地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

10月号-No.090
2002.10.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●第7回「芸術見本市」報告
●リージョナルシアター・シリーズ

●制作基礎知識シリーズ


●第7回「芸術見本市」報告
 −「アジア舞台芸術祭2002東京」との共同開催で国際色豊かに−


●国際色、地域色豊かなブース部門
芸術見本市  今回の芸術見本市は、「アジア舞台芸術祭2002東京」との共同開催となり、これまでにも増して国際色豊かな催しとなりました。会期中、会場となった東京国際フォーラムの中庭には、アジア料理の屋台が並び、大道芸が登場するなどお祭り気分を演出。また、ブース会場の周囲では、邦楽器を一堂に集めた体験型の見本市「日本の音フェスティバル」が提携事業として無料開催されたこともあり、夏休みの親子連れと舞台関係者が入り交じった賑やかな会場風景となりました。
 ブース部門には、「アジア舞台芸術祭2002東京」の主催団体である「アジア大都市ネットワーク21」の参加都市(北京、デリー、ハノイ、クアラルンプール、マニラ、ソウル、台北)が揃って出展。ソウル・ブースの広報担当で、(財)世宗文化會館芸術団支援チーム・マーケティング担当の徐智恵(リ・ジヘ)さんは、「これほど活発な交流があるとは予想していなかったので驚いた。これまでの日韓の文化交流はマネージメント会社を通したものが多かったが、こうした見本市を通してフリンジに至るまでの直接交流が実現できるのではないだろうか」と、高く評価していました。
芸術見本市 このほか、小劇場演劇の制作者を支援するウェブサイト「fringe」が出展し、サイト上で公募した地域の小劇場20劇団を紹介したり、ダンスと社会を結ぶネットワーク型のNPO「Japan Contemporary Dance Network」が松山コミュニティホールと共同作業をしているダンスグループ「yummy dance」などを取り上げて紹介するなど、ネットワークによる情報発信に地域性が見られたのが新鮮でした。
 「ブース出展者には、公演を売り込みたいところと、僕らみたいに存在自体を知ってもらいたいところがある。うちの場合は資料も関係者用と一般用の2種類を準備していて、できれば通りがかりの人にも情報を発信できる無料のゾーンがあればよかった」とfringe代表の荻野達也さん。こうした要望も見本市での情報発信に期待する現れと言えるのではないでしょうか。

●「アートアプローチセミナー」も同時開催
 今回の芸術見本市では、地域創造と全国公立文化施設協会が共催で行った「文化が地域をつくる」、「これからの公共ホール・求められる公共ホール」、「地域の資源と文化の新たな出会い」をはじめ、関連団体、主催団体の企画で計17のセミナー、シンポジウムが開かれました。
 地域創造では、見本市と合わせて8月19日、20日に「アートアプローチセミナー」(地方自治体の財政・企画担当部局の幹部向け研修)を実施しました。研修プログラムには、佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラ稽古見学や河合隼雄氏(文化庁長官)、佐渡裕氏(指揮者)、川淵三郎氏(日本サッカー協会会長)によるシンポジウム「音楽文化の発展とボランティア活動」((社)日本クラシック音楽事業協会主催)など見本市関連企画が組み込まれ、いつにも増して充実した内容となりました。
芸術見本市 川淵会長は、「地域の人々の助けを借りてクラブを運営するのはJリーグの理念」と語り、鹿島アントラーズのボランティアが“お客様に不快感を与えない”“鹿島アントラーズにとってマイナスにならない”“スタッフとしての自覚を持つ”という基本姿勢で大成功したエピソードを紹介。それを受けて、河合文化庁長官が「役に立つことをやろうと思う人はやらんでもええことをやる。最初からマイナスになることはやらないという黒子の発想があったところが偉い」と言うと、会場からは思わず賛同の笑い声が上がっていました。途中、長官と佐渡氏によるフルート合奏が披露されるなど、終始、和やかなシンポジウムとなりました。
 このほか、見本市において行われた「REAL」と題したショーケースでは、現代美術のキュレーターである東谷隆司氏がジャンルを越えて過激なパフォーマンスを行うアーティストを選抜。日常の象徴である蛍光灯を暗闇で暴力的に点滅し、まるでマシンガンのように光りと爆音を発射する伊東篤宏など、はじめて触れる表現の数々に観客は息を飲んでいました。

