地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

10月号-No.102
2003.10.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成16年度新規・拡充事業について
理事長あいさつ16年度以降の主な新規・拡充事業の紹介16年度新規事業実施団体募集案内

●制作基礎知識シリーズ


●平成16年度新規・拡充事業について


 財団法人地域創造は、芸術文化の振興により創造性豊かな地域づくりを実現するため平成6年9月に設立されました。来年度、10周年を迎えるにあたり、この間の環境変化や地域の新たな要望を踏まえ、より積極的に地域の取り組みを支援すべく、皆さまのご協力を得て、事業の拡充・強化を図ることになりました。平成16年度からの新規事業の募集を行うにあたり、財団としての考え方につきまして、遠藤安彦理事長よりごあいさつをさせていただきます。

 
2003年9月25日



●理事長あいさつ
 私が理事長に就任してから6年になります。当初は、「地域創造」という財団名を申し上げる度に、「どのような事業をされるところですか」と尋ねられることがしばしばでした。「地域創造」は韓国語で「チョッチャンジョ」と言うのですが、韓国では「地域をつくってしまうのですか! 凄いですね」と言われたり(笑)。本来でしたら「地域文化振興財団」とでもすればよかったのでしょうが、新しい試みをする財団なのだから、思い切って新しい名前に挑戦しようと……。今にして思えば我々の活動に相応しい、とてもダイナミックな財団名だったと思っています。
 この10年、私たちは財団の事業を通じて、時代に即応した芸術文化により地域住民の方々が人生のよろこびや感動を共有できる創造的な事業を実施している地方公共団体やホールを応援してきました。皆さまの尽力でこうした取り組みが定着するとともに、財団名も普及し、活動についてご理解いただけるようになりましたことを、心より感謝申し上げます。


 私たちは、財団設立にあたり、10年間の資金計画を策定しました。宝くじの資金のご協力により、平成15年度には予定通りの基金の積み立てを終了します。しかし、低金利時代となり基金運用益だけで事業を実施することは困難になりました。この2年、これからの資金計画を含め、10年目以降の財団運営をどうするかについて、いろいろな方のご意見をうかがい、相談してまいりました。
 昨年は、調査研究事業として財団の方向性を検討する研究会を開き、各分野の有識者の方にご意見をいただきました。今年は、都道府県の文化振興担当課長さんにお集まりいただき、全国6ヵ所で「ブロックラボ」を開き、積極的な意見交換をさせていただきました。こうしたご意見をもとにしてとりまとめていったのが平成16年度以降の事業の数々です。
 「地方財政が厳しさを増す中で、どんなに成果を収めている事業でも予算確保が難しい状況になっている。しかし、各地の努力で芽生えた地域活性化の芽を途絶えさせることはできない」──こうした熱い思いを共有してくださった都道府県・政令指定都市および市町村の皆様、宝くじ関係の財政当局の皆様などのご尽力により、新たな資金計画を策定することもできました。改めて、関係者の方々には心より感謝申し上げる次第です。


 新規事業の中で力を入れているもののひとつに「公立文化施設活性化支援事業」があります。何か事業をやるからそれに対して支援をするというのではなく、目標を設定し、それを実現するための計画を策定していただき、計画段階から実施まで4年にわたって助成するというものです。意欲のあるところにチャレンジしてもらうためにはどうしたらいいか、皆で知恵を出しながら考えた事業で、公立文化施設の活性化のための大きな力になるのではと期待しています。
 今回の事業計画の中では、都道府県への支援の拡充を1つの柱として打ち出しました。美術領域では、県立美術館等の共同企画展と県内の市町村美術館とのネットワーク事業への支援、音楽領域では、都道府県のホールや財団が専門性を発揮しながら県内の市町村ホールと連携して実施するクラシックの演奏家の派遣事業(都道府県版公共ホール音楽活性化事業「音活アウトリーチ・フォーラム事業」)への支援、そして都道府県が実施する大規模な芸術文化国際交流事業への支援です。
 特に、国際的な観点からの芸術文化交流は、地域の刺激となるだけでなく、人材交流の側面からも地域活性化に貢献する事業としてぜひとも推進していただきたい取り組みのひとつです。しかし、実績があるにもかかわらず財政難から事業の継続が危ぶまれているものも多く、財団としての支援の必要性を感じました。
 財政規模が異なるため自ずと差があるとはいうものの、これまで都道府県と市町村との役割分担についてはあまり意識されないできたところがあるように思います。都道府県への支援を拡充したのを機に、県域をカバーするソフト主体としての役割について考えるきっかけにしていただければ幸いです。


