地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

6月号-No.098
2003.06.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成15年度公共ホール音楽活性化事業「全体研修会」

●制作基礎知識シリーズ


平成15年度公共ホール音楽活性化事業「全体研修会」 2003年5月13日〜15日


●アウトリーチ体験プログラムを追加し、体感度さらにアップ


「全体研修会」ゼミの様子 市町村立の小規模なホールも気軽に参加できることから好評をいただいている「公共ホール音楽活性化事業」(以下、音活)。平成15年度は、全国18館の参加が決定し、5月13日から3日間、東京・北とぴあで「全体研修会」が開催されました。
 これは、参加ホールの担当者、事業をサポートするコーディネーター、および音活に協力する演奏家(登録アーティスト)が一堂に会する“音活版ステージラボ”。詳細スケジュールは、右頁のとおりで、前年度までの参加館による事例紹介や演奏家を交えた企画づくりワークショップなど、実践的なプログラムとなっています。
 2日目には、研修会のハイライトである登録アーティストの公開プレゼンテーションが4時間にわたって行われました。今回は実際にアウトリーチ事業を見学する体験プログラムも実施されるなど、“見て、聴いて、企画する”体感度のアップした研修となりました。
 昨年から新たにスタートした「OB研修会」は、OB館の代表がコーディネーターを務め、カリキュラムを自分たちで作成するなど、OBの主体的な運営が特徴となっています。全国22館から24名が再結集しましたが、音活をきっかけに継続的にアウトリーチ事業を展開している先進館の担当者がずらりと顔を揃え、迫力ある会合となりました。

●平成14・15年度登録アーティスト
田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、唐津健(チェロ)、神代修(トランペット)、竹内直子(ハーモニカ)、浜まゆみ(マリンバ)、大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)

●平成15年度コーディネーター/アドバイザー
児玉真(NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク ディレクター)、箕口一美(NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク ディレクター)、能祖将夫((仮称)北九州芸術劇場準備事務局プロデューサー/美野里町四季文化館芸術監督)、楠瀬寿賀子(津田ホールプロデューサー/びわ湖ホールプロデューサー)、吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員)、丹羽徹(社団法人日本クラシック音楽事業協会事務局員)、深作拓郎(法政大学社会学部非常勤講師(社会教育学))、津村卓(地域創造プロデューサー)、宮地俊江・小澤櫻作(地域創造ディレクター)

●平成15年度公共ホール音楽活性化事業開催地
岩木町文化センター(青森県岩木町)、桐生市市民文化会館(群馬県桐生市)、三芳町文化会館(埼玉県三芳町)、吉川市中央公民館(埼玉県吉川市)、三鷹市芸術文化センター(東京都三鷹市)、コスモアイル羽咋(石川県羽咋市)、和田山町文化会館(兵庫県和田山町)、温泉町 夢ホール(兵庫県温泉町)、生野町民会館(兵庫県生野町)、豊岡市民会館(兵庫県豊岡市)、美里町文化センター(和歌山県美里町)、石央文化ホール(島根県浜田市)、日生町民会館(岡山県日生町)、大野城まどかぴあ(福岡県大野城市)、サザンクス筑後(福岡県筑後市)、武雄市文化会館(佐賀県武雄市)、益城町文化会館(熊本県益城町)、宜野座村文化センター(沖縄県宜野座村)
※会場は予定