●遠藤安彦(地域創造理事長)発言要旨〜シンポジウム「文化が地域をつくる」より
 地方行政と芸術文化の観点から、現状と今後の問題点について提言したい。地域創造の悉皆調査によると、平成11年度で全国に約2600館の公立ホールがあった。施設がたくさんあるから文化振興をするという考え方もあるが、私はそれは違うと思っている。最近の傾向を見ると、これまで教育委員会が所管することの多かった文化施設を市長部局、知事部局で所管するところが増えている。
 先日、群馬県知事にお会いした時に「今度、地域創造課をつくったのでよろしく」と挨拶されたように、現在では、文化行政は知事や市町村長の直轄で行う傾向にある。それはなぜか。興味のある首長がおられるのも理由のひとつだが、私は、市民が首長のリーダーシップで文化行政をやってほしいと思っていることの顕れだと捉えている。つまり、首長の態度の変化は市民の意志の反映に他ならないのだ。
 経済大国になり、所得も増え、自由時間も増大する中で、人間はみんな同じではなく、個性も違えば、考えていることも違うという、多様性を表に出せる時代になった。そういう市民の多様な感情(感動)を求めるニーズが、首長を動かしているように思う。感動というのは芸術文化に限ったことではなく、旅行での出会いやワールドカップも同じだが、旧来の体制ではこうした感動を求めるニーズに対応することができず、首長自らが乗りださなければならなくなったのではないだろうか。
芸術見本市  実は、全国にこれだけ多くの文化施設が建設されたのには、私にも責任の一端がある。自治体が自主的、自立的に地域づくりができるようにとの発想で、補助金ではなく自分たちの財源で事業が実施できる「地域づくり債」という制度を立ち上げた。これによって都市基盤整備をしてほしかったが、その結果、全国にハコモノと言われる施設が生まれることになり、そこでソフトの支援を目的とする地域創造をつくった経緯がある。芸術文化振興は民間が担えばいいという考え方もあるが、地域住民を対象にした場合、公共団体としてやるべきことが必ずあるはずだ。幸いにしてハードは整備されているのだから、これからはソフトを充実させて、いかに地域住民に貢献していくかを考えていくべきではないだろうか。
 これだけ地方分権が定着してくると、歴史の流れをみてもこのままで終わるとは考えられない。中央も地域も財政難で今までと同じ行政システムで運営していくことは不可能になっている。これからは、それぞれの地域でどうすべきかを独自判断し、地域の特性にあった行政を展開していくことになる。その中で、今や環境行政が極めて重要になっているのと同じように、文化行政が非常に重要な地位を占めることになるのは間違いない。加えて、合併という地域の将来を左右する大きな流れがある。こうしたことをすべて含めて、地域の人たちが話し合いながら新しい地域像をつくっていかなければならない時代になっている。微力ながら、地域創造もできうる限りのご協力をしていければと考えている。

●「芸術見本市2002東京」概要
[会期]2002年8月19日〜21日
[会場]東京国際フォーラム
[主催]芸術見本市2002東京実行委員会(財団法人地域創造、国際交流基金、国際舞台芸術交流センター)
[出展登録団体数]103団体
[総参加者数]4日間延べ22,750人

●「芸術見本市2002東京」地域創造・公文協共催シンポジウム
◎シンポジウム「文化が地域をつくる」
[日時]8月19日
[パネリスト(五十音順)]遠藤安彦(財団法人地域創造理事長)、三善晃(社団法人全国公立文化施設協会会長)、山折哲雄(国際日本文化研究センター所長)
[司会]熊倉純子(東京芸術大学助教授)
◎公共ホール幹部向け企画「これからの公共ホール・求められる公共ホール」
[日時]8月20日
[パネリスト(五十音順)]川本雄三(熊本県立劇場館長)、榊原均(神戸アートビレッジセンター館長)、滑川進(社団法人全国公立文化施設協会芸術情報プラザアドバイザー)、細川紀彦(金沢市民芸術村村長)
[司会]津村卓(地域創造プロデューサー)
◎公共ホール担当者向けシンポジウム「地域の資源と文化の新たな出会い〜これからの事業展開を考える」
[日時]8月20日
[パネリスト(五十音順)]篠田信子(ふらの演劇工房理事長)、照屋幹夫(沖縄市経済文化部文化振興課課長補佐 前市民小劇場あしびなー担当)、松田正弘(淨るりシアタープロデューサー)、米田誠司(由布院観光総合事務所事務局長)
[コーディネーター]坪池栄子(文化科学研究所研究プロデューサー)

