事業に力を入れています。受講生の作品発表ではこうした事業で鍛えられた技術職員の方々がつきっきりでサポートしてくださり、大変お世話になりました。ご協力をいただきました皆さま、本当にどうもありがとうございました。

●ボールペンをくわえ、笑顔づくりの特訓!
 平均年齢29歳と、いつもながらに初々しい入門コース。今回は、岡谷市文化会館の平田尚文館長のコーディネートにより、サービス業の基本になる接遇マナーから舞台機構、事業企画、予算書づくりのイロハまでをトータルに学びました。
 特に、星野もと子さんを講師に招いた接遇マナーの講座では、「挨拶」「表情」「態度」「言葉遣い」「身だしなみ」のマナー5原則からスタートし、お客様の印象を左右する「表情のコントロール」を特訓。「まじめな顔は相手から見ると無表情に見えます。ボールペンを横にして口に挟んだ時の位置まで口角を上げると理想の笑顔になりますが、年を取って筋肉が衰えるとできなくなるので、日頃から筋肉を鍛えましょう。特に男性は無表情になりがちなので意識してください」と星野さん。少し恥ずかしそうに、持参した鏡に向かってボールペンをくわえる姿が印象的でした。「改めて接客について学ぶことはなかったのでとても勉強になった」との声がしきりでした。

●「やいやい太郎冠者、おるかやい」
 今回のラボでは、これまで全受講生を対象に実施してきた「共通ゼミ」を、3つのプログラムの中から好きなものを選ぶ「選択ワークショップ」に変更。久留米市の小学校教諭で子どもたちにボディパーカッションを指導している山田俊之さんの音楽ワークショップ、演劇集団MODE代表で演出家の松本修さんによる演劇ワークショップ、茂山狂言会の茂山千三郎さんによる狂言ワークショップがそれぞれ約3時間にわたって行われました。
 身体全体を楽器にしてリズムを奏でるボディパーカッションは、養護学校、ろう学校の生徒たちに自分を表現してもらう方法として開発されたものです。今回は子どもたちに指導するのと同じプログラムを使って、小太鼓を使ったリズム遊びやオリジナルのリズムづくりを行いました。
 また、演劇ワークショップでは、雑誌のインタビュー記事を用い、「インタビュアーとジャイアント馬場」などに扮した“再現ワークショップ”を体験しました。「日常生活では覚えたことをしゃべるのではなく、インタビューのようにその場で考えてしゃべっている。こうした自然な会話の有り様が僕にとっての演技のひとつの原点なんです」と松本さん。原始的な演劇のかたちがよくわかるワークショップだったのではないでしょうか。
 狂言ワークショップでは、狂言でよく登場する主人と太郎冠者(家来)のかけあいにチャレンジ。「狂言の言葉のベースは関西弁の2字上がり、3字落としです。これを意識しながら台詞を言ってみましょう」という茂山さんの指導で、主人と太郎冠者に分かれて、「これはこのあたりに住まいいたすものでござる。やいやい太郎冠者おるかやい」「ほー」「いたか」「お前におりまする」の大合唱。狂言の構え、すり足、お辞儀などの所作も学び、狂言の滑稽さを身体で体感した貴重な時間となりました。

