地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

11月号-No.091
2002.11.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成14年度公共ホール音楽活性化事業中間報告

●制作基礎知識シリーズ


●平成14年度公共ホール音楽活性化事業中間報告
 −5年目を迎え、絵とのコラボレーションなどアクティビティも多彩に−



 本年度の「公共ホール音楽活性化事業」は、全国17地域の参加で行われていますが、10月末現在で6地域での多彩なアクティビティ&コンサートが終了しました。5年目を迎えて、演奏家にアクティビティについての理解が深まってきたこともあり、演奏家からの提案が企画に活かされるケースも増えてきました。今号は、前半を終え、特に印象に残っている取り組みとして、ピアニストで作曲家の中川賢一さんの協力により滋賀県安土町の文芸セミナリヨで実施された企画をご紹介したいと思います。

●「この夏はPianoがおもしろい!」
 安土町は滋賀県のほぼ中央、琵琶湖の東に位置する人口約1万2000人の、織田信長によって拓かれた城下町です。文芸セミナリヨはパイプオルガンを備えた380席の小ホールで1994年に開館。信長時代に開校されていたキリスト教の神学校「セミナリヨ」が名前の由来になっています。
 セミナリヨでは子どもを対象にした発表会「こども演奏フェスティバル」を開催してきました。昨年、通算10回を数えたのを機に、子どもを対象にした新たな事業を展開したいと、公共ホール音楽活性化事業に参加しました。
 セミナリヨが企画した「この夏はPianoがおもしろい!」は、独自事業の「こども演奏フェスティバル」と音楽活性化事業の「ピアノのワークショップ」「中川賢一ピアノリサイタル」を組み合わせたものです。ワークショップ、リサイタルともに演奏家が積極的に企画づくりに参加したのが特徴で、中川さんのアイデアを実現するため、会館の大林宏事務局長から担当者までが一丸となってバックアップし、大成功となりました。

●ピアノと創作の秘密に迫る
 「ピアノのワークショップ」に参加したのは公募で集まった小中学生計46名と飛び入りの幼児たち。2日間に分けてホールの舞台上で各2時間ずつのワークショップが行われました。
 「ピアノのひみつ!」と題した前半は、何と会館所有の本物のピアノを解体(!)してしまうというもの。現代音楽家でもある中川さんは、内部奏法などの特殊な演奏を行うため楽器の構造には人一倍詳しいとはいえ、会館の理解と信頼がなければとても実現できない企画でした。
 サティとドビュッシーの演奏に続いて、中川さんは担当者と3人がかりで早速グランドピアノの解体をスタート。「これが鍵盤、これがハンマー…」と、目の前で見慣れた楽器が見たこともない姿に解体されていく様子に子どもたちは目を輝かせていました。
 後半は、アーティストの本領発揮とも言える創作ワークショップ。「ピアノを触ったこともない子どもでも創作はできるし、創作としてすべてのアートがリンクしていることをわかってもらいたかった」という中川さんのアイデアで、楽譜や音階を一切用いない作曲や絵を用いた即興演奏など刺激的な取り組みが行われました。
 鍵盤に4色の付箋を張り、子どもたちがアットランダムに選ぶ4色のカードの組み合せでつくった曲や声の組み合せでつくった曲に、中川さんの演奏を合わせて参加型創作曲『安土組曲I』を完成。
 また、絵をつかった即興演奏では、好きな色の絵の具を垂らした子どもたちの「抽象画」に合わせて中川さんが即興演奏したり、逆に即興演奏に合わせて子どもたちが墨絵を描いたりと、絵と曲のコラボレーションを満喫しました。ここでもステージ上での墨絵づくりができるよう、会館が全面協力。
 事業担当の城奈緒美さんは、「中川さんのアイデアを“面白いやん”と楽しんでやったら、みなさんに驚かれて。エーッ、そんなにヤバかったのって感じです(笑)。アーティストが楽しんでいることはホールの職員にとっても面白いし、何より参加した子どもが一番楽しいはずと信じてました。ただ、子どもは瞬間的に興奮しても結構忘れてしまうので、これから継続していくことが大切だと思います」と振り返っていました。


