地域創造

WWW を検索 jafra.or.jp を検索 powered by google  

書庫

戻る

地域創造レター

News Letter to Arts Crew

6月号-No.110
2004.06.10(毎月10日更新)

●今月のニュース

●平成16年度公共ホール音楽活性化事業/アウトリーチ・フォーラム事業「全体研修会」
●制作基礎知識シリーズ



平成16年度公共ホール音楽活性化事業/アウトリーチ・フォーラム事業
「全体研修会」2004年4月20日〜22日/4月27日、28日

●全体研修会でアウトリーチ体験、
 アウトリーチ・フォーラムも開始


 財団法人地域創造では、クラシック音楽を身近なものにする取り組みとして、市町村を対象にした「公共ホール音楽活性化事業」(以下、音活)を実施しています。
 この事業は、オーディションにより選ばれた登録アーティスト(2年入替制)を公立ホール等に派遣し、地方公共団体との共催でコンサートおよびアクティビティ(地域との交流を図るプログラム)を開催するものです。これまで延べ95地域、44名のアーティストが参加し、地域の人びとと演奏家との感動的な音楽交流を実現。クラシック音楽との出会いを提供するインフラとして高く評価されています。
「全体研修会」ゼミの様子 財団設立10周年を迎える今年度は、大幅に事業を拡充し、これまでの倍にあたる全国28館の参加が決定。4月20日から3日間、東京・北とぴあを会場に「全体研修会」が開催されました。
 この研修会は、参加ホールの担当者、事業をサポートするコーディネーターおよび音活に協力する登録アーティストが一堂に会して研修を行う“音活版ステージ・ラボ”。前年度までの参加館による事例紹介やグループ別企画検討など、密度の濃いプログラムとなっています。また、音活的なアウトリーチ事業を地域で自立継続するための知恵を出し合う「OB研修」も併せて開催されました。

●ハイライトはアウトリーチ体験とプレゼンテーション
王子小学校で行われたアウトリーチ見学会の様子。 研修のハイライトは2日目。午前中は昨年から全体研修会に取り入れられた王子小学校でのアウトリーチ見学、午後には実演したアーティストとの懇談と全登録アーティスト12組による約5時間にわたるプレゼンテーション演奏会が行われました。
 今回のアウトリーチで特筆すべきは、プログラムとしての完成度が極めて高かった点。3・4年生を担当したピアノの田村緑さんは、エルガー作曲『愛の挨拶』の演奏で楽器の魅力をアピールした後、イギリスの20ポンド札を手に「このお札の肖像がエルガーです」と作曲家を紹介。グラビチェンバ・エ・ピアノ・ドゥ・フォルテと呼ばれていたという名前の由来からピアノの歴史をひも解き、楽器の下に潜らせて振動を体感させながら仕組みを教え、子どもたちの将来の夢についてのアンケートからピアニストの夢を語るなど、まるで演奏家がプランした総合的な学習の時間のモデル授業を見ているかのように、ピアノという“教材”を見事に子どもたちに伝えきっていました。
 また、5年生を担当したマリンバの浜まゆみさん(ピアノは大橋めぐみさん)は、マレットというバチを何本も両手に挟み、アクロバットのような演奏を披露してあっという間に子どもたちの好奇心を手中に。鍵盤に触れ、「静電気みたいに肩の方までビリビリきた!」と叫んだ子どもの表情は、発見の驚きで誇らし気に輝いていました。
 「あの年代の子どもたちは視覚、聴覚、触覚などいろいろな感覚を使ってものをとらえているので、身体全体で感じられるような内容にしています」と浜さん。質疑応答では、「マリンバは耳と動きの両方で感じることが必要なので、マレットの動きが見えるように配慮する必要がある」など会場づくりについての留意点なども話されていました。
16・17年度音活登録アーティストのプレゼンテーション。 午後からのプレゼンテーションは、個性的な演奏家が揃った今年度らしい企画色のあるパフォーマンスが続きました。朗読付きで演奏したピアノの佐々木京子さん、「野外、神社、電車、船から落雷・大雨・台風の中まで演奏経験豊富。まずはご相談ください」と強烈にアピールした金管五重奏のBuzz Five、ネックやボディをこすって音をだす不思議な現代曲を演奏したバイオリンの野口千代光さん、富士山をイメージしたオリジナル曲を披露し、「地域のオリジナル曲がつくれれば」と語ったピアノ・デュオDuetwo、作家の志茂田景樹さんと「よい子に読み聞かせ隊」を結成し、全国で650回のパフォーマンスを行なっているフルートの永井由比さん、客席からニューオリンズスタイルのパレードで登場したBLACK BOTTOM BRASS BANDなどなど。どのアーティストも個性的なトークと自己アピールで会場を沸かせていました。