演劇ワークショップの様子。
演出家の松本修さん(中央)が
受講生にレクチャー

狂言ワークショップでは、
茂山千三郎さんが身振り手振りで
熱のこもった指導

●日中韓コラボレーションvsシェイクスピア
 今回の自主事業部門の特徴は、ひとつのテーマを多角的に学びながら実際の舞台のプロデュースまで行ったところにあります。入門コースのテーマは「日中韓音楽コラボレーション」。韓国打楽器奏者の元一さん、中国二胡奏者の周霞さんに加え、地元の岐阜からピアニストの新井伸枝さん、女声合唱団コールファンシエールに参加していただき、最終日には受講生の企画によるコンサートを約1時間にわたって実施しました。
 ステージラボの常連で、今回のカリキュラムを手がけた中村透コーディネーターは、「日中韓の音楽コラボレーションでプロとアマチュアが協働するステージをどうつくっていくかの企画を、実際にアーティストと交渉しながら考えてもらいました。企画の制作決定過程に演奏家と市民に参加してもらう実験として、合唱団の人、技術スタッフ、演奏家を審査員にした公開プレゼンをやりました」と言い、実践さながらのカリキュラムだったことがうかがえます。
 受講生たちは、演出・台本、舞台監督、同助手、照明、音響、制作、会計に分かれてコンサートを運営。美空ひばりの名曲『川の流れのように』の合唱では、二胡とピアノの調べに静かな怒りにも似たチャンゴのリズムが加わり、3つの国が一つになる感動のフィナーレになりました。
 「演奏家側の立場で考えるところが足りなかったために待ち時間が長くて演奏家の集中を欠いてしまった」「進行が頭の中に入っていなかったためにリハーサルの時に中途半端な指示しか出せなかった」などなど、反省会では、現場責任者としての自覚ある発言が続いていました。
 一方、世田谷パブリックシアターの高萩宏コーディネーターによる企画・制作コースのテーマは、「シェイクスピアが教えてくれる」。翻訳家の松岡和子さんや蜷川幸雄作品の劇音楽を作曲している笠松泰洋さんなどシェイクスピア劇のプロから、企画発想の原点となる「ローカリゼーション」(自分たちの社会や民族に引きつけて読むこと)や五感を通した作品の読み直し方などについて実例を踏まえた手ほどきを受けました。
 実際に作品を体感するため、『ハムレット』のリーディングにも挑戦。「黙読は知識になりますが、声に出して言葉を発すると体験になります。翻訳していても声に出して読むことでわかることがたくさんあります」と松岡さん。笠松さんのピアノ即興演奏をバックに、「言葉としては知っていても日常的には声に出したことのない、観念に呼びかけるような」台詞が受講生たちからほとばしっていました。

自主事業入門コース
「企画ステージ」のリハーサル風景


作曲家の笠松泰洋さん(背中)の
即興演奏をバックに『ハムレット』
のリーディングに挑んだ
(自主事業企画・制作コース)


●文化芸術振興基本法からコミュニティ・アーツ、NPO、メセナまで
 カリキュラムとして最もラディカルだったのは、帝塚山大学教授の中川幾郎コーディネーターによる文化政策企画・文化ホール管理運営コース。従来の行政組織論とは異なるニューパブリック・マネージメントの考え方により、公共ホールが住民によって評価される時代がきたことや、「地域の人々」「NPO」「企業」といった社会の担い手との協働なくしては文化政策もホール運営も成り立たないことなどが、第一線で活躍する講師陣から理論的、実践的に語られました。
 NPO法人「MEATS」(現代美術アーティストのネットワーク)を主宰する小石原剛さんの講義では、「NPO法人との付き合い方がわからない」「委託先のNPO法人と事業の方向性が合わないがどうすればいいか」など、テーマがホットだけに議論も白熱。
 「民間企業の事業と同じで、NPO法人の方向性を軌道修正しろとは言えません。委託先なのだから民間企業や他のNPO法人も入れてコンペをすればいいと思います」と小石原さんが答えれば、中川コーディネーターがすかさず、「NPO法人の認可は許可主義ではなくて、充足主義だからNPO法人の内容を判断しないと」と続けてツッコミ。「ちなみにNPO法人だからと言って儲けてはあかんということではない。収益事業をどんどんやってもらってそのストックでいい事業をしてもらったらいいんです。営利企業と違うのは利益を分配してはいけないという非分配原則があることだけ。NPOにも種、若葉、自立の時期があって、自立するまでは行政が育てるために助成すべきですが、自立したら契約を結ぶ相手として対等に考えたらええ。地域にその事業ができるところがそこしかなければ、地域独占企業として随意契約を結ぶ。こういう自立できるNPOを育てるべきやと僕は思います」と関西弁で迫力ある講義が続いていました。
 「自治体の文化担当者が置かれている状況について理論的な整理ができて、ものすごく刺激になりました」という斜里町ゆめホール知床・川村雅美館長のコメントが象徴的でした。
 今年度から新たにラボ修了生等を対象にしたマスターコース(下記参照)も開講されます。ますます充実していくステージ・ラボに今後とも大いにご期待ください。

●ステージラボ岐阜セッション スケジュール表

ホール入門コース 自主事業入門コース 自主事業企画・制作コース 文化政策企画・文化ホール管理運営コース
6

25

(火)
開講式・全体オリエンテーション・地域創造紹介
岐阜市文化センター事業紹介、施設見学
「2名1組 対話形式で自己紹介」
小林千冬、岩崎佳弘
「コースびらき」
中村透
「自己紹介とホール(劇場)紹介」
高萩宏
「自治体文化政策の基本的視点を学ぶ」
中川幾郎
全体交流会
6

