地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

1月号-No.105
2004.01.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●「第4回地域伝統芸能まつり」のご案内
●「芸術見本市2003東京」報告

●制作基礎知識シリーズ


●「第4回地域伝統芸能まつり」

まもなく開催!
各地の個性豊かな地域伝統芸能が一堂に結集


第3回地域伝統芸能まつり(青森県弘前市の「津軽情っ張り大太鼓」) 毎年多くの方々に日本各地で脈々と受け継がれている地域伝統芸能や古典芸能を紹介している「地域伝統芸能まつり」。4回目となる今年度は2月14日、15日の両日、渋谷のNHKホールで開催されます。今回のテーマは「変化(へんげ)」。祭りの中にあって、登場するだけで空間を「非日常的」なものへと劇的に変えてしまう、変化という「常ならぬもの」は不可欠な存在です。そんな変化をテーマに北は岩手県遠野市から南は沖縄県宜野座村までの10地域から、地域伝統芸能と3つの古典芸能をご紹介します。
 「地域伝統芸能まつり」の名物となっている“祭り”としては、関東3大奇祭のひとつといわれる茨城県龍ケ崎市の「撞舞(つくまい)」が登場します。高さ約14メートルの柱の上で、全身暗緑色の「雨がえる」と呼ばれる舞男がアクロバティックな離れ業を披露するところは最大の見せ場です。また2日目に登場する石川県輪島市の「御陣乗太鼓」は、樹の皮の仮面に海藻の頭髪という出で立ちで勇壮な戦太鼓を披露します。
 古典芸能については、2年ぶりに梅原猛氏の新作スーパー狂言『王様と恐竜』が登場します。第1回の『ムツゴロウ』、第2回の『クローン人間ナマシマ』に続くスーパー狂言3部作の完結編として、茂山千作(人間国宝)、茂山千之丞が出演します。また、同じく2年ぶりとなる瀬戸内寂聴尼の『(くちなわ)』は、瀬戸内尼にとって第2回に紹介した『夢浮橋』に続く2作目の新作能です。これは仏教説話集を取材した小説をもとにしたもので、梅若六郎(観世流)が演出、シテ(主役)を務めます。
 また、「地域伝統芸能まつり」としては今回初めて古典落語を取り上げます。古典落語は江戸時代から庶民に親しまれてきた笑いの伝統芸能であり、笑いの中で独自の世界をつくり上げる芸には高度な芸術的表現力を必要とします。出演は、古典を尊重しつつ現代感覚の解釈と歯に衣着せぬ毒舌で独自の人気を保つ立川流家元の立川談志師匠です。
 ほかにも、全国的に有名な新潟県佐渡の「佐渡おけさ」や「鬼太鼓(おんでこ)」、かわいい子どもたちのキツネ踊りが登場する大分県姫島村の「姫島の盆踊り」など、さまざまな地域伝統芸能が登場します。また、ホール北ロビーでは、地域を紹介するブースが出展され、各地域の情報発信や物産品の販売などが行われる予定です。
 なお、ご観覧希望の方は、葉書による申し込みが必要となりますので、必ず1月21日(水)の締切までに下記の方法に従ってご応募ください(ハガキによる申し込みが必要です)。
 当日のプログラム等についてはこちら

観覧申し込み方法 「地域伝統芸能まつり」の観覧は無料です。
【応募要領】官製往復はがきに
(1) 郵便番号
(2) 住所
(3) 氏名
(4) 年齢
(5) 電話番号
(6) 入場日(2月14日、15日のいずれかを記入。両日希望の場合は、それぞれ別にお申し込みください)
(7) 入場希望者数
を明記の上、下記事務局までお送りください。1枚につき2名まで入場できます。未就学児も1名といたします。返信はがきには自分宛の住所、氏名を記入してください。
【応募先】〒160-8555 東京都新宿区舟町7-6-704 地域伝統芸能まつり事務局
【応募締切】2004年1月21日(水)必着 ※応募多数の場合は抽選。発表は本人に直接通知いたします。
【お問い合わせ】ハローダイヤル 03-5777-8600

