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今月のレポート

千葉県松戸市

「科学と芸術の丘2019」

 松戸市は人口約49万人。上野から延びるJR常磐線(*1)の駅で数えて5番目(松戸駅)、上野東京ラインの開通により乗り換えなしで東京まで30分余りという近さのベッドタウンだ。1999年に同じ常磐線の取手に東京藝術大学先端芸術表現科が開校し、さまざまな地域アートプロジェクトを実践するようになったのを契機に、松戸に定住するアーティストやクリエーターも増え、そうしたアート・コミュニティによるまちづくりの活動が活発化し、注目を集めている。
 11月17日、その取り組みのひとつであり、昨年、松戸市が地元のアート・コミュニティと共に立ち上げた国際フェスティバル「科学と芸術の丘2019」を取材した。

 近年、最先端の科学技術を使用したメディアアートやバイオアートが話題となっているが、このフェスティバルはそうした作品のあり方にスポットを当てたものだ。会場となったのは明治時代の徳川家の住まいが庭園の中にほぼそのままの形で残っている国指定重要文化財「戸定邸」(水戸藩最後の藩主・徳川昭武の私邸)。江戸と水戸を結ぶ水戸街道の宿場町として栄えた歴史をもつ松戸市の歴史を伺えるこの建物に、世界的なメディアアートの研究機関「アルスエレクトロニカ」による展示や、仮想通貨のお賽銭で光と音のパフォーマンスをする未来のお神輿(市原えつこ+渡井大己《仮想通貨奉納祭》)など、先進的なアート作品が並んでいた。

展示の様子 講演する若宮正子さん
上:展示の様子/下:講演する若宮正子さん ©Hajime Kato

 小学校でプログラミングも習うデジタル・ネイティブ世代の子どもたちは電子音楽のワークショップを楽しみ、世界最高齢84歳のアプリ開発者・若宮正子さんの「人生100年時代の生き方とイノベーション」と題したトークには多くの高齢者が参加していた。科学と芸術がテーマと聞いた時の難しい作品が並ぶのかなという予想は、多世代それぞれが最新のアートに親しむ光景に覆された。
 このフェスティバルの総合ディレクターを務めたのがアーティストでバイオテクノロジー研究者の清水陽子さんだ。ニューヨーク・ブルックリンを拠点とする彼女が日本での活動拠点を探していた時に出会ったのが、松戸で古い建物のリノベーションをしてクリエイターに貸し出すなど一風変わった不動産業を営むomusubi不動産の殿塚建吾さんだった。この二人からフェスティバル企画の提案を受けた松戸市は、実現に向けて動き出す。
 松戸市は、2005年から近隣自治体と共にアートで常磐線沿線のイメージアップを図る「JOBANアートライン」に参加し、若手アーティストを招聘した街中プロジェクトなどを展開。これをきっかけに、日常の生活の営みそのものを文化や芸術ととらえる「暮らしの芸術都市」をコンセプトにしたまちづくりに着手する。転機となったのが、12年にその事業主体として松戸駅周辺14町会が参加した「松戸まちづくり会議」が組織されたことだ。13年には駅前のホテルを改装した民間のアーティスト・イン・レジデンス施設「PARADISE AIR」(*2)も始動する。
 松戸市文化観光国際課課長の白井宏之さんは、「2011年から、民間の『まちづクリエイティブ』(*3)が松戸駅周辺でアーティストやクリエイターとまちづくりを行うプロジェクトを始めていました。彼らに松戸まちづくり会議や市のアーティスト・イン・レジデンス事業の事務局を委託しました。こうした中からomusubi不動産や、現在のPARADISE AIRの事務局を担う(一社)PAIRが派生してきました。約10年を経て文化芸術に関するプレイヤーが増えてきたと感じています。今回のフェスティバルもomusubi不動産の店子であるクリエイターたちが自主的にサポートしてくれています。松戸には宿場町時代に宿代の代わりに作品を残す『一宿一芸』という文化がありました。そういうトランジットポイント、交差点になれればと思っています」と話す。
 行政とクリエイター・アーティストは、時に水と油にもなりうる。しかし、今回のフェスティバルは住民であるアーティストや新しい業態の地元起業家の意欲を行政がサポートするというとてもいい関係が見て取れた。東京の隣町という立地を最大限に活かした「暮らしの芸術都市」という新しいコンセプトは着実に実を結んでいると感じた。

(三田真由美)

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