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制作基礎知識シリーズVol.33
現代ダンス・アウトリーチの基礎知識A
現代ダンス・ワークショップの事例[1]

講師 山田うん
(振付家・ダンサー、ダンスカンパニー Co.山田うん主宰)

公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)では、アウトリーチとしてコンテンポラリーダンスのアーティストを学校や福祉施設等に派遣するワークショップを行っています。自分の身体と向き合い、「100人の身体には100通りのダンス(表現)がある」「どんな動きもダンスになる」ことを知るコンテンポラリーダンスのワークショップは、アーティストの個性(キャラクター、ダンスに対する考え方、つくり方、表現スタイルなど)によってプログラムの内容が大きく異なります。コンテンポラリーダンスのアウトリーチを効果的に行うには、こうしたアーティストの個性を理解することが必要です。「現代ダンス・アウトリーチの基礎知識A」では、ダン活登録アーティストとしてご協力いただいた山田うんさんの取り組みについて紹介します。

生まれてから死ぬまですべてが身体の表現

●ワークショップが生まれるまで

 私がダンスのワークショップを始めたのは2000年頃から。横浜のSTスポットや大阪のDanceBoxなどの依頼により、ダンサー志望者や若手振付家のスキルアップを目的としたワークショップを行っていた。千葉大学のゼミの一環で、地域の人と学生をアシスタントとして育成しながら障がい者向けワークショップを2年間行ったこともある。しかし当時は、ダンスをやるのは面白いといったことを一般の人に普及することには半信半疑だったので、依頼者の要望に応じて自分の役割を果たしていたという感じだった。
  私自身がワークショップを色々と体験したのは、1995年にニューヨークでダンステクニックを学んでいた時で、日本の舞踏のワークショップも行われていた。舞踏については、帰国してから土方巽さんが主宰していたアスベスト館の「身体の学校」に通ってワークショップを受けた。平行して、自分のダンス言語を探したくて、「ひとり稽古」をやっていた。自分が目指しているのは、モダンダンスでもなければ、マース・カニングハムのようなポストモダンでもないし、舞踏でもない。体育館で自分と対話しながら、どうすれば言葉でしか伝えられないことを身体で伝えられるようになるのかを探して、ひとりでワークショップをやっていた。その時の試みが、今のワークショップの引き出しになっている。
  同じ頃、小学1年生から中学3年生までの学習障がいの子どものための寺子屋(学習塾)もやっていて、ダンス教室では子どもたちにダンスも教えていた。ダンサー志望者へのワークショップも行っていたので、骨のポジションが違うとか、プロフェショナルに身体のコンディションを見ることもやっていた。そういう、生きること、表現すること、伝えることが渾然一体となった時期が3〜4年あり、その間に自分のダンスやワークショップについての思いが少しずつ整理されていった。
  私にとってダンスは、ダンサーとか振付家といった肩書きや職業で縛られるようなものではない、生まれてから死ぬまですべてが身体の表現であり、生きることとダンスは一緒だという生き方ができるはずだし、それをやるのが自分の存在意義だと思っている。言葉で伝えるのは難しいかもしれないが、日常では辛いことと楽しいことが同時に起こっていて、わかりやすいこともわかりにくいことも含めて世界なんだということを、ダンスやワークショップで伝えていきたいと思っている。



左:平成17年度ダン活(モデル事業)金沢市立味噌蔵町小学校でのひとコマ。挨拶替わりに無言で子どもたちの手を握ってリアクションする「握手ダンス」
右:「高校生と共に創るダンス in 岐阜・多治見」では、ダンス部の女子20人のボディ・ランゲージがはじけた舞台をつくり出した(2008年11月〜12月/多治見市文化会館)


●ダン活でのワークショップ

 東京以外での公演の機会を増やしたいと思い、2005年にモデル事業として行われたダン活に参加した。当初はワークショップについてそれほど深く考えていたわけではなかった。しかし、金沢市民芸術村のアウトリーチとして初めて味噌蔵町小学校に行くことになり、子どもたちと向き合うにあたって、今も行っているワークショップのベースになるプログラムを考えた(下記参照)。
  その時にテーマにしたのが、「学校で普段やっていることは全部止めよう。普段やらないことをやろう」ということだった。そして、自分は、先生、お父さん、お母さん、お姉さん、お兄さんのような普段会っている人とは違う、「ありえない大人」という存在であろうと決めた。教壇に立っても挨拶しない。普段の名前は使わず、今日だけのダンサー名を考える。先生は子どもたちを言葉で指導しているので、できるだけ言葉はしゃべらない。「早く行け、静かにしろ」と普段なら先生に怒られるところを、言葉を使わずに誘導して誰も音を立てずに体育館に移動した。できるだけ喋らないで、「五感」「六感」を使って、一挙手一投足を見なければお互いのことがわからない状況をつくった。エイリアンのような大人と出会い、想像できないことが続くと、子どもたちは使ったことのない感覚でいるしかない得体の知れない状況に置かれて、身体のエネルギーも変わってくる。
  身体を動かすことについては、「普段使っていない部分をいかに使わせるか」をテーマにした。手の指にしてもどれだけ開くか限界までやったことはない。日常の動作から入って、普段のエネルギーではできない、普段使ってないところまで使わせる形や動きをやらせて、疲れ果てるまで身体を使わせた。身体を思いっきり使うことと、表現することは切り離してとらえられるものではなく、思いっきりエネルギーを出す、思いっきり叫ぶ、思いっきり笑うなど、ひとりひとりが全身で何かを受け止めたり、発信したりすることすべてが表現だということを伝えた。
  2人が手を繋ぎ、反対側に引っ張り合うことでバランスをとるワークでは、誰とでも同じ力でバランスは取れないということを伝えている。自分と相手の身体の大きさや重さを感じて、「何となく、この人とはここまでやれるな」という「なんとなく」という加減(距離感)を掴むことが必要で、自分が居ることが相手に影響を与えていることも伝えている。そういう2人のバランス(見えない空気のようなもの)をつくったり、壊したりする体験もさせている。
  このほか、ワークショップでは、BGMをかけてみんなが同じテンションで踊るユニゾンも体験させる。ひとりひとりが異なってもいいということと、集団だからできることもあるという両方を伝えるようにしている。


