地域創造

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制作基礎知識シリーズVol.33
現代ダンス・アウトリーチの基礎知識C
現代ダンス・ワークショップの事例[3]

講師 北村成美
(なにわのコリオグラファーしげやん)

地域創造の「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」では、アウトリーチとしてコンテンポラリーダンスのアーティスト(振付家・ダンサー)を学校や福祉施設等に派遣したワークショップを行っています。身体を使ったコミュニケーション・ゲーム等で身体を動かす楽しさを知るだけでなく、自分の身体と向き合い、「100人の身体には100通りのダンス(表現)がある」「どんな動きもダンスになる」ことを知るコンテンポラリーダンスのワークショップは、アーティストの個性(キャラクター、ダンスに対する考え方、つくり方、表現スタイルなど)によってプログラムの内容が大きく異なります。コンテンポラリーダンスのアウトリーチを効果的に行うには、こうしたアーティストの個性を理解することが必要です。「現代ダンス・アウトリーチの基礎知識C」では、ダン活登録アーティストとしてご協力いただいた北村成美さんにコミュニティ・ダンスにおける創作を中心に紹介していただきます。

●“北村成美”ができるまで

 人前で何かやるのが好きで、6歳からバレエを習い始めた。高校卒業後、バレエ学校に行くつもりでロンドンに留学した。しかし、学校が面白くなくて、偶然入り直したダンスの名門ラバン・センターで、コンテンポラリーダンスと出会った。
  専門コース(1年)に紛れ込んだものの、私は最年少の20歳で、周りはみんな大人で、一旗揚げるぞという気概に溢れていて、ともかく刺激的な毎日だった。初期のローザスやDV8など、見たことのないものを日替わりで見た。
  今思うと、ばかばかしいものもたくさんあって、友達のダンスに出演者として駆り出された時には、両腕にスプーンやフォークを紐で吊して高速スピンしろとか、ハチャメチャだった。そうしたラバン時代に培われた「お客さんに訴え抜く強い意志があれば何をやってもいい」という価値観は、今も私のベースになっている。
  それと、「魅力的でなければ人はついてこない」ということも叩き込まれた。振付の課題を発表するには学生にダンサーとして協力してもらうしかないのだが、300人の学生が一斉に振付作品をつくる学期末は、魅力的なリハーサルをやらないと誰も協力してくれない。練習スタジオは12室しかないので、食堂やカフェ、野外など空いている場所を使うしかない。そういう環境のなかで、「あるものは何でも使え」「相手の心を掴んでナンボ」というガッツを身に付けた。
  日本に戻り、1993年から99年までグループで作品を発表していたが、自分のやりたい表現ができずに解散。ダンスを辞めるつもりで、自棄になってひとりで舞台に立つことにした。世の中への不満を吐き出し、最後にケツをまくって赤いパンツで「ごめんなさい」と尻文字を書いて踊り納めをしよう。そうやって旅立つつもりで踊りに立ち向かった結果、『i.d.』が生まれた。その時、初めて踊りをつくるということ、舞台に立つということがわかった気がした。
  それで、『i.d.』を30歳になるまでの1年で30回踊ることを決めた。劇場でも人の家でも踊れる所ならどこにでも出掛けて踊り、1週間で12ステージ踊る「ダンスマラソン」をスタートした。自作自演のソロであっても客観的な視点が必要だと考えていたので、実は、私と全く同様に踊れる影武者(シャドー)がいて、その人に振り付けたものを自分に振り移すという創作プロセスを取っている。つまり、“北村成美”はシャドーと一緒にクリエーションした“作品”なので、客席で赤いパンツも見せられたし、観客一人ひとりとの関係をつくることもできた。



左:ダン活でのワークショップ(2008年12月/鹿児島県徳之島町)。東天城中学校全校生徒を対象に行った 撮影:鹿島聖子
右:京都芸術センターのコミュニティダンス事業「Dance 4 All 2011123」では総合演出を手がける 撮影:草本利枝


●「見る」ことで引き出すワークショップ

 ワークショップは「ダンスマラソン」の時に初めて行ったが、最初はお客さんを舞台に上げて、舞台と客席の境目を壊すと面白い、ぐらいの気持ちだった。その後、私がシャドーを通じて自分のダンスを引き出したように、その人のダンスを私がシャドーになって引き出せないか、という視点でやるようになった。
  それが相手を徹底的に見るというワークショップだ。「私を見て、私もめっちゃ見るし。ちょっと見せてえや。見せたいやろ」という感じで、お互いをとことん見る。見ることの熱さを共有できるようになると、そのことが二人の間で動く理由になっていく。
  それから、「こんな私でも追い詰められて『i.d.』が出来たんだから、みんながもっているものはもっと凄いよ」という、火事場の馬鹿力みたいなダンスを繰り出せるような仕掛けをつくって、自分の意志で動きを立ち上がらせるようなワークショップもやっている。例えば、思いっ切り走り回って身体を使い切った後に絶叫するとか、絶対に立ち上がってはダメというような身体的なルール(負荷)を与えてそれに立ち向かわせるとか。そういうなかから踊りの経験を凌駕するような説得力ある動きが生まれる。
  公共ホール現代ダンス活性化事業のアウトリーチで訪れたある中学校でのワークショップは忘れられない。当時は、「しげやんで〜〜す。まずは私の真似をしてください」と言って、私が発見した動きをやってもらい、その後で核心にふれるワークをやっていたが、そこではそれが全く通用しなかった。ひとりの男子生徒に近づくと、よそ者がやってきて勝手なことをするなと、明確な意志をもって拒絶された。それからの時間は、1体1で相手の腕を握り、相手の指示どおりに動いた。腕を捻られたり、放されて床に叩き落とされたり、ギリギリで「繋がれた」とき、「伝えるという努力、そこに向かっていくエネルギーを抜きにしては何も始まらない。あなたと私の1対1の関係はマニュアル化できない。真摯に向き合うしかない」と雷に打たれた気がした。今でもその中学生には心から感謝している。


