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今月のレポート

神奈川県横須賀市

横須賀芸術劇場
よこすか能 観世喜正プロデュース 蝋燭能「唐船」

 能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎がユネスコの無形文化遺産に登録され、公立ホールにおいても古典芸能への取り組みが改めて問われている。そうした中、2005年から観世喜正(*1)をプロデューサーに迎えた普及事業「よこすか能」に取り組んでいるのが横須賀芸術劇場だ。目玉は毎年異なる演目を取り上げ、200本以上の本火の蝋燭を灯して行う蝋燭能で、今年は能『唐とうせん船』(*2)が上演された。12月2日、その模様を取材するとともに、後日、矢来能楽堂でプロデューサーにインタビューを行った。

上:狂言『茶子味梅』(野村万作)
下:蝋燭能『唐船』(観世喜正)
写真提供:横須賀芸術文化財団

よこすか能は、能の代表曲『翁』を謡だけで上演する「神歌」に始まり、プロデューサーによる事前解説、面・装束を着けない仕舞、狂言、そして火入れ式の後の蝋燭能を行うのが定番となっている。普及という点で注目されるのが、シテ方自らが行う心の通った解説だ。
 今回は日中関係がテーマであること、妻子を残して中国から連れてこられた唐人と日本の妻子との悲喜こもごもを描いた能と狂言を上演すること、人間国宝の野村万作が唐人になる『茶ちゃさんばい子味梅』(*3)は至芸であること、中国で買い集めた布地でつくった異国情緒のある装束を着けていること、『唐船』では下手に2本の橋掛かりを設けて日本と唐土、陸と海に見立てる新演出を行うこと、初の字幕付き上演に挑戦することなど、初心者にもリピーターにも届く解説が行われていた。
 蝋燭能では、夜を思わせる青いバックライトが舞台を彩る中、約1,000人の観客を幽玄の世界に誘うように1本、1本蝋燭に火が灯されていく。能が始まると照明が適度に明るくなり、上手に吊るされた電光文字盤に詞章や場面の説明が映し出された。
 そもそも横須賀は、海軍の関係者や物資を扱っていた会社の経営者などに仕舞や謡の愛好家が多く、地元の謡曲連盟や能楽連盟が盛んに活動していた。そこで1987年、横須賀市制80周年を記念して立ち上げたのが、港が見渡せる三笠公園を会場にした「よこすか薪能」だった。94年、横須賀芸術劇場が開館したのを機に会場を大ホールに移し、「よこすか能」に衣替え。2005年、祖父の代から横須賀と所縁のあった観世喜正が正式にプロデューサーに就任。現在の蝋燭能をスタートした。喜正は次のように話す。
 「ここは国立能楽堂の3倍近い規模があり、舞台技術の方と綿密に打ち合わせをした。音響はPAを入れ、蝋燭だけでは暗いので風情は残して必要な照明も入れている。2016年の酒呑童子(身長2丈の鬼)役では、シテ方の背後に6メートルの影を出してもらった。そういうホールならではの趣向もやっている。蝋燭能は、暗いので観客の集中力が増し、音に非常に敏感になる。しかし、古典なのでわからない決まり事や聞き取れないセリフもたくさんある。それで多少のお役に立てればと、今年ついに字幕を入れた。実は、矢来能楽堂では以前からタブレット端末を使って文字情報を流す試みをしてきた。イヤホンガイドは、音漏れするため静寂でなければならない能には向かない。今後の外国人への対応を考えても、タブレットなどで情報を提供することをもっと積極的に行う必要がある。ちなみに来年2月には矢来能楽堂で『土蜘蛛』『紅葉狩』などの見所を構成してナレーションで繋ぐオムニバス能「聖剣伝説」を上演する。海外の観光客に能を観てもらいたいなら、こういう工夫もあっていいのではないか。これまでは師匠が許可してくれないというところで止まっていたが、もちろんそれはベースを守るためには大切なことだが、今では『あ、これもあっていいんじゃない?』と思われるお客様が出てきた。客層が謡や仕舞を習い事にしていた方から少しずつシフトしてきているように思う」
 蝋燭能も12年となり、次の一手として今後は子どもたちへのアプローチを強化したいという。横須賀芸術劇場の事業担当・芦川伸久さんは、「小学生向けの能のワークショップは、定員をオーバーするほど関心が高い。また土地柄、外国人の子どもたちも多く、国際色豊かな場所でもある」と言う。「能の国際化ということではないが、横須賀でそういう種まきができるかもしれない」と笑った観世喜正の言葉が印象的だった。 (編集部:坪池・宇野)

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