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今月のレポート

愛知県刈谷市
8月号-No.184

刈谷市総合文化センター市民音楽劇『万燈の輝く夜に』


 名古屋から東海道本線で20分。JR・名鉄の刈谷駅南口前に今年4月オープンした刈谷市総合文化センターで、6月26日、27日、7月3日、4日の4日間、市民音楽劇『万燈の輝く夜に』が上演された。開館記念事業の中で唯一の市民参加、地元発信事業となるものだ。

巨大な万燈が舞う『万燈の輝く夜に』
巨大な万燈が舞う『万燈の輝く夜に』
巨大な万燈が舞う『万燈の輝く夜に』
写真提供:刈谷市教育委員会

 愛知県指定無形民俗文化財に指定されている「万燈(まんど)祭」(*)の万燈とともに、プロの演奏家や刈谷混声合唱団、刈谷市民管弦楽団、ハーモニカやギターの同好会や語り部劇団、小学校のブラスバンド部などの市民、総勢230人もの出演者が舞台に登場し、新しいホールの船出を彩った。
  これは、プロの音楽家とアマチュアの音楽愛好家によって2004年に発足した刈谷音楽協会が、4年前から準備を始め、実行委員会を結成し、刈谷市に働きかけて実現した企画だ。同協会理事長の近藤富士雄さんは「市内の文化団体は、個々に発表会を行うことはあっても、横の繋がりがなく、刺激を受ける機会が少ない。新しいホールが出来るなら、それを機にみんなで何か大きなことに挑戦してみたいという声が上がったんです」ときっかけを説明する。2005年に近隣の知立市文化会館で上演された文楽人形創作オペレッタ『弥次喜多新道中記・池鯉鮒宿祭乃縁』を観た近藤さんが、当時知立の館長を務めていた演出家の伊豫田静弘氏に相談を持ちかけ、同作品と同じスタッフが集結した。
  「寄る辺ない時代だからこそ、迷わずテーマを『ふるさと』に決め、刈谷の精神が溢れている万燈祭の2日間を描こうと思いました」と伊豫田さん。10年来疎遠になっている母と娘を、万燈祭に再会させようと周囲が一計を案じるが…というストーリーで、「地域で息づく伝統芸能の魅力をどう引き出すかに心を砕きました」と言う。
  万燈祭は、火難防除・町内安全を祈願する祭りで、230年余り続いている。万燈は竹と和紙でつくられた張子人形を彩色した鮮やかなもので、多くは歌舞伎絵や武者などがモチーフ。大きなものでは高さ5メートル、幅約3メートル、重さ約60キロにもなる。青森のねぶたと似ているが、大きく異なるのは、この万燈を、若衆がひとりで担ぐということ。「チリリ」「チャラボコ」という笛や太鼓のお囃子に合わせて舞うその姿は、勇壮そのものだ。
  もちろん今回のように音楽劇に参加し、8基もの万燈が舞台で舞うのは初めて。万燈保存会会長の太田吉則さんは、「最初はオペラ音楽とマッチするのかと、戸惑いもありました。しかし日を追うごとに、もっと自分たちもストーリーの中に溶け込んで、演技として見せるということを意識するようになっていきました」と言う。
  演出にも、積極的に協力した。「演出家から、万燈が夜に灯りをともして浮かび上がり、町を練り歩いている情景を舞台で表現したいと言われて、最初はキャスターをつけて引き回してみたらどうかなど、さまざまなプランが出ました。最終的に紗幕の後ろに吊るすという案になりました。60キロもの万燈を吊って大丈夫かと不安でしたが、出来上がった舞台を見て本当に驚きました。夜のとばりの中、神秘的に揺れている感じが再現されていた。プロの演出家や舞台監督、美術監督が手がけると、こんなふうに舞台映えするものなのかと感動しました」
  また、今回のもうひとつの“主役”が公募によって集まった市民ボランティア「燈(あかり)屋」だ。約70人のスタッフは企画制作、広報、美術、フロントのセクションに分かれ、2年前から勉強会や研修を重ね、準備を進めてきた。「舞台転換などのお手伝いは大変でしたが、30歳代から60歳代までの世代が集まって熱くなる。その一体感はこれまで経験したことのないことでした」と、美術担当の橋本佳雄さんは達成感を口にした。
  館は民間の指定管理者によって運営されるが、刈谷市教育委員会生涯学習部文化振興課・文化振興担当総括の加藤謙司さんは「館に愛着をもっていただけるような仕組みづくりの一環として、ボランティアスタッフ、サポーターの方々を組織することは当然考えています。今回の成果を踏まえて、これから方向性を定めていこうと思っています」と話していた。
  万燈のもとに集まった刈谷の文化の灯が、どのように展開していくのか、期待したい。

(ライター・土屋典子)

●刈谷市総合文化センター開館記念事業
市民音楽劇『万燈の輝く夜に』
[日程]6月26日、27日、7月3日、4日
[会場]刈谷市総合文化センター アイリス
[主催]刈谷市総合文化センター開館記念公演実行委員会
[共催]刈谷市
[企画]刈谷音楽協会
[台本]木村繁、伊豫田静弘
[作詞・演出]伊豫田静弘
[作曲]佐藤容子
[音楽監督・指揮]稲垣宏樹

●刈谷市総合文化センター
[所在地]〒448-0858 愛知県刈谷市若松町2-104
[開館]2010年4月
[設置者]刈谷市
[管理・運営者]KCSN共同事業体
[施設概要]大ホール(1,541席)、小ホール(282席)、リハーサル室(2室)、多目的練習室(2室)、音楽室(2室)、音楽スタジオ、展示ギャラリーほか
http://www.kariya.hall-info.jp/pc/index.html

*刈谷市銀座にある秋葉社の祭礼。毎年7月最終土曜日と翌日曜日の2日間にわたって開催され、初日を「新楽」2日目を「本楽」と呼ぶ。万燈は毎年町の人々によって新しいものがつくられる。今回はストーリーに合わせた「於大と竹千代」が制作された。

 

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