地域創造

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今月のレポート

富山県入善町
6 月号-No.122

下山芸術の森 発電所美術館

「SPACE WALKING」


 
 「作品制作とはエネルギーを生成する行為だ。象徴的に『発電』と言い換えることもできる。この場所は作家の制作意欲を刺激し、発電を促してくれる」(*1)
 彫刻家の戸谷成雄がこう評価するのは、富山県東北部の入善町にある発電所美術館。その名のとおり、水力発電所を再利用した美術館だ。

美術館外観
  日本では美術館をつくるというと建物を新築するのが当たり前と思いがちだが、世界を見渡せば既存建築を美術館にリサイクルする例が多い。ルーヴルは宮殿だったし、オルセーは鉄道駅、テートモダンは火力発電所として使われていた。だから発電所美術館は日本では珍しいかもしれないが、世界的に見ればきわめて真っ当な美術館なのだ。
 その発電所美術館が今年、開館10周年を迎え、記念展「SPACE WALKING」を7月3日まで開催している。これまでここで個展を開いた35作家の小品を宙に吊るすという、この美術館ならではの展示だ。長引く不況で税収が減り、市町村合併や指定管理者制度の導入などで揺れる地方公立美術館にあって、小規模ながらユニークな活動を続けてきたこの美術館の存在意義は大きい。
  黒部川の下流に位置する入善町下山(にざやま)に、河岸段丘を利用してレンガづくりの水力発電所ができたのは1926(大正15)年のこと。老朽化したため取り壊す予定だった建物を入善町が譲り受け、95年、美術愛好家だった前町長の肝煎りで美術館として生まれ変わった。以来年に4本ずつ、10年間で42本の展覧会を開催。
 興味深いのはその内容だ。既存建築を美術館に転用するとき、外観はそのまま残して、展示室はどんな作品にも対応できるようにホワイトキューブ(装飾のない白い壁の四角い空間)に改装することが多い。ところが、ここでは予算が限られていたこともあって窓はふさがず、高さ10メートルの天井は鉄骨構造むき出しで、壁には導水管の大きな穴がうがたれ、発電用タービンも1基残ったまま。

10周年記念展 展示会場
©入善町文化振興財団
  この美術館らしからぬ個性的な空間は、おのずと展示する作品を限定し、同館の活動方針をユニークな方向へと決定づけることになった。つまり展覧会ごとに作家を招き、この空間ならではの作品をつくってもらうというのだ。そのため滞在・制作できる宿泊棟とアトリエ棟も備えた。当時としては珍しいアーティスト・イン・レジデンスの発想だ。
 できた作品は会期中ここでしか見られず、会期が終われば撤去される。だから記録としての図録作成(*2)は欠かせない、と学芸員の長縄宣氏。こうした仮設展示の試みは、絵画や彫刻のような既存作品をコレクションしたり巡回させてきた従来の美術館や展覧会とは一線を画すものだ。
 「作家はこの空間と真剣に向き合って制作してくれる。現代美術だからわからないということではなく、何かを感じてもらえばいい」と長縄氏はいう。入善町教育委員会の米島秀次教育長は、「親しみのある絵画が欲しいという声もあるが、それは公民館に任せればいい。最初は『おらっちゃにゃわからん』と言ってた人も、繰り返し訪れるようになった。町の人に誇りが生まれてきている」と語る。
 これまで、斎藤義重、靉嘔、山口勝弘、戸谷成雄、青木野枝といったそうそうたる面々が個展を開いた。年間予算は開館当初から半減し、材料費も出ないにもかかわらず、作家たちは喜んで引き受けてくれる。それはホワイトキューブの美術館では味わえない、発電所ならではの空間的な魅力ゆえのこと。
 彫刻家の土屋公雄は、「この場所は白くて四角い通常の展示場と違い、作家にとって邪魔なものが多い。しかし、だからこそ挑発されて創作に繋がる」(*1)と述べている。ちなみに土屋は2003年に個展を開いた時、使い古したタンスやテレビなど約150点の家具を天井から吊るして来館者の度肝を抜いた。
 これまで10年間の入館者は約7万3千人。決して多いとはいえないが、人口2万9千の町としてはまずまずの数字だ。しかも首都圏をはじめ県外からの割合も増えている。今後は歴史的建造物の文化的活用の好例としても、ますます注目を浴びるに違いない。
(美術ジャーナリスト・村田真)
下山芸術の森 発電所美術館 開館10周年記念展「SPACE WALKING」
[会場]下山芸術の森 発電所美術館
[会期]4月15日〜7月3日
[主催]入善町、入善町教育委員会、(財)入善町文化振興財団
[関連行事]開館10周年記念シンポジウム「発電するアートの現場討論会」(4月15日)、10周年アートな感謝祭「美術ふれあいパーク」(5月5日)

*1 4月15日には篠田守男、最上壽之、戸谷成雄、土屋公雄、眞板雅文といった現代美術界のビックネームが顔を揃えた開館10周年記念シンポジウムが開催された。コメントはそこでの発言の要旨。北日本新聞4月25日付より。
*2 これまで展覧会ごとにモノクロの薄い図録を作成してきたが、今回10周年記念として、これまで撮りだめた写真をもとに、全個展の記録をおさめたカタログを発行。

地域創造レター 今月のレポート
     2005.6月号--No.122

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