地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

8月号-No.100
2003.10.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●ステージラボ・アートミュージアムラボ横浜セッション報告

●制作基礎知識シリーズ



ステージラボ・アートミュージアムラボ横浜セッション報告

2003年7月1日〜4日
●横浜のまちを舞台にした多彩なプログラム

 今回の会場は、明治・大正時代の倉庫をリニューアルした施設として話題となっている「赤レンガ倉庫1号館」です。コンベンション施設やオフィス・ビル、ホテルなどが建ち並ぶ「みなとみらい21中央地区」東の港湾部を新たに「新港地区」として整備。そのシンボル施設として、昨年4月にオープンしました。
 2棟あるレンガ倉庫は、ショッピング・飲食施設とアートスペースとして生まれ変わり、周囲を取り巻く石畳のレンガパークの向こうには、これまた新建築として全国的に注目されている「大さん橋国際客船ターミナル」を臨む絶好の“視察”スポット。研修希望者も殺到したため、いつもより多い計88名が参加しました。
 また、地域における美術館の役割を考える研修として、前回のセッションで実験的に行ったアートミュージアムラボを本格スタート。その第1回として、世田谷美術館の高橋直裕氏をコーディネーターに迎え、「地域の資源を活かす」をテーマに、連日、まち中を歩き回るタフな研修が行われました。
コースコーディネーター
ステージラボ
 【ホール入門コース】
 間瀬勝一((財)横浜市芸術文化振興財団エグゼクティブディレクター/テアトルフォンテ・リリス館長)
 【自主事業入門コース】
 津村卓(地域創造プロデューサー)
 【自主事業企画・制作コース】
 仁田雅士(東急文化村取締役文化事業部長)
アートミュージアムラボ
 高橋直裕(世田谷美術館 学芸員)
 大月ヒロ子((有)イデア代表)

●地元の豊富な人脈を総動員
 ホール入門コースのコーディネーターを務めたのは、横浜市芸術文化振興財団エグゼクティブディレクターでテアトルフォンテ・リリス館長の間瀬勝一氏。地元の人脈をフル活用したプログラムは、横浜アートLIVEで演劇ワークショップを依頼している花輪充氏によるコミュニケーションゲームからスタート。音楽を聴きながら、「季節」「風景」「そこでの出来事」をイメージするワークショップでは物語づくりの一端も体験しました。
 「こうした音楽の力を借りたワークショップは大学の授業にも取り入れて、学生に物語をつくらせています。文集にして他の大学の学生に読ませ、好きな作品をリーディングしているところをビデオ収録して執筆した学生に見せる。こうすると表現したいという気持ちが自然と育っていく」(花輪氏)
 ホール入門コースの中で特に印象深かったのが、日本に10人しかいない本物のホテル・コンシェルジュから「サービスとは何か」について学んだ講座でした。制服姿で登場したパンパシフィックホテル横浜の椙江里恵さんは、鍵を2本クロスした襟章(コンシェルジュの国際組織「レ・プレドール」の正式メンバーである印)を指さしながら、コンシェルジュの成り立ちや「道徳、倫理、法に触れない限りお客さまのリクエストにノーと言ってはいけないよろず承り役」としての仕事を説明。社会人として、ホール職員として、サービスの本質を常に考えているコンシェルジュ・マインドから学ぶことがとても多く、驚かされました。

●椙江里恵さんのお話(要旨)
 「レストランのリストはできても、お客様の層や目的によってお勧めできる店は全く違う。リクエストの内容も、そんなことは調べたことがないということに毎日出合うなど、コンシェルジュの仕事はマニュアル化できない。そういうコンシェルジュにとって最も重要な財産が、困った時に相談にのってくれるレ・プレドールの仲間やサポート企業の方々などの横の繋がり。社会人として仕事をしていく上でこうしたコンシェルジュ・マインドがあると、多角的な視野から柔軟な発想で仕事ができるようになると思う。
 コンシェルジュ・マインドで重要なことは、(1)顧客意識、(2)マーケティング、(3)セールスの3つ。コンシェルジュの仕事は目に見える利益が発生する仕事ではないが、ホテルをセールスしていることに変わりはない。ホテルには10%のサービス料が設定されており、それに相当する目に見えない利益を生む、サービス料分の価値を担うのが私たちの役割だと考えている」