第4回地域伝統芸能まつり
[日程]2月14日、15日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会、財団法人地域創造
[後援]総務省、文化庁、NHK
※地域伝統芸能まつり公式サイト http://www.jafra.nippon-net.ne.jp/matsuri

地域伝統芸能まつりに関する問い合わせ
地域創造総務部事業課 大平・園田 Tel. 03-5573-4056

●「芸術見本市2003東京」報告

NPOやネットワークをテーマにした
公共ホール職員向け企画が充実


出展ブースの様子。海外からも多数の関係者が訪れた 「芸術見本市2003東京」が12月9日から11日までの3日間にわたり、池袋の東京芸術劇場、ホテルメトロポリタンなどを会場に開催されました。今回の見本市では、文化庁国際文化交流支援事業「インターナショナル・ショーケース」が同時に行われたほか、公共ホールの職員向け企画が充実。現在最もホットな話題であるNPO法人との連携や公共ホールのネットワーク事業をテーマにしたシンポジウムなどが連日開催されました。それぞれの事業担当者がパネラーとして問題提起をするなど、これまでになく刺激的な情報交換の場になったのではないでしょうか。

●地方自治法一部改正で新局面へ
シンポジウム「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」の様子 公共ホール職員向け企画の中でも最も盛り上がったのが、地域創造と全国公立文化施設協会主催によるシンポジウム「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」(12月9日)です。今年の6月に地方自治法の一部改正が行われたのに伴い、公の施設の管理運営を議会の承認を得た「指定管理者」に代行させることができるようになりました。こうした指定管理者の有力候補でもあるNPO法人がテーマとなっただけに、参加者の関心は高く、満席の会場は熱気に包まれていました。
 パネリストは、福井市から福井市文化会館の事業運営を委託されているNPO法人福井・芸術文化フォーラムの岸田美枝子さん、大阪市の取り組みとして注目されている「新世界アーツパーク事業」(アミューズメント施設「フェスティバルゲート」の空きスペースをアートNPOの拠点として活用)を推進している乾正一さん(大阪都市協会文化事業部)、そして、民間的な発想による財団改革を訴えている熊本県立劇場事務局長の橋本博幸さんです。
 岸田さんは、「NPO法人と行政が連携する場合、両者が一緒に同じ目標に向かって歩いていけるかがポイントになる。これからもお互いに学びあいながら取り組んでいきたい」と市民の側からコメント。また、乾さんは、「NPOありきで始めたのではない。大阪市の文化行政のあり方を検討する中で、今どうなっているのかを調べたら、まとめるべき活動が市内に点在していることがわかった。これをまとめられれば次のステップが踏めるのではないか、そういうセンターが低コストでできないかを考えるところから始まった」と言い、現状把握から出発することの重要性を指摘。NPOありきになりがちな傾向に対して警鐘を鳴らされていました。
 また、熊本県立劇場の橋本さんは、「劇場は県と財団の“あうんの呼吸”で運営されてきたが、財団の中にお上意識が強く、顧客満足度もバリュー・フォー・マネーも向上していない」との反省から、「財団は行動原理を少しでも民間に近づけること。また、行政は財団の自立への努力を支援すること」が肝心と指摘。「これからの行政は、公共サービスの独占的供給者であることを止め、最も効率的にサービスを供給できるところが提供できるよう条件整備をする役割に変わっていくべきだ」と根本的な問題を提起されていました。
 ミッションをもち、命令ではなく目的によって統制され、収益を上げて経営していくというもうひとつの公共=NPOの社会的役割の重要性を改めて確認させられた2時間となりました。

