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制作基礎知識シリーズVol.31
ホール・劇場のリニューアルA
改修・更新計画と実践の流れ

講師 草加叔也
(空間創造研究所 代表)

●改修・更新計画推進に定形はない

 「改修・更新の根拠や基準、参考になる事例はないか」と、よく問い合わせがあるが、残念ながら基本形を示すことは難しい。なぜなら、そもそもの施設・設備の機能・性能が異なる上に、改修・更新の対象となる部位や規模が異なるのだから、それを共通の指針でとらえることはできない。
  さらに、法的に義務づけられた一部のものを除いて、ホール・劇場の改修・更新は「予防保全」が原則となっている。例えば、ホール・劇場では、公演中に照明が切れるといった事故が起こらないよう電球は切れる前に交換するわけで、これを予防保全と呼ぶ。その予防保全を前提に「経年劣化」したものを初期性能に戻すのが、ホール・劇場の改修・更新計画となるため、客観的な判断基準を明確化することは至難の業となる(ちなみにホール・劇場の改修・更新は経年劣化だけでなく、機能劣化、性能劣化によっても必要となる。レター6月号参照)。
  また、長期の閉館を伴う改修や耐震補強・増床で新たな行政手続きが必要となる場合などでは、事前の準備に十分な期間が不可欠で、各種申請手続き、予算獲得(議会承認)、市民・利用者との合意形成など、規模によっては再稼働までに数年を要することもある。このように改修・更新計画は施設ごと、内容ごとに異なるため、計画全体の進め方、手続き、期間、必要経費もそれによって大きく変わってくる。それほど基準化していくための変化要因が多く、それぞれがレアケースとも言えるのがホール・劇場の改修・更新計画の特性である。


●改修・更新の大きな流れについて

 前述のとおり、定形化することは至難の業であることを断った上で、今回はあえて大きな流れを図「ホール・劇場のリニューアル計画推進フロー」として整理してみた。計画は、@事前調査・分析、A改修計画策定、B設計および改修工事、C開館準備の大きく4段階で進められる(もちろん、このフローがすべての改修・更新の進め方を網羅するものではない)。
  なお、この作業を推進する主体は施設設置主体であり、設置主体が当事者意識をきちんと有していないと円滑な業務遂行は望めないことを付け加えておく。


●改修・更新に伴う閉館の有無

 ホール・劇場のリニューアルを行う上で最も重要なポイントは、「閉館」を伴うかどうかである。通常、施設利用の申し込みが行える時期は条例で定められている。そのためそれ以前に一定期間閉館することを告知する必要がある。例えば、電気容量の増設には、受変電設備の改修・更新を伴うため、多くの場合は施設全体を閉館する必要がある。しかし、舞台設備の一部更新であれば、舞台部だけを閉鎖することで作業が行える場合もある。もちろん、さらに軽微な改修・更新であれば、閉館を伴わないこともある。
  このように地域の市民利用が期待されているホール・劇場では、極力施設利用の機会を制約しない形での改修・更新計画が立案されるべきである。さらに言えば、閉館を伴う改修・更新を実施する場合には、閉館しなければ行えないことを優先して実施するべきである。また、必要な改修・更新が確実に行える期間に加え、スタッフの改修・更新部位に対する習熟訓練期間を十分に確保する必要がある。


改修・更新で考慮すべきポイント
中長期維持管理計画を策定し、改修や更新時期を事前に見定めておく
メンテナンス、改修などの情報・履歴の蓄積、整理を欠かさない
施設設置主体の危機管理意識が重要
必要に応じてコンサルタント等専門家に協力を依頼する
確認申請など行政手続きが必要になる場合もある
施工者の選定には、随意契約も必要に応じてあり得る
総合評価落札方式も検討
改修後のメンテナンスを見据えた発注や施工者選定を行う
改修・更新は、将来の活動や事業を見据えた投資と位置付ける


図 ホール・劇場のリニューアル計画推進フロー(©空間創造研究所)

1.事前調査・分析
  経年劣化に起因する改修・更新が必要になる時期を事前に見越した上で、事前調査および資料収集、そして分析を開始する。これが改修・更新計画実施の第一歩となる。
  施設の利用状況に関する資料収集はもとより、開館からのメンテナンス状況と改修・更新履歴に加えて、ヘビーユーザーを中心とした利用者や舞台設備の管理運営を行う常駐の舞台技術者、そして定期的なメンテナンスを行っている事業者と施設運営管理者などからのヒアリングを行う。
  このような資料収集やヒアリングを通して、大まかな改修・更新の必要性と改修・更新が必要な箇所を絞り込んでいく。もちろんこの時点で一定の工事費の見込みもとらえておくことが肝要である。事前調査・分析だけでも半年から1年程度の作業になる可能性があり、大規模の改修・更新を行う場合には、工事着手の3〜4年前から事前調査や分析を始める必要がある。
  この業務推進の核となるのはあくまでも施設設置主体であるが、専門的な判定や調査の実施や進め方、経費の見込みなどの目安をつけるために専門的な知識や経験値を備えたコンサルタント、設計者等の指導を仰ぐことも必要である。

2.改修計画策定
 1.の調査分析を踏まえて、劣化診断や現況調査を実施する。もちろん劣化診断調査では、施設や設備の一部の運転を停止することや取り外すこともあるため、調査に伴う閉館等が発生する場合には、利用者に対する事前告知など十分な事前準備が必要になる。
 こうして現況を正確に把握した上で、改修・更新のための方針と計画を策定する。ここでまず重要なのは、改修・更新の工事実施が閉館を伴うものであるかどうかということである。閉館を伴う場合には、施設の貸館受付期間以降まで工事を先延べする必要があり、閉館の期間や工事予算確保のタイミング、指定管理期間であれば協定内容の調整、そして施設が実施を予定している事業の調整などが課題となる。それらを総括した上で、概算経費の算出と工事期間を設定することが、この期間に整理する大きな課題となる。
 この業務も中心となるのは、施設設置主体であるが、事前調査同様に作業を円滑に推進するために専門家に業務の一部を委託することも有効な手段となる。

3.設計および改修工事
 いよいよ具体的な設計と施工を行うわけであるが、業務実施の事前手続きとして設計者および施工者の選定が必要になる。ただし、ここでいう設計者および施工者は業務内容、施工内容、施工規模によってさまざまに異なる。例えば「設計者=施工者」「メンテナンス事業者=設計者」「コンサルタント=設計者」「(元)施工者=施工者」となることも十分に考えられる。
 もちろん、設計および施工者の選定手続きでは、それまでの事前作業とは切り離した形での公募や入札が原則として求められる。しかし、改修範囲が設備の一部に限られる場合やコントロールシステム以外を更新する場合で、元施工者以外が施工を行うことが設備全体の安全性や信頼性を損ねる可能性がある場合に限って、原則的な入札による事業者選定ではなく、必要に応じて適正な随意契約も検討される必要がある。
 また、構造計算や増床、消防設備の変更、客席定員の増加など確認申請などの手続きが必要になる場合には、改修設計から工事着手までの間に申請等手続きのための期間が必要になる。このことも事前の計画策定に盛り込んでおく必要がある。

4.開館準備
 大規模な工事や建築設備あるいは舞台設備の改修・更新を伴う場合には、再開館までの間に十分に職員や舞台技術者が設備や機器に習熟するための訓練期間を確保する必要がある。これはホール・劇場の運営を円滑に、効率的に行っていくためだけでなく、安全で安定した施設および設備運用を実現するためであり、大規模な工事を伴う場合には、開館時同様に少なくとも3〜4カ月の習熟期間を必要とする。

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