地域創造

WWW を検索 jafra.or.jp を検索 powered by google

出版物

戻る

今月のレポート

神戸市

神戸アートビレッジセンター「KAVCアートジャック2018」

KAVC外観。アートジャック入場を待つ長蛇の列

 阪神淡路大震災の翌年、1996年に開館し、20年以上にわたって活動してきた神戸アートビレッジセンター(以下、KAVC)が新しい局面を迎えている。KAVCは、今は寂れてしまった大歓楽街・新開地に位置し、当時としては珍しいマンションとの複合で、ホール・ギャラリー・映像シアターのほか、複数のリハーサル室やスタジオ、アトリエを備えた施設だ。当初から若手芸術家のチャレンジと地元の新開地活性化を目的とし、演劇・ダンス、美術、映像、地域活動を展開してきた。
 大阪ガスが設置した扇町ミュージアムスクエア(2003年閉館)を運営していたプラネットワーク(現・大阪ガスビジネスクリエイト)が神戸市の委託で事業を行ってきたが(05年度より指定管理者制に移行)、17年度から神戸市民文化振興財団に交替。新たに神戸市長田区を拠点に活動するNPO法人DANCE BOXのエグゼクティブ・ディレクターで、地域連携にも定評のある大谷燠が館長、「僕を育ててくれたのはKAVC」と公言する演出家のウォーリー木下(*)が舞台芸術プログラム・ディレクターに就任。その新たなチャレンジとして、9月15日、16日に全館を使った「KAVCアートジャック2018」が行われた。

 近年、近隣に新しいマンションが何棟も建設され、街の雰囲気も大きく変容。取材当日には、開場を待ちかねた老若男女の長蛇の列ができていた。 KAVCアートジャックは、全館を若手アーティストに無料で開放する試みで、公募により選ばれたノンジャンルのアーティスト18組がお昼の12時から夜の8時まで館内のいたる所で同時多発的に展示やパフォーマンスを展開(出入り自由で入場料1,000円。整理券が必要なものもある)。決して大きくない施設の中を、小さな子どもからアート好きの若者、近所の住民までがスケジュール表を片手に地下から4階まで、探検するように歩き回っていた。
 非常階段の暗闇とKAVC前の道路で不思議なショートショートを披露した関西の新進劇団・コトリ会議、スモークで満たされたビニールハウスにレーザー光線を照射しながらパフォーマンスを行ったThe Palemen、空き缶やおもちゃなど日用品を用いて不思議なハーモニーを奏でた大所帯非楽器アンサンブルPOLY!、2枚の向かい合ったカメラ付きスクリーンの間でパフォーマンスを行い、リアルタイムに撮影したその映像をディレイさせながら再生してパフォーマンスと絡ませる不思議なダンスを披露した根本しゅん平など。ちなみにヨーロッパが拠点の根本は、「(ディレイさせる)プログラムが僕の振り付け」と言い、インターネットで情報を入手して日本への足がかりとして参加したと話す。

上:根本しゅん平のカメラ付きスクリーン装置で遊ぶ子ども/下:大所帯非楽器アンサンブルPOLY!

 今回の仕掛け人である木下は、「若い頃、KAVCでいろいろな人と出会ったのが今の僕のルーツになっていて、“足を向けて寝られない劇場”。異ジャンルの表現を目の当たりにして成長できたし、自分でもそういうフェスを企画してきた。アートジャックは、今の若いアーティストと出会い、彼らの生の声を聞きたくて企画した。今回やってみて、KAVCがこの20年でアート系の人たちに定着しているのがわかってきたし、新しいアーティストにも出会えた。恩返しとして、ここを若い人たちが見たこともない表現に出会う場にしたい。新開地というまちのノイズや人のざわめきも取り込んだ、KAVCならではのものが生まれれば面白い」と意欲を語る。
 大谷館長は、「KAVCの柱が『若手芸術家の育成』と『地域活性』であることは同じだが、あらゆるジャンルがボーダレスになっている今、これまでの手法を更新して作品を創造するアートセンターになりたい。今まで以上にあらゆる人が集える広場を目指したい」という。すでに美術事業では、30〜40歳代の中堅アーティストを対象にした新しい公募プログラムが始動し、ポールダンサーと美術家のユニットによる新作にも取り組んでいる。一方で、10年続く高校生のための演劇スクールなどは育成事業として継続する。
 新生KAVCが、改めて表現者と街を見つめ、どのように働きかけていくのか。期待をもって見守りたい。(アートジャーナリスト・山下里加)

ページトップへ↑