●充実の創作ワークショップ
 自主事業入門コースの目玉が、創作ワークショップです。まず、ステージラボですっかりお馴染の朗読家兼プロデューサー、能祖将夫氏によるクラシック音楽と絵本と詩を使ったワークショップが行われました。
 「子どもの頃に絵本を読んでもらって以来、落語好きは別として、人間の肉声を通じて物語やイメージを受け取る機会がなくなり、バッタリ経験が途絶えてしまう。ワークショップで人間の肉声を通じて場全体がイメージを共有することはとても豊かなことだというのを思い出してもらえたら」と能祖氏。
 ピアニストの白石光隆さんとソプラノ歌手の大森智子さんの協力で、演奏を交えた詩の朗読を鑑賞した後、「青い鳥」の物語に受講生の “自分史”を織り込んだオリジナルの“音読劇”(音楽+朗読)づくりにチャレンジしました。
 「自分が幸せだと思う時は? 身近な死の思い出は?」という質問で掘り起こした自分史を、「青い鳥」を探す旅の途中でチルチルとミチルが訪れる「幸せの国」や「思い出の国」のエピソードとして織り込むという趣向で、あっという間に「自主事業入門コース2003版・青い鳥」が完成。自分史の中にあるオリジナリティを発見するワークショップとなりました。
 また、南河内万歳一座の主宰、内藤裕敬氏による戯曲ワークショップも、芝居の醍醐味を味わわせてくれる楽しいものになりました。
 「ものを見る目、判断する能力をもっていないと、才能のある人をダメにしてしまうかもしれない。例えば、戯曲を読む場合、この戯曲はつまらない、と思ったら逆に気をつけた方がいい。自分がつまらなくしか読めないのかもしれないと疑って、面白く読む作業をしないとダメ」と、戯曲に臨む心構えからスタート。その後、書き方のコツを伝授された受講生は、「部屋に帰ってみると、脅迫状が届いていた」という設定で30分間の作文タイムに突入しました。

●戯曲を書くコツ
一、戯曲は会話で成り立っている言葉遊び。文字は書く段階では記号のままとし、言葉として発して初めて意味がでてくるように、文字の段階で意味を説明してはいけない
二、落ちを考えるとそこにまっしぐらに向かって広がりがなくなるので、先に落ちを考えてはいけない
三、自分の思いつきは大切にしたほうがいいが、たいがいのことは誰かが先に思いついている。自分さえ思いつかないことなら誰も思いついていない可能性があるので、自分でも思いついていないことに向かって書け
四、身近なことから発想すれば自分のオリジナルになる

「演奏に併せてボディーパーカッション」 娘が見つけた封筒だけの脅迫状を本気にしない母の話、友達のいたずらだと思った関西人の話など、短い時間にもかかわらずいろいろな作品が完成。「母娘の話には、娘を心配しない母というルールができている。ここを展開していくと母を心配させたい娘の狂言という話に発展する」といった解説が付く度に、どの会話劇にも創作のシーズがあることがわかってくる。その演出家マジックに受講生たちはすっかり魅入られていました。