26

(水)
「ホール職員の基本的接遇マナー」
星野もと子
「大規模ホールの自主事業」
野中正知
「公共ホールの年間プログラム」
高萩宏
「すてきな文化ホールづくり」
伊藤雅春
「各ポジションの接遇マナー」
星野もと子
「小規模ホールの自主事業」
渡名喜元久
「シェイクスピアは企画の宝庫」
松岡和子
事業企画入門「事業、イベント、企画」
広野敏生
共通プログラム「選択ワークショップ」(音楽:山田俊之、演劇:松本修、狂言:茂山千三郎)
「舞台の基礎知識」
加藤三季夫
「模擬企画準備会議」
中村透
「子どものためのシェイクスピア」
大石時雄
「文化法規、例規、制度を学ぶ」
小林真理
番外ゼミ 番外ゼミ 番外編
リーディングの稽古、年間計画の作成
番外ゼミ
6

27

(木)
「ホールの管理運営」
長沢斈
「模擬企画制作会議1」
中村透、野中正知
「英国の劇場、シェイクスピアと教育プログラム」
稲葉麻里子
「公共ホールと文化NPOとの協働を考える」
小石原剛
「地域のホールは何をすべきか」
長沢斈
「模擬企画制作会議2」
中村透
「企画・予算・動員」
高萩宏
「文化行政、悩みの相談室」
中川幾郎、武居丈二
番外編(ビデオ)
「小規模企画制作・大規模企画制作」
「企業メセナと自主企画」
加藤種男
「シェイクスピアと音楽企画」
笠松泰洋
「コミュニティ・アーツと公共ホールの役割」
衛紀生
「事業制作の基礎知識」 間瀬勝一
「大胆な事業を企画してみる」
(企画書・予算書の作成) 間瀬勝一
「アーティストとの出会いと交渉」
中村透、元一、周霞、新井伸枝、
女声合唱団コールファンシエール
「小公演 リーディング形式(準備)」
高萩宏、笠松泰洋
「辛口文化事業談義」
倉光弘己
企画・制作コース「小公演」見学 「小公演 リーディング形式(本番)」 企画・制作コース「小公演」見学
番外ゼミ 番外ゼミ 番外編 講師を囲んでいろり談義
「書を捨てよ、町に出でよ」
6

28

(金)
「企画書・予算書の評価」
(グループ討論) 間瀬勝一
「企画ステージのリハーサルとその修正」
中村透、出演者
「共同企画、共同製作の可能性」
高萩宏
「企業メセナと文化行政」
加藤種男
自主事業入門コース
「企画ステージの本番」見学
「企画ステージの本番」
中村透、出演者
自主事業入門コース
「企画ステージの本番」見学
自主事業入門コース
「企画ステージの本番」見学
「巷に公立ホール無用論もあるが…」
「自治体は本気で芸術支援を
考えているか」平田尚文、武居丈二

「各グループの劇場の年間プログラム発表」    「自治体文化政策論総括」
中川幾郎
閉講式・全体会(まとめ)


コースコーディネーター
◎ホール入門コース
平田尚文(岡谷市文化会館館長)
◎自主事業入門コース
中村透(作曲家、琉球大学教授、佐敷町文化センター・シュガーホール芸術監督)
◎自主事業企画・制作コース
高萩宏(世田谷パブリックシアター制作課長)
◎文化政策企画・文化ホール管理運営コース
中川幾郎(帝塚山大学法政策学部教授)

ステージラボに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部
齋藤・小澤・鈴木・福井 Tel. 03-5573-4067