 既存事業の中で重点的に拡充したのが「公共ホール音楽活性化事業」です。前述した都道府県版への支援だけでなく、実施団体数をこれまでの10数団体から30団体に倍増しました。ホール職員の刺激と経験になるだけでなく、若手アーティストの育成にも繋がる取り組みで、地域からの熱い要望で拡充が実現しました。市町村の数からいえば、まだまだ点のような活動に過ぎませんが、この事業のさらなる成長を見守ってまいりたいと思っています。
 財団設立以来、力を注いできたのが人材育成事業です。お陰様で「ステージラボ」修了生は1000名を超え、未だに応募者が絶えないなど、公立ホールの研修プログラムとしてすっかり定着し、大変うれしく思っています。
 昨年からはラボ修了生を対象とした「マスターコース」をスタート、力のある職員に研究の機会を提供してきました。その成果を踏まえ、机上の空論から実践へとステップアップを図るべく、皆さんが考えていることを1つでも実現していただけるよう「研修企画支援事業」を新設しました。研究仲間とともにネットワークを組みながら夢の企画を実現し、研究の成果を地域に還元していただければと思います。
 また、美術館職員のための研修事業として「アートミュージアム・ラボ」を拡充していきたいと考えています。公立文化施設として美術館が立地している地域に貢献できることはたくさんあります。「アウトリーチ」という言葉がありますが、そういう「地域に打って出る美術館」という考え方が少しでも普及するよう支援していきたいと思っています。「ステージラボ」が芸術文化による地域づくりというホール運営の考え方を広めたように、美術館から新しい感動の波が地域に広がることを願っています。


 財団法人地域創造は、都道府県・政令指定都市や地域財団などから派遣された、地方公共団体の職員が中心となり、外部の専門家と協力しながら運営を行っています。このことは、地域の芸術文化環境づくりを目指す財団として、誇りとするところです。これまでの多大なご協力をいただいた関係団体に対して心から感謝申し上げるとともに、こうした人材が地域に帰って芸術文化の理解者として活躍されることを心から祈っています。
 この6月に地方自治法が一部改正され、時代の要請を受けて公共施設をNPOや民間企業などに運営委託することができるようになりました。地域創造はこうした運営主体とも連携し、公立文化施設の活性化とそれを通じた地域の振興、地域住民の幸せのために、なお一層の努力をしてまいりたいと思っております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
遠藤安彦


※設立10周年を迎える2004年9月には、これまでの成果を見ていただけるような記念イベントも企画する予定です。どうぞお楽しみに。
(インタビュー・坪池栄子)


 
●16年度以降の主な新規・拡充事業の紹介



公立文化施設活性化支援事業★ 
地域における公立文化施設の中・長期的な計画策定に対して支援するとともに、当該活性化計画に掲げる目標を達成するため段階的・継続的に実施する芸術文化事業を支援する。
研修企画支援事業 
公立文化施設等の職員の実践的な企画力向上及びネットワークの強化を目的として、研修交流事業 (ステージラボ・マスターコース)で企画された自主事業について支援する。
芸術文化国際化推進事業★ 
都道府県及び政令指定都市等が自主的・主体的に実施する国際的な芸術文化活動を共催・支援する。
地域芸術文化海外交流支援事業★ 
市町村等が自主的に実施する世界の各地域との国際的な芸術文化海外交流事業を支援する。
地域の芸術文化環境づくり支援事業 
地域の芸術文化環境づくり支援事業の事業規模を拡大する。



