地域創造

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制作基礎知識シリーズVol.33
現代ダンス・アウトリーチの基礎知識B
現代ダンス・ワークショップの事例[2]

講師 新井英夫
(ダンスアーティスト/体奏家)

地域創造の「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」では、アウトリーチとしてコンテンポラリーダンスのアーティスト(振付家・ダンサー)を学校や福祉施設等に派遣するワークショップを行っています。身体を使ったコミュニケーション・ゲーム等で身体を動かす楽しさを知るだけでなく、自分の身体と向き合い、「100人の身体には100通りのダンス(表現)がある」「どんな動きもダンスになる」ことを知るコンテンポラリーダンスのワークショップは、アーティストの個性(キャラクター、ダンスに対する考え方、つくり方、表現スタイルなど)によってプログラムの内容が大きく異なります。コンテンポラリーダンスのアウトリーチを効果的に行うには、こうしたアーティストの個性を理解することが必要です。「現代ダンス・アウトリーチの基礎知識B」では、ダン活登録アーティストとしてご協力いただいている新井英夫さんの取り組みについて紹介します。

力を抜いて からだで遊ぶ

●ワークショップの原点

 僕のワークショップの原点のひとつは野口体操という、からだの余計な力を抜く体操との出会い。そこに至るまでのことをお話しすると、まず高校生の時、舞台表現に関わるきっかけがあった。僕は演劇部、落語研究部の両方に入部していた。高1の頃、演劇部のOBが所属していた縁で、何も知らずに観に行ったのが寺山修司の劇団天井桟敷の紀伊国屋ホール公演『レミング』だった(1983年)。演劇と舞踊と美術が一体となった綜合芸術、こういう表現もあるのか!と衝撃を受けた。それがきっかけで87年に高校時代の仲間たちを核に、劇団(のちにパフォーマンス集団)「電気曲馬団」を立ち上げた。テラヤマワールドに影響を受けて始めたから、台詞、物語中心の演劇の枠に収まらない。興味は自然と「身体」に向かった。モダンダンスや舞踏系のいろんなワークシップを受けに行った。そんな頃、山海塾創立メンバーの滑川五郎さんとの出会いがあり、彼の動きへの考え方が、高校時代の演劇部の部室にあった野口体操の本の内容に似ていることに気付いた。出版社に問い合わせると創始者が教室を開いているという。それから野口三千三先生の教室に20代の9年間通うことになった。
  その教室では、余計な力を抜いたからだの可能性や魅力に出会った。新宿で、毎週火曜日の午前中開かれていた教室には、20代〜80代まで、演劇人、格闘家、歌舞伎の血筋の人、リタイアしたサラリーマン、外国人、邦楽の家元…多様な人たちが集まっていた。ふつうこんなバラバラな人たちがいっしょにからだを動かす機会は少ないが、より高く強く速くの量的価値観の対極、力を抜くという方向から動きを探る野口体操は、誰にもひらかれた世界だった。たとえば70代の女性が力を抜いてフワリと逆立ちする。しかもそれが美しい!知識先行で力づくで何とでもなる、と思っていた生意気な若造だった僕は、舞台以外のからだの多様性と美しさを知った。力を抜く方向でからだを探ろう!それから電気曲馬団での稽古は野口体操が中心になった。力を抜いたからだから生まれる即興的な表現、新たな身体表現の地平を劇団の仲間と探っていたこの日々が今の僕の原点になっている。
  もうひとつの原点が劇場外の「まち・人」との出会い。美術史の授業をきっかけに國學院大學在学中からお世話になっていた藤原惠洋先生(現九州大学教授・近代建築史)から「小劇場演劇の枠から飛び出て街に出たらどう?」と提案を受けた。それならと上野公園や世田谷区の住宅街で大道芸をやってみたり、投げ銭形式の野外劇(91〜93年)をさいたま市で試みた。仕事や学校帰りの人たち、子ども、外国人…当時小劇場に足を運ばないような人たちが観劇し投げ銭をしてくれた。パフォーマンスで「まち・人」と繋がり交流が生まれる面白さや気持ち良さ、芸能の原風景をこの時実感した。
  1996年に電気曲馬団を休止し、翌年カナダ・トロントのフリンジフェスティバルfFIDA(Fringe Festival of Independent Dance Artist)でソロダンサーとしてデビューした。このフェスティバルは、ジャンルも有名無名も問わず、応募者の中から抽選で出場者が選ばれるというものだった。だから国立バレエ団のダンサー、インド舞踊家、車椅子のダンサー、同性愛者のダンサー等々何でもあり。「ダンスは言葉を用いない直感的な身体表現、だからこそ多文化・多民族・多様な価値観の壁を越えて市民交流を図りたい」という画期的な市民主導型の催しだった。「いまダンスのワークショップやアウトリーチでできること、やりたいことは何か?」と自問する時、ここから受けた影響も深く大きい。
  野口体操との出会い、小劇場の枠から街に出たこと、カナダでのダンス体験、これらがともに今の僕の活動の原点にある。


