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今月のレポート

兵庫県伊丹市

第32回伊丹市民オペラ定期公演『セヴィリアの理髪師』

 「音楽による多文化理解」と「市民のための音楽広場」としての事業が評価され、平成29年度の地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞したのが伊丹アイフォニックホールだ。1987年、大阪・神戸に近い人口約20万人の伊丹市は「劇場都市」(*1)を宣言。88年には全国に先駆けて自主事業に力を入れる演劇専用のアイホール、91年には音楽専用のアイフォニックホールを開設。個性ある事業を展開してきた。
 アイフォニックでは、民族音楽を紹介する「地球音楽プログラム」を継続するとともに、長年、伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団(*2)をはじめとした市民の音楽愛好家の活動拠点となってきた。そうした市民参加を象徴する取り組みが、今年で32回目を迎えた伊丹市民オペラだ(*3)。3月25日、その最新作『セヴィリアの理髪師』を取材した。

 会場となったのは、アイフォニックから徒歩2〜3分の所にある東リ いたみホール。「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ」首席指揮者としても活躍する加藤完二指揮による息の合った演奏、本格的な美術に衣裳、オーディションにより選ばれた関西を拠点に活動する若手実力派ソリストによるコミカルな歌声、関西歌劇団の井原広樹によるセヴィリア市民や兵士に扮した市民合唱団の躍動感ある演出で、会場を埋めた約1,000人の市民たちを楽しませていた。

『セヴィリアの理髪師』
写真提供:伊丹市民オペラ公演実行委員会

 「若手音楽家育成」「市民参加」を基本に市民オペラがスタートしたのは1985年。オペラの演奏を市民で行うことを目的に、90年には市の全面協力によりシティフィルを結成。小宮正照団長は、「オペラという高い技量が求められる目標があることで切磋琢磨してきた」と言う。
 伊丹市民オペラ公演実行委員会の森川華世副会長は、「ソリストや市民合唱団は基本的に毎回公募によるオーディションで選考している。声楽家にとってオペラの出演機会は決して多くなく、女性ソリストの公募では10数倍になることもある。市民参加が基本なので、初心者でも応募できるように公募前にはイタリア語の発音や音符の読み方など初歩から教える『合唱講座』も行っている」と話す。
 森川は伊丹市少年少女合唱団に参加し、市民オペラを見たことから声楽家の道に進み、音大卒業後に市民オペラでソリストデビューを飾ったという劇場都市の申し子とも言える存在だ。今では、合唱講座の講師として音楽愛好家の裾野を広げている。
 これだけ本格的な市民オペラが長年にわたって継続できたのは、アイフォニックという拠点があったことで市民の立場で音楽を楽しむ森川のような愛好家が何人も育ち、日頃から交流していることが大きい。例えば、同じく実行委員に名前を連ね、広報を担当している村上有紀子もそのひとりだ。「9年前、市民オペラの合唱団の募集を知って、オペラ好きの父が喜ぶと思って応募した。そしたらすっかりハマってしまい、本格的に声楽を学びたくて40歳で音大生になった」と笑う。
 また、市民合唱のベースにもなっている伊丹市コーラスグループ連絡協議会の朝山典子代表幹事は、「伊丹市は合唱の層が厚く、協議会加盟団体だけで28団体ある。アイフォニックでの市民合唱祭という檜舞台が大きな励みになっている。当たり前のように感じているが、伊丹だからこれだけ充実した環境で活動できているのだと思う」と言う。
 太田裕也館長は、「指定管理者制度導入で、特色ある事業だけでなく、市民の音楽活動への支援にも力を注いでいる。中でも、市民オペラやシティフィル、コーラスグループ連絡協議会の事務局を担い、各団体と共に音楽の裾野を広げる活動を展開している。大変だが、アイフォニックの役割として積極的に取り組み、ホールに留まることなく、まちなかにも活動の場を広げていきたい」と言い、すでに決定している今年度のオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』『道化師』の打ち合わせに向かった。
 村上も朝山も、「市民オペラと親の背中を見て育った子どもが音大に通うようになった」と笑う。ご近所さん同士がオペラを嗜む─暮らしと地域と音楽が切り離されない劇場都市の蓄積とはこういうことなのかもしれない。(田中健夫)

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