●参加型のリサイタルも好評
 集大成のコンサートも参加型のアイデアが一杯でした。8月25日、リサイタル当日。ロビーにはA3用紙十数枚を繋いだ巨大五線譜が準備され、来場者が音符や音符代わりの言葉を自由に記入。コンサートの中でそれを実際に演奏すると聞いてみんな半信半疑でした。
 「今、一番聞かせたいと思っている曲目をプログラムしてください」との会館のリクエストに応え、ワークショップでつくった水墨画のタペストリーをバックに、中川さんがジョン・ケージの『無音』(ピアニストがピアノの前に座っているだけの曲)や一柳慧のミニマル・ミュージック、CDと生ピアノのコラボレーションなど難解といわれる現代音楽を次々に演奏。子どもたちやお年寄りは未知の音楽体験に逆に興味津々の様子でした。
 フィナーレの『安土組曲II』では、声の組み合わせや、巨大五線譜演奏で会場のお客さんも参加して新たに曲づくり。ラスト、中川さんの合図に合わせてみんなが折った真っ白い紙飛行機を飛ばすと、ホールの中をゆっくりと風が舞うように飛行し、本当に美しい感動のシーンとなりました。事務局長が自ら折り方を研究したとのことで、こうした参加館全体で企画を楽しみながら取り組んだ雰囲気が、今回の一番の成功要因だったのではないでしょうか。

●中川賢一ピアノワークショップ
時間 内容 詳細
11:00 ピアノの演奏と挨拶
11:10 ピアノを分解!
(音の出る仕組み)
ピアノを分解。鍵盤を取り出し机に移動
アクション模型を使って音の出る仕組みを説明
子どもたちが弦になったつもりでハンマーの上に手をかざし、中川さんが鍵盤を叩く(→弦の強さを体験)
11:20 響板の役割
(響板の中の音を聞く)
響板・フレームをマレットで叩く
響板の下に潜り、下から響板を叩くなど
11:30 震える弦
(震動を感じる)
(音の出ている)弦に触ってみる
弦の上にピンポン玉を乗せ、思い切り鍵盤を叩くとピンポン玉が弾ける
鍵盤の不思議 鍵盤にビー玉を乗せて弾いてみる→決して玉が落ちない→鍵盤が本体
に向かって傾いていることを証明
11:40 場所によって違う
音の響き
ピアノの下、左右、奥に立ち、音の違いを聞き比べる
蓋が音の方向性を決めていることを体感
中川さんと連弾 「ドドド」「ドレドレ」など子どもたちが出す音に中川さんが伴奏を付ける
11:55 マーチで歩こう! 中川さんの演奏する曲にあわせ、舞台上を自由に行進
12:00〜13:00 休憩
13:00 メロディーをつくろう 鍵盤のドレミファに4色の付箋を貼り、同じ色の4枚のカードをトランプの要領で子どもに切ってもらう
4音の組み合わせでメロディーをつくる(計4人4小節)
中川さんが和音を付け、曲(1)を完成
和音をつくろう 1オクターブの鍵盤の中から、自由に3音または4音を選んでもらい、和音をつくる(1人3和音×4人)
中川さんがメロディーを付け、曲(2)を完成
声とささやき作曲 4班に分かれ、「しっ」「くっ」「ぷー」「あ〜」といった4種類の声の組み合わせで曲をつくる
ミニマル音楽をつくろう 鍵盤に赤青黄のシールを貼る(各色ごとに和音になる音)
4人の子どもに鍵盤の前に並んでもらい、中川さんの指示する色(赤青黄の風船を掲げて指示)を自由な早さで叩いてもらう
『安土組曲I』 中川さんの演奏する曲(1)(2)に、子どもたちが参加する「声で作曲」「ミニマル音楽」を組み合わせた「安土組曲I」の演奏
13:25 みんなの絵に曲を付ける 子どもが描いてきた絵に中川さんが1枚1枚、即興演奏で曲を付ける
13:40 ピアノに合わせて
墨絵を描こう
子どもたちが中川さんの即興演奏に合わせて自由に墨絵を描く
(1)半紙(1人1枚)
(2)模造紙(2人1枚)
(3)全員で大きな紙(模造紙10枚分)に一斉に描く

●「この夏はPianoがおもしろい!」概要
◎第11回こども演奏フェスティバル・オーディション
◎ピアノのワークショップ
[日程]8月1日、2日
[ワークショップ講師]中川賢一
◎第11回こども演奏フェスティバル
[出演]オーディションに合格した子どもたち
[講評]中川賢一
◎中川賢一ピアノリサイタル
[日程]8月25日
※こども演奏フェスティバルは文芸セミナリヨの独自事業。会場は全て文芸セミナリヨ。

