地域創造

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制作基礎知識シリーズVol.32
演劇アウトリーチの基礎知識A
演劇ワークショップの事例[1]

講師 岩崎正裕
(劇作家・演出家、劇団太陽族主宰、伊丹アイホールディレクター)


 地域創造の「公共ホール演劇ネットワーク事業(演ネット)」では、アーティスト(演出家)が学校などに出向く演劇ワークショップを行っています。場づくりや交流のためのコミュニケーション・ゲームだけでなく、“想像力”や“創造力”という人間の内側にアプローチする演劇ワークショップは、アーティストの個性(キャラクター、演劇に対する考え方、つくり方、表現スタイルなど)によってプログラムの内容が大きく異なります。アウトリーチを効果的に行うには、こうしたアーティストの個性を理解することが必要となります。「演劇アウトリーチの基礎知識」ABでは、演ネット事業にもご協力いただいた岩崎正裕さんと内藤裕敬さんの取り組みについて紹介します。


平成21年度公共ホール演劇ネットワーク事業『どくりつ こどもの国』
公演写真(作・演出:岩崎正裕) 撮影:石川隆三

●演劇ワークショップが生まれるまで

 2000年の第2回大阪演劇祭で10歳も年下の学生劇団と合同で新作をつくった時に、自分の劇団以外で行う演劇ワークショップを初めて考案した。小劇場はそれぞれの劇団の劇作家・演出家によって異なる芝居のつくり方をしているため、劇団とは別の枠組みを与えて個々の俳優として提案できるワークショップが必要だった。それが「ドラえもん」のプロットを使ってみんなで相談しながら短いドラマをつくるというワークショップで、「演劇は枠組みの中で遊ぶこと」という私の演劇に対する考え方を込めたものだった。
  劇団では、以前から台本をつくる助走としてワークショップ的な稽古を取り入れていた。例えば、芝居で短歌を使いたいと思った時は「五七五七七」で俳優に会話してもらって様子を見たり、盲目のボクサーが登場する芝居ではどうすれば目の見えない人に言葉で景色を伝えることができるかを実験したり(この時の経験が基で生まれたのが「ホワイトボード」)。また、俳優にくだらないヒーローが出てくる短いドラマをつくってもらうことで、誰が悪役に向いているかを見極めるワークショップというものをやった。
  こうした取り組みをするのは、テキストを揺るがしがたい存在としてとらえ、劇作家や演出家がもっている「正しい答え」をみんなで実現する「ヒエラルキーのある演劇のつくり方」ではなく、ワークショップ的な作業を通してみんなで考える「草の根民主主義的な演劇のつくり方」がしたいからだ。そういう創作のプロセスを共有するつくり方によってカンパニー(プロダクション)は強くなる。ただし、最終的にどうまとめるかは、劇作家であり、演出家である自分の役割だと考えている。
  現在、私が一般向けに展開しているワークショップは、こうした演劇をつくる過程で生まれてきたものが元になっており、これまでの演劇的な経験がすべて活かされている。


●公立ホールで発展した演劇ワークショップ

 私が演劇ワークショップ的なものを学んだのは、伊丹市立演劇ホール「アイホール」が1988年から実施していた市民向けの演劇講座(後の演劇ファクトリー)に助手として参加したことがきっかけだった。1997年からチーフ・ディレクターとしてカリキュラムづくりを担当し、さまざまな演出家を招いたワークショップを企画した。そこでアーティストによって方法が異なるワークショップについて客観的に見学することができたのが大変勉強になった。コミュニケーション・ゲームのプログラムをそこで色々と知ることができた。
  90年代末には公立ホールがワークショップに力を入れるようになり、各地に講師として招かれるようになった。戯曲ワークショップ、演技に親しみたい人のためのワークショップ、市民参加劇をつくるためのワークショップ、長期・短期、対象も高校生から高齢者、地域で演劇を志している人など、公立ホールの課題に応じてさまざまなワークショップを行った。その中でターニング・ポイントとなったのが、2004年に長崎ブリックホール開館5周年記念で行った市民参加創作劇『星眼鏡ノオト』だ。
  市民を公募して戯曲ワークショップを開き、作品の輪郭が見えてきた段階で出演者を募集し、稽古をやりながら台本を書き進めて2年かけて102人が出演する舞台にまとめた。決まった台本を稽古するというのではなく、「まだ決めるのは早いよ」と言いながら、演技、ダンス、音楽のワークショップを重ね、演出家、音楽家、振付家が話し合う創作プロセスを参加者と共有しながら進めていった。まさに「演劇のつくり方ワークショップ」のような取り組みで、この方法によってひとつの作品を完成させたことが、「草の根民主主義的な演劇観」を確かなものにしたところがある。



公共ホール演劇ネットワーク事業で行われたホワイトボードを使ってのワークショップ
(2009年10月15日/津市立片田小学校)


