地域創造

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制作基礎知識シリーズVol.30
企業メセナの動向と多様な広がり

講師 荻原康子
(社団法人企業メセナ協議会)

●データにみる企業メセナの「地域志向」

 企業メセナ協議会が1991年より実施している「メセナ活動実態調査」では、毎年、全国の4,400社を超える企業に調査票を送り、前年度のメセナ活動の実績と、メセナに取り組む企業の意識を探っている。2008年度は662社から有効回答を得、そのうち460社(69.5%)が「メセナ活動を行った」と答えた。寄付や協賛など資金支援を行った企業が373社、自ら文化事業を企画・運営した企業も270社ある(図1)。なお、メセナ活動費について回答があった404社の合計は264億9,591万円で、1社当たり6,558万円だが、実際には1,000万円未満の企業が約半数を占めている。
  では、なぜ、企業はメセナをするのか。その答えを設問「メセナ活動の目的」に見てみると、「社会貢献の一環として」が92%とトップで、次いで「地域社会の芸術文化振興のため」(68%)、「芸術文化全般の振興のため」(57%)と続く。「メセナ活動で重視した点」(図2)では、「地域文化の振興」が「芸術文化の啓発・普及」をわずかながら上回っており、ここ数年の数字の伸びを見ても、企業メセナにおける「地域志向」がうかがえる。
  ただし企業が「地域」という場合、行政のそれとは違って、必ずしも本社が所在するエリアに限るものではない。支社や工場、店舗を各地に置けば、それぞれが地域社会の一員となるし、創業の地や、企業の歩みの中で縁ある地というものもある。さらに、製品やサービスの流通先への目配りも必要で、それが広がるほど企業にとっての「地域」は拡大していく。
  また、そもそも経営理念が地域志向である地方銀行や信用金庫、電気・ガス、鉄道などの公共事業型企業、地元の情報センターである地方新聞社、住民と直接やりとりするスーパーなどは、地域の文化振興に熱心だ。そして本調査ではカバーしきれない中小企業に目を向けると、酒造業や菓子製造業、旅館業といった老舗が長年にわたり地域文化を支えてきたという事実がある。その地で生まれた商品を扱い、まちの魅力が客を呼ぶからこそ地元の文化を大切にし、地域のブランド力を育もうとする事業主の連合体も少なくない。
  設問「メセナ活動を通じて企業が得たこと」(図3)では、「地域との関係がより深まった」との回答が最も多い。これに伴う記述回答には、顧客や地域住民と良好な関係を築いたという「エピソード」が多数寄せられており、メセナ活動が多方面にもたらすインパクトが読み取れる。


●社会課題を反映するメセナ

 さて、2008年度調査で新たに設けた問いが「芸術分野と他の社会貢献分野との複合型メセナ」である。メセナ実施企業460社の約4割にあたる183社が「複合型メセナを実施」しており、分野としては「青少年教育」「まちづくり・地域活性化」がそれぞれ43.7%、次いで「福祉・医療」が30.1%、「環境」「国際交流・多文化共生」がともに23.5%という結果だった(図4)。
  例えば「青少年教育」では、鑑賞機会の提供やコンクールなど以前から見られた活動に加えて、ワークショップや学校へのアウトリーチなど、子どもたちの創造体験を伴う内容のものが増えている。また福祉の面では、障がい者の芸術活動に注目したり、老人ホームや病院でのアートプロジェクトなども試みられている。
  「複合型メセナ」が増えている背景のひとつには、やはりCSR(企業の社会的責任)の浸透があろう。メセナを社会貢献の一環と謳い、企業市民としての自覚が促された1990年代当初と比べても、企業行動に対する社会の関心はますます高まっているし、期待も大きい。国内外を問わず、企業はより広範な課題への対応が求められており、社員ボランティアも含めた主体的な取り組みが推進されている。
  2つ目には、NPOに代表される市民セクターの台頭だ。環境、教育、福祉、まちづくり、そして芸術分野でも、専門性が高く、潜在的な課題に敏感なNPOや市民団体が活躍するようになり、企業は彼らとの協働によって、きめ細かな社会貢献・メセナ活動を展開している(図5)。これと関連して3つ目に、アートのありようそのものが大きく変化しているということがある。必ずしも文化施設での展覧会や公演だけでなく、街なかの資源に注目したり、他者とのコミュニケーションを目的とするようなアートプロジェクトが増えている。勢い、さまざまな社会課題と結びつくことも多く、幅広い領域でアートの力を活かそうとするプログラムが開発されている。
  こうした背景に基づき、今後も多様な「複合型メセナ」が生まれてくると思われ、協議会では動向を注視していきたいと考えている。


