地域創造

WWW を検索 jafra.or.jp を検索 powered by google  

書庫

戻る

地域創造レター

News Letter to Arts Crew

4月号-No.096
2003.04.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成15年度支援事業内定のお知らせ

●第3回地域伝統芸能まつり

●制作基礎知識シリーズ




地域の芸術文化環境づくり支援事業

●平成15年度支援事業、160事業が内定


 このたび「平成15年度地域の芸術文化環境づくり支援事業」による助成事業を内定し、関係団体へ通知しました。この事業は、地方公共団体等における自主事業のプロデュース能力の向上、公立文化施設の利活用の活性化等を図るため、地方公共団体等が自主的に実施する、創造的で文化的な芸術活動のための環境づくりを財政的に支援するために、財団設立時から継続している事業です。
 毎年、助成要綱を改正しており、平成15年度においては、実績報告書の提出期限など幾つかの改正を行いましたが、各プログラムの内容自体に大きな変更はありませんでした。なお、宝くじの普及広報に係る表示の方法は従前と同様となっております。
 昨年8月に助成要綱を各地方公共団体宛に送付し、10月末に申請を締め切ったところ、全国から221事業(延べ257団体) 、総額9億7,428万円の助成申請がありました。その後、書類審査、審議会による選考を進め、3月7日付で160事業(189団体) の助成を内定し、関係団体に通知したものです。

●申請および内定の概要
 平成14年度と15年度を比較すると、申請事業数で17、団体数で13、申請総額で約9,282万円の増となっています。1団体当たりの平均助成申請額を見ると平成14年度で361万円、15年度で379万円であり、ここ数年続いていた事業の小額化傾向から若干、増額に転じた結果となりました。昨年よりも事業数、団体数、申請額が増加した理由はいろいろ考えられますが、一層厳しさを増す地方公共団体の財政状況の中でも、地域における芸術文化行政の充実を進める自治体が増えつつあるのではないかと考えられます。
 プログラム別申請・内定状況を表1に示します。平成15年度は昨年度に比べ、創造プログラムの申請件数が1.4倍と大幅に伸びましたが、他のプログラムの申請件数は昨年並みとなっております。各プログラムとも要綱に沿った事業を採択し、表1の内訳となっています。研修プログラムの申請件数はここ数年1桁という状況であり、地域の人材育成を進める意味からも、一層のPRが必要だと考えます。
 表2の芸術分野別申請・内定状況を見ると、相変わらず音楽、演劇・舞踊分野の占める割合が高く、近年申請件数の伸びている美術・工芸分野がこれに続いています。
 厳しい財政事情の折、皆様のご要望にお応えするため、できるだけ多くの財源確保に努めたため、内定時期が例年より遅れてしまい、各申請団体には大変ご迷惑をおかけいたしました。今後とも、制度の一層の拡充に努力してまいりたいと考えています。