親子ワークショップ(Photo:落田伸哉)高齢者施設でのワークショップ(写真提供:NPO芸術資源開発機構(ARDA))
左:親子ワークショップ(Photo:落田伸哉)
右:高齢者施設でのワークショップ(写真提供:NPO芸術資源開発機構(ARDA))


●野口体操とは? そして「対話」のダンスへ

 体育の教師だった野口先生は、戦後すぐ腰を傷めたことから、徹底的に無理のない自然で楽な動き方を自分自身のからだに問い直し、野口体操(一部で愛称こんにゃく体操)と呼ばれる身体メソッドを独創していった。後に東京藝術大学で教鞭をとり、98年の没後も美術・音楽・演劇・舞踊・哲学・医学等幅広い分野に影響を与え続けている。
  野口体操のキーワードをいくつか挙げると、「力を抜く」「お手本は自然界」「自分とは自然の分身」「からだにきく(貞く)」「重さ(重力)が動きの主役、筋力や意識は脇役」…なんてのがある。余計な力を抜くと、からだは重力で「落・流・滑・溶・崩…」といった振る舞いをする。野口体操は、重力に抗う力(筋力)の量的増量ではなく、重力と協調して動く質的感覚を主に養う。具体的には自然の力と人間の力の丁度いいバランス感覚を、個々の「今ここ」のからだから、ユラユラほぐして探っていくのだ。頑なでなく「力を抜く」(ほぐす・ゆるめる・スキマをつくる…)と自分の意識以外の自然・偶然・非意識・他者が入り込む。そこには自ずと「対話」が起こる。力を抜いて、常識のヨロイを一枚脱いだところに起こる自分自身のからだとの「対話」、そしてリラックスしたからだと心から生まれる他者(人、もの、こと)との「対話」だ。ここでいう「対話」は、気の置けない仲間との、目的を限定しない楽しい「おしゃべり」のイメージに近い。ディベートは個々が頑なにぶつかると喧嘩になることがあるけれど、リラックスした関係から生じる「対話」は当人同士が想いもしなかった面白い方向に転回していく。
  野口体操に影響を受けて、僕は力を抜いた「対話」から生まれるダンス作品の創造やワークショップを実践している。覚えるべき振付がなくても、お手本の先生がいなくても、力を抜いた「対話」から、緩やかであり、かつラディカルな「もうひとつのダンス」の可能性があるように思う。


●「ほぐす・つながる・つくる」ワークショップ

 1997年から幼稚園で、2003年から高齢者施設でワークショップをやるようになった。現在は、小中高校生対象、障がいのある人とそうでない人がいっしょに行うもの、社会人対象など幅広い層にワークショップを行っている。しかし、始めのころは全くの手探り状態。やっていくうちにどんな対象にも共通の「流れ」のようなものができてきた。それが、「ほぐす・つながる・つくる」だ(下囲み参照)。僕のワークショップは現場たたき上げで出来たスタイル。いわば参加者のみなさんとの共作なのである。今まで出会ったみなさんに感謝したい。