●徹底的にまち歩き
アートミュージアムラボ 「これまでの美術館の固定概念をかなぐり捨てて、新しい美術館の姿を追求してほしい」という高橋氏の檄を受けて、アートミュージアムラボの受講生たちは連日まちに飛び出し、最終日に発表する、横浜をモデルにした「地域の資源を活かした企画」づくりのための取材活動を行いました。旧居留地、遊廓もあった歓楽街、中華街、新しく開発されたみなとみらい21地区、高級住宅街の山手など多彩な顔をもつ横浜は、素材としてとても魅力的だったのではないでしょうか。
 最終日の発表では、こうした異なるまちの風景の中で出会った子どもたちを撮影する写真展(実際に撮影した子どもたちの写真付きでプレゼン)や、川のまちでもある横浜の橋に注目して調査したチームの発表など、足で稼いだ企画が満載でした。
 まち歩きカリキュラム以外で最も印象に残ったのが、横浜美術館「子どものアトリエ活動」の見学と体験です。同美術館では施設構想段階から子どものアトリエをつくるという方針があり、開館以来、15年にわたって「学校のためのプログラム」への取り組みが行われてきました。今回は、幼稚園児を対象にしたギャラリー・ツアーを見学し、子どもたちのための紙素材を使ったワークショップを実際に体験しました。
 ギャラリー・ツアーでは、指導員の三ツ山一志さんが、「美術館に来たら、僕はこう思う、私はこう思うと、自分で決められることが大事」と、子どもたちに話しかけながら、作品の感想を引き出していました。
 「学校教育における美術の授業は“描き方を教える”から“好きなものを描いてもらう”に変わってきた。じゃあ、つくりたい気持ちは誰が育てるのか? 好きなことをやれと言われても技術的・経験的な裏付けがないとたいしたことはできない。できることが多い人ほど自由度が高くなるなら、できることを増やすための基礎的な訓練はどうやるのか? 技術は繰り返さないと身に付かないが、子どもに繰り返させるためには強制するか、楽しくするしかない。学校のためのプログラムでは、子どもたちに繰り返させるために、“美術館って楽しいなあ”“自分でやるって楽しいなあ”という体験をもって帰ってもらえるような活動をしています。私たちが子どもたちに活動を提供できるのは『一期一会』。一度きりの出会いの中で何が提供できるかをやっているのが私たちの教育普及事業です」
 現場から込み上げてくるような三ツ山さんの言葉に受講生は圧倒されていました。

●商業ホールのプロデュースに学ぶ
 東急文化村文化事業部部長の仁田雅士氏がコーディネーターを務めた自主事業企画・制作コースでは、自らがプロデュースを手がけたオペラ『マダム・バタフライ』の記録映像などを題材に、商業ホールのノウハウが惜しみなく提供されていました。
 「制作段階での僕らの仕事は、換気、温度、湿度の調整をはじめ、いかに歌いやすい、仕事しやすい環境をつくるかということ。プロデュースというのは“企画”、演奏家やスタッフがつくりだす“場”、“観客”という3つの要素のどこかが突出してもうまくいかない。このバランスが崩れないよう、常に心がけている」というプロデュース論は、自主事業を考える時の座右の銘にできる言葉ではないでしょうか。

「パイプオルガンを身近に感じよう!」 このほか、みなとみらいホールのパイプオルガンを開放して行われた共通ゼミ「パイプオルガンを身近に感じよう」は、横浜市芸術文化振興財団の心のこもったラボ受講生へのプレゼントになりました。
 専属のオルガニストを抱えるみなとみらいホールでは、1ドルコンサートや夏休みの子ども向けワークショップなど、パイプオルガンを活用した事業をたくさん企画しています。今回の共通ゼミでは、ステージに座布団を敷いて行っている子ども向けワークショップをベースに、小学生の手づくりパイプオルガンを使って楽器の仕組みを説明した後、希望者が演奏にチャレンジ。調律体験も企画していただくなど、ぜいたくなプログラムとなりました。多大なご協力をいただきました横浜市芸術文化振興財団の皆さまに心よりお礼申し上げます。

●ステージラボ・アートミュージアムラボ横浜セッション スケジュール表

ホール入門コース 自主事業入門コース 自主事業企画・制作コース アートミュージアムラボ


開講式・全体オリエンテーション・地域創造紹介
(財)横浜市芸術文化振興財団事業紹介・施設見学
「コースの進め方」 間瀬勝一
「自己紹介ゲーム」 花輪充
「『自己紹介』心と体を解放する」 津村卓 「コースのスタートにあたって『自己紹介』」 仁田雅士 「ガイダンス・自己紹介」
「今回のアートミュージアムラボの概要説明と参考プログラムの紹介」 高橋直裕
交流会(全体)
番外ゼミ(1)