平成15年度 プログラム別申請・内定状況
平成15年度 芸術分野別申請・内定状況
年度 プログラム別申請・内定状況
平成14年度 芸術分野別申請・内定状況

●助成プログラムと審査ポイント
 審査では、(1) 助成対象者として適当である、(2) 公立文化施設で実施される、(3) 入場料を徴収している、ということを前提に、内容の審査を行います。各プログラムの助成事業の内容及び審査のポイントは次のとおりです。
※全プログラム共通
 主な審査のポイントは、事業企画・運営に対する地方公共団体の自主性・主体性が認められるかどうか、事業実施により自主企画事業のプロデュース能力の向上や事業企画・運営のノウハウ取得が期待できるかどうかです。買い取り公演は対象となりません。
(1) 創造プログラム
 地域の芸術環境づくりに関し、段階的・継続的に推進する事業であり、事業運営の手法において顕著な工夫が認められる事業を対象としたものです。特に、長期的な芸術文化環境ビジョンを持ち、具体的な取り組みとして段階的・発展的に芸術文化環境づくりを推進しているかどうかがポイントとなります。
 また、このプログラムでは、最長3年間にわたり、助成を受けることが可能となっています。
(2) 連携プログラム
 3以上の地方公共団体等が連携し、自主的に企画し、共同で制作して行うソフト事業を対象としています。単なる公演を実施するだけでなく、公演に普及事業を付加するなど、事業実施の際、地域住民の参画を得ることが必要となります。
 また、事業連携による経済的あるいは運営面の効率化などがポイントとなっています。
(3) 単独プログラム
 地方公共団体等が自ら事業を企画・制作するものであり、地域の人々が何らかの形で参画する事業を対象としています。地域の独自性とともに、地域住民の事業への関わり方が課題となります。
(4) 研修プログラム
 地方公共団体の職員等に実践的な研修の場を提供するため、地方公共団体等が自ら企画・制作する研修事業を対象としています。単なる座学的なものでなく、実践的な研修であるかどうかがポイントとなります。また、受講者が複数の地方公共団体等にわたることが必須条件となっています。

支援内定事業リスト

●支援事業に関する問い合わせ
地域創造 総務部振興助成課 Tel. 03-5573-4055

●第3回地域伝統芸能まつり


 日本各地の伝統芸能、古典芸能等を2日間にわたって紹介する「第3回地域伝統芸能まつり」が、3月1日、2日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。
 今年で3回目を迎えたこの催しは、失われつつある各地の伝統芸能等を映像により記録・保存することを目的としてスタートした地域創造の「地域伝統芸術等保存事業」の一環として行われているものです。全国の芸能継承者の方々に発表の場を提供すると同時に、イベントやテレビ放映を通じてその魅力や価値を再認識していただき、芸能による地域づくりの向上を目指しています。
 入場は無料で、昨年に引き続き鑑賞希望者が多数応募。約4倍の倍率の抽選を勝ち抜いて入場券を入手した延べ約4000人の観客が、各日4時間にわたった熱演を鑑賞しました。この模様は、4月30日(水) 15:45〜18:44にNHK BS─2で放映される予定です。
 第1回が「怨霊」、第2回が「恋(こひ) 」と毎回テーマを定めて催されてきたこのまつりの今回のテーマは「天地(あめつち) 」。2日目の舞台で挨拶した梅原猛・実行委員会会長により、「日本には豊作の祭りが多い。天の神や、地の神など、日本には八百万(やおよろず) の神がいて、いろいろな祭りで、豊作を祈り、感謝しています」と、“祭り”の本質に迫るテーマの狙いが説明されました。