●ダンスの持つ可能性

 今わたしたちが、コンテンポラリーダンスを観る・ワークショップ体験することは、誰のからだの中にも宿る自然の豊かさといのちの不思議に触れること、自分のからだとの再会、そして他者とのコミュニケーションを言葉以外で発見し分かち合う相互理解の機会にもなるのだと思っている。特に異世代間、障がいある人とそうでない人どうし、国籍・言語・文化背景の違いを持つ者どうしに対して、言葉以前のコミュニケーションが可能なダンスは力を発揮すると確信している。


●「ほぐす・つながる・つくる」ワークショップ 主な動きの例
◎ほぐす
  まず参加者と輪になって座る。一人ずつ簡単な楽器で音を出したり、ポーズをとったりして「言葉以外」の自己紹介。どんな人が集まっているか、互いに知り合うことで、まず場をほぐす。それから野口体操からの「からだほぐし」の動きを対象者の状況に合わせて段階的に行っていく。力を抜くことの気持ち良さ・面白さ・意外性を体験し、いつもの自分のからだが持つ不思議や自然で楽な動きの可能性を味わってもらう導入部分。
【素材からほぐすイメージをもらう】柔らかく揉んだ和紙や、大きなポリ膜などを複数人で持ち丁寧に動かして遊ぶ。波の伝わりや柔らかいというイメージを視覚・聴覚・触覚で体感してもらう。
【寝にょろ】ペアになり、寝ている相手の両足首を優しく持って左右に揺する。寝た姿勢で余計な力が抜けると、からだは液体的にゆらゆら順々に揺れる。立位体前屈のような関節可動範囲の大小でなく、別質の「柔らかさ」を発見し味わう。
【自然の原理に合った動き体験】野口体操のいくつかの動き「上体のぶら下げ」「腕まわし」「尻たたき」などを紹介。力を抜いた時に現れ感じられる重さの流れ(重力)を動きの主エネルギーとして動く。出来る出来ないの競争でなく、あくまで自分自身のからだで遊ぶ感覚で。
◎つながる
  他者(ヒト・もの・こと)と関係をつくることから生まれる即興の可能性を楽しむ。他力とつながると思わぬ展開が起こる!という発展部分。
【鏡ごっこ】人間役と鏡役を決める。人間役の動きを鏡役が真似る。相手がいると普段しないような面白い動きが出てくる。その後お互い役を取り替えっこ。今度は人間役鏡役を決めずに「一緒に同じ動きをする」というルールだけでやってみると、スリリングだけど心地よい。視覚以外の触覚、例えば、目をつぶって互いの手の平を触れあって離れないように動く、というのもあり。即興の基本感覚体験。
【ツタわるからだ】ばらばらに歩きまわる。次の瞬間ファシリテーターが指示したからだの部位(頭・尻・肘・足の裏など)を近くにいる人とくっつけてポーズをつくる。互いのからだを瞬時に支え合う感覚が必要。くっつける箇所を2カ所以上にして人数を増やすと思わぬカタチと笑いが続出。
◎つくる
  「ほぐす」「つながる」を経てグループワークへの発展編。ほぐれたからだと共にアタマも少し使って共同作業でダンスをデザインしてもらう。
【俳句でダンス】5〜6名のグループでまず俳句をひとつ創ってもらう。それをダンス(動き)で共同の表現に。観ていた人たちには、説明なしで何だったか当ててもらう。


●新井英夫プロフィール
1966年埼玉県生まれ。料理と落語好き。87〜96年まで身体表現グループ「電気曲馬団」を主宰、まち・人・風景と交わるパフォーマンスをこの頃から継続中。89〜98年まで野口体操を創始者・野口三千三氏から学び深い影響を受ける。96年にDANCE-LABO KARADAKARAを創立、主宰。体奏家・ダンスアーティストとして、国内外で活動中。音楽家・美術家など他ジャンルアーティストとの国際共同創作も多数。公演活動との両輪として、障がいのある方・乳幼児〜高齢者の方まで幅広い対象に向けた「からだからダンスを発見する」ワークショップを展開中。2006年より山形大学地域教育文化学部非常勤講師。平成21・22年度および23・24年度公共ホール現代ダンス活性化事業登録アーティスト。

Photo: Takayuki Moriki

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