YOKOHAMA NIGHT TOUR(1) 「入門編」


「ホール職員の接遇マナー講義と実習」 星乃もと子 「自主事業の役割を考える その1 『自主事業の考え方』」 津村卓 「マーケティング『クラシック音楽界の現状』」 善積俊夫 「地域の資源を生かす!」 大月ヒロ子
「自主事業の役割を考える その2 『アーティストと一緒にみんなで考えて作ってみよう』〜クラシック音楽と絵本そして詩を使って〜」 能祖将夫、白石光隆、大森智子 「プロデューサーの仕事(1) 『PMFとMMCKにかかわって』」 廣木斎 「子どもの館内ツアーに同行見学」
「横浜美術館の“子どものアトリエ”活動について」レクチャーと体験 三ツ山一志
共通プログラム(選択ゼミ)
「ネットワークで繋げよう! コンテンポラリー・ダンス事業」伊藤千枝、白井剛、榎本了壱、三浦雅士、志賀野桂一、石川洵
「夢を語ろう! 文化で街作り」鶴岡博、福田豊、柴田浩一
「パイプオルガンを身近に感じよう!」三浦はつみ、河内克彦ほか
番外ゼミ(2) 番外ダメだしNight 番外ゼミ
本音で語る時間
「翌日の街歩きに備えて」“アウトプットの方法について” 大月ヒロ子
YOKOHAMA NIGHT TOUR(2) 「中級編」


「ホテルのサービス コンシェルジュの仕事」 椙江里恵 「自主事業の役割を考える その3 演劇編『演劇の公演と創造』」 津村卓、渡辺弘 「プロデューサーの仕事(2) 『地域における自主事業の考え方』」 山崎篤典 「本日のガイダンス」コース説明・取材の仕方etc. 高橋直裕、大月ヒロ子
「利用者から見る文化施設(1) オペラの舞台監督から」 徳山弘毅 「自主事業の役割を考える その4 音楽編『ホールビジョンに沿ったコンサート作り』」 寺田尚弘 YOKOHAMA街歩き(1)
《基本コース案内》
「利用者から見る文化施設(2) ピアノチューナーから」 宮崎亮次 「自主事業の役割を考える その5 『ワークショップを経験してみる』」
(1)演劇編 戯曲を書いてみる、そして演じてみる 内藤裕敬
(2)音楽編 演奏に併せてボディパーカッション 浜まゆみ、大橋めぐみ
「利用者から見る文化施設 ピアノチューナーから」 宮崎亮次 YOKOHAMA街歩き(2)
《参加者各自で取材》
「施設の特徴を生かした事業企画」 間瀬勝一 「プロデューサーの仕事(3) 『舞台制作の実際』」 大仁田雅彦 ・取材の成果をもとにプラン(プログラム)の方向性を決める
・各自プラン(プログラム)の作成準備
番外ゼミ(3) 番外ゼミ 横浜ワンダーランド「アーティストと夜明けまで」 番外ゼミ 舞台鑑賞『ルミナス』 YOKOHAMA LAST NIGHT!
THE DEEP TOUR「爆走編」


プレゼン準備 「自主事業の役割を考え、企画する その1 『グループで企画、そしてプレゼンテーション』」 津村卓、渡辺弘、寺田尚弘 「プロデューサーの仕事(4) 『オペラ制作の実際』」 仁田雅士 「各自プラン(プログラム)の作成」
「事業企画プレゼンテーション」 長塚義寛、間瀬勝一
「まとめ『成果発表』」
仁田雅士
・各自作成プランの発表
・まとめとふりかえり
「講評とまとめ」
長塚義寛、間瀬勝一
全体会・閉講式

ステージラボに関する問い合わせ
 地域創造芸術環境部
 鈴木・福井・富士原
 ステージラボ:Tel. 03-5573-4076
 アートミュージアムラボ:Tel. 03-5573-4068

制作基礎知識シリーズVol.18 アウトリーチの基礎知識(3)

●ホールにおける具体的展開例


 講師 吉本光宏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)
具体例にみるホール・劇場運営とアウトリーチ

