地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

2月号-No.094
2003.02.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成14年度「地域文化施設における財団運営に関する調査研究」

●制作基礎知識シリーズ



●平成14年度「地域文化施設における財団運営に関する調査研究」
 −地域や市民に求められる財団となるための提言−


 財団法人地域創造では、全国の公立文化施設の活動状況を把握するとともに、今後の運営の指針となるような調査研究事業を実施しています。本年度は、数々の問題点が指摘されている公立文化施設の財団運営のあり方について、アンケートとヒアリングによる調査を実施しました。併せて専門家委員会を設け、計6回の検討会を行いました。
 アンケート調査の対象となったのは、公立文化施設の管理運営を委託されている全国30財団と、それらの財団を設置した地方自治体です。回答を踏まえて、その内の5財団(およびその設置自治体)を抽出し、さらに詳しいヒアリングを実施しました。
 また、地域創造が2000年12月に実施した全国の公立文化施設に対する悉皆調査(「地域の公立文化施設に関する調査」)を再分析し、芸術文化施設(※1)を運営する財団についての全国データを整理しました。
 今回の調査では、財団運営の現状をできるだけ実態に即して把握できるよう、基本的に自由記述方式で回答していただきました。そのため、調査対象となった団体の方々には大変お手数をおかけしました。ご協力をいただきました皆さま、本当にありがとうございました。2月初旬に正式の調査報告書が発行される予定になっていますが、今号では、活気ある財団運営を行うための提言内容および主な調査結果の一部をご紹介したいと思います。
※1 芸術文化施設とは、主たる施設内容が、「ホール」「美術館」「練習施設」「創作工房」とその複合施設である施設。

●活気ある財団運営に向けての提言
 今回の報告書の特徴は、専門家のご意見を伺いながら、多くの課題を抱える芸術文化施設運営財団が、地域や市民に求められる活力ある財団となるための提言書としてまとめられているところです。主な内容は下記の通りです。「時代・環境を認識せよ」「すべては『ミッション』からはじまる」など6項目に分け、具体的な各地の取り組み事例を入れてわかりやすく整理されています。2月1日以降、地域創造ホームページよりダウンロードできますので、興味のある方はご参照ください。
◎提言の主な内容
(1) 時代・環境を認識せよ
地方分権の進展などの時代の流れや財団を取り巻く厳しい環境を認識し、財団のメリット(「柔軟な運営」「専門人材の登用」「弾力的・効率的な財政運営」「民間的発想の導入とサービスの向上」)を活かした積極的な運営を。
(2) すべては『ミッション』からはじまる
原点に立ち返ることにより、市民に開かれたわかりやすいミッションを構築し、plan→do→seeで目標を達成し、成果の評価と公表を。
(3) 活力ある財団運営は内部改革から
職員の多様な雇用形態を取り込んだり、柔軟な勤務形態の活用など積極的な財団の内部改革により、職員が支える柔軟な運営体制の実現を。
(4) 施設を有効に活かせ
専用使用や優先利用の検討など施設を有効に活用し、多様化する施設利用への対応を。
(5) 財団の活性化はわが国文化行政の緊急課題
民間や認定NPO法人をも含めた関連団体との連携や財団間での人的交流の実施など、相互交流による活性化を。
(6) 地域や市民に求められる財団であれ
財団と地域がお互いに成熟し、相互発展・協働(スパイラルアップ)するような関係の構築を。

●アンケート調査の主な結果
 30財団、30自治体に下記のような質問を行いました。財団の理念や目的に関しては、設立時に定めているところが多いものの、具体的な政策目標を定めているところは極めて少ないことがわかりました。
 事業の実績を評価したり公表している財団は約2割にとどまり、課題としては認識しているものの実現には至っていないところがほとんどでした。
 民間との役割の違いについては、「採算ベースに乗らない優れた芸術分野の活動に光が当てられる」「低廉な料金で住民に芸術鑑賞機会を提供できる」「市民のニーズに応えた、市民参加型の事業が可能」といった回答が目立ちました。また、行政が文化事業に取り組む意義については、調査対象のほとんどが前向きに捉えており、心強い結果となりました。
◎アンケート調査の主な項目
【財団調査】財団の設立目的・理念/事業・活動の内容/施設の運用・管理/芸術家やアーティスト、市民やNPOとの関係/運営体制・組織構成/運営予算/事業の評価や情報公開、アカウンタビリティ(説明責任)/課題・将来像
【自治体調査】自治体の文化政策、設置する財団等外郭団体全般(文化振興財団を含む)の管理・運営に対する基本方針等/調査対象財団の設置目的、メリット、財団設置の成果・課題/運営体制・組織構成/運営予算/事業の評価や情報公開、アカウンタビリティ(説明責任)/財団運営の方向性、現状の課題等

