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今月のレポート

大分県
3月号-No.251

平成27年度みんなの芸術文化体験事業


 大分県では、平成26年度からの3年計画で、高齢者施設や障がい者施設、児童養護施設といった福祉の現場にアーティストを派遣し、ワークショップ(WS)を行う「みんなの芸術文化体験事業」をスタート。2年目となる今年度は、片岡祐介(音楽家)と佐久間新(舞踊家)、山猫団、鈴木潤(鍵盤奏者・作曲家)、水内貴英(美術家)という4組のアーティストが12月から3月にかけて、1施設3〜6回、計4施設で事業を実施する。2月6日、大分市内の児童養護施設で行われた山猫団のWSを見学し、事業の狙いや現場の取り組みについて取材した。

 WSに集まった子どもたちは小学3年生から6年生までの11人。2月14日の発表会を含めて毎週土日に計6回(基本は1回120分)のセッションを行う予定で、取材日が3回目だった。
  すっかり顔馴染みになっているファシリテーター(ダンサー・長井江里奈、音楽家・北園優、絵描き・はと)と一緒に、イスラエル音楽のハバナギラに乗せたエキゾチックなダンスでアイスブレイク。発表会での登場の仕方についてアイデアを出しあっているうちに、みんなで窓やテラスから侵入するという冒険が始まった。



上:26年度の児童養護施設でのワークショップ(講師:新井英夫)/下:27年度のワークショップ、成果発表会場の山猫団(左から北園、長井、はと)。壁一面の模造紙に子どもたちがハケで自由にペイントしていった
写真提供:大分県芸術文化振興課

 長井は「これだ!というものが何かひとつあれば生きていけるといった話に真剣に食いついてくる。自分はステージの人間なのでその良さを伝えたいし、みんなで一緒にやることで他人との関係のもち方を自然に経験してもらえれば」と言い、見守っていた施設スタッフは、「非日常的なところで解放され、殻を破り、自分で表現できることの喜びを感じているようだ。発表会で拍手をたくさん浴びて、自分に自信をもたせてあげたい」とそれぞれの立場で子どもたちを思いやっていた。
  この事業では、県が受け入れ先をコーディネートし、アーティスト選定などの企画コーディネートおよび実施をNPO法人BEPPU PROJECT(BP)が担っている。極めて丁寧な内容となっているのが特徴で、県担当者とNPOコーディネーターによる受け入れ施設との打ち合わせ、アーティストを同行した事前下見、施設への企画書の提出、同一対象への複数回セッション、毎セッション後に行われる関係者による振り返りまでがプログラム化されている。
  県がこうした取り組みに着手するきっかけが、昨年4月にオープンした大分県立美術館について検討する「大分県芸術文化ゾーン創造委員会」で、“芸術文化は福祉、産業、教育などと連携すべき”という答申が出されたことだった。それを受けて、2013年に副知事をトップとして関係課長による庁内横断的なプロジェクトチーム(約20名)が発足。部署が連携したさまざまな事業を実現し、例えば今年度は県内の全小学生6万人を美術館に招待したという。
  芸術文化振興課の堀政博さんは、「文化芸術というツールを利用しながら、福祉だけでは解決できない、観光だけでは解決できないことに何らかの光明を見出すことを県は目指している。そう簡単なことではないが、今回のような児童養護施設の場合はこども子育て支援課とも連携しながら事業化してきた。事業を実施するにあたって、事前に社会福祉協議会を通じて細かなニーズを把握するアンケートもさせていただいた。この3年は今後継続する上でのいろいろな課題を洗い出していきたい」と話す。
  BPでは学校へのアーティスト派遣を年間30〜40件行ってきたが、福祉施設へのアプローチは初めて。コーディネーターの古原彩乃さんは、「私たちも経験のあるアーティストから教わりながら3年間でいろいろなモデルをつくりたいと思っている。クローズドなWSだけでなく、参加アーティストによる一般を対象にしたパフォーマンスなども行いながら、こうした取り組みを広めていきたい」と言う。
  威圧感を抱かせないようカジュアルなスポーツウェアで床に座って見守る堀さん、WSの前後でスキンシップをとって信頼関係をつくる時間が必要と話すアーティスト、子どもたちの人間関係を把握している古原さん…実施件数を競うのではなく、誰のための何のための事業なのかを関わる全員が共有するところから始まったプロジェクトが今後どう展開していくのか、県事業のリーディングプロジェクトとして見守りたいと思った。

(坪池栄子)


●平成26年度みんなの芸術文化体験事業
・片岡祐介(高齢者福祉施設「情和園リハビリテーションデイサービス『みもざ』」70分×5回、
・片岡祐介、佐久間新(障がい者福祉施設「すぎのこ村いきいきランド」90分×5回)
・新井英夫(児童養護施設「別府平和園」120分×7回)

●山猫団
伊藤キム+輝く未来、まことクラヴでダンサーとして活躍した長井江里奈が主宰するチーム。メンバーには長井に加え、音楽家、絵描き、造形作家、デザイナー、舞台技術者、舞台監督、衣装作家、写真家が参加し、見世物小屋のような映像・身体表現・音楽・造形が一体となった不思議な世界をクリエート。アーティストと子どもたちが出会う場づくりを行っているNPO法人「芸術家と子どもたち」の活動にも参加。

●NPO法人BEPPU PROJECT
2009年に立ち上げた別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」で知られる、別府を拠点に活動するアートNPO。アートのもつ可能性を社会に広げるさまざまな事業を展開。

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