●地域創造での取り組み

 ステージラボや公共ホール演劇ネットワーク事業(演ネット)などでさまざまなワークショップを行った。公立ホールの職員を対象としたラボでは、演劇の全体像を捕まえることを目的として、私が普段やっている演劇ワークショップを体験してもらった。また、演ネットでは、これまであまりやったことのなかった子どもたちが対象になった。
  小学校低学年の場合、外から行った我々が子どもたちをまとめることは大変難しい。学校生活では、「大きな声を出すな」「静かに歩け」と指導されているので、まずは「立って遊ぼうよ」から始めたら統制が取れなくなって困った。それ以来、最初に「演劇はルールのある遊びだから、ルールを守らないと参加できないよ」ということを伝えている。
  プログラムとしては、コミュニケーション・ゲームのような入り口のワークショップと演劇ワークショップを組み合わせる。演劇である限り共通の目的をもって共同でつくることをやるべきだと考えているので、そのための基本となる「相手をよく見る」ということは意識して伝えている。
  入り口のワークショップでは、参加者の年齢に関係なく、お互いが知り合うためのワークショップを行う。よく使うのは輪になって手拍子を叩きながら隣に回していくというゲームで、徐々にスピードを上げていく。単純だが、全員に共通の目的があるので、これをやるとその集団のベースラインが把握できるし、誰に注意しなければいけないかもわかるようになる。
  時間があれば「他己紹介」を行うこともある。演ネットの親子ワークショップで、子どもが親を、親が子どもを紹介する他己紹介をやったが、大変面白かった。他己紹介は、「見ること」「見られること」を利用したワークショップだが、子どもが親をどのように見ているか、親は自分がどのように見られているかがリアルになり、思わぬ効果が生まれた。何組かの親子を横一列に並べて音楽付きの合唱劇にしたが、感動的だった。
  その他、欄外に記したような演劇ワークショップを目的に応じて行っている。例えば、戯曲ワークショップの時によく使うのが「ホワイトボード」だ。台本のト書きもそうだが、順序立てて言葉を組み立てて伝えないと、イメージが伝わらない。絵をどこから話すと実態が伝わるのかを試してみると、お互いの文法がいかに違うかがわかってくる。


●演劇ワークショップの可能性

 演劇ワークショップには、「演劇」にまつわる固定観念を変えてほしいと思って取り組んでいる。学校では、演劇は台詞を覚えて、前を向いて大きな声ではっきり言うものだと教わる。でもそうではなくて、決められたテキストがあろうとなかろうと、演劇というのは人との関わりの中で生まれてくる自由度の高いものだということを伝えたい。
  集団(社会)があると、君臨しようとする人が出てきて、その集団は風通しの悪いものになる。実社会でこうした構図を変えることは難しいが、演劇ワークショップの集団ではみんなが持ち寄ったもので話し合って何かをつくることができる。ワークショップの現場では、そういう人と人との共感を呼び覚ますことができるし、人が人をよく見ている社会、断絶・分断がない社会をつくることができる。
  私は、便宜上、劇作家であり、演出家だが、誰かが誰かを支配するということがあってはいけないと思っている。結果としてつくられたものや発想に優劣をつけることを目的としたワークショップではなく、個々の中に達成感のあるワークショップを目指したい。
  実際、うまくいったワークショップの現場では、部屋の空気が一変する。全員が自分たちのつくったものを発表することを経験しているから、「見られる」という経験にあらがえなくて、相互の視線がきちんとかみ合ってくる。「見せる」「見られる」の関係をうまく使った演劇ワークショップでは、長い時間をかけて得られる他者と理解しあえたような感覚を、極めて短い時間で体験することができる。そのことで生まれる人への信頼感が演劇ワークショップの一番の効用なのではないかと思っている。


●地域創造の事業で行った主なワークショップ・プログラム
◎ドラえもん
【目的】創作と批評のプロセスを体験する
【内容】「ドラえもん」は、困難に直面したのび太がドラえもんに泣きつく→ドラえもんがポケットからオリジナルな道具を出す→その道具によって事態が解決する(もしくはしっぺ返しを受ける)というプロットになっている。このプロットを使って、参加者がチームに分かれて話し合いながら短いドラマをつくり、発表する。また、お互いの発表を見て、よりよいものにするためにみんなでサジェッションをして改作する。
◎シチュエーション
【目的】演劇はテキストをやるのではなく、書かれてないイメージを膨らませることだというのを体験する
【内容】3人が「行こうよ」「いや、行かない」「じゃあ、行こう」という会話をしている短いテキストを渡し、シチュエーションを考えてもらう。
◎ホワイトボード
【目的】言葉で他者に伝えることの難しさと、順序立てて相手に伝えることの重要性を体験する
【内容】ホワイトボードに絵を描き、その前に人が後ろ向きに立ち、絵を見ている人が後ろ向きに立っている人にその絵のイメージを言葉で伝え、それを絵で再現してもらう。
◎4コマ漫画
【目的】キャラクターを体験する
【内容】起承転結がある4コマ漫画のプロットを使って、チームに分かれて話し合いながら短いドラマをつくり、発表する。「何もしないヒーロー」と「人に迷惑をかけるヒーロー」が主人公の2パターンの4コマ漫画を見せ、そのバリエーションを考えてもらう。考える時間は5分間。

●岩崎正裕
1963年三重県生まれ。劇団太陽族主宰、劇作家、演出家。82年、大阪芸術大学舞台芸術学科の学生で劇団大阪太陽族を結成、90年に199Q太陽族と改名、2001年から現在名で活動。95年にオウム真理教事件を題材にした『ここからは遠い国』を発表し、OMS戯曲賞を受賞。社会で起こる事件や現象をモチーフに、現代人のもつ閉塞感とわい雑な人間関係を描いた作品で定評がある。2008年から伊丹アイホール・シアター・ディレクターに就任。

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