●全国の芸術文化施設運営財団の現状
 2000年12月の調査で得られた芸術文化施設データを再分析した結果、財団が運営している施設(以下、財団運営施設)は835施設、自治体が直接運営している施設(以下、直営施設)は1,882施設となっていました。
 財団運営施設と直営施設ごとに設置自治体の割合を見ると、財団運営施設では、「市」が53.2%と半数以上を占めているのに対し、直営施設では、「町村」が59.8%と最も多く、設置自治体によって芸術文化施設の運営組織のあり方に顕著な差がみられました(図1参照)。
図1 財団運営/直営ごとにみた設置自治体の割合
図1 財団運営/直営ごとにみた設置自治体の割合

 また、財団運営施設の規模について見ると、常勤職員数は全国平均で11.0人で、都道府県設置施設(18.2人)、政令市・特別区設置施設(12.1人)、市設置施設(9.7人)、町村設置施設(6.2人)の順になっていました(図2参照)。
図2 財団運営施設の常勤職員数―平均値
図2 財団運営施設の常勤職員数―平均値

 財団管理施設運営費は、全国平均で240,642千円で、都道府県設置施設(399,905千円)、政令市・特別区設置施設(338,980千円)、市設置施設(202,874千円)、町村設置施設(74,149千円)の順でした(図3参照)。ただし、この常勤職員数と施設運営費については、全般的な傾向をつかむための参考数字として把握したものです。
図3 財団運営施設の施設運営費(支出総額)―平均値
図3 財団運営施設の施設運営費(支出総額)―平均値

 なお、財団運営施設、直営施設数の推移については、公立文化施設建設ラッシュを受けて、いずれも80年代、90年代に急増していました(図4参照)。
図4 財団運営施設/直営施設数の推移
図4 財団運営施設/直営施設数の推移

専門家委員会メンバー
朝日信夫(財団法人救急振興財団副理事長)、衛紀生(舞台芸術環境フォーラム代表)、中村晃也(財団法人墨田区文化振興財団事業課長)、細川紀彦(金沢市民芸術村村長)、山本章(財団法人静岡県舞台芸術センター専務理事) ※五十音順
「地域文化施設における財団運営に関する調査研究」問い合わせ先
地域創造芸術環境部 Tel. 03-5573-4069 碇政幸


詳しくはこちら

制作基礎知識シリーズVol.17 ホール職員のための文化政策の基礎知識(1)

●文化政策の基礎知識(1)
 ―文化的人権実現と地域・都市政策拠点としての文化ホール―


 講師 中川幾郎(帝塚山大学法政策学部教授)


●公共文化ホールはなぜ必要なのか?
 「公共文化ホール、公共劇場などが一体なぜ必要なのか?」――例えば、赤字財政に悩む自治体財政担当者は、あからさまに口には出さなくても内心そのように思っているかもしれません。総合計画などに関わる企画担当者も、文化や芸術は必須不可欠なものではないと考えて、政策順位を低くみるか「おまけ」のように見る傾向があるようです。貴方なら、このような視線や問いかけにどのように答えるでしょう。
 かつて、モノからココロへ、余暇社会の到来、経済から文化へと喧伝されたトレンドがありました。この流れの深層底流は緩やかに変わらないと思われますが、表層の流れはまるで激しい逆流のようです。実は、経済的に充たされた(経済的ゆとり)から文化なのだとか、余暇(時間のゆとり)ができたから文化なのだ、とかいう一見もっともな考え方に根本的なカベがあるようです。この考え方からは、政府に経済的ゆとりがなく市民も余暇時間どころではないから、文化ホールの事業を廃止したり削減したりする、という帰結が安易に導かれます。それでは、経済的に充たされた国や地域、余暇を享受できる貴族階級ばかりが芸術や文化を消費し生産してきたのでしょうか。
 我が国の近代化に伴って導入されたヨーロッパ近代「芸術」と、我が国在来の大衆「芸能」という無意味な区分を無視して、それらすべてを芸術(Arts)と一括りするならば、ゆとりあってこそ、という考え方には、ある種の思い込みと欠落が作用していることがわかります。大不況の大阪・通天閣界隈では、地元庶民のアイドルである人気女性演歌歌手が大活躍しています。また、阪神淡路大震災時には、これまた演歌歌手がダンプカーにアンプを乗せて被災者避難所に駆けつけ、野外公演を行って人々の熱涙を呼びました。貧しいとき、辛いとき、悲しいときにこそ、人々は芸術を求めるのであり、触れる(アクセスする)権利があるのです。
 さて今日、およそほとんどの自治体が文化ホールを持つようになりましたが、その設立動機はどのようなものだったでしょうか。曖昧な設立理念、市民文化や地域文化との対応を考慮しないハード主導の建設、などが指摘されています。さらに、公立ホールが人々のディマンド(顕在需要)に応えられていなかったり、ニーズ(潜在需要)把握ができていなかったりすることにも問題があります。これらを踏み越えて、文化ホールの存立根拠と戦略を改めて明らかにしていかなくてはなりません。