●夏祭りを再現したかのような迫力
南部俵積み唄(オープニング)  
1日目のオープニングは、「南部俵積み唄」。山本謙司の歌に乗って200俵もの俵が舞台に積み上げられ、祭り装束の人々が日の丸の扇子を手に踊り、祭りの雰囲気を一気に盛り上げます。会場からは早くも手拍子が。さらに五穀豊穣の感謝の意を込めて奉納される佐賀県鹿島市の「面浮立(めんぶりゅう) 」、佐賀県上峰町の「米多浮立(めたふりゅう) 」と、農作にちなんだ踊りが披露されました。
津軽情っ張り大太鼓  司会は、昨年と同じく女優の竹下景子さんとNHKの阿部渉アナウンサー。竹下さんはそれぞれの演目が終わるごとに出演者に声をかけ、練習の苦労話などを巧みに引き出していました。また、紹介の仕方も、ただ単に演目が紹介され演者が登場して演じるというのではなく、途中でインタビューを挟んだり、演じている最中に解説をかぶせたりと、工夫されていました。
 歌舞伎の元祖とも言われる新潟県柏崎市の「綾子舞」を交え、岐阜県・八幡町の「郡上(ぐじょう) おどり」でクライマックスへ。舞台上に民家の街並みが再現され、提灯の下がった真ん中の屋台で囃子が始まると、まるで夏祭りがそこに来たような雰囲気。4日4晩、毎日空が白むまで踊り明かすという郡上おどりのいろいろな踊りを全員同じ振りで踊る様はまさに迫力満点。途中で浴衣に着替えた竹下さんが踊りに加わると、場内からも次々と観客が飛び入りし、舞台上に大きな踊りの輪が広がりました。踊りの後、息を継ぐ間もなく青森県弘前市の高さ3メートル30センチもある「津軽情っ張り(じょっぱり) 大太鼓」が登場。ドンドンと雄壮な音を響かせて場内を震わせ、3本締めで初日を締めくくりました。
太鼓について<太鼓協奏曲>  2日目は、三枝成彰作曲の『太鼓について〈太鼓協奏曲〉』で幕開き。日本の楽器・太鼓と西洋のオーケストラ、さらに野村万之丞の謡曲がステージ上でコラボレーションするという意欲的な作品です。その後、1日目と同じく農作にちなんだ伝統芸能として、宮城県仙台市の「秋保(あきう) の田植踊」、鹿児島県奄美大島・瀬戸内町の「油井の豊年踊り」が披露されました。
四日市の大入道  最後に登場したのが、三重県四日市市の「四日市の大入道」。日本一大きなからくり人形ということで、身の丈4メートル50センチ。首がにょろにょろと伸びて、目の玉がギョロリと動くと、そのユーモラスな表情に場内からは笑い声がもれます。首が伸びた時は高さ9メートルもある大入道は、トリにふさわしい“登場人物”。最後は場内が一体となって手拍子を打ち、2日間延べ8時間の熱演に終止符をうちました。

●“語り”の芸能に光を当てた試み
 祭りにちなんだ派手な演目が並ぶ中、注目を集めたのが、これまであまり知られることなく埋もれていた“語り”の芸能にスポットライトを当てた試み。1日目の北海道・アイヌ民族の「ユカ」と、2日目の長崎県・平戸島・生月町(いきつきちょう) の「オラショ」です。
 「ユカ」では、アイヌ語を母語として育った76歳の萱野茂さんが、子どもの時に父母から口伝えで教わった神話的な物語を語ってくれました。いろり端で節を付けながら語り、全部話すには翌日の朝までかかるという膨大な長編の、ごくサワリだけでしたが、「金の雨が竜神の上にふりかかる」といったイメージ豊かな世界が、萱野さんの声と翻訳の字幕を通して紡ぎ出され、感動を呼びました。「オラショ」は、戦国時代以降今日までのキリシタン信仰の中で唱えられていた祈りの言葉。口伝えで、意味は不明のまま一言一言、暗唱されてきた「オラショ」は、実はラテン語のグレゴリオ聖歌に源を持つものであったという皆川達夫・立教大学名誉教授による研究成果も説明され、その元の聖歌も中世音楽合唱団により披露されました。「ユカ」と「オラショ」は、文献がなく実演できる人も少なくなる一方の口承芸術を紹介した貴重なステージでした。
ロビーに設けられた「地域情報PRコーナー」  古典芸能としては1日目に狂言『神鳴』、2日目に能『野守』が上演されました。また、地域の伝統芸能関係者等の情報や物産を紹介・販売する「地域情報PRコーナー」も設けられ、こちらも大盛況となりました。
 梅原会長によると、来年は再び梅原会長の新作狂言と、瀬戸内寂聴さんによる新作能を上演の予定。3回目を迎え、定着してきた「地域伝統芸能まつり」の今後の展開も、目が離せないものになりそうです。
「第3回地域伝統芸能まつり」概要
[日程]3月1日、2日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会
[実行委員]梅原猛、板谷駿一、遠藤安彦、鎌田東二、三枝成彰、鈴木健二、中沢新一、林真理子、松岡正剛、松本英昭、山折哲雄、山本容子、香山充弘
[共催]財団法人地域創造
[後援]総務省、文化庁、NHK
[司会]竹下景子、阿部渉
出演芸能等
1日:面浮立(佐賀県鹿島市)、米多浮立(佐賀県上峰町)、ユカ(北海道)、継ぎ獅子(愛媛県今治市)、綾子舞(新潟県柏崎市)、古典芸能:狂言『神鳴』、郡上おどり(岐阜県八幡町)、津軽情っ張り大太鼓(青森県弘前市)
2日:古典芸能:新作『太鼓について〈太鼓協奏曲〉』(作曲:三枝成彰/台本:島田雅彦)、秋保の田植踊(仙台市)、オラショ〈かくれキリシタン行事〉(長崎県生月町)、古典芸能:能『野守』(天地之声〈短縮版にて〉)、油井の豊年踊り(鹿児島県瀬戸内町)、四日市の大入道(三重県四日市市)