●演奏家のトークの力を再発見
アウトリーチ体験研修の様子  アウトリーチ体験プログラムが行われたのは、北とぴあから徒歩5分の王子小学校。3年生と4、5年生を対象に2回に分けて実施されました。演奏家として協力していただいたのは12・13年度登録アーティストとして音活に参加したベテランの大森潤子さん(ヴァイオリン)と長谷部一郎さん(チェロ)です(ピアノは山口博明さん)。
 4、5年のクラスでは、足元を取り囲むように子どもたちを座らせ、ヘンデルやラフマニノフなど全5曲を“弾き語り”。楽器の説明、音の聴き比べはもちろん、アンサンブルの醍醐味を「トンカツ定食」に例えたラヴェルの「ピアノ三重奏曲第2楽章」まで、子どもたちとの真剣勝負が続きました。
「弓は何でできていると思う?」
「ゴム!」
「ゴムみたいに見えるけど違います。何かの動物の毛です」
「クジラッ」「馬のしっぽ」
「正解! 馬のしっぽは触るとどんな感じがするかなあ」
「触ったことないからわかんない」(笑)
 トークによる子どもたちとの心理戦を挟みながら、迫力ある演奏で音楽の力を伝えていく登録アーティストのたくましさと真摯な取り組みに、参加館の担当者からは驚きの声が上がっていました。
 こうした演奏家のトークの力は公開プレゼンテーションでもさく裂。緊張感溢れた昨年と異なり、登録2年目のゆとりで、演奏家自らも楽しんでいるのが伝わるパフォーマンスと話芸で客席を沸かせていました。
 特に今回は、絵本のスライドに合わせて朗読を披露したり、観客のボディパーカッション付きで演奏するなど、企画性溢れたプレゼンテーションが目立ちました。これらは、昨年度の音活を実施する中で、ホール職員とアーティストが一緒につくりあげていったもので、こうした企画が演奏家にとっても財産になっていることが伺えるうれしい内容でした。

●継続をサポートするOB研修会
OB研修会で講師を務めたNHK情報ネットワーク・チーフプロデューサーの加藤和郎氏 音活の課題となっているのが、参加館がどうすれば事業を継続できるかということです。OB研修会は、「音活のようなアウトリーチ事業によりホールをまちづくりの核にしたい」というOB同士の協力により、事業の継続を図るための情報交換と研修の場を提供することと、先輩館が新人館をサポートすることを目的にしています。
 今回の研修会では、OBの提案により、多彩な人脈をもつNHK情報ネットワーク・チーフプロデューサーの加藤和郎氏を講師にお招きしました。放送スタジオを飛び出すことによって多くの人脈をつくってきた自らの経験になぞらえたアウトリーチのお話は興味深いものでした。
 また、先輩館が新人館をサポートしながら、実際に演奏家を交えて地域での実践を前提とした企画づくりを行うなど、OBのリーダーシップが随所に感じられる研修となりました。

●全体研修会スケジュール
日程 時間 内容・講師
5月13日 12:45 オリエンテーション
13:30 ゼミ(1) ホール運営とアウトリーチの役割─「おんかつ」でホールと地域にカツを
 講師:吉本光宏
14:45 ゼミ(2) 13年度の事業より 〜 中山町の事例
 事例報告:徳永貴(鳥取県中山町)
 小川正毅(トウキョウウインズ/12・13年度登録アーティスト)
 コーディネーター:楠瀬寿賀子
16:00 ゼミ(3) 14年度の事業より 河口湖&知名町の事例
 事例報告:野沢藤司(河口湖ステラシアター/円形ホール)
     :窪田政英(おきえらぶ文化ホール「あしびの郷・ちな」)
 コーディネーター:能祖将夫
17:30 ゼミ(4) 音活の事務作業について
18:30 ゼミ(5) アーティスト/マネージャーからのアドバイス
14日 10:30 ゼミ(6)−1 アウトリーチ体験 東京都北区立王子小学校
 出演:大森潤子(ヴァイオリン)、長谷部一郎(チェロ)、山口博明(ピアノ)
12:30 ゼミ(6)−2 アーティストの話を聞く
 コーディネーター:箕口一美、大森潤子、長谷部一郎、山口博明
13:00 ゼミ(7) 地域資源の発掘と活用  進行:児玉真ほか
15:00 プレゼンテーション(北とぴあ つつじホール)
19:00 交流会
15日 9:30 ゼミ(8) グループ別企画検討
 ナビゲーター:児玉真、箕口一美、能祖将夫、楠瀬寿賀子
13:30 ゼミ(9) 企画発表
16:00 閉会式(合同)

