地域創造

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地域創造レター

News Letter to Arts Crew

10月号-No.282
2018.10.1(毎月1日更新)

今月のニュース

平成30年度「リージョナルシアター事業」報告

 演出家などを公立ホールに派遣し、公立ホール職員と共に地域のニーズを踏まえたアウトリーチやワークショップを企画し、実施する平成30年度リージョナルシアター事業がスタートしました。今年度は西和賀町文化創造館 銀河ホールなど全国9地域で開催します。
 この事業では、演劇活動の楽しみやコミュニケーション力・表現力の向上など、演劇の幅広い可能性についてホール職員の理解を深め、演劇による地域活性化の試みを後押しすることを目的としています。地域での活動実績が豊富な派遣アーティスト5名・アドバイザー2名が参加した東京での研修会(1泊2日)、派遣アーティストが地域に出向く下見(1泊2日)の後、現地で具体的なプログラムを実践する派遣事業(原則3泊4日を2回)が行われます。この枠組みの中でどのような取り組みが行われているのか、今号のレターでは今年度の皮切りとなった銀河ホールおよび鈴鹿市文化会館での事業の模様をご紹介します。

ラジオドラマづくりに挑戦〜銀河ホール

 岩手県西和賀町は秋田との県境に位置し、巨大なダム湖である錦秋湖と温泉のある人口約5,800人の渓谷の町です。地元で演劇をつくり続けてきた劇団ぶどう座の活動や、高齢者演劇による地域づくりで知られた湯田町と沢内村が2005年に合併して誕生しました。2015年まで高齢者演劇の拠点だった銀河ホールでは、若返りと都市との交流を図るべく、新たに演劇や美術を学ぶ学生の合宿を受け入れる「ギンガク(銀河ホール学生演劇合宿事業)」をスタートし、夏冬の年2回開催してきました。
 「ギンガクで滞在する学生と地域との交流がないことが課題になっていました。また、演劇に力を入れてきたホールとして北東北にアーティストを招く窓口になれればと思いました」と、担当の小堀陽平さん。小堀さんは京都のアートNPOでの仕事を経て、地域おこし協力隊として西和賀町に移住し、今は町のアートコーディネーターとして銀河ホールの文化事業全般を担当。今回の派遣アーティストであるごまのはえさんとは旧知の間柄だったこともあり、ギンガクで滞在中の学生が参加したユニークな取り組みが実現しました。
 まず、1回目派遣(7月31日〜8月3日)では、地域と学生の交流を図るため、古い地元の写真を元にお年寄りからインタビューした思い出話を題材にして台本をつくる創作講座を開催。2回目派遣(8月20日〜23日)では、その間に推敲した台本を地元の方々の協力で西和賀の方言に書き換え。ギンガク参加者や演劇経験者のホール職員、ごまのはえさんやアシスタントの俳優2人が出演し、音づくりワークショプで効果音をつけた5本の短編朗読劇を完成。高齢者施設で発表を行うとともに、地元の告知端末でラジオドラマとして放送しました。
 ごまのはえさんは、「アイホール(伊丹市立演劇ホール)のワークショップ研究会で、地域の写真を元に思い出話を聞いて短編をつくる試みをやり、手応えを感じました。今回の西和賀ではお年寄りの個人史や地域性が出ていてとても面白い台本になりました。外から来た学生がヒアリングしたのが良かったのだと思います」と振り返っていました。保存した白菜を雪の中から掘り出している写真から雪の中の嫁入り行列について語り合う母娘の会話を立ち上げた『雪の上の花嫁』や、高校生が蒸気機関車の写真を元に初めて汽車に乗る修学旅行生のドタバタを描いた『日常狂想曲』など、演劇を通じていろいろな人が交流し、方言や地域の物語の豊かさを表現した作品が生まれ、その成果をラジオドラマとして町民が共有するという大きな成果となりました。

西和賀町文化創造館 銀河ホールで行われたワークショップ(音づくりワークショプ)
完成した作品を高齢者施設で発表するごまのはえさんと参加者たち

いろいろなところに物語をみつける〜鈴鹿市文化会館

 おんかつ参加館でもある鈴鹿市文化会館では、「演劇についても力をつけたい」とリージョナルシアター事業への参加を決めました。派遣アーティストは、長崎を拠点にする福田修志さんとアシスタントの俳優2人です。福田さんが定番にしている小学校へのアウトリーチ・プログラム(参加者がカードを引いて登場人物=自分の名前と性格を決め、無作為に選んだ3枚の写真をヒントにみんなで何かを探しに行く物語をつくる)に加え、一般公募のユニークな取り組みが行われました。
 1回目派遣(7月26日〜29日)で行われたのがバックステージツアーです。「バックステージツアーは普段入ることのできない場所を説明するものが多いですが、劇場の裏側はとてもワクワクする空間です。それを感じてほしくて、自分が気になる場所を見つけて秘密のお話を考えるワークショップを企画しました」と福田さん。子どもたちが自在に物語世界を操っていたのに対し、何もイメージが浮かばない大人たち─演劇的なものの見方を通じてお互いの姿を見つめあう貴重な時間になりました。
 また、2回目派遣(9月6日〜9日)では、一般公募のコミュニケーション・ワークショップと、墨として日本で唯一国から伝統工芸品に指定された鈴鹿墨を使ったワークショップが行われました。前者には会社員やOL、店長、教師、市民劇団関係者、高校生など多様な人が参加。さまざまなゲームを通じて、言葉だけで伝達することの難しさ、身体表現や声の重要性について体感しました。もっと鈴鹿墨に親しんでもらいたいという要望を受けて企画されたワークショップでは、まち歩きをしながら物語を感じるところを撮影し、鈴鹿墨を用いて物語とそれにまつわる絵を描きました。何にでも変身できる「ヘン君」とまち歩きをしたという小学3年生や、町民ならみんな知っているという緑色のお堀の秘密についての物語など、墨の香りとともに記憶に残ったワークショップになりました。
 担当の工藤真里奈さんは、「演劇事業を担当したのは初めてですが、演出家は私が不思議に思わないことに疑問をもったりする不思議な存在で、交流することで世界が広がりました。市民にも演出家と出会って、世界観を広げてほしいと思いました」と演劇の可能性に目覚めたようでした。
 参加者からは、「何気なく通り過ぎていた景色からストーリーが生まれることに驚きました。ワークは自分の中から、何か、新しいものを引き出してくれたように思います。素晴らしい発見です」といった感想も聞くことができました。

鈴鹿市立庄内小学校でのアウトリーチ。福田修志さん(左)が子どもたちと一緒に3枚の写真をヒントに物語づくりを行う
鈴鹿墨に親しんでもらいたいという要望を受けて企画されたワークショップ。鈴鹿墨で描く絵の題材を求めてまち歩き

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