公立文化施設活性化・ネットワーク支援事業
公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業★ 
近年の公共ホール等における活動の多様化を踏まえ、都道府県・政令指定都市の参加の下に、公共ホール外への普及教育活動(アウトリーチ活動)手法の普及を行うことにより、公共ホールと住民との新たな関係づくりや地元音楽関係者等のネットワークづくりを行うとともに、従来の「公共ホール音楽活性化事業」で培われたノウハウの波及及び都道府県への蓄積を図る。
公共ホール音楽活性化事業 
公共ホール音楽活性化事業の実施団体を拡大(目標30団体)するとともに、アーティスト研修会の充実、マニュアルの作成等、その内容の充実を図る。
都道府県立美術館等共同巡回展支援事業★ 
都道府県及び政令指定都市の美術館が共同して企画立案し、制作・実施する共同巡回展を支援する。
地域の公立美術館等ネットワーク事業★ 
都道府県及び当該都道府県内の市町村の美術館が共同して企画立案し、制作・実施する共同巡回展を支援する。
市町村立美術館等共同巡回展支援事業★ 
従来実施している「市町村立美術館等活性化事業」に参加経験のある美術館等が共同して立案し、制作・実施する共同巡回展を支援する。
(仮称)リージョナル公共ホールプロデュース公演事業 
地方を拠点として活動する劇団・劇作家等と公共ホールとの連携を強化するため、両者が共同して取り組むプロデュース公演を「リージョナルシアター・シリーズ」の一環として紹介し、充実を図る。
研修・交流事業
アートミュージアムラボ 
地域における公立美術館の役割を一層住民に身近なものとするため、美術館の職員等を対象として実施する体験型の実践的な研修(アートミュージアムラボ)を、ステージラボとは独立・分離して実施するなど、研修内容の一層の充実を図る。
(仮称)アートプロデュースセミナー 
従来の「アート・アプローチセミナー」を見直し、新たに比較的経験年数の浅い都道府県等の文化行政を担当する幹部職員を対象として、ワークショップやレクチャーコンサートなどの体験型プログラムや討論重視のセミナーを実施する。
情報・交流事業
(仮称)公共ホール人材ネットバンク事業 
公立文化施設の職員のキャリアアップ等に資するため、地域創造のホームページに公共ホールの職員募集情報など、人材育成に関する情報を掲載するコーナーを新設する。
※ ★マークのついている事業については、以下に募集記事を掲載しております


 
●16年度新規事業実施団体募集案内(申込締切:10月24日)
平成16年度「公立文化施設活性化支援事業」
平成16年度分は初年度の活性化計画の策定事業のみが対象になります。
【助成対象】公立文化施設活性化支援事業を実施する次に掲げる公立文化施設を管理、運営している者
(1) 地方公共団体 (2) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人のうち、地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定により、なお従前の例によることとされた改正前の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき公の施設の管理を行うもの (3) 改正法による改正後の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき指定管理者として指定を受け、公の施設の管理を行う法人その他の団体 (4) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人((2) を除く。)のうち、地方公共団体が基本金その他これに準ずるものを出資している法人で地域創造が特に認めるもの
【対象事業】公立文化施設活性化計画策定支援事業(以下「活性化計画策定支援事業」という。)/公立文化施設活性化計画推進支援事業(以下「活性化計画推進支援事業」という。)
【助成期間】活性化計画策定支援事業:単年度/活性化計画推進支援事業:上記支援事業の助成決定の翌年度から起算して3ヵ年以内
【助成額】活性化計画策定支援事業:直接経費の3分の2以内とし、100万円が上限/活性化計画推進支援事業:直接経費の2分の1以内とし、1,000万円が上限

平成16年度「芸術文化国際化推進事業」
【助成対象】(1) 都道府県、政令指定都市(以下「都道府県等」という。) (2) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人のうち、地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定により、なお従前の例によることとされた改正前の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき都道府県等の施設の管理を行うもの (3) 改正法による改正後の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき指定管理者として指定を受け、都道府県等の施設の管理を行う法人その他の団体 (4) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人((2) を除く。)のうち、都道府県等が基本金その他これに準ずるものを出資している法人で地域創造が特に認めるもの (5) 上記(1) 、(2) 、(3) 又は(4) が参画する組織で、地域創造が特に認めるもの
【対象事業】○創造的で国際色豊かな芸術文化活動であること ○地域に根ざした芸術文化のための環境づくりを推進するため、一定の事業規模をもって、実施される質の高い事業であること ○実施に当たっては、海外派遣公演を除き、原則として、助成申請する地方公共団体等の区域に所在する公立文化施設を利用すること
【助成期間】3年以内
【助成額】直接経費の2分の1以内とし、1,000万円(総事業経費が5,000万円以上の事業にあっては、1,500万円)が上限

