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制作基礎知識シリーズVol.27
公立文化施設の評価を考えるA

講師 吉本光宏
(ニッセイ基礎研究所 芸術文化プロジェクト室長)

 前回の制作基礎知識では、公立ホール・公立劇場の評価指針について、その目的や狙い、評価の基本的な流れと評価フレームの概要を整理した。今回は、評価の基本となる戦略目標と戦略の体系について解説したい。


●戦略・評価ユニット一覧

 本評価指針の評価フレームを構成する、A「設置目的」、B「運営・管理」、C「経営」という3つの戦略・評価軸に沿って設定した戦略・評価ユニットのうち、戦略目標(評価大項目)と戦略(評価小項目)を一覧にしたのが右表である(*1)。
 各館のミッションに基づいて、この表に示したような戦略目標と戦略を再確認する作業が、本評価指針の第一歩である。一覧に記載した内容は、研究会の議論に基づいて、公立ホール・公立劇場のあるべき姿や実施の望まれる事業、望ましい運営方法などを想定して設定されているが、すべての館に当てはまるわけではない。
 また、設置目的が定められていても、多くの文化施設では、右表の記載ほど明確ではなかったり、戦略レベルまで詳しく設定されていなかったりするものと思われる。管理・運営や経営に関する戦略目標については、現場で意識されることはあっても、明確な目標として定められていないケースが多いのが実情であろう。そのため実際には、この一覧を参考に各館が独自のものをアレンジ、カスタマイズする必要がある。
 すなわち、わかりやすく言えば、館のミッションを細部にわたって再点検し、それを具体的な文言として明確にすることで、評価フレームとして耐えられるものを構築することが、評価実施の大前提と言える。もちろん、明確なミッションが定められていない場合、あるいは時代の変化などによって実情にそぐわないものとなっている場合は、ミッションを考え直す作業から始めなければならないことは言うまでもない。


*1 本評価指針では、戦略目標・戦略と評価指標・基準をあわせたものを戦略・評価ユニットと名づけている。例えばA-1「鑑賞系事業」では、次の8つの評価指標・基準が設定されている(簡略版)。
・ミッションに基づいた鑑賞系事業の実施目的や戦略の有無
・年間延べ観客数(公演・鑑賞系事業)
・年間延べ観客数÷設置団体人口(もしくは圏域人口)
・鑑賞系事業に対する観客満足度
・年間に複数回来場する観客の割合(リピーター数)
・子どもや高齢者も楽しめる公演事業の本数
・公演回数 ・鑑賞系事業に付随したアーティストトークやワークショップ等の実施の有無と実施本数、参加者数

●戦略目標の考え方

 本評価指針では、A「設置目的」に関して8つの戦略目標を設定したが(*2)、研究会で議論になったポイントは次のとおりである。
 まず、鑑賞系事業と創造系事業を区分したことが挙げられる。この指針では、原則として自主事業、貸館事業という用語を用いていない。貸館であっても、それが住民にとって素晴らしい舞台公演であれば、従来の自主事業による鑑賞事業と同様の役割を果たしうる。つまり、自主事業だけではなく共催や提携、貸館など多様な事業形態を活用して幅広く舞台芸術の鑑賞機会を提供しようというのがこの戦略目標である。
 一方、創造系事業については、たとえ小規模なものであっても、館独自の企画による舞台づくりを行うべきだというのが、この評価指針の基本的な認識である。また、この創造系事業は、市民が舞台づくりに参加する「市民参加型事業」とは区別されおり、それはA-5「市民文化活動の支援」に位置づけられている。前者は客席に座る住民が主体(事業の対象)であり、後者は舞台に立つ住民が主体であることから、戦略目標として区別することが望ましいからである。
 普及系事業については、ワークショップや講座とアウトリーチの2つに区分し、前者は舞台芸術をさまざまな形で体験し、表現する喜びを提供することを、後者は教育や福祉との連携による子どもたちの健全育成や高齢者の元気回復などに取り組むことを、それぞれ戦略目標とした。
 地域貢献についても、地域や住民の活力創出と地域の価値やステイタスの向上という2つの戦略目標が設定されている。さらに、都道府県立のような広域施設の場合は、域内の文化施設との連携を含めた地域全体の文化振興も重要な役割として戦略目標に位置づけられている。
 それに対して、B「運営・管理」C「経営」については、一覧表に示したとおり、それぞれ3つの戦略目標が設定されている(*3)。それらの中には、施設のホスピタリティや安全管理、あるいは顧客管理や経営努力など、どの館にも求められる基礎的な項目が含まれている。
 さらに、戦略目標ごとに具体的な事業を想定して2〜4つの戦略を設定したが、これは館の目標や評価視点をより具体的にするためである。
 次回は設置目的の評価指標・基準から主要なものをピックアップして解説する予定である。