●平成15年度地域伝統芸術等保存事業(映像記録保存事業) 助成内定事業一覧
青森県尾上町「八幡崎獅子踊り」、岩手県花巻市「幸田神楽」 (「九日神楽」) 、秋田県西木村「上桧木内紙風船上げ」、秋田県大館市「 (1) 大館囃子 (2) からからんず (3) 粕田酒こし舞 (4) 雪沢鹿島太鼓 (5) 池内獅子舞 (6) 大下町獅子舞 (7) 粕田獅子舞 (8) 川口獅子踊 (9) 白沢獅子踊 (10) 花岡本郷獅子舞 (11) 松木獅子踊 (12) 松原獅子踊 (13) 谷地町獅子舞」、福島県川俣町「八坂神社三匹獅子舞」、福島県矢吹町「三城目 獅子舞」、福島県船引町「 (1) 芦沢の八ッ頭獅子舞 (2) 大鏑矢神社夫婦獅子舞」、埼玉県両神村「甲源一刀流の形」、東京都三鷹市「新車」、神奈川県大磯町「西小磯の七夕」、新潟県真野町「豊田音頭」、富山県砺波市「 (1) 江波獅子舞 (2) 頼成 (下村) 獅子舞」、石川県能登島町「能登島の秋祭り」、岐阜県垂井町「 (1) 垂井曳車山祭 (2) 表佐太鼓踊り (3) 伊吹祭」、愛知県豊田市「石野の振り万灯」、三重県熊野市「大森神社どぶろく祭り」、兵庫県関宮町「 (1) 別宮のお綱打ち (2) 安井の大草履つくり (3) 丹戸のお当 (4) 葛畑の庚申待ち (5) 葛畑の農村歌舞伎」、島根県五箇村「隠岐古典相撲」、岡山県新庄村「新庄盆踊り」、広島県豊町「 (1) お舟歌 (2) 伊勢節 (3) 御手洗節 (4) 盆踊り」、広島県海田町「 (1) 火ともしまつり (2) 薬師町獅子舞」、広島県倉橋町「木造船建造技術」、山口県楠町「岩戸神楽舞」、愛媛県長浜町「 (1) 豊茂五ツ鹿踊り (2) 越後獅子 (3) 獅子舞」、高知県香我美町「 (1) 若−王子宮 (1. ) 『獅子舞』 (2. ) 『お烏喰いの儀』 (2) 浅上王子宮『山北棒踊り』 (3) 土佐凧」、長崎県上県町「稲作おどり」、熊本県南関町「 (1) 小原神楽 (2) 宮尾熊野座神社岩戸神楽 (3) 肥後琵琶人形芝居」、熊本県嘉島町「六嘉の獅子舞」、熊本県菊鹿町「 (1) 相良神楽 (2) 大林神楽 (3) 太田神楽 (4) 相良雨乞い踊り (5) 木山羽熊振り (6) 阿佐古かせいどりうち」、宮崎県高千穂町「 (1) ばんば踊り (2) 鬼の目はしらかし」、宮崎県高岡町「川原田城攻め踊り」、宮崎県串間市「 (1) もぐらもち (2) 市木柱松」、宮崎県木城町「 (1) 中之又神楽 (2) 比木盆踊り」、宮崎県高城町「 (1) 有水鉦踊り (2) 石山花相撲 (3) 桜木俵踊り (4) 星原奴踊り (5) 石山香禅寺奴踊り (6) 横原奴踊り (7) 穂満坊三月十日踊り (8) イヨブシ傘踊り」

