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今月のレポート

大阪府河内長野市 ラブリーホール

奥河内音絵巻2019 vol.5「水とじいちゃん─流れるように生きてきた─」

幻想的な『水とじいちゃん』の舞台 写真1 幻想的な『水とじいちゃん』の舞台 写真2
幻想的な『水とじいちゃん』の舞台
写真提供:河内長野市文化振興財団
(C)関一也

 市民とアーティストが共に楽しみながら奥河内(*1)の魅力を描くステージ「奥河内音絵巻」。“光と音と絵”をテーマとしたシリーズの5作目となる『水とじいちゃん─流れるように生きてきた─』が、9月15日にラブリーホール(河内長野市立文化会館)で披露された。ミュージカルソー(のこぎり)奏者・作曲家のサキタハヂメが芸術監督を務め、プロのクリエイターとホールの音楽教室などで活動する市民奏者・パフォーマー約70人が参加。毎回趣向を変え、今回は美しい水の風景と町のじいちゃんを題材に企画。絵本作家のいぬんこによる4人のじいちゃんキャラクターが舞台に大きく映し出されるなか、奥河内でサンプリングした水の音や地元木材によるオリジナル楽器(*2)、のこぎり、和太鼓などがチャンプルーなサウンドを奏で、ミュージカルスクールの子どもたちや地元の祇園囃子、蟹井神社の高提灯行列まで参加してパフォーマンス。そのすべてを包み込むように酒井敦美による満開の桜などの「光の切り絵」が劇場全体に映し出され、万華鏡の世界に迷い込んだような世界が展開していた。

 ラブリーホールは、近隣ホールとの差別化を図るために展開してきたシンボル事業「河内長野マイタウンオペラ」(1992年〜)と「かわちながの世界民族音楽祭(世民)」(94年〜)で知られる。99年には市民ミュージカルをスタート。2007年からは教室事業に力を入れ、子どもたちのミュージカルスクール、のこぎり音楽教室、フィドル教室、伝統音楽教室、ゴスペルクワイアを通年開講。「奥河内音絵巻」は、それまで海外アーティストの招聘中心だった世民を見直し、2015年から取り組んでいるプロジェクトだ。 河内長野市文化振興財団の相輪研二事業グループリーダーは、「09年から世民の企画運営に市民が参画して見直しを進めていました。出演者でもあり、市民ミュージカルへの楽曲提供、のこぎり音楽教室などに関わっていただいていたサキタさんの提案で、海外から招くというこれまでのベクトルを逆にして、“奥河内のサウンドやビートをもっとみんなで面白がって、世界に発信していこう”と方針転換しました」と振り返る。
 18年まではマルシェやワークショップもあるスタイルで事業を実施。「静寂と木への祈り」と題した第1回では、切り似顔絵師のチャンキー松本を招き、市の面積の7割を占める森林のシンボルとして舞台美術や衣裳に地元木材のかんなくずを活用し、市民に集めてもらったコオロギなどの鳴く虫約3,000匹と共演! 第2回では舞台美術に華道家の片桐功敦を招き、かんなくずの花を舞台や市民約130人の全身に飾ってパフォーマンスを披露。第3回では当初から取り組んでいる地元木材のオリジナル楽器を市民と共に大合奏。そして、昨年の「LUCKY for YOU!」では「仏教とサーカス」と題し、酒井による巨大な龍を象った光の切り絵や花々を小ホールの360度に映し、サキタ率いるバンド「山鳴らすAll Stars」がサーカスや真言宗河内真和会の声明しょうみょうとも競演する体感型イベントを実現した。
 市民奏者として毎年参加してきた渡辺一郎さんは、「今回は高提灯行列でしたが、サキタさんは地域密着度がとてつもなくて、地元の我々が知らないことも取り入れ、毎回、新鮮な発見があります。ホームグラウンドのラブリーホールがあって、音楽の人生を楽しめています」と祭りを心から楽しんでいた。サキタは「ここの自然に出会って、いろんなアイデアで“山を鳴らしたい”と思いました。将来は本物の山を鳴らしたい! 河内長野にはそういう僕のアイデアを面白がってくれる仲間がたくさんいるから、4年前、ここに引っ越しました」と笑う。
 気心が知れているからできることだと思うが、全員での合同練習は3回だけと聞いて驚いた。相輪さんが「サキタさんの言葉を借りれば、奥河内音絵巻は“マッシュアップ”(複数の楽曲を編集してひとつの楽曲にする手法)な舞台なんです」と種明かしをしてくれたように、何度も演奏しているオリジナル曲、教室で練習している曲、奥河内の音や自然や人、民俗芸能など、あらゆるものが投入され、文字どおり光と音と絵で彩る舞台だった。サキタという才能があったればこそだが、これまでにない公立ホールの創作舞台の可能性を感じた。

(ライター・田中健夫)

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