●ステージラボ・マスターコース
ステージラボ修了生を対象にした「ステージラボ・マスターコース」が平成14年度よりスタートします。マスターコースでは、実践的・具体的なテーマについてグループ研究を行い、研修成果については報告書等にまとめ広く地域に還元することを目指します。意欲ある皆様の応募をお待ちしております。申込方法等、詳細については担当までお問い合わせください。
[スケジュール]
前期研修:10月9日(水)、10日(木)
自主研究:10月〜2003年1月
後期研修:2003年2月3日(月)〜5日(水)
※後期研修の参加者の宿泊費・交通費は地域創造が負担
[会場]都道府県会館(東京都港区永田町)
[対象]原則ステージラボ埼玉セッション(1994年11月開催)から佐世保セッション(2002年2月開催)までの修了者
[定員]6名×3コース=18名
[コース]
(1) 事業企画コース(テーマ:育成支援)
 アドバイザー:津村卓(財団法人地域創造チーフプロデューサー)
(2) ホール運営研究コース(テーマ:県立ホールの役割と運営)
 アドバイザー:細川紀彦(金沢市民芸術村村長)
(3) まちづくり研究コース(テーマ:芸術文化とひとづくり・まちづくり)
 アドバイザー:吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員)
[申込締切]8月23日(金)
[問い合わせ]地域創造芸術環境部 宮地・齋藤 Tel. 03-5573-4065

制作基礎知識シリーズVol.16 ホールの防災と安全管理(2)

●ホールの防災−防災の仕組みと防災訓練の重要性−

 講師 稲田智治(九州大谷文化センター)

●防災の考え方
 
ホールの防災の基本的な考え方は、消防法などの規定の柔軟な運用と、実際の「事故事例」から多くを学ぶことである。
 消防法施行令や火災予防条例では、「指定場所」(1)での裸火の使用などを禁止した細かな取り決めが規定されているが、創造作業のためにはこうした「禁止行為」を行うことも必要になってくる。ホールがこういう禁止行為を行う場所であるとの認識をもって防災対策を行うことが重要となる。
 そのためにも、どのような事故がどのような状況のもとで起こり、どのような損害が出たのかを検証し、予防策を講じるという「事故事例」に学ぶことが有効になってくる。しかし現実には、事故は自らの体験とは遠い所の出来事で、その詳細が伝えられることはほとんどない。予防策にも限界があるため、不測の事態に対応できる訓練のあり方が重要になってくるだろう。
 一方、直接的に人命や財産に関わることでありながら、自由な表現を求める創造者側とホール管理者側で考え方の対立するところがあるため、なかなかコンセンサスがとれないというのも事実である。
 1999年には消防法施行令の改正により、非常灯のサイズや消灯について基準が緩和されるなど、舞台芸術の創造者に配慮した「管理の規制緩和」が行われる方向にあるが、今後とも双方が話し合いながら、安全にかつ観客に舞台芸術の素晴らしさを伝えることができる「知恵と工夫」をつくりだしていく必要があるのではないだろうか。
※1 指定場所・禁止行為
消防法施行令別表第一の区分では、ホールなど多数のものが出入りする場所を特定防火対象物「指定場所」とし、火災予防条例準則23条では火災を起こす恐れがある行為(喫煙・裸火の使用・危険物の持ち込みなど)を禁止し、その行為を「禁止行為」としている。消防長(消防署長)は、前述の行為を下記の条件を満たした場合「禁止行為を解除」することができる。いわゆる「解除申請」といわれるものである。
1. 可燃物からの距離が、震災対策などの火災予防および人命安全上充分であること。
2. 行おうとする行為に代替の方法がなく、社会的にも妥当性があること。
3. 行おうとする行為の規模など火災予防上安全であり、必要最小限であること。


●代表的な防災機器と防災処理
 
防火を中心とした防災については、「消防法」においてさまざまな規定が設けられている。例えば、「消防の設備等」を定めた第4章の17条においては、「消防法施行令」第2章で定めた「消火設備」「警報設備」「避難設備」という消防用設備等の設置とその維持が義務づけられている。
第17条
 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める技術上の基準に従って、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な設備(以下「消防用設備等」という。)を設置し、及び維持しなければならない。

◎警報設備と消火設備
 代表的な防火機器として挙げられるのが、火災の発生を感知する「警報設備」と感知した火災を防ぐ「消火設備」である。警報設備には「煙感知器」と「熱感知器」の2種類がある。煙感知器は周囲の煙が一定の濃度を超えると作動し、熱感知器は周囲の温度が一定の高さを超えると作動する。
 消火設備として最も一般的なのが「スプリンクラー」と「消火栓」である。スプリンクラーには「開放型」と「閉鎖型」の2種類がある。開放型は、水の開放弁を手動または感知器と連動したかたちで開けることによって散水消火するもので舞台上部に設置されることが多い。それに対し閉鎖型は、常時ヘッドまで水が充満している方式で、ヘッドの感知部の可溶片が熱で溶けると放水が始まる。また、舞台上部には開放型スプリンクラーとともに「ドレンチャー」(客席と舞台の間に水幕をつくり延焼を防止するタイプの消火栓)が併設されることが多い。
◎防炎処理
 消防法8条の3では、防炎性能をもった防災対象物品(どん帳、カーテン、展示用合板など)の使用が義務づけられている。この規定は建築基準法に準じたもので、建築時には遵守されているものの、大道具の合板類や幕など、外部から持ち込まれるものや古くなって防炎性能が低下している場合については見過ごされることが多いため注意が必要である。


