地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

11月号-No.103
2003.11.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成15年度公共ホール音楽活性化事業スタート

●制作基礎知識シリーズ



●公共ホール音楽活性化事業
 羽咋(はくい)の“日本の歌コンサート”で15年度音活スタート

 9月に入り、「公共ホール音楽活性化事業」(通称:音活)が本格的にスタート、今年度も全国18地域で多彩なアクティビティとコンサートが繰り広げられます。今月号では、単独の実施団体としてはトップバッターの石川県羽咋(はくい)市「コスモアイル羽咋」の企画を、9月22日のアクティビティを中心に紹介いたします。

●UFO神話のまち、羽咋
 羽咋市は、UFO神話のまちとして知られています。コスモアイル羽咋も空飛ぶ円盤のようなかたちをしており、館内には900名収容の大ホールのほかに宇宙科学博物館や市立図書館が併設されています。
 「外観から宇宙科学博物館のイメージが強く、ホールは何となく影の薄い存在になっていました。これからはもっとこのホールを活用して、芸術文化を通じ市民と繋がりあえる施設にしていきたいと思って申し込みました」と、音活への応募動機を語るコスモアイル羽咋主事の萬澤(かずさわ)正俊さん。
 出演アーティストは、“日本のうた”を歌うソプラノ歌手薗田真木子さんと伴奏のピアニスト長町順史さんです。幅広い年齢層の人に受け入れられやすいジャンルであること、そして何よりも、今年5月に東京で開催された公開プレゼンテーションにおいて、萬澤さん自身が最も感動したアーティストだったことが選定の理由でした。

●思わず涙のアクティビティ
石川県羽咋市でのアクティビティ&コンサートの様子  初日の9月22日は、羽咋小学校とコスモアイル羽咋の2カ所でアクティビティが開催されました。そのうちコスモアイル羽咋で行われたアクティビティには、市内の知的障害者授産施設「あおぞら」の通所者およびその保護者ら約50名が参加。平素、市立図書館によく訪れる通所者たちが本格的な音楽を鑑賞する機会が少ないことを知った萬澤さんが、「あおぞら」にアクティビティの話を持ちかけたところ、是非参加したいということで実現しました。
 通所者たちは、アーティストと同じ大ホールのステージに上がって客席を眺める形で座り、アーティストは客席に背を向けて演奏するというスタイルで催されました。ステージには、通所者が制作した秋をテーマにした絵や草木染めの作品、作業所のボランティアが摘んできたススキやコスモスが飾られ、照明が暗くなるとまるでお月見に来ているかのような雰囲気に。
 薗田さんが心を込めて『赤とんぼ』『ふるさと』などの懐かしい日本唱歌や、映画『千と千尋の神隠し』の主題歌など十数曲を披露。通所者たちは1曲目からリズムをとったり、手を叩いたり、一緒に歌ったりと体全体で楽しさを表現していました。最後、リクエスト曲『ベストフレンド』を全員で合唱した時には、薗田さんはじめ皆の目にはうっすらと涙が浮かんでいました。

●コンサートも大盛況
9月26日に青森県岩木町で行われたアクティビティ  10月4日のコンサート当日。「お客さんは来てくれるのだろうか?」とのスタッフの心配をよそに、開場前から幅広い年齢層の観客が会場に詰めかけ、大ホール1階600席の大半を埋める盛況ぶり。
 「忘れかけたあの日の思い出を、甦らせてみませんか? 日本のうたコンサート」と題されたこのコンサートでは、『この道』『雨降りお月さん』『ちいさい秋見つけた』などの懐かしい歌が次々に登場。コンサート中盤では、“このホールでいつかは第九を歌いたい”という願いを込めて命名された羽咋混声合唱団「フロイデ」や、邑知小学校4年1組の児童による合唱も披露されました。客席ではアクティビティに参加していた「あおぞら」のみなさんが、薗田さんや長町さんの名前を書いたプラカードを掲げて声援するなど、会場にはクラシックコンサートとは思えない華やかさが満ちていました。
 「反省点もいろいろあって私自身大変勉強になりました。何よりも終演後の観客の皆さんがいい表情をなさっているのを見て、胸がとても熱くなりました。この気持ちを忘れずに、これからも市民の皆さんとともに企画を考えて親しまれるホールにしていきたいです」と、萬澤さんは安堵の表情を浮かべていました。