●平成14年度公共ホール音楽活性化事業日程
・滋賀県安土町(8月1日、2日、25日)
・兵庫県西脇市(9月6日〜8日)
・青森県六ヶ所村(9月26日〜28日)
・北海道苫前町(10月10日〜12日)
・岡山県井原市(10月11日〜13日)
・岐阜県関ヶ原町(10月17日、18日、26日)
・福岡県大牟田市(11月8日〜10日、29日)
・新潟県見附市(11月12日、13日、12月1日)
・和歌山県清水町(11月14日〜16日)
・山梨県河口湖町(11月21日〜24日)
・徳島県山川町(11月29日〜12月1日)
・茨城県水海道市(12月6日、7日、21日)
・宮城県登米郡(12月18日、19日、2003年1月26日)
・福島県東村(12月24日、25日、2003年1月19日)
・鹿児島県知名町(2003年3月5日〜8日)

●平成14・15年度登録アーティスト
田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、唐津健(チェロ)、神代修(トランペット)、竹内直子(ハーモニカ)、浜まゆみ(マリンバ)、大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)

●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 小澤・宮地
Tel. 03-5573-4074


制作基礎知識シリーズVol.16 ホールの防災と安全管理(5)

●補償と保険−保険で不測の事態への備えを−


 講師 草加叔也(劇場コンサルタント/空間創造研究所代表)

劇場・ホールを管理運営していく上で、さまざまな不測の事態を想定し、それによって発生するリスクを最小限に止めるような対策を講じる必要があるのは言うまでもない。しかし、現実にはコストがかかりすぎる、イベント主催者にアマチュアが多いといったことなどが要因で、充分な対応がとられているとは言い難い。今回は、「ホールの防災と安全管理」の最終回として、そうした不測の事態に対応する「補償と保険」について紹介する。
ただし、ここではあくまで最も代表的な対策について紹介するものであって、個々の具体的な案件については個別に検討が必要となることをお断りしておきたい。

●不測の事態で想定される損害
 劇場・ホールで「不測の事態」が発生した場合、事態によっては、公演やイベントを主催する側は有形無形の損害を負うことになる。主催者が負うことが想定される損害は以下のようなものが考えられる。
◎費用的な損害
 予定していた公演やイベントが不測の事態により変更、延期、中止された場合の費用的な損害。既に支出した費用に加えて、事態を周知するための告知費用やチケットの返券手数料など二次的に発生する追加費用など。
◎鑑賞者などに対する賠償
 公演やイベントなどに参加した観客、鑑賞者など第三者の身体や財物に対して、損害を与えた場合に発生する法律上の損害賠償。
◎出演者などに対する賠償
 公演やイベントなどの主催者、出演者、スタッフなどがその公演中に怪我を負ったり、死亡することによる賠償。
◎財物的な損害
 公演やイベントなどを行う劇場・ホールなど会場の施設あるいは設備、またそこで使用する機材や展示品などの火災、破損、減失、盗難などによる損害。

●損害を補う保険
 これまでも述べてきたように、劇場・ホールでは、「多くの鑑賞者を一時的に集める」「生身の人間が演じ、演出する舞台芸術を媒介とする」「劇場・ホールという特殊な建築施設や設備で上演を行う」といった特別な条件を考慮したリスクマネジメントが求められる。だからと言って劇場・ホールが特別に危険性が高いということではない。しかし事故や損害が発生しないように事前の予防措置を講じることは何にもまして重要なことである。その上で、一般的な想定を超えて起こりうる不測の事態に対する措置を講じるのは、劇場・ホールの設置者あるいは管理運営を行う主体の社会的な責務であり、舞台芸術やイベントを主催する主催者も同様である。
 こうした不測の事態によって引き起こされる損害に対し、最も一般的な手当ての方法が「保険」である。例えば、よく耳にする「イベント保険」がその代表的なものである。商品名としてこのような名前の保険を扱う保険会社もあるようだが、一般的にいくつかの損害保険を組み合わせた総合保険の総称として用いられている。以下に、「イベント保険」と総称される保険の具体的な内容や特徴を整理してみた。
◎興行中止保険
 公演やイベントなどが悪天候や出演者などの偶発的な出来事、劇場・ホールの事故や不備により中止、中断をされた場合、被保険者である主催者に対して、それまでに支出された費用、例えば会場費(設営費を含む)、人件費(アルバイトや警備等を含む)、交通宿泊費、広告宣伝費、大道具製作費、各デザイン料、諸経費(食費、運搬費等)などに加えて、中止や延期の告知、チケットの払い戻し手数料などに必要な費用を加えたものの一定額(約8〜9割程度)が支払われる。
◎賠償責任保険
 公演やイベントなどを行う劇場・ホールの構造や設備の不備、管理上の手落ちや不手際などにより観客や鑑賞者など被保険者である主催者側以外の第三者に対して身体的な怪我を負わせたり、財物を壊したり盗まれた場合に発生する法律上の賠償損額(治療・入院費、休業損害、慰謝料、財物の修理費等)に対して一定の保険料が支払われる。
◎傷害保険
 公演やイベントなどの出演者や仕込みから本番、撤去などに関わるスタッフなど主催者側に属する者が負った怪我や事故に対して入院保険金等(手術、通院、付添看護等保険)や後遺障害保険金、死亡保険金などが契約内容によって一定額支払われる。ただし、イベントの内容によっては参加者を含めた保険として扱われることもある。
◎動産総合保険
 公演やイベントの仕込みから撤収までの期間における火災、盗難、破損、事故などにより劇場・ホールの施設や設備を壊した場合や使用する大道具、小道具、衣裳そして楽器や音響照明機材に生じた損害を補償する保険である。
 以上の「イベント保険」は、実際に行われる事業やイベントの内容により個々にカスタマイズ(特約契約)して用いるが、市民が運営に携わるケースなどはその補償対象を特約として広げることもできる。また、劇場やホールといった特定の施設での活動を対象とした総合保険として設計することもできる。
 なお、保険は、個々の契約内容に応じて免責事項や補償範囲が定められるので、上記に例示した内容がすべて補償されるわけではない。