●地域創造主催シンポジウムに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 大坪・碇・園田
Tel. 03-5573-4064

●アートアプローチセミナーに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 鈴木・齋藤・福井
Tel. 03-5573-4076

●リージョナルシアター・シリーズ
 −地域劇団の登竜門として定着−


 全国各地の若手・実力派劇団を紹介する「リージョナルシアター・シリーズ」が、今年も11月21日〜12月8日にかけて、東京芸術劇場小ホールで開催されます。このシリーズは、地域創造と東京国際芸術祭との共催により1999年にスタート。4年目を迎える今年は、初登場の3劇団に加え、これまでに参加した劇団から2劇団が再登場し、計5劇団が競演します。今号では、今年の見どころと、関連事業「リージョナルシアターズ・ミーティング」について詳しくご紹介します。

●初参加3劇団は名古屋、大阪、宮崎から
 初登場の3劇団の中で実力No.1は、名古屋の人気劇団「劇団B級遊撃隊」です。同劇団の結成は86年。シニカルでナンセンスな不条理劇を得意とし、その劇世界は多くのファンに支持されています。作家の佃典彦は、96年に読売演劇大賞作品賞を受賞するなど劇作家としての評価が高く、今回の新作に期待が高まります。
 群雄割拠の大阪から参加するのは、「劇団Ugly duckling」。平均年齢25歳の若手劇団でありながら、2年連続でOMS戯曲賞を受賞した樋口美友喜、若手演出家コンクール2001年優秀賞受賞の池田祐佳理など、気鋭の才能を擁する要注目劇団です。宮崎県都城市を拠点とする「劇団こふく劇場」は、作・演出を担当する永山智行が、01年第2回AAF戯曲賞を受賞するなど、同じく今後が期待される若手劇団です。

●再登場の2劇団の新境地
 さらに今年は、シリーズ出演劇団の成長と新しいチャレンジを観ていただこうと、過去の参加劇団の中から2つの劇団を紹介します。
まず、北九州の劇団として着実な活動を重ね、東京公演の評価も定着してきた「飛ぶ劇場」が夏目漱石の『こころ』に想を得たという愛憎劇『ミモココロモ』を上演します。これは、大学の映研を舞台に、現代の若者のこころの襞を見事に切り取った作品です。映像を効果的に用いた演出や、関西を拠点に活躍する美術家、柴田隆弘氏を迎えた舞台美術も見どころとなっています。
 一方、瀬戸内の方言、柳井弁を用いた女優二人の会話劇が特色の「POP THEATRE Я」は、文学座から加納朋之氏を客演に招き、柳井で創りあげた作品を披露します。柳井弁、標準語が巧みに入り混じるこの作品は、作・演出の自由下僕が「本当に柳井弁の芝居をつくれた気がする」という自信作。2劇団の新境地に注目です。