平成16年度公共ホール音楽活性化事業開催地
利尻町交流促進施設どんと(北海道)、朝日町サンライズホール(北海道)、七ヶ浜国際村(宮城県)、名取市文化会館(宮城県)、田島町御蔵入交流館(福島県)、深谷市民文化会館(埼玉県)、流山市文化会館(千葉県)、相模湖交流センター(神奈川県)、吉田町公民館(新潟県)、新井総合文化ホール(新潟県)、八尾町コミュニティセンター(富山県)、福井市文化会館(福井県)、多治見市文化会館(岐阜県)、菊川町文化会館アエル(静岡県)、豊橋市民文化会館(愛知県)、木ノ本町スティックホール(滋賀県)、朽木村やまびこ館(滋賀県)、佐田町中央公民館(島根県)、伊方町民会館(愛媛県)、丹原町文化会館(愛媛県)、ユメニティのおがた(福岡県)、なかまハーモニーホール(福岡県)、松浦市文化会館(長崎県)、エイトピアおおの(大分県三重町)、大分市コンパルホール(大分県)、中種子町種子島こり〜な(鹿児島県)、平良市マティダ市民劇場(沖縄県)、名護市民会館(沖縄県)

平成16・17年度登録アーティスト
小林厚子(ソプラノ)、菅家奈津子(メゾソプラノ)、久保田葉子(ピアノ)、佐々木京子(ピアノ)、永井由比(フルート)、神谷未穂(ヴァイオリン)、野口千代光(ヴァイオリン)、宮本妥子(打楽器)、デイヴィッド・ファーマー(クラシカルアコーディオン)、ピアノデュオDuetwo、Buzz Five(金管五重奏)、BLACK BOTTOM BRASS BAND(ブラスバンド)


●アウトリーチ・フォーラム事業でも全体研修
 音活の新しい取り組みとして今年度からスタートするのが、“都道府県版音活”とも言える「公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業」です。
 この事業は、財団と都道府県または政令指定都市等が共同でコーディネートを行い、地域内の公立ホールがアウトリーチの手法や地域交流プログラムについて実践的に学ぶ機会を提供するというもの。今年度は熊本県立劇場と県内6市町村が参加します。6月26日から約1カ月にわたって6市町村にクラシックの演奏家を派遣し、実際に事業を実施するにあたり、4月27日、28日の両日、熊本県立劇場に市町村の担当者が集まり、全体研修会が行われました。
 研修会では、会館の隣にある大江小学校で行われたバイオリンのアウトリーチ事業を見学した後、アウトリーチの意義や実例などについて講師から説明を受けました。「人数は少なく、場所は小さく、時間は欲張らず」という効果的なアウトリーチの経験則に対して、「普及という使命のある行政マンとして問題を感じる」と真摯な問いかけが参加者からなされ、初めての取り組みだけに白熱した議論が行われました。
 「アウトリーチ・フォーラム」では、派遣された演奏家に地域を理解してもらう試みとして「地域交流プログラム」を設けます。研修2日目にはコーディネーターを交えて企画づくりに入りましたが、「陶芸体験」「乳しぼり体験」「紙すき体験」などユニークなアイデアが続出していました。
 各地での事業の後、7月11日には、熊本県立劇場で報告会と参加アーティストによるコンサートを合わせたフォーラムを行ないます。「公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業」の全容につきましては、改めてレター紙上でレポートする予定です。