 前回までの2回のシリーズで、アウトリーチの意義や効果、活動の内容やタイプを整理した。それらを踏まえた上で、今回は、実際のホール運営の中でアウトリーチがどのように展開され、どのような効果が生まれているか、二つの具体例を取り上げて紹介したい。ひとつは北海道新冠町のレ・コード館、もうひとつは世田谷パブリックシアターである。
 前者は、ホールのあらゆる事業を地域や市民に開いて、コミュニティの活性化に果敢にチャレンジするホール、後者は現代演劇・舞踊の専門機関として芸術作品の創造活動に積極的に取り組む劇場である。ホール運営におけるアウトリーチのあり方は、施設の立地環境や設置目的、運営方針などによって大きく左右される。つまり、施設ごとに固有の内容を検討すべきだが、ここでは、性格の異なる二つの施設の取り組みとその効果を整理することで、個々のホール運営との関わりでアウトリーチがどのように位置づけられるかの具体例をみていきたい。

●ホール運営がコミュニティと直結した例
 新冠町は日高地方の中央部に位置する人口約6,300人の町。レ・コード館は「レ・コードと音楽によるまちづくり」の拠点施設として1997年に開館。約500席の町民ホールに加え、国内外から寄贈されたレコード67万枚(世界一)を収蔵するレコードバンク、レコードを最高の音質で体験できるレ・コードホール、レコードの歴史に関する本格的ミュージアムなどを有する、ユニークな複合文化施設である。
 この館の特徴は、鑑賞事業や市民参加型事業なども含め、ホールの運営全般に市民が深く関与していることで、そういう意味では事業全体がアウトリーチ的な要素をもったものとなっている。その中でも特に重視しているのが、子どもと高齢者を対象にした活動である。
 例えば、98年度に地域創造の第1回公共ホール音楽活性化事業(以下音活)に参加して以来、毎年音活アーティストを招へい。「小規模コミュニティ音楽事業」として小学校や老人ホームにアーティストを派遣して音楽体験とワークショップを行うほか、器楽やコーラスのクリニック、温泉や役場ロビーでのミニ・コンサートなどを実施している。
 また、昨年の「アートスタート事業」では、ピアニストの仲道郁代を招き、未就学児と母親を対象にした絵とお話とピアノによる「星のどうぶつたち」、そして二人の俳優との対話も交えた「音楽学校2002」を実施。「音楽学校」のゲネプロを知的障害者に公開したほか、「星のどうぶつたち」でも、仲道郁代の子育て談義を盛り込むなどアウトリーチ的視点で工夫。今後の展開として、母親が子どもとのコミュニケーションにアートを使ったり、親子で音楽やダンスなどの芸術表現のワークショップを行うなど、育児に芸術を活用してもらうことも検討している。
老人ホームを訪れたオペラ歌手の中鉢聡さん 高齢者向けのプログラムでは、カラオケ道場と題して、発声法から楽譜の読み方、メイクまで専門家による指導とワークショップを行い、ホールで、照明などの本格的な演出付きの発表会「スター誕生」を実施。その発展形として、音楽療法士の資格を持つ専門家を招き、高齢者向けのゴスペル講座が企画されている。個人単位のカラオケではなく、人と一緒に何かをやる楽しみを体験してもらうことで、お年寄りの引きこもりを解消しようというねらいである(注1)。
 担当の堤秀文さんによれば、こうした取り組みの成果として、学校や先生の意識が変わり、さまざまなことに主体的にチャレンジするようになり、子どもたちも元気になっているという。現場の先生からも「アートの力はすごい」という声が上がっているとか。
 また、健康で元気なお年寄りも確実に増えている。新冠町の0歳から70歳までの国民健康保険の医療給付費の集計値をみると、97年度の3.6億円から徐々に減少し、2001年度には3億円を切る水準にまでなっている。70歳前の高齢者予備軍の医療費が大幅に減少したことが主な要因だそうだが、それにはレ・コード館のプログラムが大きな役割を果たしているはずだ、と堤さんは分析している。

