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今月のレポート

埼玉県
10月号-No.186

SMFアート楽座・アートバンク2010
「5750分展U─美術教育は生きているか」


 8月29日、埼玉県立近代美術館(以下、近代美)で美術教師が主体となり中学校の美術教育を考える「5750分展U─美術教育は生きているか」と題したシンポジウムとワークショップが開催された。
  “5750分”とは、2012年度から実施される中学校学習指導要領で美術が選択教科から消え、必修のみになったときの1年間の総時間数(50分×115時限)だ。日数に換算するとわずか4日間。アーティストで現役美術教師3年目の浅見俊哉さんは昨年、この時間で何ができるのかを問いかけるべく、仲間と週末に運営する越谷市の住宅街にあるギャラリー、KAPL(コシガヤアートポイントラボ)で、5750分展を自主企画した(*1)。
  今回のシンポジウムは、8月上旬に行われた5750分展Uの報告会と一般参加者を交えた意見交換のワークショップが中心だったが、会場には「私が考える未来の携帯電話をつくろう(550分)」といった美術教師による授業のプレゼンボードが実際の生徒の作品とともに展示され、先生たちの生の声が飛び交うなど、どこかの中学校に紛れ込んだような雰囲気が漂っていた。
  浅見さんの仲間で、越谷市でまちとアートを結ぶ「まちアートプロジェクト」を実践している美術教師の鈴木眞里子さんは、子どもたちが商店街の人たちと関わりながら作品づくりと展示を行うプロジェクトについて発表。締めくくりに、学校の中で孤立しがちな美術教師の立場や、美術そのものと美術教育との違いについて戸惑う心情などを正直に語りかけていた。
  浅見さんは「KAPLという場で具体的に活動していると、学校現場で感じる閉塞感やギャップを乗り越えるアイデアが生まれますし、そのアイデアを学校に生かしていくことで勤務校の理解も得られると思います。来た人からは『ここは未来のことを議論していていいね』と言われます。本来先生は人と人を繋ぎ、場をつくる力をもっているのだから、今後もできることをやっていきたい」と話す。
  今回の5750分展Uは、幅広い関係者が集まり、アートによるプラットフォームづくりを目指し、近代美をキーステーションに、県内4つの美術館・博物館と大学(*2)が参画してスタートしたSMF(Saitama Muse Forum)の一環として実施された。事務局である中村誠・近代美主席学芸主幹はSMF誕生の背景をこう語る。「元々埼玉には、『ヒアシンスハウスの会』というジャンルを越えた芸術関係者の集まりがあり、さまざまな活動を行ってきました(*3)。加えて、06年に近代美でも、アートを通して人が集い、交流するための基地になるべきという、新たなミッション・ステートメントを作成、『さいたまアート懇話会』等を立ち上げるなど、定期的に意見交換をしてきた経緯があります。その機運が高まり、08年から3年間の文化庁助成(*4)を受け、本格的なプラットフォームづくりを始めました」
  そのシンボル事業が、アーティスト・根岸和弘による「風車プロジェクト」だ。08年には500人の市民が参加し、県内5つの会場で6回のインスタレーションを展開。09年秋には4,000本の風車が北浦和公園に立ち並んだ。このほか、2年間で多彩な事業が実施され、川口市の鋳物工場での展覧会など、地域資源を生かした企画も実現。参加ボランティアは延べ1,000人を超えた。
  「浅見さん、鈴木さんのような20歳代の人々が協力委員として加わり、動きが活発になりました。彼らの活動は自然発生的に生まれたもの。美術に興味のなかった人をも巻き込む間口の広さ、エネルギーはすごいものがあります」(中村)
  「北本市で活動するキタミン・ラボ舎との交流など、SMFで新たな繋がりができて刺激的ですね」(浅見)

「漫画表現を活かした美術教育の題材の可能性」
「漫画表現を活かした美術教育の題材の可能性」(写真)など、美術教育にまつわるさまざまな発表やワークショップが開催された
写真提供:SMF

 来年度以降の事業については白紙だが、SMFの活動は継続する予定だ。今後はこれまで培ってきたネットワークや経験を生かし、活動を充実させたいと中村さんは言う。「どの美術館も、人手も少なく、自館の企画を回すことで精一杯だと思うんです。しかし、美術館には空間があり、集まる人々、そして専門家がいます。民間と有機的に繋がれば、資金が少なくても実現できるものは増えるはず。アート氷河期を乗り越え、新たな芸術文化活動の基盤をつくり、継続的な活動を支える仕組みづくりをしたいと思います」
  一度吹いたアートの風は、止むこともなく、これからも埼玉の各地を吹き抜けていきそうだ。

(ライター・土屋典子)

●SMFアート楽座・アートバンク2010
「5750分展II─ 美術教育は生きているか」
・公開制作+美術教育座談会:8月7日〜10日/越谷KAPL
・報告会シンポジウム+ワークショップ:8月29日/埼玉県立近代美術館講堂

◎Saitama Muse Forum公式サイト
http://www.artplatform.jp/

*1 現役美術教員やアーティストによる公開制作や授業実践の展示、美術教育についての街頭インタビュー、教育関係者や地域の人々、子どもたちも加わっての討論などが行われた。
*2 入間市博物館ALIT、うらわ美術館、川口市立アートギャラリーATLIA、川越市立美術館、東京電機大理工学部。平成22年度の体制は、実行委員13人、運営委員12人、協力委員22人、アドバイザー(アーティスト)4人と、大学、高校、市民文化団体、マスコミ、観光・産業界など40以上の機関・団体が参加。
*3 夭折した詩人・建築家の立原道造が芸術家の集まる週末の別荘として構想し、未完に終わったが、『風信子荘(ヒヤシンスハウス)』(さいたま市別所沼公園)竣工を機に発足。さいたま市や埼玉県、文化庁の助成を得て「さいたまアートぷらっとふぉーむ形成準備事業」などを行ってきた。
*4 2008年度は「芸術拠点形成事業(ミュージアムタウン構想の推進)」、09・10年度は「美術館・歴史博物館活動基盤整備支援事業」

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