●拠点劇場をネットワークして共同製作
 今、公共ホールでは、全国発信を目指して自主企画プロデュースを行っている劇場の連携が始まっています。演劇とダンスの共同製作について、関係ホールの代表者が揃って具体的なプレゼンテーションを行いました。
 10日のランチミーティングでは、北九州芸術劇場、世田谷パブリックシアター、新潟市民芸術文化会館、まつもと市民芸術館(2004年オープン)の4館がこれから行う共同製作について説明。
 「それぞれが考えている企画に参加し、北九州でつくったら後の3館でも公演するようなネットワークが組めれば、年4本は共同製作のオリジナル・プログラムを提供することができる。理想論だが、こういうつくり方もあるのではないかと相談しているところだ。まず、北九州と世田谷の第1回共同製作として3月に白井晃演出による『ファウスト』の公演を行う。問題は予算の関係でどうしても稽古が東京になってしまうことと、地方公演が中心になると出演者への交渉が難しくなること。課題はいろいろあるがこれからも4館で話し合っていきたい」(津村卓・北九州芸術劇場プロデューサー)
 11日には、国際的に活躍する新進振付家、金森穣を芸術監督に迎え、ダンサー10人を擁するレジデンシャル・ダンスカンパニーを設立する新潟市民芸術文化会館がダンスの共同製作について報告しました(トピックス参照)。いずれもプロデュース力のある拠点劇場が全国に広がっているという期待感が伝わってくるミーティングとなりました。

●「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」パネリスト発言要旨
◎岸田美枝子
市民グループに任せて大丈夫なのかという不信感が行政サイドには常にあった。当時の文化会館の館長がずっと話し合いに同席していて、その人がNPOの理事長に就任してくれたことで基盤ができた。NPOが運営するようになって一番変わったのは、文化のまちづくりにとって事業がどういう意味をもつのか、常にミッションに照らして議論するようになったこと。それと、鑑賞と発表の場だった会館に、企画や運営に関わる市民が出入りするようになり、ここが芸術を通じて市民が社会参加する場になったこと。社会で力を発揮していたリタイア組の人たちが経営面を支えていて、「ちゃんと儲かるのか」(笑)と厳しくチェックされている。

◎乾正一
大阪市の文化行政のあり方を検討した「芸術文化アクションプラン」を策定した。その中で、芸術家との協働なくして芸術文化行政はありえないし、こうした民間の専門家と一緒にやるためには対話しながら進めることが必要だという認識をもった。大阪の文化施設は民間が運営しているものが多く、公共の専門施設が少ないため、この人たちならと思ったアーティストのグループと相談しながら「新世界アーツパーク事業」をつくっていった。

◎橋本博幸
昨年4月に着任し、開館以来21年の間に顧客満足度とバリュー・フォー・マネーが向上していないことに驚き、職員に劇場改革を呼び掛けている。厳しい財政状況の下、このままでは県も財団も共倒れしかねない。財団は厳しいが希望に満ちた自立への船出をしなければならない。これからの公共ホールは、自主文化事業については、行政と民間とのパートナーシップに基づく取り組みが重要になる一方、ホールの管理運営は、完全なビジネスとなるのではないか。全国の財団やNPOはそのような新しい世界に対応すべく能力を向上させていくことが肝心だ。

「芸術見本市2003東京」概要
[会期]2003年12月9日〜11日(8日プレ企画)
[会場]東京芸術劇場、ホテルメトロポリタン、エポック10ほか
[主催]芸術見本市2003東京実行委員会(独立行政法人国際交流基金、財団法人地域創造、特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター)
[プレゼンテーション実施団体数]100団体
[総参加者数]4日間延べ2,000人

「芸術見本市2003東京」地域創造主催事業
地域創造・全国公立文化施設協会主催シンポジウム「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」(12月9日)
[コーディネーター]吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所 主任研究員)
地域創造・国際交流基金主催セミナー
(1)「劇場による人材育成」(12月10日)
[コーディネーター]稲葉麻里子(国際交流基金 舞台芸術コーディネーター)
(2)「劇場間ネットワークによる事業展開」(12月11日)
[コーディネーター]津村卓(地域創造プロデューサー)
地域創造主催セミナー
「リージョナルシアター・シリーズ5周年」(12月10日)
[パネリスト]鈴江俊郎(劇団八時半)、はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)、泊篤志(飛ぶ劇場)

芸術見本市に関する問い合わせ
芸術見本市事務局 Tel. 03-5960-9055

「芸術見本市2003東京」地域創造主催事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 福井・横山 Tel. 03-5573-4068

制作基礎知識シリーズVol.19 美術館の教育普及事業(4)