平成16年度公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業開催地
[フォーラム事業]熊本県立劇場
[公演事業]小国町、長洲町、砥用町、芦北町、本渡市、あさぎり町

公共ホール音楽活性化事業/公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 小澤櫻作 Tel. 03-5573-4074


制作基礎知識シリーズVol.20 アートNPOの基礎知識(3)

●NPOと行政とのパートナーシップ


 講師 吉本光宏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)
 アートNPOのポテンシャルを活かす

 最後に、アートNPOと行政の関係について整理してみたい。行政サイドからみたNPOとの関係は、概ね、(1)助成・支援、(2)事業委託、(3)文化施設の運営委託、(4)遊休施設の利活用の4つに分けられる。
 (1)助成・支援は、NPOの活動を支えるために資金的な援助をしたり、事務所スペースを格安で提供したりするケースで、行政との関係では、現在最も一般的なものであろう。
 (2)事業委託は、NPOの専門的なノウハウや実績に基づき、行政の業務の一部をNPOに委託する形態である。自治体の文化課や文化施設の運営財団などから、事業の一部をアートNPOに委託することは、オーソドックスな行政とNPOのパートナーシップといえる。しかしこの場合、本来、政府組織から独立しているべきNPOの自立性や自主性をどのように確保するかという点には、留意が必要である。
 (3)文化施設の運営委託は、行政とNPOのパートナーシップを考える上で、今後注目される。2003年9月に地方自治法の一部が改正され、それまでの「管理委託制度」が「指定管理者制度」に切り替わり、設置自治体の出資した財団などだけではなく、議会の承認が得られれば、株式会社やNPOなどの民間事業者も自治体の指定を受けた指定管理者として公の施設の管理運営を行うことができることになったからである。

 ふらの演劇工房や福井芸術・文化フォーラムのように、すでに公立ホールの運営や自主事業を受託するNPOは存在しているが、この法律の改正にともなって、今後、NPOへの運営委託を検討する公立文化施設も出てくるであろう。ただし、文化予算が削減される中、NPOに委託することで経費を圧縮できるのではないか、という安易な考え方は禁物である。NPOへの委託は、より質の高い事業や効率的な運営を実現するために、限られたリソース(予算、人員、施設等)を活用して最大限の成果を得るための手段として検討する、というスタンスが肝要である。
 (4)遊休施設の利活用は、利用されなくなった公立の施設を、NPOの活動拠点として提供し、NPOに運営してもらうというものである。廃校になった小学校の教室などを稽古場に活用したり、遊休スペースをアトリエやギャラリーとしてNPOが運営したりするのが、典型的なケースだろう。アミューズメント施設の空きテナントのスペースを活用した大阪市の「新世界アーツパーク事業」(「地域創造」14号、P44〜47参照)も、遊休施設の利活用とアートNPOが結びついた例である(横浜市でも、都心部の旧銀行ビルをアートNPOに運営してもらう「BankART 1929(バンカート1929)」がスタートした。)。
 運営資金の限られたNPOにとって、活動拠点の確保は、大きな課題のひとつである。米国などでは年間1ドルで賃貸契約を結ぶ例もあるが、施設の維持費や設備費といったハードの基本的な経費を行政が負担し、そこでの事業の収支はNPOの責任で行う、といったパートナーシップの形態が広がれば、NPOの活動領域は大幅に拡大するであろう。こうした方式は、NPOの側からみると、行政から活動スペースの支援を受けることに等しい。(3)の文化施設の運営委託は、NPOが行政機能を代替するという形であるのに対し、この方式であればNPOの独立性や自主性を維持できるという点でも、有効な方法である。
 行政とNPOとの関係を考えるとき、こうした支援や委託という形から、さらに一歩進んで、行政とNPOが目標を共有し、互いの役割分担を明確にして共同で文化事業を行うというスタイルは考えられないだろうか。例えば、地域の文化政策の目標設定そのものを、行政とNPOが協議しながら構築していく、あるいはNPO側から提案していくような関係、つまり、NPOが行政のコンサルタントや代理店として機能するといった可能性も、視野に入れたい。
市民の文化的なニーズは何か、地域内の芸術活動を活発にするにはどのような取り組みが必要か、こうした文化政策上の課題は、地域で活動するNPOの方が的確に把握できる可能性がある。今後、アートNPOの活動が成熟してくれば、そうした課題に対応する事業を実施する専門的なノウハウや経験、そして実行力や機動力も、行政組織よりNPOのほうに期待できるようになるだろう。
 もちろんその場合、NPO側にも広い視野や公益的な姿勢、専門的な能力や実績、そしてしっかりとした経営体制が求められることは言うまでもない。自らの芸術活動の実現だけを目的にするようなNPOには、そうしたパートナーとなる資格はない。そんな行政をリードできるようなアートNPOが、現在、全国にどの程度存在しているかは、全く未知数である。しかし、長期的な視点から、そうした関係を模索することで、これまでの文化行政の枠にとらわれない、新しい発想や展開も可能になるはずである。