●OB研修会スケジュール
日程 時間 内容
5月14日 12:30 オリエンテーション
12:45 ゼミ(1)−1 アウトリーチ=まち中どこでも舞台
 講師:加藤和郎(NHK情報ネットワーク チーフプロデューサー)
13:45 ゼミ(1)−2 アウトリーチの3段活用
 講師:吉本光宏
15:00 プレゼンテーション(合同/北とぴあ つつじホール)
19:00 交流会(合同)
15日 9:30 ゼミ(2) グループディスカッション
 グループナビゲーター:音活登録アーティスト
 (沢崎恵美、白石光隆、大森潤子、長谷部一郎、大森智子)
12:30 ゼミ(3) 企画発表
16:00 閉会式(合同)

制作基礎知識シリーズVol.18 アウトリーチの基礎知識(2)

●アウトリーチ活動の分類


 講師 吉本光宏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)
3タイプからみるアウトリーチの具体例とその対象

 アウトリーチ活動は、「アウト」という字面から、狭義には、文化施設から外に出掛けて行く活動、と受け取られることが多い。しかし、ここでは、アウトリーチの概念を広くとらえて、そのベクトルと対象層を手がかりに類型と活動内容の整理を行った(図)。

図 アウトリーチの類型・具体例、対象層
アウトリーチの類型・具体例、対象層


●呼び込み型アウトリーチ
 アウトリーチ活動の1つ目のタイプとして挙げられるのが、最近、各地の劇場で導入されている「バックステージ・ツアー」のような取り組みである。劇場という施設自体に興味を抱いてもらったり、その機構やしくみを知ることで、より親近感をもってもらおうというものだ。
 とにかく劇場や美術館に足を運んでもらうこと、それがまず第一歩であり、そのために、通常の広報やパブリシティとは異なる形で、市民の関心を喚起するための努力─それも広い意味でアウトリーチの一つと考えたい。こうした不特定多数の市民を対象に、文化施設の側から何らかの働きかけを行い、市民をプログラムや文化施設そのものに引きつける取り組みを、ベクトルが市民から文化施設に向かうことから、「呼び込み型アウトリーチ」と名づけたい。
 こうした取り組みには、各地の美術館ですっかり定着した「ギャラリー・トーク」(注)、演劇・ダンスの公演終了後に演出家や出演者によって解説などが行われる「ポスト・パフォーマンス・トーク」、曲目解説などの付いた「レクチャー・コンサート」などが挙げられる。これらは、単独で成立するものではなく、公演や展覧会との組み合わせにより、初めて観たものにも興味をもってもらう、作品をより深く理解してもらう、作品やアーティストと市民との対話を促すなど、市民をアートに引きつける役割を果たしている。
 このほか、親子を対象にした事業も、子どもを劇場に連れて行こうという動機が、両親を初めて劇場に向かわせるきっかけになることから、呼び込み型アウトリーチのひとつと言える。