制作基礎知識シリーズVol.17 ホール職員のための文化政策の基礎知識(3)

●政策の具体化

 講師 中川幾郎(帝塚山大学法政策学部教授)

●政策課題を整理する〜アーツ・マネジメントの考え方から〜
 ここで、文化ホールの役割を考えるに際してアーツ・マネジメントの考え方を参照してみましょう。アーツ・マネジメントの役割は、(1) 芸術を観客(社会) に紹介すること、(2) 芸術家の活動を保障し創造を可能にすること、(3) 社会の持つ潜在能力の向上を支援することの3つと言われています(※1) 。
 自治体政府の組織、施設である文化ホールは、市場の欠陥(公共財、準公共財は供給しがたい) に対応した役割を持ちます。また、大都市圏でしか供給されない芸術を補完的に供給する役割もあり得ますので、(1) に対応した役割を果たす必要もあるでしょう。(2) に関しては、すべての公共ホールがその役割を果たすべきだ、とは筆者は考えません。しかし、地元芸術家支援や地域の伝統芸術・芸能の保存、継承などに関してこの課題が発生する可能性はあります。この場合は「地方公共性」が成立する課題であるかどうか、住民、行政がその妥当性について協議する必要があります。この場合の基本原則は「公開」「公論」(ハンナ・アレント) によることです。密室談義は許されません。
 公共ホールにとって一番の使命は、(3) 社会の持つ文化的な潜在能力の向上を支援することにある、というのが筆者の考えです。であればこそ、前回にディマンド(顕在需要) とニーズ(潜在的社会的必要性) の違いを説明いたしました。つまり公共ホールは、自治体が成り立っている地域社会が抱えている文化的課題(ニーズ) を深く探り、その必要性に応えていくべきであると考えます。子どもたちが芸術や芸能にふれる機会が少なく、さらに仲間づくりもできていない地域なのか、高齢者と子どもたちの文化が分断されていないか、自治意識と文化活動とが分離されていないか、住民がその自治体の文化水準に誇りをもたず、流出入が激しい所などさまざまな課題が地域にはあるはずです。
 これらの課題を見つけるためには、ホール担当者が危機感(使命感) と地域実態理解を持っていなくてはなりません。そのような価値観も観察、調査、理解もなく、「クラシックに観客が来ない」と嘆いているような事態は、(1) の役割に固執した福祉配給型の善意の押しつけでしかないかもしれません。社会の持つ潜在能力とは、文化活動を通した人と人との繋がり(コミュニケーション) を回復し、より優れた芸術・芸能文化の理解層の拡大と再生産が可能となる社会の力のことでもあります。
※1 伊藤裕夫「アーツ・マネジメントを学ぶこととは」(伊藤他共著『アーツ・マネジメント概論』P2-14、2001年/水曜社)

●事業を位置づける
 また公共ホールの役割、使命が「社会の持つ潜在能力」の向上・開発にあるとしても、そこにはさまざまな能力、課題が分布します。自治体内の世代別、地域別、職業別にも異なるでしょう。したがって、多様なサービスプログラムがやはり必要となります。社会的少数の立場に立つ人々のためのプログラムも必要です。
 このように考えると、単なる集客量や収益性だけで公立文化ホール事業を評価してはならない、という結論になります。しかし、文化ホールも赤字ばかりを垂れ流しているわけにはいきません。財団などの場合は、独立採算制であるために赤字を圧縮する要請も厳しいと思われます。ここで、収益確保を各種開発事業への投資のための「資源」確保である、と考えたらどうでしょうか。社会の潜在的能力を向上開発するためには、資金も人手もソフトウエアやノウハウも要ります。さらに、文化ホール自体の親しみや信頼確保、社会的認知、アイデンティティ確立も必要です。沢山の人々に親しまれずして、社会的潜在能力開発など望むべくもありません。その意味での集客事業(人に親しんで貰う) 、収益事業(財源を確保する) という考えがあってもよいはずです。
 下の図は、あくまでも私個人が粗く整理したものです。事業はもっと多様であるはずですが、このような考え方もあると理解していただきたいと思います。この図では、戦略概念としての使命、目的も4つに分布しています。またそのための戦術としての事業はどこに位置するか、ということがわかれば良いと思います。もちろん、幾つかの目的が重なっていてもよいのです。要するに、社会開発、資源(人材、システム・ノウハウ、財源等) 開発という思考が必要であることを強調したいと思います。そして新たな事業を企画するときにも、上記のような事業分布を意識して考えていただきたいものです。