●専門的な舞台公演と両輪をなす例
 一方、世田谷パブリックシアター(以下SePT)は、97年の開館以来、現代演劇、現代舞踊などの主催公演のほか、提携・共催という枠組みを活用して、国内の劇団や舞踊団に作品創造と公演のチャンスを数多く提供してきた。海外招へいや国際共同製作にも積極的に取り組むなど、現在国内で最もアクティブな公共劇場のひとつである。
 こうした活発な劇場運営を下支えしているのは、開館前から地道な取り組みを積み重ねてきた演劇ワークショップなどの活動である。劇場開設のプレイベントとして「世田谷演劇工房」が開催されたのは89年、実に開館の8年前である。こうした取り組みは開館まで続けられ、現在のアウトリーチ事業は、その延長線上に位置している。ちなみに、SePTのワークショップ・リーダーのひとりは、89年の「演劇工房」の参加者である。
 SePTではアウトリーチという用語は使っていないが、学芸課という専任の部署が設けられ、教育普及事業、コミュニティワークショップ、学校との共同プログラム事業、人材育成事業といった枠組みで、幅広いアウトリーチ活動が行われている。それらをあえて前号の3つの分類に分けて整理すると、次のようになるが、公演事業と関連づけて実施されるものも多い(注2)。
呼び込み型:劇場ツアー(本番公演の舞台裏を探検、音響と照明のデモ、ピンスポ体験など)、レクチャー(上演作品のポスト・トーク、関連講座など)、デイ・イン・ザ・シアター(演劇1日体験)、小学生のためのダンス・演劇ワークショップ、中学生と高校生のための演劇ワークショップ
お届け型:学校との共同プログラム事業(区内の小中学校を対象に「世田谷パブリックシアターが学校にやってくる!」と題した事業を実施、欄外参照)、古典芸能鑑賞教室(区内の全6年生を対象に5カ所の区民会館で狂言のワークショップと短い公演を実施、教育委員会事業にSePTが協力)
バリアフリー型:エンツォさんのワークショップ(障害者の演劇ワークショップ&公演)、障害のある人とない人のためのワークショップ
ワークショップ風景 学芸課の川島英樹さんは、「SePTの公演活動が評価され、舞台好きの観客が集まるようになったことで、逆に、舞台に興味のない人にとっては、SePTが敷居の高い存在になってしまった面もある。そのため、演劇や舞踊を知らない人、経験していないから興味がない人を対象にしたプログラムはますます重要になっている」と指摘する。
 アウトリーチ活動によって、SePTに対する一般市民の認知度が高まったことが最大の成果、というのが川島さんの評価だ。また、出向いた学校で、以前に劇場のワークショップに参加した子どもたちに再会し、彼らの楽しそうな姿を見ると、こうした取り組みの積み重ねに手応えを感じるという。

「世田谷パブリックシアターが学校にやってくる!」の事業内容
(1)学校でワークショップ
「世田谷パブリックシアターかなりゴキゲンなワークショップ巡回団」と名付けられたワークショップ・リーダーを小中学校へ派遣、ワークショップを実施。
(2)学校で劇を見てワークショップをする
英国ロイヤル・ナショナル・シアター(RNT)の演出家と日本人の俳優がオリジナルな劇を制作し、学校という子どもたちに身近な空間で公演するとともにワークショップを実施。
(3)劇場で観劇
学年や学校単位での団体鑑賞(今年度はテアトロ・キズメット『美女と野獣』など子どもたちが楽しめる工夫を凝らした3作品)。
(4)学校で狂言
狂言師による表現することを楽しみ、学ぶワークショップ。
(5)教室で活かす
SePTのワークショップ手法を先生が活用するための演劇ワークショップ「教えるヒント」。


 今回取り上げた二つのケースは、あくまでもひとつの参考事例にすぎない。しかし、作品創造を指向する本格的な専門劇場であっても、地域密着で市民主体の事業や運営を手がけるホールでも、アウトリーチが劇場の支持基盤の拡充やコミュニティの活性化に結びついていることをみると、アウトリーチという考え方や取り組みが、今後のホール運営にとって重要なファクターとなることは間違いない。

注1 そのほか子ども向けでは、ジャズバンド講座、アカペラ講座、ふるさと絵本サウンドプロデュース、ヴォイスアンサンブル体験講座、昭和音大生とのリコーダ共演、吹奏楽やバンドのクリニックなどが、高齢者向けでは岩下徹のダンスワークショップなどの事業が行われている。
注2 学芸課の事業としてこのほか、日本に未紹介の海外の戯曲を中心にしたドラマリーディング、プロの俳優・ダンサー向けのワークショップ、劇作家や演出家、舞台技術者などの育成事業などを実施している。



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