地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

3月号-No.095
2003.03.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション報告

●制作基礎知識シリーズ



●ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション報告
 (2003年2月18日〜21日)
 −アウトリーチに感動、アートミュージアムラボも活気−


 2月18日から21日までの4日間、大分県立総合文化センターで開催中のラボ大分セッション。今回から、「美術コース」を公立美術館等の職員を対象とした「アートミュージアムラボ」として独立。「ステージラボ」と合わせて「アートミュージアムラボ」を実験的に開講し、研修事業の一層の充実を図っています。今号のレターでは、2日目を終了したラボの模様を、現地から速報します。

●アートミュージアムラボの意義
 コーディネーターになったのは、岡山県立美術館で数々の教育普及事業を立ち上げ、現在、大原美術館のプログラムコーディネーターとして活躍されている柳沢秀行氏です。
 「開講にあたって考えたのは、地域創造のミッション(使命)が“地域の活性化”にあるということ。それで、研修のテーマを、地域の活性化に係わる教育普及活動と地域との連携事業に絞り、講師にはトップクラスの取り組みをしている学芸員と、人と人を結びつけてアートの力で地域を盛り立てているアーティストを選びました」
 ラボ前からメールで参加者と問題意識の共有を図ってきたというだけあって、初日から活発な議論が行われていました。2日目のメニューは各地の事例発表で、名古屋市美術館、平塚市美術館、福岡県立美術館の学芸員から市民や地元のアーティストと連携した取り組みが披露されました。
 「学芸員の仕事は、収集・保存・展示・研修・教育普及と多岐にわたっています。研究会もたくさんありますが、“地域の活性化”というミッションを意識したものは少ない。ようやく情報交換が始まったばかりで、このアートミュージアムラボが開講される意義は大きいと思います」(柳沢)

●自主事業コースを彩るアーティストのパフォーマンス
 自主事業コースの最大の特徴は、入門コース、企画・制作コースともに多彩なアーティストが講師として参加していること。パントマイマーの本多愛也、ソプラノ歌手の大森智子、ピアニストの白石光隆と中川賢一、ジャズピアニストの佐山雅弘、囃子笛方の福原徹と囃子方の藤舎円秀……。
 ほとんどのアーティストが3日間にわたって受講生とカリキュラムを共にし、最後にはセッションまで予定されています。これに選択ワークショップの講師まで加えると、ちょっとしたフェスティバル企画ができるほどで、こうしたアーティストとのネットワークがつくれるのもステージラボの大きな魅力になっています。
 2日目、入門コースでは、そのアーティストたちが小学校と養護学校に出かける「実感!アウトリーチ」が行われました。コーディネーターの能祖将夫氏は、「アウトリーチでは、本物の演奏の魅力が伝わるだけでなく、自分の好きな音楽を人に届けたいと思っているアーティストの生き様そのものが伝わる。こういう活き活きした大人に接することで、子どもたちにもそういう生き方への憧れが生まれる」と前置き。
 大分大学教育福祉科学部付属養護学校では、大森さん、白石さんが、ランチルームの畳の上に座った子どもと先生たち約100名を前に、計8曲を披露しました。
タオルを使ったパントマイム表現を本多愛也さんに学ぶ、受講生と大分市立大道小学校の子どもたち  アニメのテーマ曲を楽しく合唱した後、オペラ『ラ・ボエーム』の「ムゼッタのワルツ」で初めて本物のソプラノ歌手の生声に触れた瞬間、子どもたちの気持ちがすっと大森さんに集中。「大きな人と小さな人がいるように声にも大きな声と小さな声があります。今度は小さな声で歌うので静かに聞いてみてください」と話しかけると、自然に「シーッ」という声が上がり、『アメイジング・グレイス』の歌声が会場に染みわたりました。
 手拍子で表現する子ども、「アー」と声を上げる子ども、その子どもたちの中に入って一人ずつ目を見ながら歌いかける大森さん。そこには、アウトリーチの本質とも言える音楽を届けることの感動が息づいていました。
 企画・制作コースでは、初日から地域創造の公共ホール音楽活性化事業で鍛えられた中川さんのワークショップ・パワーが炸裂。楽器の音で自己紹介したり、ピアノの即興演奏に合わせて絵を描いたりと、受講生と中川さんのコラボレーションが連打されていました。
中川賢一さんのピアノ演奏に合わせ、即興で絵を描く 囃子方の藤舎円秀さんから小鼓を教わる