●教育普及事業の今後

 講師 大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役)
工夫やアイデアを取り入れた事業の実例と留意点

 このシリーズの1回目「教育普及事業の歴史」で述べたように、現在は、教育普及事業の変革期(第4世代)に当たる。事業に対する要望は増える一方なのに、スタッフの数は限られ、膨大な業務に息切れしている館も多い。増員という根本的な解決が望めない状況のもと、ボランティア、学生、NPOなどの外部サポートに頼りながら、何とか生き延びているのが現状だが、それでは問題の解決には程遠い。
 シリーズ最終の今回は、厳しい時代の中で、教育普及事業はどのような方向で活動を続けていけばよいのか、いくつかの工夫やアイデアを取り上げて考えてみたいと思う。

(1) 地域NPOとの協働を図る
【内容】
 地域の人々が組織する美術NPOとの協働に活路を見い出すタイプ。互いに対等なポジショニングを確立し、業務提携することにより、質的なレベルアップ、安定した活動が保証される。長所は、活動の裾野が人を介して拡がっていくところと、地域のことを十二分に理解している人々が、互いに顔の見える状況の中で活動を育むことで、これまで困難であった長期的なプログラムの実施が可能となるところ。会計制度的にも、多少自由度が増すというのも魅力のひとつだろう。
【留意点】
 パートナーとなるNPOの力量と関わり方。NPO設立ブームに乗って多くの団体が設立されたが、実力のあるところはまだまだ少ない。そのNPOが自立した経営を行っているか、形骸化した組織ではなく地道で活発な活動を持続しているか、活動理念がきちんと浸透しているかを見極める必要がある。また、協働というシステムには手間と時間のかかることを互いに理解し、どちらか一方に負担がかかりすぎないよう、お互いにフィフティー・フィフティーの責任をもって動きたい。
 NPOがボランティアスタッフを募集する場合、十分な研修や経験を積まないうちに、現場に派遣することがないよう留意しなければならない。館はNPOへ、NPOはボランティアへという安易な下請けにすり替わっていないか、互いに自己点検する必要がある。

(2) 学校と美術館との協働を図る
【内容】
 館のパートナーとなる学校には、小学校から大学院までが含まれる。館と小中学校の教師が協働した共同開発プログラムの最大の長所は、教育現場のリアリティある視点と、美術館の専門性がうまく生かされるところにある。
 美術館の教育普及事業の中には、次代を担う専門家への教育サポートも含まれており、学校から実習生の受け入れを行っている。しかし、スタッフが少ないのに加え、近年の履修学生の急増でこうした短期の受け入れは館側の負担になっているケースがほとんど。ただし、長期インターンの場合は、館の業務内容や理念を十二分に理解し、スタッフに近い戦力として活躍できるため、相互にメリットとなる連携が可能となる。
【実例】
 世田谷美術館は開館以来、区立小学校の4年生と中学1年生を対象とした「美術鑑賞教室」を実施してきた。毎年、約8000人の子どもたちが館を訪れている。希望があれば、事前に、館から学校へ出向く出張事業(注)も行っている。こうした事業を担当しているのは、館で長期にわたる特別な博物館実習を受けている大学生たち(インターン)。彼らは、学校の先生とじっくり打ち合わせをしながら、来館時の展覧会に合わせた授業をつくり上げ、各校で45〜90分の授業を行う。将来教師になっても、あるいはミュージアムで働くようになっても、この仕事で知った館と学校との連携の大切さは、きっといい形で花開いていくのではないだろうか。小中学校─大学─美術館とが長期にわたっていい関係を持続しているからこそ生まれてくるプログラムといえる。