1
●劇団B級遊劇隊『消しゴム』(名古屋)
劇団案内 [日程]11月21日(木)〜24日(日)
[作]佃典彦
[演出]神谷尚吾
[出演]神谷尚吾、山口未知、佃典彦、斉藤やよい、池野和典、山積かだい、山積わたしも、徳留久佳、向原パール、木村庄之助(プロジェクト・ナビ)
◎86年、名城大学OB佃典彦、神谷尚吾らを中心に旗揚げ、89年東京初進出。下北沢を中心に東京公演を重ねている名古屋のおなじみの実力派劇団。まるでアドリブのような手法で不条理世界に切り込んでいく「シニカル・ナンセンス・不条理」の世界には多くのファンがいる。佃典彦は劇作家として評価が高く、外部書き下ろしも多い。
◎問い合わせ:劇団B級遊撃隊 Tel. 052-752-6556
●劇団Ugly duckling『眠りの切り札』(大阪)
劇団案内 [日程]11月26日(火)〜28日(木)
[作]樋口美友喜
[演出]池田祐佳理
[出演]出口弥生、中村隆一郎、吉川貴子、ののあざみ、早川丈二、後藤七重(フリー)、樋口美友喜、池田祐佳理
◎94年に池田祐佳理、樋口美友喜が中心となり結成、95年梅田スペース・ゼロにて旗揚げ。大阪を中心に活動中。主宰・演出の池田は若手演出家コンクール2001優秀賞受賞、劇作の樋口は2年連続OMS戯曲賞大賞を受賞という快挙を成し遂げている。少年犯罪など社会問題を斬新な視点・演出で舞台化している。
◎問い合わせ:劇団Ugly duckling Tel. 06-6934-9748
●劇団こふく劇場『やがて父となる』(宮崎)
劇団案内 [日程]11月30日(土)、12月1日(日)
[作・演出]永山智行
[出演]あべゆう、山崎宏二、吉國浩二、奥裕一、丸崎浩一、吉岡永利子ほか
◎90年に「劇団クロスピア」として結成、一時活動停止後、97年に「劇団こふく劇場」と改称し活動再開。宮崎県都城市に拠点をおく。地域文化との繋がりに重点をおき、ワークショップ開催や九州在住の作家への戯曲の執筆依頼などをしている。代表永山の作品『空の月、胸の石』(95年)、『北へ帰る』(96年)は、劇作家協会新人戯曲賞最終候補作品となる。今回はAAF戯曲賞受賞作『so bad year』から2年ぶりの新作を携えての注目公演。
◎問い合わせ:劇団こふく劇場 Tel. 0986-26-6422
●POP THEATRE Я『空』(山口)
劇団案内 [日程]12月6日(金)〜8日(日)
[作・演出]自由下僕
[出演]JUN、国崎砂都美/加納朋之(文学座)
◎93年に山口県柳井市で代表久保田修治らを中心に結成、94年旗揚げ。廃屋となった映画館「みどり会館」を劇場兼稽古場に改修、拠点として活動している。劇団公演のほか2000年より「IKACHI国際舞台芸術祭」(伊陸=地名)を開催、内外のアーティストとの交流も活発である。柳井弁の会話劇が特徴。第2回リージョナルシアター・シリーズに『蛇口』(劇作家協会新人戯曲賞最終候補作品)で参加。今回は東京から客演を迎え新境地に挑む。
◎問い合わせ:POP THEATRE Я Tel. 090-1187-9079



2
●飛ぶ劇場『ミモココロモ』(北九州)
劇団案内 [日程]12月6日(金)〜8日(日)
[作・演出]泊篤志
[出演]寺田剛史、有門正太郎、橋本茜、松下好(エルカンパニー/bird's-eye view)、権藤昌弘、木村健二、黒崎あかね、つかのみき、内山ナオミ、藤尾加代子、門司智美、泊達夫、内田ゆみ
◎87年に結成、93年から泊が脚本・演出を担当し、95年より劇団代表となる。北九州を本拠地に東京・関西・四国などで公演を重ね、「九州の劇団・飛ぶ劇場」として知られている。99年に第1回リージョナルシアター・シリーズ『IRON』(99年度岸田戯曲賞最終候補作品)で参加。東京公演は今回で5度目。
◎問い合わせ:飛ぶ劇場制作事務所【toban-ne】 Tel. 093-873-7460

●各地の話題満載のミーティング
 会期中11月22日には、出演劇団代表ほか豪華ゲストを迎えたトークセッション「リージョナルシアターズ・ミーティング」を開催します。
 今年は、名古屋、北九州2つの地域をクローズアップ。北九州で2003年秋にオープン予定の大型劇場「北九州芸術劇場(仮称)」の話題など、最新の情報が満載です。さらに特別企画として「関西の小劇場」をテーマにしたセッションを予定しています。関西の小劇場を支えてきた民間劇場の閉鎖が相次いで報じられるなか、今、関西の表現者は何を考えているのか?リージョナルに関係の深い劇団諸氏を迎え、その本音に迫りたいと思います。関心のある方はどなたでも参加できますので、担当までお問い合わせください。