平成16年度「地域芸術文化海外交流支援事業」
【助成対象】(1) 市町村(政令指定都市を除く。) (2) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人のうち、地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定により、なお従前の例によることとされた改正前の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき市町村(政令指定都市を除く。)の施設の管理を行うもの (3) 改正法による改正後の地方自治法第244条の2第3項の規定に基づき指定管理者として指定を受け、市町村(政令指定都市を除く。)の施設の管理を行う法人その他の団体 (4) 地域における芸術文化活動の振興に資することを目的として民法第34条の規定により設立された法人((2) を除く。)のうち、市町村(政令指定都市を除く。)が基本金その他これに準ずるものを出資している法人で地域創造が特に認めるもの (5) 上記(1) 、(2) 、(3) 又は(4) が参画する組織で、地域創造が特に認めるもの
【対象事業】○芸術文化海外交流活動として先導的であり一定の評価が認められるもの ○芸術文化海外交流を段階的・継続的に実施していく上で、事業運営・住民参加の手法において、顕著な工夫が認められるもの ○コマーシャルベースに乗らず、独立採算が困難であるもの
【助成期間】単年度
【助成額】直接経費の3分の2以内とし500万円が上限

平成16年度「公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業」
【対象団体】(1) 都道府県又は政令指定都市 (2) 上記(1) が設置した公の施設を運営する公益法人又は指定管理者 (3) 上記(1) が基本金等を出資している法人で地域創造が特に認めるもの
【支援措置】(1) 研修、公演事業に対する財政支援 (2) アーティスト及びコーディネーター等の派遣

平成16年度「都道府県立美術館等共同巡回展支援事業」
【助成対象】次に掲げる団体において構成される実行委員会
○都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。) ○都道府県等が設置する美術館を運営する公益法人又は指定管理者 ○都道府県等が出資している公益法人で財団法人地域創造が特に認めるもの
【対象事業】実行委員会において自主的に企画立案された、美術品等を巡回展示する事業。
【助成期間】2ヵ年度
【助成額】助成対象事業に係る直接経費から入場料等収入を控除した額の3分の2以内、1年目は5百万円、2年目は5千万円が上限

平成16年度「地域の公立美術館等ネットワーク事業」
【助成対象】次に掲げる団体によって構成される実行委員会
○都道府県及び当該都道府県内の市町村(以下「市町村等」という。) ○市町村等が設置する美術館を運営する公益法人又は指定管理者 ○市町村等が出資している公益法人で財団法人地域創造が特に認めるもの
【対象事業】実行委員会において自主的に企画立案された、美術品等を巡回展示する事業。
【助成期間】単年度
【助成額】助成対象事業に係る直接経費から入場料等収入を控除した額の3分の2以内、1千万円が上限

平成16年度「市町村立美術館等共同巡回展支援事業」
【助成対象】市町村立美術館等活性化事業に参加した経験のある市町村立美術館等を管理する団体によって構成される実行委員会
【対象事業】実行委員会において自主的に企画立案された、美術品等を巡回展示する事業。
【助成期間】2ヵ年度
【助成額】助成対象事業に係る直接経費から入場料等収入を控除した額の3分の2以内、1年目は3百万円、2年目は1千2百万円が上限
公立文化施設活性化支援事業、芸術文化国際化推進事業、地域芸術文化海外交流支援事業に関する問い合わせ
総務部 重松・大平・田巻 Tel. 03-5573-4055
※上記3事業の助成要綱については、各都道府県等の文化振興担当課あてに9月初旬に送付済みです
公立ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業に関する問い合わせ
芸術環境部 小澤 Tel. 03-5573-4074
※この事業の要綱については対象団体あてに後日送付いたします
都道府県立美術館等共同巡回展支援事業、地域の公立美術館等ネットワーク事業、市町村立美術館等共同巡回展支援事業に関する問い合わせ
総務部事業課 園田・重松 Tel. 03-5573-4056
※上記3事業の助成要綱については、各都道府県等の文化振興担当課あてに9月初旬に送付済みです

制作基礎知識シリーズVol.19 美術館の教育普及事業(1)

●美術館教育普及事業の歴史


 講師 大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役)
「ひらかれた美術館」の利用者サービスからスタートした30年の歩み