注) 世田谷美術館のインターンによる出張事業

「ソウル・ポップ2002」展
「日本・韓国 品物研究所」
日本と韓国の似た者同士の食品パッケージを教室に持ち込んで、デザインなどを徹底比較した。よく見ると微妙な違いと大きな共通点が浮かび上がってくる。
「ビビンバ対ちゃんこ」
いろいろな具を混ぜ合わせる韓国料理「ビビンバ」と日本料理「ちゃんこ」。「日本に今生きる私の生活」をイメージした、コラージュが鍋(紙のボウル)に貼り込まれた。
ジョアン・ミロ展
「ミロの仲間に会いにいこう!」
ミロ作品の中から好きなものを選び、その世界にふさわしいマイ・キャラクターのデザインに挑戦。
「ミロの作品でお話をつくろう」
好きなミロ作品を選び、設問を手引きにしながらじっくり鑑賞した後、イメージに浮かんだ答えをもとにお話や詩をつくる。

(3) 美術館同士のネットワーク化を図る
 地域NPOや学校との協働のほか、美術館同士のネットワーク化も方向性としては考えられる。これまでも立地条件、規模、コレクションが似た傾向をもつ館同士が、お互いのコレクションを他の地域で展示したり、共同企画覧を巡回してきた。こうした展示でのネットワークのほか、今後の新しい取り組みとして挙げられるのが、教育美術書の共同出版やホームページなど、情報発信事業での連携である。催し物などの期間限定の連携ではなく、日常的な情報発信でのネットワークが組めれば、教育普及としての効果は計り知れない。

(4) ホスピタリティーで環境づくりを図る
【内容】
 教育普及事業の取り組みとして「ホスピタリティー」を対象にするのは、現在の美術館が置かれている状況を考えると難しいと思われるかもしれない。しかし、館が来館者を気持ちよく迎え、来館者は館内で快適にのびのびと過ごしながら、印象深い体験ができるというのは、教育普及の前提となる基本的な環境づくりなのではないだろうか。
【実例】
 レンゾ・ピアノが設計したタンカーのような建物で有名なアムステルダムの巨大科学博物館「NEMO」。2003年夏、そこの屋上(いわゆる船のデッキ部分)をビーチとして有料開放した。パリのセーヌ川岸が夏季限定のビーチとして開放されたのと同じ要領だが、港に面したロケーションのよさを活用し、ミュージアムで水着になってくつろぐという新鮮な体験を生み出した。空間の有効活用と、ちょっと風変わりなホスピタリティーは、私たちの固い頭を大いに刺激してくれた。

(5) 事業の数値化で予算の確保を図る
【内容】
 教育普及の今後を考える上で最も重要なのが、人と予算の確保である。教育普及活動の予算が展示に比べて少ないのは致し方ないとしても、納得いく額になっている館はどのくらいあるのだろうか? お金のかけ方が目に見える展覧会に対して、教育普及の主な支出は、人件費や消耗品、交通費など消えてしまうものに使われるため、予算だけみていたのでは、事業の内容を理解してもらえない。これも、教育普及事業が予算化されない大きな原因となっている。担当者はクールな数字が出てくるため気が進まないかもしれないが、自分たちがそれぞれの事業でどのような対象に対してどれだけのことを行っているのかをはっきりさせるためにも、費用対効果を図るための客単価の算出から始めてもらいたい。
【留意点】
 館の魅力づくりのため、多少費用対効果は悪くても実施するもの、客単価が少なく、なおかつ多くの人々を対象とできるものなど、事業の目的に応じて費用対効果を評価することが必要となる。また、購入した物品についても、償却期間を考慮した上で、どう運用するかを考え、経費として見積もる習慣をつけたい。
 客単価を算出する場合、講師の報償費など必要経費をすべて洗い出して正確な数字を計算しなければならない。また、日々の館全体の総来館者のうち何%が教育普及事業に参加したのかという、事業ごとのデータ収集も必要となる。こうした基礎データの収集により、館の事業との関連の有無など、運営上の問題点が如実にあぶり出されてくる。
 数字が一人歩きすることを危惧する向きも多いだろうが、手をこまねいていて実態を知らないところでつくられた数字が一人歩きするのを防ぐためにも、自分たちで客観的なデータを収集し、活用する時期にきているのではないだろうか。

 ここに挙げたのは、ほんの少しのアイデアにすぎない。美術館の厳しい状況をもっとユニークで斬新な発想で打破していっている館もあるだろう。利用者のためにも、ぜひとも、たくましく生き残っていただきたいと思う。

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