●リージョナルシアターズ・ミーティング
[日時]11月22日(金) 13:00〜18:00
[会場]東京芸術劇場中会議室
[参加費]無料
[参加方法]要申し込み(欄外参照)
◎セッション1
「名古屋的演劇環境」
 佃典彦(劇団B級遊劇隊代表)
 はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット代表)
 籾山勝人(長久手町文化の家)ほか
◎セッション2
「北九州芸術劇場(仮称)と富士見市民会館 キラリ☆ふじみの試み」
 泊篤志(飛ぶ劇場代表)
 平田オリザ(青年団代表/キラリ☆ふじみプロデューサー)ほか
◎リージョナル特別企画「関西小劇場を考える」
 土田英生(劇団MONO代表)
 岩崎正裕( 代表)
  深津篤史(劇団桃園会代表)ほか
※タイトル・パネリストは変更の可能性あり

●リージョナルシアター・シリーズに関する問い合わせ
東京国際芸術祭 Tel. 03-5428-0337
http://anj.or.jp

●リージョナルシアターズ・ミーティングに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 宮地俊江
Tel. 03-5573-4065

制作基礎知識シリーズVol.16 ホールの防災と安全管理(4)

●観客の安全管理−不特定多数の利用者を想定した細やかな配慮を−


 講師 草加叔也(劇場コンサルタント/空間創造研究所代表)

●客席で危惧される事故
 
「客席」と「舞台」は同じ劇場・ホール建物の中にありながら、非常時の安全に対する考え方に大きな差がある。それは、客席・ホワイエ・ロビーなどを利用するのが特定できない多数の観客、つまり「不特定多数」の利用者であるのに対し、舞台や楽屋を利用する出演者や関係者は、言わば「特定多数」の利用者であることに起因する。「不特定多数」の施設利用者は「特定多数」の利用者に比較して、建物の機能や非常設備についての知識が乏しいことから、客席等には安全を確保するための方策が多重多様に講じられている。
 例えば、「プロセニアム形式の舞台(客席と舞台がプロセニアムによって区画されている舞台形式)」を持つ一定規模以上の劇場には、舞台と客席を区画する鉄製の防火シャッターの設置を義務付けている自治体もある。これは火災発生の原因となりやすい舞台部を客席、つまり「不特定多数」の利用者空間から物理的に切り離すことを目的としたものである。
 客席で非常事態を引き起こす具体的要因として想定されるのが、火災、地震など、観客に直接被害をおよぼす「一次的要因」と、それに起因して発生する「二次的要因」である。例えば、「二次的要因」には避難通路の変更による事故などがあげられるが、以下、この2つの要因に分けて整理したい。

●「一次的要因」
 劇場・ホールの客席空間の安全を脅かす、最も懸念すべき危険因子は火災であろう。幸いわが国では、近年、観客を危険にさらすような劇場火災は発生していない。しかし新宿コマ劇場近くの雑居ビルでの悲劇を見聞すると、「不特定多数」の利用者空間で発生する火災の恐ろしさを改めて思い知らされた。
 今日では、一定規模以上の劇場・ホール施設には、火災の悲劇を未然に防ぐことを目的とするさまざまな対策が施されている。そのひとつに消防用設備等の設置(※1)がある。この消防用設備等には、大きく「消火設備」「警報設備」「避難設備」がある(※2)。これは、火災が発生したときに備え、観客に火災の発生を知らせ、避難を促すとともに初期消火を行うことを目的としている。
 劇場・ホール施設では、消防用設備の中でも特に非常口誘導灯および通路誘導灯、客席誘導灯などが観客の安全避難を誘導する大きな役割を担っているが、近年、消防法の改正により、暗さが必要とされる場面では上演中の誘導灯の消灯ができるようになった。
この種の設備は、不幸にして火災が発生した場合でも被害を最小限に止めることを念頭に設置が義務付けられているものだが、それ以前に火災の起こりにくい建物の普及を目指して、建築基準法に順ずる法令でさまざまな基準が設けられている。
 同法では、「劇場」は「不特定多数」の利用に供する施設として「特殊建築物」に分類され(※3)、「耐火建築物又は準耐火建築物としなければならない特殊建築物」としての指針が示されている。さらに同法施行令では(※4)、特殊建築物等の内装についての制限が詳しく定められていて、総じて燃え難い環境が担保されている。
 地震については、一般に地震の揺れそのものによって観客に危害をおよぼすというより、そのことにより引き起こされる物損やパニックが原因となって、事故を併発することが懸念されている。その対応として、後述する防火管理者の役割の中に、大規模地震発生に際しての安全で適切な避難誘導の実施等が含まれている。
 もう一点、考慮すべき事案として「懸垂物の安全確保」(※5)があげられる。これは周知のとおり、1988年に東京・六本木のディスコで発生した装飾用電動照明装置の一部が落下して人身事故を招いた反省から、建築物の内部に取り付けられる懸垂物を対象とした「懸垂物安全指針・同解説」が取りまとめられた。
 舞台上の照明器具など、「劇場の舞台、演出空間等で不特定多数の観客に危害をおよぼす恐れのない場所に設けられているもの」についてはこの指針が適用除外されており、別に「吊物機構安全指針・同解説」が設けられている(※6)。この指針では固定設備としての吊物設備の安全指針を取りまとめているが、今後は床設備(迫など昇降装置)やこれらの設備を利用して設置される仮設物(大道具や舞台照明器具、舞台音響設備など)の設置に対する安全指針の策定も期待されている。
※1 消防法第17条「学校等の消防用設備等の設置及び維持義務」
※2 消防法施行令第2節「消防用設備等の種類」
※3 建築基準法第2条2「用語の定義・特殊建築物」
※4 建築基準法施行令第5章の2「特殊建築物の内装」
※5 懸垂物安全指針・同解説(1990年/(財)日本建築センター発行)
※6 吊物機構安全指針・同解説(1996年/(社)劇場演出空間技術協会発行)