●柔軟な発想が生きる劇場運営

 最後に、協議会の顕彰事業「メセナアワード」で、昨年「たたかう劇場賞」を受賞した佐藤電機(株)・王子小劇場の活動についてふれておく。東京・北区、王子駅前で長らく商いを続けてきた佐藤電機(資本金:4,000万円、従業員:26人)が、1998年に本社ビルを建てる際、地下に設けた100席の劇場だ。もともと倉庫となる予定が幾つかの偶然が重なって劇場となったのだが、当初から専門スタッフを雇用したことで、志ある運営を実現してきた。
  若手劇団の利用が多く、年間約45演目を上演。貸し出しに当たってはスタッフが事前に公演を見て判断し、劇場の性格を保っている。利用者には、同社が管理するビルの遊休スペースを稽古場として提供したり、印刷機を格安で使わせるなど、必要とされるバックアップを惜しまない。今後はさらに、公演前に生じる費用の一部を融資する制度を検討しているという。
  年末には、創業者の名を冠した「佐藤佐吉賞」を実施。1年間に同劇場で上演した作品を対象に12部門で表彰しており、後に話題となる作品や俳優を輩出している。2004年からは隔年で「佐藤佐吉演劇祭」を開催し、劇場お薦めの劇団を紹介。外部スポンサーによる参加作品の表彰や、作品をすべて観た観客へのキャッシュバック制度を採り入れるなど工夫を凝らしている。
  活きのいい若手劇団がデビューする場として、演劇界でも知られる存在となった王子小劇場。つくり手のニーズに沿いながら劇場の個性を打ち出す、柔軟な発想が存分に活かされた好例であろう。


図1 メセナ活動の方法(複数回答)



*「資金支援」および「マンパワー」「場所」「製品・サービス」「技術・ノウハウ」の提供は、他団体に対する場合を指す。 主催事業で発生した経費やスタッフ/自社施設/製品/技術等の使用はすべて「自主企画・運営」に含まれるものとする。

図2 メセナ活動で重視した点(複数回答/n =460)

図3 メセナ活動を通じて企業が得たこと(複数回答/n =460)

図4 芸術分野と他分野の複合型メセナ(複数回答/n =183)
*「複合型メセナを行った」と回答した企業について集計

図5 パートナーシップを組んだ相手(複数回答/n =239)
*「パートナーシップがあった」と回答した企業について集計

●2008年度「メセナ活動実態調査」概要
[調査対象]全国の上場企業、非上場売上高上位300社、企業メセナ協議会会員企業など計4,434社
[調査実施時期]2008年4月〜5月
[調査方法]郵送によるアンケート
[調査対象期間]2007年4月1日〜2008年3月31日(2007年度)

●社団法人企業メセナ協議会
企業の芸術文化支援についての@啓発・普及A情報収集B調査・研究C顕彰D国際交流E助成認定等を行う、日本で唯一のインターミディアリー機関。
[設立]1990年2月14日
[会員]正会員:141社/準会員:39団体(2009年3月現在)
[主務官庁]文化庁
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-2 第一鉄鋼ビル1階
http://www.mecenat.or.jp/

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