●防火責任者と自衛消防組織
 
消防法第2章「火災の予防」の第8条では、防火責任者の選任や消防計画の作成などが義務づけられているが、この消防計画実行のために組織されるのが「自衛消防隊」である。
 消防法でいうところの防火対象物(学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店など)は昼間の就業や利用が圧倒的に多く、その就業者によって組織される自衛消防隊の有効性も高い。しかしホールの場合は、土・日・祝日、夜間に稼働することが多いにもかかわらず(某施設では土・日・祝日合わせて全体稼働の40%、夜間65%)、ホール職員(消防隊員)の少ない時間帯における消防体制が検討されていない例が圧倒的に多い。現実に勤務している職員で対応できる防災システムの構築が急務であるとともに、ホールを借りている主催者にも防災に関する注意事項を充分に説明し、協力して取り組むことが求められる。

●防火シミュレーション(防災訓練)
 一般的な防災訓練は、最も良い条件(職場の全員が参加し、出火時間や火元、指令系が事前に決められている)で行われている。しかし、現実の多くの災害は事前に通知されることなく発生する。その突発的に発生する災害に対して効果のある訓練として、「時間を設定しない」「火元を特定しない」「平素行っている勤務体制で行う」「各自の役割を特定しない」訓練を行ってみると、以下のように意外な盲点がみえてくる。
(1) 火元がどこか確認ができなかった。
(2) 火元に行く動線がわからなかった。
(3) 途中が施錠されていて火元にたどり着けなかった。
(4) 消火方法がわからなかった。
(5) 消火器が近くになかった。
(6) 火災現場からの第一報の連絡システムがなかった。
(7) 避難誘導路がわからなかった。
(8) 他の施設(火災に関係する施設)に連絡がなかった。
(9) 非常放送が聞こえなかった。
(10) 消防関係に連絡する者が誰もいなかった。
 いずれも、災害防止のための必須事項が守られていなかったことが露呈した結果である。例えば(1) は、感知器の受信盤の表記が日頃から見慣れていない名称で記入されていて、場所が特定できなかったことが原因だったというように、防災上の致命的なミスであることが多い。
 こうしたシミュレーションの結果、防災上の主要な検討項目が浮かび上がってくる。
(1) 火元の確認が誰でも迅速にできる方法を検討すること。
(2) 火元への動線が確保できること。動線確保のために、非常時用マスターキーなどを常時準備し、すぐ使用できるようにしておく。
(3) 消火ポンプが作動した場合、消火後迅速に停止できるよう、消火ポンプ室などの位置を確認し、停止方法の訓練をしておくこと。
(4) 火災現場と指令者(監視室・事務室など)との連絡システムを確立しておくこと。特に、火元が遠方の場合を想定し、連絡可能な方法を検討しておく。
(5) 同一施設内の連絡システムを確立しておくこと(複数のホールをもつ場合など、指令者とホール間での迅速な連絡が必要である)。
(6) 避難誘導の方法の訓練。火元から最も近く確実に避難できる場所や、避難誘導路に障害となる物が置かれていないかなどの対策を日頃から検討しておくこと。また、誘導方法なども検討し、高い場所から、大きな声で指導するなどの効果的な方法を考えておく。
 特に、(5) の同一施設内の連絡の確立は、確実に行われないと災害を拡大することにも繋がりかねない。そのためには、平素から貸館の状況などが掲示され、担当者が常駐する場所の確認や連絡システムを確立しておく必要がある。
 また、動線確保のための「鍵」のありかを周知しておくことは大変に重要であり、日頃から保管と掲示を怠ることなく、非常時に鍵が行方不明になるという事態にならないよう十分な注意が必要である。
 こうした準備がなければ効果的な防災訓練とならないばかりでなく、非常時に混乱が拡大して二次被害が発生する危険があることにも留意しておくべきである。


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