●お届け型アウトリーチ
 2つ目のタイプが、「アウト」の字句どおり、文化施設の側から外に出掛けて行く「お届け型アウトリーチ」である。現在、各地の文化施設でアウトリーチと称しているのは、このタイプのものを指すことが多いようだ。
 その特徴は、地域の施設や団体、機関などと連携・協働して行われる点で、対象は、連携先によってある程度絞り込まれる。現在、最も活発なのが、学校や福祉施設などとタイアップして行われるものである。
 例えば、地域創造が1998年度から実施している「公共ホール音楽活性化事業(通称・おんかつ)」。オーディションを経て登録された若手の有能な演奏家が、ホールでコンサートを開催するのに合わせ、さまざまなアウトリーチに取り組むプロジェクトである。これまで実施されたアウトリーチ先で圧倒的に多かったのが小学校へのアーティスト派遣だった。
 学校での音楽や演劇の鑑賞会は、従来から広く行われているが、ここで取り扱うアウトリーチは、それらとは異なる点も多い。まず、作品や演奏の鑑賞が目的ではないこと、体育館に全校児童を集めて行うのではなく、教室や音楽室で少人数を対象に行われること、演奏家と子どもたちとのコミュニケーションがベースとなっていること、そして、本番の公演は別途ホールで行われること、などである。
 初めて目の前で見るヴァイオリン、聴いたこともないような美しい音色、そして日々の訓練に支えられた演奏テクニックに、子どもたちの目はみるみる輝きを増してくる。こうした現場での子どもたちの反応をつぶさにすれば、体育館などで行われる鑑賞教室とは全く質の異なるものであることは一目瞭然だろう。
 アウトリーチ先は学校だけではない。幼稚園や福祉施設、病院、美術館、博物館、図書館、コミュニティー施設、公民館、市庁舎、町役場、議事堂、寺社仏閣などなど、数え上げればきりがない。最初に、アートを届けたい市民の顔を想定するか、場所や空間の特性から考えるか、アイデア次第で無限の可能性がある。
 具体的な内容は、音楽であれば短い演奏とトーク、演劇やダンスであれば身体や声を使ったワークショップなどが一般的だが、そこは担当者やアーティストの知恵と工夫の見せ所で、いくらでも企画は広がっていく。
 このほか、地元のコーラス団体やアマチュアのアーティストを対象にしたクリニックやマスターコースなども、この「お届け型アウトリーチ」に含まれるだろう。文化施設の中で行われたとしても、劇場やホールがプロのアーティストとその専門知識や技術を地元市民に届ける、という点で同様だからである。ただしこの場合、アウトリーチの目的は観客の開拓ではなく、地元アーティストの育成となる。

●バリアフリー型アウトリーチ
 3番目のタイプが、文化施設やアートに対してさまざまなバリアをもつ市民を対象にしたものである。具体的には障害者や高齢者など、芸術にふれたくてもふれられない人、劇場やホールに足を運びたくてもできない人などを対象にしたアウトリーチである。
 福祉施設や病院等への「お届け型アウトリーチ」も、こうした要素をもっているが、ここでは、文化施設の公演や展覧会等の事業そのものに対して、あらゆる市民のアクセスを可能にする取り組みと考えたい。ハードのバリアフリー化も含まれるが、それはごく一部で、ソフト面からバリアフリーを志向する活動が中心となる。
 このタイプのアウトリーチは、国内ではまだ事例が限られている。わかりやすい例として、米国のガスリーシアターのプログラムを紹介しよう。まず、視覚障害者向けのプログラムとして、この劇場ではAudio Described Performanceというイヤホンガイド付の公演が用意されている。これは、目の不自由な観客に、舞台上の動きやセットの様子など、台詞以外の内容をイヤホンでガイドしながら実際の公演を「観てもらう」サービスだ。台詞の邪魔にならないよう、どこでどんな解説を入れるべきか、劇場の専門家が念入りに準備し、本番公演でのリハーサルを重ねて視覚障害者の目になる「影の解説」をつくり上げている。
 このほかにもいろいろな取り組みをしているが、ガスリーシアターでは、これらのプログラムを「Access Program & Service」と称している。誰もが劇場やそこでの公演にアクセスできる権利を有しており、劇場はそのための環境やサービスを整える責務がある、という考え方に基づいて、バリアフリー型の公演やさまざまなツールを用意しているのである。
 このタイプには、美術館の手で鑑賞できる彫刻(タッチ・スカルプチャー)や、手話のギャラリーガイドなども含まれるが、これら障害者へのサービス的なものだけではなく、障害そのものの克服に寄与しようというアウトリーチもある。例えば、発育障害をもつ子どもたちを美術館に招き入れて、機能回復をサポートするようなプログラムを用意したり(メトロポリタン美術館)、女子刑務所に出向いて受刑者と共にダンスワークショップを重ねながら舞台公演に取り組み、受刑者の社会復帰に向けた自信回復を促すプログラム(パット・グラニー・カンパニー)などである。

注)わかりにくいとされる現代美術の鑑賞に専門家の解説をつけることで、市民とアートの垣根を低くしたり、作品や作家についてより深い理解を促すという点では、これもアウトリーチ的な要素をもったものであろう。


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