●江戸時代から続く糸あやつり人形の精神に学ぶ
結城座の人形遣い、結城千恵さん(右から2人目)が難しい糸あやつり人形の基本をレクチャー 共通プログラムの中で興味深かったのが、江戸時代から368年続く結城座の糸あやつり人形のワークショップです。講師は、伝統をふまえた人形遣いでは唯一女性の結城千恵さん。
 「日本には2000年前から動く人形の原形があったと言われています」と、成り立ちから始まり、江戸時代の原形そのままで先人たちの“知恵の固まり”という結城座の人形の仕組みを実物で解説。
 「関節は太めの糸で繋いであるだけ。だから海外の人形と違って熟練しないと動かせない。日本の人形芝居はそういう道を選んで発展してきた」「江戸時代にはどこかの芝居小屋で狂言があたると、客の反応によっていろいろ変えながら別の小屋でもやり、人形芝居にもするなど、お互いが触発し合ながら一つの狂言をつくっていった。他の国にはこんな歴史はない。そういう自分が芝居をつくってきたんだという自信をお客さんがなくしてしまった」などなど。解説に交えたこうした熱い言葉の数々に、自らの原点を触発された受講生も多かったのではないでしょうか。
 このほか、ラボの定番として人気のホール入門コースでは、舞台監督や音響、照明のプランナー、制作者など現場スタッフから劇場のものをつくる仕組みを徹底的に学ぶプログラムが組まれ、真剣な眼差しで講義を受ける受講生の姿が印象的でした。

●ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション スケジュール表

ホール入門コース 自主事業入門コース 自主事業企画・制作コース アートミュージアムラボ
2

18

(火)
開講式・全体オリエンテーション・地域創造紹介
大分県立総合文化センター事業紹介、施設見学
「自己紹介とコミュニケーションゲーム」吉田重幸 「パジャマで自己紹介」能祖将夫 「即興で自己紹介」中川賢一、楠瀬寿賀子 「とにかくみんなで自己紹介」柳沢秀行
「Q&Aで劇場・ホールの現状を考える」桑谷哲男 「絵本ワークショップ」能祖将夫 「コンサート企画の発想〜テレビの音楽番組製作者に訊く」 小林悟朗 「『公立』美術館と、教育普及について考える」 柳沢秀行
2

19

(水)
「劇場・ホールの管理運営の基礎知識」小川幹雄 「実感!アウトリーチ」本多愛也、大森智子、白石光隆 「面白邦楽」福原徹、藤舎円秀 「常設展示場の生かし方・使い方」伊藤優子
「舞台監督の仕事」三上司
「ピアノ解体新書」中川賢一 「美術館に、市民を招いて」端山聡子
共通プログラム「選択ワークショップ」(糸あやつり人形:結城千恵、パントマイム:本多愛也、音楽:小林道夫・松田淳一・後藤敏子) 「美術館に、アーティストを招いて」川浪千鶴
全体交流会
2

20

(木)
「照明ワークショップ」桑谷哲男 「実感!今、ここで創る作品─稽古」能祖将夫、本多愛也、大森智子 「企画を立てよう!」中川賢一、福原徹、藤舎円秀、楠瀬寿賀子 「美術館と、街の関わり方」菅章
「音響ワークショップ」市来邦比古 「実感!今、ここで創る作品─稽古」佐山雅弘、本多愛也、大森智子、能祖将夫 「企画を組み立てる(1) 〜設備・備品の活用と進行」 楠瀬寿賀子 「美術館人と、街の関わり方」菅章、川浪千鶴
「中島みゆき『夜会』のプロデューサーに聞く」 竹中良一 「実感!今、ここで創る作品─リハーサル」 「企画を組み立てる(2) 〜ちらし制作のノウハウを知る」 高橋良味 「民間人・NPOからみた『美術館、街』あるいは学芸員の使い方」ふじわらやすえ
「制作の仕事」大石時雄 「超実感!今、ここで創る作品─発表」 「企画をステージに乗せてみる〜リハーサル」 中川賢一、福原徹、藤舎円秀 「アーティストからみた『美術館、街』」きむら としろう じんじん
番外ゼミ 番外ゼミ 番外ゼミ 番外ゼミ
2

21

(金)
「共同企画でプロデュース」大石時雄 「この4日間の実感から(1) 」能祖将夫、本多愛也、大森智子ほか 「11時開演!〜コンサート本番」中川賢一、福原徹、藤舎円秀 「みんなでお話」柳沢秀行
「企画発表と講評」大石時雄、桑谷哲男 「この4日間の実感から(2) 」能祖将夫 「本番を終えて」中川賢一、福原徹、藤舎円秀、楠瀬寿賀子 「伝えたいこと〜しょうぎ作曲を紐解く」野村誠
閉講式