●1対1のダンスづくり

 雷に打たれた後、初めてまちの人たちと一緒に踊りをつくったのが、公募で集まったお年寄りから子どもまで62人の参加者と別府市中央公民館全体を使って発表した「オープン・ルーム」だった(レター2009年7月号参照)。こちらも、相手もありのまま、1対1で関わりながら朝から晩まで熱に浮かされたようになってつくった。
  それはアウトリーチやダンスの体験・普及といったものではなく、唯一無二のメンバーと自分のレパートリー作品をつくるということだった。その方法が、ワークショップのところでも述べた「1対1のダンスづくり」だ。正面を合わせて向かいあい、相手の「熱」を感じ、引き出し、共有することが基本で、私が振付や動き方を指導しているわけではない。両者の間にその「熱」があれば、離れていても一緒に動けるし、お互いが全く違う動きをすることもできるし、動きは自在に生み出される。
  1対1の関係性が出来た後は、「全体の熱に乗ってみんなで一緒に動く」感覚を養う。離れていても一緒に動く、バラバラに分かれて一緒に跳ねる、バラバラだったところから集まってくるなど、言葉を一切使わずにその場の熱を感じて動いていく。相手をどれだけ深く見ることができるか、他者からどれだけ熱を引き出すことができるか、他者にどれだけ熱を伝えることができるかを繰り返す。
  次に、さらに動きを引き出すための遊び道具として「シチュエーション」や「仕掛け」を与える。そうしてそれを「なりきってやりきる」ことで他者に伝える。「絶対に見逃さないから、もっと見せて」という感じで、そこから生まれる過剰なもの、こぼれ落ちてくるものを私が徹底的に拾い上げてそこに乗っかり、みんなで乗っかっていく。ちょうど口立てで芝居をつくっていく感じによく似ていると思う。
  例えば、4世代60人が参加して京都芸術センターで行った「Dance 4 All 2011123」では、おやじチームが手をピストルの形にして撃ち合いをするシチュエーションをつくったが、ただ撃ち合うのではなく、走り回るとかジャングルジムに登るといった大掛かりな仕掛けを与えたことで、格好良く撃ち合いをしたいというフィクションの世界に没頭できるようになる。そうして過剰な欲求や意志を引き出しながら、本当に弾が相手に届いた瞬間でないと倒れないし、狙いが定まっていないと倒れないというルールを厳密にやっていく。人に習った動きを練習して美しく見せることではなく、自分たちの欲望や意志から繰り出される動きなので、踊りの経験など関係なくどんな人でもやり切れるし、お客さんはそのことを感じ取って感動する。
  こうしたつくり方や考え方は、私がソロのダンスをつくるなかで獲得してきたものと全く同じだ。群舞を振り付けているように見えるかもしれないがそうではなく、一人ひとりに人生があり、その一人ひとりに向き合って引き出したソロの集合体として、私のコミュニティ・ダンス作品があるのだと思う。


●北村成美がダン活で行ったワークショップ例

◎デモンストレーション
『ベサメムーチョ』の曲に乗せて缶コーヒーの飲み方を見せる「Let’s Coffee Dance!」などを見せて、生活の現場で起こるさまざまな動きの中にダンスがあることを伝える。
◎真似っこダンス
「私の真似をしてください」という北村成美について、走ったり、ゴロゴロしたり、ブラブラしたり、北村が参加者の動きの中から発見した動きを即興で真似ているのを真似たりしながら、面白いと思ったことは何でもダンスになることを体験する。最後には、発見した幾つかの動きを構成してオリジナル・ダンスをつくる。
◎しげやん振付の納豆ダンス
「人差し指と中指の間にノリが付いていてネチャネチャしている。遠い所にあるネチャネチャに引っ張られていく。ネチャネチャの糸に身体が巻き付かれる。そのネチャネチャの元である納豆を鷲掴みにして、『あ〜〜〜掴んでしまった〜〜』と後悔する。最後は自分が納豆になって、藁から抜け出し、ネチャネチャから解放されて、サラサラになって去っていく」といった北村のリードで、身体の隅々に起こる感覚を体感する。


●北村成美プロフィール
1993年英国Laban CentreにてProfessional Diploma in Dance Studiesを修了。関西を拠点に振付家・ダンサーとして活動開始。2000年ソロ活動開始。ひとりレビュー作品『i.d.』を発表し、年間30ステージ上演を達成。一週間ひとりで踊り続ける「ダンスマラソン」、ご家庭の居間にダンスをお届けする「ダンスアットホーム」などの自主事業を開始し、公演活動や小中学校、養護施設へのアウトリーチ活動、全国の公共施設でのワークショップなどに取り組む。2010年にソロ活動休止を宣言。平成17・18年度、19・20年度公共ホール現代ダンス活性化事業登録アーティスト。
近年は、地域での活動に精力的に取り組み、京都芸術センター主催による4世代ダンス「Dance 4 All 2011123」とその出演者により結成された「京都フェブラリーズ」との活動、草津市NPO子どもネットワークセンター天気村との協働により設立した「草津ダンス道場」での「こどもサマースクール」「おとなサマースクール」、別府で行われた「オープン・ルーム」の出演者により結成された「別府レッグウオーマーズ」との活動、奈良・たんぽぽの家主催による「親子のためのワークショップ」シリーズ、糸賀一雄記念音楽祭、宇都宮美術館「しげやんとつくる・美術館を巡るダンスの旅」などを継続中。


『i.d.』(2000年)撮影:西園佳代


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