●アートNPOと行政とのパートナーシップ関係図
アートNPOと行政とのパートナーシップ関係図


●アートNPOの意義
 まず、NPOの活動は、何らかの社会的な問題意識をもった市民が主体になっている、という点を指摘しておきたい。つまり、国や自治体の文化政策、あるいは、民間企業や財団のメセナ活動にはない発想や取り組みが生まれる可能性があり、そのことで、広い意味での我が国の芸術文化の振興に繋がるものと思われる。
 次に、芸術活動や文化政策の多様性が担保される、という点もNPOの存在意義のひとつである。政府や地方自治体の文化政策では、どうしても公共性や公平性の原理が優先される。いきおい玉虫色のものになったり、事業の目的やゴールが曖昧なものになりがちだ。それに対し、NPOの場合、納税者全体の賛同が得られなくても、あるまとまった数の市民や関係者の賛同が得られれば、活動を立ち上げ、継続することができる。それは、まだ社会的に認知されていないもの、実験的なものなどを含め、多様な価値観や表現形態、芸術活動が同時に存在できることを意味している。
 また、アートNPOの活動が活発化することで、営利活動としての文化事業と、非営利すなわち公共政策としての文化事業の線引きが明確になってくる、という点も見逃せないだろう。NPO制度が確立されていなかった時代には、非営利であっても、法人格を取得するために、やむなく営利法人としていた芸術団体も多かった。今でもその名残はあるが、今後、NPOの数がさらに増大し、活動が成熟してくれば、法人格と実際の事業内容の間でねじれ現象が生じていた、営利と非営利の芸術活動の区分も、明確になってくるものと思われる。また、任意団体や営利法人がNPO化されれば、必然的に公益的な芸術活動とは何か、という問題と向き合わざるを得なくなり、そのことで、団体の意識が変わったり、公共的な芸術活動が拡大したりする可能性もある。
 そして、最後に指摘しておきたいのは、アートNPOのメンバーは、アートが社会に必要だということを「確信」している、という点である。これは、文化政策を担う行政組織やメセナ活動に取り組む民間企業のスタンスとの決定的な違いである。国や地方自治体の文化政策の裏付けとなる基本法は、2001年にやっと成立したばかりであり、税収が減れば予算削減の対象になりやすいのが文化事業である。また、企業はなぜメセナをするべきか、という議論もいまだに絶えない。それに対し、NPOはどんな逆境に遭遇しようと、目的達成のためにあらゆる努力を惜しまない存在である。すべてのNPOがそうとはいわないが、アートにかける「本気度」が違うのである。


 芸術を単なる鑑賞の対象や市民の文化活動の領域としてとらえるのではなく、アートそのものの新たな価値や社会的な役割を見出し、芸術文化を媒介にした新しい社会サービスを創出することで、市民社会の課題解決に立ち向かっていく─そういう姿勢こそアートNPOならではのものであり、行政とのパートナーシップも、彼らのそうしたポテンシャルを前提に考えるべきではないだろうか。



ページトップへ↑