●「二次的要因」
 「二次的要因」は、避難に伴う危険と物損による落下物や破損による危険に大別される。固定席を持つ劇場・ホールについては、避難通路に関わる客席の並び方、段床、通路及び縦通路の位置・幅員、そして客席部の出入口の数及び幅などが地方条例によって規定されている。例えば東京都の場合、「東京都安全条例とその解説」と「火災予防条例(抄)」により、詳細が規定されている(※7)。ただし、この規定は基本構造に対する規定であり、また最低限確保する下限条件を示しているのであって、安全を確保するに足る指針を示している訳では決してない。
 また、舞台の張出や前舞台の使用など、客席部に舞台の一部を突出させた仮設使用が近年よく試みられている。このように舞台を張出して客席の構造(特に避難通路の位置やルート)を変更する場合は、どんなに軽微な変更であろうと、関係官庁の同意や確認を得る必要がある。例えば、テレビ中継用のカメラケーブルが客席避難通路床面を横切るだけでも、避難通路の形状変更と見なされることがあるので注意を要する。
 さらに物損などによる転倒、落下については、仮設物に対する留意が必要となる。一般的には、客席に露出した仮設物として舞台照明器具などが想定されるが、照明のカラーフィルター枠が外れるだけでも、一定の高さから落下すると事故の原因になる。
※7 東京都建築安全条例とその解説 第二章 特殊建築物/第八節 興行場等、火災予防条例(抄)第六「避難及び防火の管理等」

●事故を未然に防ぐための方策
 事故を未然に防ぐためには、建築や設備などの安全基準を担保するだけでなく、運用方法に負うところが少なくない。これは劇場・ホールの利用が多様であることに加え、不特定多数の利用者が出入りする場所であるためだ。
 こうした運用面の責任者と言えるのが、消防法によって選任が義務付けられている「防火管理者」である。この防火管理者が担う役割は大変に幅広く、防災計画の策定にはじまり、予防管理対策、火災予防措置、自衛消防対策、震災対策、防災教育と訓練の実施などがあげられる。
 中でも「自衛消防隊」の組織化は、防災に対する意識の向上、非常設備や関連機器に対する知識と取り扱い方の実務、そして非常時に担う役割分担など、実践的な対策を講じていく上で大変に重要となる。
 劇場・ホールの場合、こうした自衛消防隊はホールの管理職員だけで組織されるのではなく、一定期間の公演活動を行う際には、舞台を利用する公演スタッフを含めて組織されるべきである。さらに、施設管理者も法令により定められている安全管理だけでなく、それぞれの劇場・ホール施設の特殊事情も含めて、安全を脅かす可能性のある要因について十分な知識と危機意識を持って対処していく必要がある。
 また、日頃から情報提供などを通じて不特定多数の客席利用者(身体障害者や車椅子利用者も含め)との相互理解や信頼関係を築くことも安全管理にとっては大きな一歩となる。

自衛消防隊組織図(例)
自営消防隊組織図


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