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今月のレポート

愛知県碧南市 碧南市藤井達吉現代美術館

「愉しきかな!人生─老当益壮(老いてますます盛ん)の画人たち」

 名古屋駅から電車で1時間ほど。三河湾に面した愛知県碧南市に碧南市藤井達吉現代美術館がある。地元出身で明治から大正、昭和にかけて工芸を芸術の領域まで高め、改革をした藤井達吉のコレクション展示と、年間5本ほどの企画展を開催し、小さいながらも良質な企画で美術界に存在感を放っている。最近では、市外からの来場者も増え、周囲に洒落たレストランができるなどの波及効果も生まれている。開館10年目を迎えた同館を取材した。

 工業地帯と広い農作地をもつ碧南市は財政的にも恵まれている。1999年から「歩いて暮らせる街づくり」を掲げ、美術館建設もその拠点となるよう計画された。だが、市民への説明不足から反対運動が起こるなど波乱の幕開けだった。藤井達吉の研究者であり、愛知県美術館副館長だった木本文平さんは、館長に就任すると、市民と向き合うとともに、専門家としての知見と人脈を活かし、達吉の作品と思想を基軸にした展覧会を実現していった。
 「美術館は存在自体が社会貢献だと思っています。独りよがりの企画ではなく、やはり市民から支持される内容でなければいけない。でも、人集めのイベントになってしまったら美術館である意味がない。
 そのバランスを取っていくのが私たちの仕事なのです」と木本館長。そのバランス感覚は、取材時に開催されていた「愉しきかな!人生」にも発揮されていた。この展覧会は、富山県水墨美術館との共同企画で、明治以降に活躍した日本画家、洋画家のうち90歳を過ぎても旺盛な制作活動を行っていた“ご長寿”作家14 名を紹介するものだ。
 「高齢化社会の現在、美術館は当然この層へのアプローチをしていくべき。彼らと同時代の作品を紹介する回想法のような企画もありますが、これだと他の世代の共感を得にくい。それで、高齢になっても旺盛な制作意欲を発揮されている作家の作品から、生きるエネルギーを得ていただければと考えました」(木本)
 会場には、片岡球子や熊谷守一、猪熊弦一郎など明治以降の巨匠たちの80代、90代の作品を中心に、壮年期の作品も併せて展示。また、入り口を水墨美術館コレクションの富岡鉄斎80代の生命力溢れる水墨画が飾るなど、小規模ながら見応えのある内容になっていた。キャプションには制作時の年齢に併せて、晩年の作家の心情のわかるコメントを掲載。作品とともに“人生”を感じる展覧会になっていた。

展示の様子
写真提供:碧南市藤井達吉現代美術館

 「作品だけで“見ればわかる”という展示は傲慢な姿勢だと思うのです。美術館はあらゆる人に理解していただき、支援していただくのが重要。だから言葉で伝えることも大切にしています。鑑賞者あっての美術館ですから」(木本)
 会期中には、認知症の高齢者とその介護者を対象に対話型鑑賞と作品づくりワークショップを併せた「アートリップ対話型アート鑑賞プログラム」も開催されていた。一般社団法人アーツアライブで学んだ愛知県在住の時直子さんがアーツコンダクター(進行役)となり、展示2 作品をお喋りしながら見た後、創作室で片岡球子86歳の作品《めでたき富士(御殿場にて)》を参考にそれぞれが自分なりの富士山を描く。自信なさげだった参加者も個性的な作品が完成すると、富士山に登った記憶を話し始めるなど大いに刺激されていた。教育普及担当の大長悠子さんは、「対象が通常のワークショップとは異なる層だったので、市の高齢介護課にも協力していただきました。当館では初の試みでしたが、皆さん本当にいい笑顔で帰られて。美術館にも親しみを持っていただいたと思います」と言う。

「アートリップ対話型アート鑑賞プログラム」ワークショップの様子
写真提供:碧南市藤井達吉現代美術館

 「地方都市の小さな美術館ですが、その分来館者の顔が見え、手応えを感じることができる。県立美術館がラグジュアリーカーだとすると、バイクに乗っている気分です(笑)。開館当初から徐々にスタッフを揃え、美術館の基本であるコレクションのために収蔵庫と修復室を増築します。駅前の再整備も計画されており、開館10年で美術館のあるまちとしての姿がようやく見えてきました」と木本館長は感慨深げに語る。
 地元作家の充実したコレクションと思想を基盤に、今生きる人々と繋がり、未来へと継承していく─本来あるべき美術館の姿を見たように思った。( アートジャーナリスト・山下里加)

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