コーディネーター
ステージラボ
【ホール入門コース】
桑谷哲男(可児市文化創造センター館長)
【自主事業入門コース】
能祖将夫((仮称)北九州芸術劇場プロデューサー、美野里町四季文化館芸術監督)
【自主事業企画・制作コース】
楠瀬寿賀子(津田ホールプロデューサー、びわ湖ホール音楽プロデューサー)
アートミュージアムラボ
柳沢秀行(大原美術館プログラムコーディネーター・学芸員)

ステージラボ・アートミュージアムラボに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部
齋藤・小澤・鈴木・福井
Tel. 03-5573-4067


制作基礎知識シリーズVol.17 ホール職員のための文化政策の基礎知識(2)

●文化政策の構造


 ―自治体の個性を生かした「理念」「政策」「計画」「事務事業」を体系的に組み立て―
 講師 中川幾郎(帝塚山大学法政策学部教授)


●「政策」は企画・管理部門の独占領域ではない
 現場は「政策」の下請け部門であり、「施策」「事業」だけの実施部門であるような観念が一部にあります。つまり「政策」立案は、総務、企画、部局別の管理部門の担当であり、現場は黙って従っておればよい、という縦割り序列的な考えです。これは誤りであり、実はどのように細やかな施策・事業領域にも「政策」が反映されているのですから、現場こそより視野の広い「政策」的思考をもたなくてはならないのです。要するに、事業現場と政策理念、政策目標とが密接に繋がっていなければなりません。言い換えますと、事業現場からも「政策」企画、提案があって、初めて予算段階(施策確定プロセス)での政策討議が予算担当者との間で成り立つはずです。
 下の表を見てください。理念なくして政策なく、政策なくして計画なく、計画なくして実施なし、というのが本来の姿なのです。経営の世界では、理念を「使命(Mission)」と考え、政策に相当する次元をさらに詳しく、「目標(Objective)」と「戦略(Sarategy)」に分けます。また計画・施策に相当する次元を、「戦術(Tactics)」と考えます。そして、実施(事務事業)の次元を「遂行(Execution)」と「管理(Control)」に分けます。
 この6段階論では、文化ホールの使命確認、目標設定、目標実現のための戦略構築、戦術的資源配置・計画作成、実行技術鍛錬、遂行のための進行管理が必要である、ということになります。ところが自治法改正前の機関委任事務型業務の場合は、理念(使命)を形づくったり掘り下げたりする必要もなく、また政策目標も先験的に固定化されていました。自治体職員は、法律・政令・規則・通達、マニュアルに依存して予算を作成し、かつ事務事業をする習性が身に付いてしまったのです。
 いわば、使命感もなく、政策(戦略)的発想も持たず、個別分野における計画・施策(戦術)のたこつぼに押し込められ、実施段階での作業に習熟することが要求されたわけです。しかしながら、文化ホールの運営・事業企画は、そのような機関委任事務型思考とはもともと無縁な独自領域のはずではなかったでしょうか。にも関わらず、やはり機関委任事務型思考法に追い込まれてしまうのは、基本的な理念・使命の構築(再構築)がなされず、目標設定の努力もなされていないからではないか、と考えるべきでしょう。

表 政策の構造
区分 評価のレベル 評価対象 説明
理念(使命) 政治評価
中・長期評価
価値観、
方向性
どのような価値観に基づき、どのような方向へ(理念と方針)
政策
(戦略、目標)
政策評価
(有効性、効果性

Effectiveness)
中・長期評価
設定された目標に
基づく
社会的変化の
達成度
何を目標として、どのような施策(戦術)の組み合わせで(課題と基本方策)
計画
施策
(戦術)
執行評価
(効率性 Efficiency)
短期評価
一定コストにおける
財、
サービスの産
出量・質の上昇
最適資源を組み合わせて、どれくらい多く、良いものを (基本方策を受けた分野別、対象別等の個別方策)
事務事業
(実施遂行)

(進行管理)
執行評価
(経済性 Economy)
短期評価
産出財、サービスを
一定とした投入

コスト(時間、費用、
労力)の軽減
どれくらい少ないコストで(個別方策の実行技術)