●市民の文化的人権の保障
 自治体文化ホールの存立根拠は、なによりもまず、市民一人ひとりの「文化権」の実現のためにあります。文化を創造するのは、国家(政府)ではなく国民(市民)であり、そのためにも文化の自由と多様性を保障することが大切な課題である、ということが国際的に承認されています(※1)。そのためには、国家介入からの自由を意味する「自由権的文化権」だけではなく、政府による積極的な権利保障を必要とする「社会権的文化権」も確立されねばなりません。
 この社会権的文化権の積極的な実現こそ、現代政府(国・地方自治体)に緊急に要請されている責務です。筆者は、この「社会権的文化権」の内容は、「表現すること」「コミュニケーションすること」「学習すること」の三つである、と考えています(※2)。これは個人・団体を問わず「市民文化」をいかに顕在化し活性化するか、ということでもあります。またその対象も、アマチュア・プロフェッショナルの双方にわたります。さらに、社会的少数の立場に立つ人々(障害者、在日外国人、その他)も当然に対象となります。
 そのためには、多数の人々の要求(ディマンド)ばかりに応えるのではなく、少数者が負っている課題や潜在的な必要性(ニーズ)も調査して応えていかなくてはなりません。文化ホールがこれら市民の芸術表現の場、(市民と市民、プロとアマ)芸術交流の場、芸術学習の場として機能しているか、がいま問われているのはないでしょうか。
※1 「公共ホール職員のための決定版制作基礎知識」P87-88 小林真理“公共ホールとそれをめぐる法律について”(2002年/財団法人地域創造)参照
※2 中川幾郎「新市民時代の文化行政」(1995年/公人の友社)P36-38、中川幾郎「分権時代の自治体文化政策」(2001年/勁草書房)P26-27参照


●地域・都市政策拠点としての文化ホールの重要性
 次に、文化ホールはそれ自体が地域文化や都市文化の集積体であり、シンボルです。自治体は、地域政策、都市政策として文化政策を戦略化していき、可能な限り自立的(サスティナブル)な文化の再生産システムを築き上げていかなくてはなりません。日常の「生活文化」は、現代文明の恩恵によって全国的に共通化し便利になってきましたが、非日常的な「学術・芸術」等の営みが開発・継続されていない場合は、地域の個性的な生活文化も次第に衰えていきます。文化ホールは、この文化再生産の戦略的拠点となり得ます。
 生活文化の活力も、つまるところは非日常的な文化の営み、集積からやがてもたらされる(開発、革新、発展)ものです。地域政策・都市政策としての「文化政策」を意識化し、確立できないところでは、地域文化も都市文化も必然的に自己発展の道を閉ざされ、他に対する従属的な位置に陥ります。人口減少は全国的な現象ですが、地域が機能的に整備され、便利になればなるほどますますストロー効果(中央集中)が大きくなります。その意味でも、地域・都市の自立的な「固有価値」開発がかえって大切になってきました。
 これは、別の言葉でいえば、地域や都市のアイデンティティを発掘、確立し、資源とすることでもあります。明確な文化アイデンティティは、他地域・都市に対する存在アピールとなり、訪問人口を増やすことにも繋がります。そして文化は、新たな産業資源にもなり得ます。このように、産業政策、観光政策としても「文化政策」の戦略が必要です(※3)。
 さらにアイデンティティ開発は、何よりも「わが町」意識を持った市民を生み出すことにもなります。文化ホールは、情報発信、交流、資源蓄積機能を通じて、この地域・都市アイデンティティ形成拠点となりうるのです。
※3 佐々木雅幸「創造都市への挑戦」(岩波書店/2001年)などを参照

●文化ホールの政策、戦略構築に向けて
 「政策=Policy」は中立概念ではなく、主体的な自覚(自己認識)と運動性・方向性(自己決定)を伴った概念です。問題は、その「政策」形成の主体が誰か、なのであって、誰が執行するかではありません(もちろん、公共政策は行政の独占領域ではなく、企業や市民、民間領域のNPOも供給主体たりえます)。「自治体文化政策」においても、政策形成主体としての「市民」が、そこに実在しなければなりません。Policyとは、書いて字のとおり、Police(都市・国家)をどのように導いていくのか、どのように生き残る道を選ぶのか、という方向性を示したものなのですから。
 そのためにも、市民の文化権が明記された「文化条例」と、条例に担保された「政策実現の仕組み(参加・参画、公開、執行、評価の仕組み)」が必要となります。また、市民参画で策定される「文化振興ビジョン(文化基本計画)」も、どのような価値観を機軸として、どのような地域社会をつくろうとするのか、という選択的な意思を持った自己決定と鮮明な意思表示の証でなくてはなりません。
 つまり、「政策」型思考においては、基本に据えられた価値観(理念)が明確にされ、ついでその価値観に対応した社会的な変化の方向を明示し、かつ変化目標を定め、その基本的な手段を提示します。(この段階を狭義の「政策」とも呼びます)。言葉を変えれば、大義名分と基本「戦略」、といってもよいでしょう。
 その次に位置するのが「施策・計画」であり、実行システムなのです。施策は「戦術」といってもよく、実行システムは「戦技」ともいえます。次回は、この「政策」の視点から文化ホールの戦略や自治体文化ビジョン、文化条例についても考えてみたい、と思います。



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