平成14・15年度登録アーティスト
  田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、唐津健(チェロ)、
 神代修(トランペット)、竹内直子(ハーモニカ)、浜まゆみ(マリンバ)、
 大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)

公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
 地域創造芸術環境部 小澤・宮地 Tel. 03-5573-4074


●音楽とコラボレーション!
  〜市町村立美術館等活性化事業の新しい試み〜


 今回で4回目を迎える市町村立美術館等活性化事業。今年は全国4カ所の美術館が参加し、「版画家としてのシャガール─夢想と追憶のポエジー」展を開催しています。その第1弾として9月14日から10月5日まで、北海道の釧路市立美術館で展覧会が開催されましたが、初めての試みとして、公共ホール音楽活性化事業(音活)の手法を取り入れた企画が行われました。

◎シャガール作品を目と耳で体感!!
 マルク・シャガール(1887〜1985)は、20世紀の巨匠画家のひとりとして知られており、油彩もさることながら多くの版画作品を残しています。今回はその作品の中から、初期の『死せる魂』やリトグラフの最高傑作とされる『ダフニスとクロエ』『サーカス』などの代表的な版画集を中心に、タブロー3作品を含む91作品が展示されました。
 音楽に親しんでいたシャガールは、絵の題材としても演奏家や楽器を数多く取り入れています。そこで今回、こうした音楽との関わりに着目し、美術館スタッフと演奏家がアイデアを出しあい、シャガール作品とクラシック音楽のコラボレーションコンサートを企画しました。
 参加したアーティストは、平成14・15年度音活登録アーティストでヴァイオリニストの礒絵里子さんとピアニストの田村緑さん。事前に、2日間にわたって市内の養護学校、特別養護老人ホーム、児童養護施設でミニコンサートを行い、展覧会の初日に合わせて美術館に併設されている多目的ホールで本番が催されました。
コンサート「ヴァイオリン&ピアノとシャガールの世界」の様子  「ヴァイオリン&ピアノとシャガールの世界」と題したコンサートでは、第1部の演奏とトークに続いて、シャガールをテーマにした第2部がスタート。釧路市立美術館学芸員の角井千代絵さんがシャガールの生涯や作品等についてスライドを使った説明を行った後、スクリーンに映し出されたシャガール作品をバックに、田村さんの詩の朗読や2人の演奏が行われました。会場を埋めた約200人の観客は、大人も子どもも一緒に、シャガールの幻想的で色鮮やかな世界を目と耳で体験していました。
 このほか、美術館独自の関連事業として、高橋直裕さん(世田谷美術館教育普及課長)をコーディネーターに招いた小学生対象のアートオリエンテーリングも行われました。9月26日の十勝沖地震の翌日が開催日だったこともあり、影響が懸念されましたが、予想以上の40名が参加。コミュニケーションゲームの後、いつもは入れない収蔵庫やボイラー室等、美術館の裏側を探検し、大好評でした。
 角井さんは、「今回の事業は、何もかもが初めてづくし。でもどの企画にも手応えがあって、これからのことを考えるための一歩が踏み出せたと思います」と、話していました。

今後の市町村立美術館等活性化事業の日程
萬鉄五郎記念美術館(岩手県東和町)
 [日程]10月11日〜11月3日
 [問い合わせ]Tel. 0198-42-4402・4405
砺波市美術館(富山県砺波市)
 [日程]11月8日〜30日
 [問い合わせ]Tel. 0763-32-1001
中山道広重美術館(岐阜県恵那市)
 [日程]12月4日〜25日
 [問い合わせ]Tel. 0573-20-0522

制作基礎知識シリーズVol.19 美術館の教育普及事業(2)

●多岐にわたる事業プログラム

 講師 大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役)
教育的展示からミュージアムショップまで多様な普及事業のアプローチ