●それぞれの主体的な文化ホール「政策」を確立しよう
 文化ホール、と一くくりにしますと全国共通の存在理念があるかのように見えます。たしかに、ホール建設や事業に関わる国や都道府県の補助金要綱等にも、それらしき記述があります。またホール竣工時のパンフレットなどにも、時の首長挨拶が掲載されており、抽象的ではあれ、それなりの建設・運営理念が掲げられています。しかしそれらは本当に「政策」に反映されるべき価値概念を明確にし、方向性を示しているのでしょうか。
 自治体の文化振興ビジョンなども理念を掲げています。ところがその多くは、余りにも抽象度が高すぎて空疎に響く印象があります。さらに、理念と施策レベルとの間を繋ぐ「政策目標」が設定されておらず明確ではない、というのが大半です。自治体文化政策の展開現場である文化ホールの理念は、当然にその自治体の個性、地域特性、アイデンティティを踏まえていなければなりません。さらに、ホール規模の大小や立地特性によっても存立理念は変わるはずです。市民の文化的権利実現を第一理念に掲げ、併せて地域コミュニティの活性化を意図しようとする小型ホールと、都市政策の戦略拠点として都市アイデンティティ情報発信、訪問人口獲得、産業としての芸術をインキュベートしようとする大規模ホールなどとでは当然に理念の据え方も変わるはずです。
 この基本理念確立は、さまざまな価値の内、どのような価値実現を追求し最優先するか、という自己確認と外部への宣言でもあります。あれもこれもでは、やはり政策(戦略)目標が分散して力も分散するので効果(有益な社会的変化)を発揮できません。「小出郷文化会館」の建設をめぐる住民参加の基本コンセプトづくりは、まさしく地域に根ざした有効性がある理念形成と、目標が明確な政策形成プロセスの優れた実例です(※1)。
 コンセプトという用語は本来「概念」という意味であり、戦略までを意味しませんでした。ところが戦略は理念なくしてありえない、という前提から「戦略」までを意味するようになりました。自治体文化ホールは、地方への平均的な芸術・文化事業配給の下請け機関ではありません。主体的(自己決定)、個性的(地域課題に対応)とならざるを得ない自治体文化政策実現の大きな拠点なのです。そのためにも、それぞれの文化ホールが自ら存在理念と政策「目標」つまりコンセプトを問い直し、そこから施策、事業を組み立てていく必要があります。
※1 小林真理、小出郷の記録編集委員会/編著『小出郷文化会館物語−地方だからこそ文化のまちづくり』(2002年/水曜社)参照。

●評価ではアウトプット(産出量)とアウトカム(成果)とを混同しない
 経済学の世界では、「投入費用(コスト)」を「インプット」と言います。これに対して産出される「財・サービス」を「アウトプット」と言います。投入費用を軽減させることを「コストダウン(経済性追求)」と言い、一定コストで産出されるアウトプットを増やすことを「効率性追求」と言います。事業計画(予算)の段階では最適資源の配置を行って効率性を事前に追求し、事業実施段階で所与の資源を節約するコストダウンを追求します。これらのことは、事業担当者としては常識の世界でしょう。
 ところが本当の課題は、アウトプットがどのような「アウトカム(成果)」をもたらしたか、なのです。市民会館収益事業としてクラシックコンサートを行ったところ、90%の入場者数が達成できたとしましょう。まずまずのアウトプットです。ホール事業が財団等の独立採算事業である場合は、財団としての活動資源獲得のための収益事業を行うことももちろん大切です。収益事業の場合、アウトプット(入場者数)がアウトカム(収益)の上昇と単純に連動します。これ以外にも、アウトプットの増加が、比例的にアウトカムに繋がるケースは沢山あります(※2)。
 しかし、公共ホールの使命はただ収益を上げるためだけにある訳ではありません。社会開発型事業や地域アイデンティティ形成型の、必ずしも収益につながらない事業も開拓していかなくてはなりません。ここでは、成果目標及びそれと連動する「指標(ベンチマーク)」を探し、また因数分解するように細やかにしていく必要があります。ホールの自主事業などでは、本来それがどのように有益な社会的変化を期待して行われたのか、その結果はどうであったかが問われます。初期効果の低い啓発的事業であっても、効果を示す目標値が何らかの形で示され、中長期的な評価がなされるべきです。市民の一般的教養向上のためとか、やること自体に意味があると居直っていたのでは決してその答えになりません。
 また、表面的な「顕在需要(ディマンド)」だけに対応するのではなく、「潜在的な需要(ニーズ)」にも対応していかなくてはなりません。いわば、能動的なマーケッティングの努力が必要なのです。顕在的・潜在的需要の把握と、これに対応したサービス(商品)開発をしなくてはなりません。しかし、顕在的需要や観客動員数ばかりを意識していると、少数者のニーズや多数市民の潜在化した期待を見落とす危険もあることを注意すべきです。このディマンドとニーズの違いは、社会教育の世界で言う「要求課題」と「必要課題」への対応の違いと言ってもよいでしょう。
※2 一人暮らしのお年寄りへの声かけボランティアが増えると、独居老人の孤独死が減る、というような場合はアウトプットとアウトカムの比例関係がある、と見るようなケースである。


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