*2 ミッションの有無とその内容に関するA-0「ミッション」、A-9「館独自の戦略、戦略目標」、A-10「共通・総合指標」を除く。

*3 B-4・C-4「館独自の戦略目標、戦略」を除く。

*「公立文化施設における政策評価等のあり方に関する調査研究報告書公立ホール・公立劇場の評価指針─」が6月に発行されました。
なお、上記の評価指針を利用して施設評価を実施される方のために、財団法人地域創造のホームページには、「戦略・評価ユニット」および「運営データ入力表」の2つのエクセル表を掲載しておりますので、併せてご活用ください。

[問い合わせ]芸術環境部 飯川・栗林・山下 Tel. 03-5573-4185
http://www.jafra.or.jp/j/guide/box/index.php#investigation01

戦略・評価ユニット(戦略目標・戦略と評価指標・基準)一覧

  戦略目標(評価大項目) 戦略(事業・手法)(評価中項目)
A




A-0 [ミッション]
○○(都道府県、市町村名)の文化政策に基づき、○○(施設名)の
ミッションを明確に定め、その達成に務めます
1 ○○(施設名)の達成目標を明確でわかりやすいミッションとして定め、市民の皆さんと共有します
2 劇場・ホールの事業や運営について評価を行い、その結果をミッションにフィードバックします
3 評価の過程で、ミッションや事業・運営の方針を広く周知し、市民の皆さんの声を反映させていきます
A-1 [鑑賞系事業]
国内外の舞台芸術の鑑賞と交流の機会を提供します
1 舞台芸術との出会いをとおして、生きる喜びや感動を伝えます
2 誰もが、音楽や演劇、ダンスに気軽に、身近に鑑賞できる機会をつくります
3 国内外で活躍する芸術家と交流する機会や場をつくります
A-2 [創造系事業]
独自の舞台芸術を創造し、地域からの文化づくりを推進します
1 舞台芸術の専門機関として、新しい作品づくりに取り組みます
2 新しい作品、未知の表現に出会う喜びを、住民の皆さんに提供します
3 地域の伝統の掘り起こし、新しい文化の創造など、地域固有の文化を育て、発信していきます
A-3 [普及系事業@](ワークショップ、講座等)
音楽や演劇、ダンスをさまざまな形で体験し、表現する喜びを提供し
ます
1 芸術をとおして自分を表現する喜びや楽しさ、難しさを体感してもらい、自己実現や日常生活に新しい
  可能性を発見してもらいます
2 子どもからお年寄りまで、誰もが気軽に芸術に触れ、体験できるプログラムを提供します
A-4 [普及系事業A](アウトリーチ)
教育や福祉の現場と積極的な連携を図り、子どもや青少年の健全育成、
高齢者の元気回復などに取り組みます
1 劇場やホール以外の様々な場所で、多様な市民が芸術や文化に触れる機会を提供します
2 芸術活動をとおして、子どもたちの表現力や想像力、コミュニケーション力を養い、創造性や個性を育
  みます
3 福祉施設などと協働で、高齢者の元気回復や障碍者のリハビリテーションなどに芸術の力を活かします
A-5 [市民文化活動の支援]
住民や文化団体の主体的な芸術文化活動を支援、育成します
1 市民が舞台づくりに参加したり(市民参加型事業)、住民自らの手で舞台を企画・運営・出演する機会を
  つくります
2 専門的・技術的な支援によって、地域の芸術家・芸術団体、新進の芸術家・芸術団体の創造活動を支え、
  育みます
3 文化活動に参加する住民同士が交流し、活動を刺激するような創造と出会いの場を提供します
A-6 [地域への貢献@]
芸術や文化の力によって、地域や住民の活力を創出します
1 教育や福祉などの分野で舞台芸術の力を最大限に活用し、生きる力を育みます
2 劇場・ホールの運営を地域の経済活動に積極的に結びつけ、地域経済の活性化を図ります
3 芸術や文化の創造性を地域の産業やくらしに結びつけ、クリエイティブで活力のある地域社会を創出し
  ます
A-7 [地域への貢献A]
劇場・ホールの運営によって、地域や○○市(町村)の価値やステイタ
スを高めます
1 劇場やホールの運営をとおして、○○市(町村)の存在を広くアピールします
2 ○○市(町村)や地域を誇りに思える牽引車の役割を果たします
3 生活の質や地域のブランド力を高めるような事業、運営を目指します
A-8 [広域施設の役割発揮]
圏域内の他施設の活動や文化振興に対する支援者の役割を果たします
1 館の専門的な経験や知識を活用し、圏域内の市町村の劇場・ホールと積極的な連携を図ります
2 当該文化施設の運営だけにとらわれず、圏域全体の文化振興を支えます
A-9 館が独自に設定している戦略目標を追加 館が独自に設定している戦略を追加
A-10 [共通・総合指標]
A-1〜A-8の個々の戦略目標ではなく、それらに共通する総合的な指標
B
 