●美術館の業務としての教育普及事業
美術館教育研究会編・CD-ROM 今、日本では、美術館が行うべき業務のひとつとして、教育普及活動が明確に位置づけられているが、このように確固としたポジションを得るまでには長く、困難な道のりがあった。
 今回は筆者も加わっての調査データ(美術館教育研究会編・CD-ROM「美術館教育1969─1994 日本の公立美術館における教育活動18館の記録」)をもとに、その後の変化も視野に入れながら、日本の美術館における教育普及事業の大まかな流れをたどりたいと思う(注1)。

注1 今回取り上げた館の中でも、トピックの発生した月日が、ある世代に入っていたとしても、厳密に言えば次の世代のミュージアムだというところも存在することをお断りしておく。


●揺籃期
 いささか乱暴ではあるが、教育普及事業は歴史的に大きく4つの時代に分けることができる(注2)。
 まずは教育普及事業揺籃期(第1世代)から。
 1970年代、県立・市立・区立などの美術館が続々と登場し始めたこのころは、それまで展示とそれにちなんだ講演会の組み合わせで終始していた美術館の活動に、新たな事業が加わり始めた時期でもある。そして、各館とも今後増えてくるだろう他の美術館との差別化を意識し始める。
 また、このころ台頭してきたカルチャーセンターが行う文化事業や公民館活動への人々の関心の高さは、「ひらかれた美術館」というキャッチフレーズを公約にして美術館建設を推進していった行政側に、明確なビジョンは持ち合わせないまでも、館の業務の中に地域住民のためのサービスとしての教育普及事業を組み込む必要性を感じさせることになる。
 具体的な事例を見ていこう。公募展の殿堂である東京都美術館では、実技講座デッサン会をはじめとし、野外写生会などを定期的に開催していたが、講師は公募展系のアーティストが担当することが多かった。ここでは日展理事による日展鑑賞会という、元祖ギャラリーツアーも始まっている。
 兵庫県立近代美術館では70年に館外事業としての移動美術展をスタートさせた。いわば、アウトリーチ事業のはしりである。定期的に開催する土曜講座「近代100年の美術」では、学芸員自らがレクチャーを行い、72年の移動美術館「日本の洋画名品展」では展覧会と絵画教室、列品解説という複合的なプログラムもスタートしている。74年には夏期美術映画会も始まる。同年、栃木県立美術館ではダンスというジャンルを美術館に導入。創作バレエの公演をはじめとして、以後積極的な取り組みを持続させた。
 また、北九州市立美術館では、美術ボランティアの活躍が始まる。75年にはレコードコンサートという音楽の分野にもチャレンジし、定期的な催しとして定着した。
 78年には北海道立近代美術館で、日本における教育的な展覧会としては初めての「子どもと親の美術館」がスタートし、79年にオープンした板橋区立美術館では、教育普及専門の担当者が採用され、子ども対象のワークショップのほか、評論家や学芸員の翻訳を介在させる講演会ではなく、現代アートの作家自身が語り・パフォーマンスを見せ、直接来館者とコミュニケーションできる「ART-NOWシリーズ」なども始まる。
 しかし、大部分の美術館では教育普及事業の業務は、学芸員の本来の仕事に多少プラスして行われる程度の比重であったのも事実で、予算もごくわずかなところをやりくりしながら、自主的なチャレンジを始めた時期ともいえよう。

注2 1960年代から70年代にかけての教育普及事業の資料を保存している館は極めて少ないのが現状。今日のように特別な印刷物も存在しないので、担当者が自主的に保存していた手づくりのチラシや、展覧会事業に付随したお知らせなどから、一つ一つ拾っていくしか方法がない。しかし、日本の美術館における教育普及事業の独特な発達の歴史を振り返り、今後を考える上で、これらの瑣末な資料こそ重要である。もし教育普及事業のアーカイヴのようなものが存在するならば、今後、各館の担当者がそこに必ずデータを入れていくこともできるはず。各館に残っている第2・3世代の資料が散逸してしまう前に、ぜひ対策を考えたいところだ。