●市民との交流によるご当地ダンスの創作

 ワークショップを発展させたものとして、多治見市文化会館(高校生が対象)、金沢市民芸術村(今年で6年目。3年目に市民のダンスカンパニー「うんダンスぷらうる」発足)、茅ヶ崎市民文化会館(一般オーディション)、深川市文化交流ホールみ・らい(障がい者施設の入所者と職員)、北九州芸術劇場(ダンサー志望者と1カ月レジデンス)などで色々な人と一緒にご当地ダンスをつくってきた。ご当地ダンスでは、集まってきた人を素材として最大限に生かすことをテーマにしている。市場で地元の生きの良い野菜を買ってきて料理をつくる感覚と似ている。見ている人も一体になって当事者になれるような作品づくりを心がけている。
  振付家としては、素人の身体もプロのダンサーの身体もどちらも面白いと思っている。プロの身体は見る人の知的欲求を満たすが、素人の身体でそれは無理としても、プロと同じ存在感で舞台に立てるにはどうすればいいかを考えている。例えば、自分の身体に、普段の寝起きの時の低いテンションの身体をインプットして最大限動かせばどうなるか、というイメージで動きをつくったりしている。作品には、私が参加者からのインスピレーションでつくったシーンと、みんながワークショップでつくったシーンに加えて、即興のシーンも必ず入れている。
  私は、即興をとても大切なものだと思っている。そもそも人生は即興だし、自分で自分の道を切り開くには即興力が必須だ。即興は生きていく力だと思う。自分もミュージシャンとのコラボレーションなどで即興を踊っているが、自分の内側からノリで出る動きと、そこの環境(空間)によって出る動きがあり、「今はノリでしょ」「今は空間でしょ」と、見ている人の感性や知的要素までキャッチしながら、感性と知性の運動をスイッチングしていく。そういうフットワークがとても楽しい。
  こうした即興の手法は、市民の人たちがダンスをやるのにもとても有効だ。それで、ワークショップでも、身体の中に入った砂を動かすことをイメージしながら動いてみるなど、イメージを使えば振付がなくても自由に動きをつくれることを伝えている。


●具体的なワークショップ例
◎握手でダンスをする
無言のまま、参加者一人ずつとユニークな握手していく。日常の動作である握手がダンスにもなることを、自分の身体で伝えていく。
◎ダンサー名を付ける
自分の名前から3文字を取って、ダンサー名を考え、いつもと違う自分になってワークショップを受ける。
◎自分の身体と向き合う
手の指を思いっきり開く。自分の指がどこまで開くか、身体の限界に向き合う。また、親指を中にして10分間強く拳を握った後、思うように手が開かないことを体感し、他人の身体のような自分と向き合う。
◎後ろ向きに歩く
小走り、15分間続けて歩くなど、さまざまな後ろ歩きをする。後ろ向きで歩くという日常生活ではありえないワークを通じて、日常で感じることのない身体感覚、コントロール感覚などを体感する。
◎真似をする
うんさんの動きを真似ながら身体を自由に動かす。素早く動く、ひらひら手を動かす、全力で走る、ドタドタ音を立てて走る、死んだふりをするなど、うんさんの自在な動きを真似ることで、これまで動かしたことのない身体の動きを追体験する。
◎エネルギーを送る・受け取る
ペアになり、ひとりがパートナーにエネルギーを送り、パートナーの身体をコントロールする。両目の間隔に開いた指をパートナーの目の前に突き出して自由に動かし、パートナーはその指の動きから目を離さないようにしゃがんだりのけぞったりしながら身体全体でフォローする。「あっち向いてね」と言いながら指にエネルギーを込めて、パートナーを思った方向に飛ばす。エネルギーを送るというルールの中で、動きは自分で自由につくれることを体感する。
◎バランスを取る
ペアになり、握手をした状態で中腰になり、お互いを引っ張り合いながらバランスをとる。相手のことを考え、身体でコミュニケーションをとらなければバランスが取れないことを体感する。
◎即興で動く
ミミズが20匹身体に入り、身体の中を動いているところをイメージしながら動く。振付がなくても即興で身体を動かせることを体感する。
◎みんなで踊る
BGMをかけて、うんさんの真似をしながら思い切りみんなで踊る。それぞれ違った動きでもテンションが揃えばユニゾンになってみんなで踊れることを体感する。
◎踊ってみせる
見たこともない速さで動いているうんさんの踊りを見せて、動体視力を養い、イメージトレーニングする。


●山田うんプロフィール
1996年から振付家としての活動を開始。2000年に横浜ダンスコレクション・ソロ×デュオコンペティション<若手振付家のための在日フランス大使館賞>を受賞し、渡仏。2002年にダンスカンパニー「Co.山田うん」設立。美術・音楽とのコラボレーションや演劇・オペラの振付などジャンルを超えて活躍。ダン活には平成17(2005)年度のモデル事業から関わり、ダン活支援事業も含めて全国7地域でワークショップと公演を実施。ダン活に限らず、子ども、大人、高齢者、障がい者などさまざまな対象に向けたワークショップを行い、地域住民との交流による創作ダンスを発表するなど、その手腕が高く評価されている。

©恣c洋一

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