●ボランティア活動の補償
 各地で実施されているボランティア活動やワークショップ事業については、「ボランティア保険」「レクリエーション保険」でカバーすることができる。どちらも一般的には傷害保険と賠償責任保険を組み合わせたセット保険となっている。
 ボランティア保険は、年間の活動を通して、本人の傷害から活動中に第三者に怪我を負わせたり財物を破損させた場合を補償する。保険会社にもよるが、一人当たり年間300円程度で加入できるものもある。もちろん、ボランティア行事を対象としたものやNPO法人を対象とした保険も取り扱われている。
 またワークショップなどの活動を対象とした保険として「レクリエーション保険」に加入する例が多い。一般には一日を単位として参加者全員が同一の条件で加入する。保険料は対象となる活動によって異なるが、簡易なものであれば一人一日当り50円程度から加入できる。ただし、保険会社によっては最小単位の参加者数や宿泊を伴う場合の特例を定めている場合もある。
 
●全国公立文化施設協会(公文協)の保険
 公立文化施設(およびその管理を請け負っている業者)を対象にしたイベント保険が公文協によって加盟団体向けに設計されている。詳しい資料は公文協事務局に問い合わせをしていただきたいが、主な保険内容は以下の通り(「舞台芸術と法律ハンドブック」(芸団協出版部発行)より作成)。
◎公立文化施設賠償責任保険
 施設の設置・管理・運営に問題があったために事故が生じ、その施設が法律上の損害賠償責任を負担しなければならなくなった場合に、その賠償損害額を補償する保険。必要に応じて「施設管理責任」「受託物管理責任」「駐車場自動車管理責任」の補償を組み合わせることが可能。
◎公立文化施設災害補償保険
 災害、落雷、爆発などの万一の災害時、また偶然の事故により利用者が怪我をした際に、被災者やその親族等との対応に要する費用(被災者対応費用補償)や被災者への見舞い費用(傷害見舞費用補償)が支払われる保険。
◎施設管理請負業者賠償責任保険
 公文協に加盟している施設から、施設のメンテナンス、清掃業務や舞台施設の運営、維持、管理業務(日常および夜間の警備業務を除く)を年間請負契約により請け負っている業者の管理・運営に問題があったために事故が生じ、法律上の損害賠償責任を負担しなければならなくなった場合に支払われる保険。
◎公立文化施設自主事業中止保険
 公文協に加盟している施設が主催して屋内で開催する自主事業の中止による損失を補填する保険。台風・雪害、悪天候による交通遮断、落雷による停電、出演者の交通事故、会館設備のトラブル、その他の原因で中止または延期した場合、被った損失の90%または契約金額を上限として保険金が支払われる。屋外など対象外となっているものについても別途保険をかけることは可能。また、事業開催が危ぶまれるような事故が発生した場合、さまざまな努力によって中止を回避できた場合にかかった費用をカバーする特約(中止回避費用特約)を設けることも可能。
 
以上、保険はあくまでも不測の備えなので、日常的に安全管理を怠らないことが最も重要だということを改めて再確認していただきたい。

※参考文献
「舞台芸術と法律ハンドブック−公演実務Q&A」
[定価]2300円(本体)
[発行]社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)出版部
Tel. 03-5353-6606



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