B-1 [場の提供・支援]
劇場やホールの(貸館)利用者に対して、きめ細かいサービスを提供します
1 利用者の声に積極的に耳を傾け、利用者の視点に立った柔軟な運営を行います
2 利用申し込みから受付、料金の支払い、当日利用、精算まで、利便性の高いサービスを整えます
B-2 [施設のホスピタリティやサービス]
誰もが気軽に利用でき、快適な時間を過ごせる場を提供します
1 情報誌やちらし、ホームページなど、公演や催し物情報へのアクセス経路を工夫、充実させます
2 あらゆる場面で、お客様を心地よく迎える接客マナーを心がけます
3 きめ細かい利用者サービスを充実させます(会員サービス、バリアフリーサービス、託児サービスなど)
4 飲食(や物販)などの面でも、くつろぎ、楽しめるサービスを整えます
B-3 [施設の維持管理]
観客や住民の皆さんが、安全に安心して利用できる施設環境と運営体
制を整えます
1 安全管理基準の徹底を図ります
2 清潔で心地よい施設環境を整えます
3 設備の保守点検、メンテナンスに万全を期します
B-4 館が独自に設定している戦略目標を追加 館が独自に設定している戦略を追加
C
 

C-1 [経営体制]
効率的で円滑な運営が行えるよう、スタッフ全員で取り組みます
1 職員一人ひとりが、「ミッション」と「経営」を意識して業務を実践します
2 事業の内容や成果、経営情報を積極的に公開し、経営の透明性とアカウンタビリティを高めます
3 適正な人員配置で、事業の充実と効率性を両立させます
C-2 [リサーチ&マーケティング]
立地特性や市民ニーズの把握、地域との連携を通して、経営の質と効
率を高めます
1 立地特性や市民ニーズのリサーチに基づいた運営を行います
2 顧客管理やマーケティングの手法を積極的に取り入れます
3 地元企業や商店街と連携し、情報伝達やチケットの販売経路を開拓します
C-3 [経営努力]
効率的で円滑な運営が行えるよう、経営努力に務めます
1 チケット販売等の事業収入の拡大、助成金・協賛金などの外部資金の活用によって自主財源の確保に努
  めます
2 施設や設備の有効活用、経費の縮減を図り、経営の効率を高めます
C-4 館が独自に設定している戦略目標を追加 館が独自に設定している戦略を追加


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