  数年前まで、美術館における教育普及事業というと、短絡的に子どもを対象にしたワークショップをイメージする人が多かった。実際にはさまざまな事業があるにもかかわらず、こうした考えをもつ人が多かったため、教育普及事業を館全体に絡む仕事として大きく捉えることができず、館の活性化の妨げになっていた。
 教育普及は子どもだけを対象としたものではないし、また逆に、子どもを対象とした事業が大人にとって不満足なものだというのも偏った考え方と言える。子どもにとっても、また、専門家ではない大人にとっても理解しやすい展示やプログラムを開発・実施することは、美術ファンを広げるきっかけとして極めて重要な取り組みである。そこに教育普及事業の本質がある。

●教育普及事業のバリエーション
 ここでは、その多岐にわたる教育普及事業にどのようなものがあるのか、ひとつずつ紹介していきたい。

1)教育的展示
従来のオーソドックスな展示方法では、来館者が深い理解を得にくい、あるいは興味をひかれにくいと想定できる場合、参加体験型展示などを用いて、実感を伴った深い理解が得られるよう工夫することがある。また、幅広い年齢層に向けて、また逆に、ターゲットを絞って(子ども・親子・視覚障害者など)、それらの人々が十分に楽しめ、理解できるようにつくる場合もある。これまでに行われたものの中から幾つか拾っていくと、北海道立近代美術館の「A★MUSE★LAND」、世田谷美術館「あそびのこころ展」、板橋区立美術館の「メディア・エポック展」、名古屋市美術館「手で見る美術展 セブンアーチスツ―今日の日本美術展に寄せて」などがある。1977年以降徐々に増えてきた展覧会といえよう。

2)教育的補足展示
教育的配慮から補足的展示コーナーを設ける、あるいは幅広い年齢層が理解しやすいキャプションを付け加えるなどして、従来の展示方法を壊すことなく行われる展示。板橋区立美術館の古美術展示などでは、しばしばこの手法がとられており、平易な文章でつづられたキャプションに対する来館者の評価は高い。

3)実技講座
さまざまな技法や考え方を体験し学ぶ講座。内容は実に多岐にわたり、昨今は美術の分野だけでなく、工芸、デザイン、写真、映像、建築、ダンス、音楽などとその守備範囲も広い。

4)ワークショップ
さまざまな実施形態があるが、参加者とファシリテーターが対等の立場でコミュニケーションを取りながら出来事や場、モノを創造していく試み。なによりも過程を大切に考えるプログラムであるのが特徴的だ。

5)一般出版物(カタログ、マップ、ニュースレター)
展覧会カタログ、館内やその周辺の案内マップ、定期的に発行されるニュースレターなどは、館のメッセージを伝えたり、館や展覧会、作品などについてさらに深く知ってもらうための道具として出版される。

書籍になった目黒区美術館「引き出し博物館」 6)エデュケーショナルキット、アクティビティーパック
展示をより深く理解するためにつくられた、教育用ツールのセット。館内で利用されるだけでなく、館外でも使うことを想定したものもある。代表的なものでは目黒区美術館の「引き出し博物館」がある(写真1)。さらに、エデュケーショナルキットとティーチャーズガイド、アウトリーチを複合的に組み合わせたプログラムとして「セゾン美術館」の「スクールツーリング あそびじゅつ」が挙げられる。また展示室で使用できるファミリー向けのアクティビティーパックでは、国立西洋美術館の「びじゅつーる」がつくられている(注)。今後こういったキットづくりはますます盛んになるだろう。

注 国立西洋美術館の「手と心─モネ、ドニ、ロダン」展に合わせて館では、新たに「ファミリー・プログラム びじゅつーる」を作成。7歳〜9歳の子どもを対象とした、ファミリーで楽しめるこのキットを企画・制作したのは、国立西洋美術館で長期の実習を行っているインターンの学生たちだ。展覧会の会期中、受付で布のバッグを借り受けた家族は、この中に入っているグッズで遊びながら展示を楽しんだ。大きな袋の中には、3人の作家に対応するように3つの小さな袋が入っており、作家の作品の魅力や制作のヒミツに気付いてもらえるような工夫が凝らされている。ドニの点描を小さな毛糸玉でつくったり、ロダンの彫刻のポーズを手足が自由に動く人形に真似させたり…。美術館の展示室では、これまで手を動かしながら、観て考えることは意外に行なわれてこなかったが、マイペースで楽しめるこういったツールは、美術館を訪れる際の楽しみの一つとなりそうだ。