●成長期
 80年代はいわば教育普及事業成長期(第2世代)ともいえる時期である。70年代から引き続き県制・市制100周年記念事業としての美術館建設も続行されており、組織的には学芸課の中に教育普及担当部門が設けられ始め、担当者は一人という館が多いものの、業務範囲がある程度明確になってくる。
 また、それまではお座なりであった普及目的に使用できる専用のスペースが、建設計画段階から普及担当者を交えて検討されるようになり、館の奥深くの小さなスペースから、魅力的で使い勝手が良いスペースへと移行していき(注3)、今も活発に利用されている。これらの館では20年近くの活動を経て利用者の世代交代が行われ、当時の子どもが成人して、今度はサポーターとして活躍するという心強いシーンも多数生み出されている。
 後期になると、館のスタッフの雇用体制が複雑になり始める。それまでの学芸員は、公務員として採用されていたが、役所の出先機関から財団に運営を移行する館が出てきたことにより、財団職員として採用される学芸員も出てきた。そのため、同じ館の中にいて、同様の業務を行っているにもかかわらず、待遇面で差が出てくるという不自然な状況が生まれ始める。
 いずれにしても、一握りの担当者の孤軍奮闘で教育普及事業を支え続けた時期であった。また、日本独自の、緻密でなおかつバリエーションに富んだワークショップのベースが育まれたのもこの時期である。

注3 宮城県美術館のワークショップや子ども室、目黒区美術館のワークショップ、世田谷美術館の創作室、また、各美術館の住民が使用できるギャラリーの設置など。


●定着期
 次の90年代は教育普及事業定着期(第3世代)といえる。美術館建設において、教育普及担当者と活動スペースの確保は、もはや常識となる。さらに、環境や資源を十二分に生かしながら、独自性の強い(注4)、魅力ある事業を行うことが求められるようになる。組織的・本格的アウトリーチ事業や、学校とのゆるぎない連携、ホームページなどを活用しての普及・広報、多ジャンルとの交流からより広がりのある活動へ、さらには助成金の確保、展示も含めた広い範囲での教育普及の捉えなおしなど、求められるものが急激に増えた時期でもある。
 館によっては数人の教育普及担当ポストが用意される状況も出てきて、組織としてどのように業務を行うかが問われるようになってくる。しかし一方で、スタッフの雇用体制もさらに複雑になり、公務員、財団職員、常勤嘱託、非常勤嘱託等と、人件費の枠はそのままに、増えた業務を何とかこなすべく、根本的な解決がないまま、悪い雇用条件をスタッフに強いる館も多くなる。
Self─自己探検隊がゆく 教育普及活動、ワークショップ、鑑賞教育という言葉が市民権を得てきたのもこのころだ。また、これらについてのシンポジウムが数多く催されるようになる。この時期に至り、全国の教育普及担当者もある程度まとまった人数となったことから、お互いの情報交換や共同研究がスタートする。
 また、事業について館内外に広報・発信するツール(カタログ・ニュースレター・チラシ・ワークシート)などの発行にも力が入り、ある程度の予算が充てられ見ごたえ読みごたえのあるものが増えた時期でもある。

注4 東京都写真美術館の「Self」という自己を見つめるワークショップなどが好例としてあげられる。


●変革期
 そして新世紀を迎えた2000年から教育普及事業変革期(第4世代)に突入した。週休2日制、総合学習と、学校制度が大きく変わり、美術館に求められるものがよりいっそう具体的になってきた。
 さらには国の美術館・博物館の独立行政法人化の流れを受けて、採算も考慮に入れた運営が求められるようになってきている。コレクションを持たない美術館や展示ギャラリーも増えつつある。効率の良いシステムの構築と、経営のセンスが求められる時代を迎えたといえよう。
 しかし、依然として、スタッフの数は限られ、増え続ける業務を外部委託するような流れも出てきている(注5)。

注5 館内部のスタッフを増員するのではなく、ボランティア、学生、NPOなどのサポートに頼りながら、何とかこなしていこうという考えである。


 このように、この30年間で教育普及事業をめぐる状況は激変している。教育普及事業が館の行う業務として位置づけられ、期待が高まるにつれ、環境・体制・予算など、理想と現実のギャップに悩む現場が増えてきている。
 いずれにしても現在は、第1〜4世代の美術館やギャラリーが並存しているのが現状だ。それぞれの役割や悩みも多様化してきているが、そういった状況を踏まえながら、自館ではこういう方向性で教育普及事業を行っていくのだという、明確なビジョンをもつことがますます重要になってきている。溢れる情報と増え続ける要求に翻弄されることなく、ビジョンに則り、多種多様な教育普及事業の中から、館の置かれた状況や人員をにらみつつ、適正なものをチョイスし、コーディネートすることが今一番求められているのではないだろうか。


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