図 文化ホールの戦略的事業分布
文化ホールの戦略的事業分布
中川幾郎『分権時代の自治体文化政策』P135(2001年/勁草書房)

●評価のためのベンチマークを明確化する
 アウトプット(産出財・サービス量) とアウトカム(成果) との違いを認識することの大切さは前回でわかっていただけたと思います。では、何がアウトカム(成果) か、ということが課題となります。話が元に戻るようですが、どのような価値を追求するかによってやはり成果目標や指標(ベンチマーク) は変わるのです。図に位置している事業ごとに、注目するべき指標も微妙に変わるはずです。
 財源確保事業であれば、やはり集客量や収益性ということになるでしょう。人材開発事業であれば、ホールに協力してくれるボランティアの数や参加率、ホールから巣立ったアーティストの数などにも注意しなくてはなりません。イベント等を通じたシステム開発事業であれば、そのノウハウがどれほどホール側や市民等に獲得できたか、が問われるでしょう。地域アイデンティティ開発事業であれば、市民側のアイデンティティ(誇り、特性への愛着) 意識の明確化もその指標です。演劇活動などを通じた地域コミュニティ再生のプログラムなどがあれば、地域コミュニケーションや自治の活性化にどれほど繋がったか、も指標となります。
 都市政策拠点としての位置づけを持つ大型ホールなどであれば、他地域・都市からのホール訪問人口数も重要な指標です。外来訪問人口は、域内経済活性化の大切な要素であり、人口減少期における都市間競争の指標でもあります。また、ホール自体の内部、外部に対する認知度、親和度(好感度) も大切な指標となります。
 「行政」は英語でパブリック・アドミニストレーションと言いますが、民間「企業経営」もビジネス・アドミニストレーションと言います。これは経営理念と経営戦略のレベルを意味する言葉です。この下位に戦術(諸施策、諸事業) や事業実施(遂行、管理) があり、これをマネージメントと呼んでいます。つまり、アドミニストレーションが存在しない所には、マネージメントも存在しないはずです。事業現場では、ややもすると転倒現象が起きますが、「有効性=効果性」すなわち「有益な社会的変化(※2) 」を追求するためにその事業がどうして存在しているのか、という事を絶えず問い直す姿勢が必要です。
 この「社会的変化」を測る指標は1つではなく、その変化に関連する複数の指標があるはずです。しかし中期的、長期的な開発、投資事業は、短期的変化が現れないこともあります。これらを補う意味で、行動調査や意識調査などがその予測指標として使えることがあります。これらの調査に関しても、大金をかけずに正確に行う方法を工夫して考える必要があります。
 いかがでしょうか。短い連載でしたが、それぞれの文化ホールにはそれぞれの自治体特有の使命確認と戦略が必要であり、その戦略を受けた事業の有効性を測定する指標も、まださまざまに工夫していかなくてはならない、という事が理解していただけたでしょうか。
 どうかホール担当の皆様が、地域の自治力・コミュニケーション力を回復・活性化し、地域経済にまで波及力を持つ文化ホールの事業戦略を考えていってくださることを、心から願ってこの稿を閉じます。
※2 新藤宗幸『自治体公共政策論』(1999年/島根自治体学会)など参照。

ページトップへ↑