7)ワークシート、ポストカード
展示をより楽しみ、深く理解するために補助的に使用する書き込み式のノートやシート。作品の詳しいデータやポイントなどが記されたポストカードもある。

8)ティーチャーズガイド
展覧会やコレクションを授業で有効利用できるように、学校の教師が使用することを想定してつくられたガイドブック。代表的なものには東京都写真美術館のティーチャーズガイドが挙げられる。

9)ビデオ・スライド
展覧会や作家などに関して、館で制作した映像ツール。

10)講演会、講座、シンポジウム
展覧会に合わせたり、あるいは体系的に美術を学んだり、ある特定のテーマに絞り込んでのレクチャーなどがある。

11)ギャラリートーク
展示室で作品を前にして話し合うというプログラム。広島市現代美術館の「ミュージアムアドベンチャー」は、小学生のための体験型作品鑑賞教室である。収蔵作品展の作品を選んでグループで見て回り、簡単な工作をすることもある。この場合はやや複合的なプログラムと言えよう。

12)オリエンテーション、団体解説
学校その他の人々が、大勢で館に訪れた際に受ける館や展覧会の説明。

13)映像プログラム(ビデオ、スライド、パソコン、ハイビジョンシアターなど)
館が制作した作品や作家についてのビデオなど。展覧会場脇コーナーや講義室で上映される。用途によって形態もさまざま。

東京国立近代美術館のホームページに設けられている「こどものページ」14)ホームページ
展覧会や教育普及プログラムをはじめとしてさまざまな企画の広報のほか、最近は東京国立近代美術館の「こどものページ」などのようにネット上でコミュニケーションを深められるコーナーも登場している(写真2)。

15)アウトリーチ
館の外へ積極的に事業を持ち出す。目黒区美術館のオモチャコレクションを使用して、ボランティアの方々が行う事業などがある。

16)アーティスト・イン・レジデンス、公開制作、デモンストレーション
アーティストが館に滞在しながら、作品制作や交流事業を行うもの。また、版画の刷りを実演して見せるような技法寄りのものもある。間近に見ることによって、作品や作家、技術が自分とかけ離れた遠いものであるという感覚から解き放たれる。

17)コンサート、パフォーマンス
展覧会に合わせた内容のコンサートやパフォーマンス。事業をより立体的に捉えることができる。

18)オリエンテーリング、バックヤードツアー、見学会
展覧会を楽しみにやってくる人々にとって、館の裏側で今、何が起きているのかを知ることができる貴重なプログラム。参加者にとっては、まさに生きているミュージアムを身近に感じることができるチャンスだ。

19)レファレンス
美術や作家、作品に対する疑問を明らかにするため、図書の閲覧、パソコンでのデータベース検索などが行えるようにしてある。一般から研究者レベルまで対応し、研究をバックアップしている。

20)補足的解説装置(音声ガイドなど含む)
展示をキャプションに頼ることなく、音声での案内を聞きながら会場を回れる装置。見ることに集中できるメリットがある。

21)フリーマーケット、お茶会、コンサート、ファッションショーなどのイベント
通常美術館に足を踏み入れなかった人々にもアピールするような催しは、館のファンを増やす意味からも重要である。

22)ミュージアムショップ
単に商品を売るというだけではなく、館独自のフィルターを通したセレクションは1つのメッセージでもある。ショップでは館でオリジナルに開発した商品や、過去のカタログも取り扱うところが多い。最近はネットショッピング対応のショップも増えてきた。モノを通して日常の中で美術を楽しむことができる。


 以上が多岐にわたる教育普及事業の内容である。各館の特徴や資源を生かして、この中から館に最もふさわしく、効果的な事業をピックアップし、うまく組み合わせて実施することが大切だ。どのように組み合わせるかが、館の腕の見せ所、そして魅力づくりとなるわけである。


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