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今月のレポート

福島県猪苗代町 はじまりの美術館

第2回福島県障がい者芸術作品展「きになる⇆ひょうげん2018」

 2014年、福島県猪苗代町に、障がいのある人の表現を紹介する小さな美術館「はじまりの美術館」が誕生した。この施設は、築140年の奥行き30メートルある蔵をコンバージョンしたもので、社会福祉法人安積愛育園(*1 )が設置・運営。猪苗代スキー場から車で15分の雪に閉ざされたこの小さな美術館で2月2日、第2回福島県障がい者芸術作品展「きになる⇆ひょうげん2018」が開幕した。
 同展は、福島県出身・在住の障がいのある人等を対象に、“あなたが/わたしが「きになる」表現”をテーマに公募したもの。228組から350作品の応募があり、多種多様な作品の多くが館内にぎっしりと展示されていた。審査基準も「きになる」で、審査員の日比野克彦さんは書道の長い巻紙を初めて目にした驚きを書にした『おどろき』をピックアップ。福島県知事賞の本田正さん『森のバター』(緑色の絵と黄色いペイントのある筒3 本の組み合わせでアボカドを表現)、きになる⇆ひょうげん賞の折川知佳さん『無題』(大量のキャラクターが描かれたノート。ゴミ箱からスタッフや家族が集めて出品)など。どの作品も「きになる」ポイント満載で見飽きない。取材に訪れた展覧会初日には、新潟・福島・山形3県の障がいのある人の表現に関わる実践者によるトークイベントも開催された。

「きになる⇆ひょうげん2018」展示風景

 はじまりの美術館は、日本財団が2010年から実施してきたアール・ブリュット支援事業(現在は日本財団DIVERSITY IN THE ARTSに発展*2 )によって整備された展示施設。安積愛育園では、設立当初から障がいのある人の創作活動を支援。09年には生活を活気づけ、社会との繋がりとなるこうした活動を本格的に支援しようと、プロジェクト「unicoウーニコ (イタリア語で唯一の意)」を立ち上げ。そうした取り組みの延長としてはじまりの美術館を開設した。
 福祉施設の元支援員で館長を務める岡部兼芳さんは、「この美術館の目的は、誰もが安心して暮らせるまちづくりです。開館前から、地域連携の仕組みづくりを行い、自主企画展では障がいのあるなしに関係なく作品を展示しています。面白いと思った作品がたまたま障がいのある人がつくったものだった、そんな出会いをしてほしい。そして、その面白さを普段の生活の中に持ち帰っていただければと思っています」と語る。
 美術館と地域の人々が一緒にまちづくりを話し合う“寄り合い”を開館前から行い、今も続けている。美術館では地域のイベントも行われているし、自主企画展でもみんなで楽しむ工夫が行われている。例えば、『あなたが感じていることと、わたしが感じていることは、ちがうかもしれない』展(2017年)では、目で見る鑑賞の後、手で触ってみる鑑賞をするという工夫でさまざまな感じ方があることを地域の人々と一緒に体験したという。
 unicoの活動の中で特記すべきことのひとつが作品のデジタルアーカイブス「unico file」(*3 )だ。つくり手と表現を切り離さず、作家の日常、制作風景も紹介。学芸員の大政愛さんは、「現在、700点程度の作品を掲載しています。作品だけでなく、日々の様子を知らせることができるのは私たち自身が福祉施設を運営していて、創作の現場に近いから。はじまりの美術館を訪れるようにアーカイブを見て、色々な人や作品と出会ってもらえればと思います」と話していた。
 この美術館で福島県障がい者芸術作品展を実施することになった経緯について、福島県障がい福祉課主幹兼副課長の鈴木恵さんは言う。「障がい者の芸術文化活動推進知事連盟の趣旨に賛同し、本県も加盟していたことから、県としても障がい者芸術作品展を実施することにしました。実施にあたっては、障がい者の芸術活動についての専門的な知識が必要であり、そこで委託先としたのがはじまりの美術館です。4月には『障がいのある人もない人も共に暮らしやすい福島県づくり条例』を施行します。県民一人ひとりが、障がいや障がいのある人への理解を深めていただくよう取り組みを進めることが県の役割になります。芸術はそのためにとても有効だと考えています」。
 障がいのある人とその表現活動を地域や社会と繋げる挑戦が小さな美術館で始まっている。

(アートジャーナリスト・山下里加)

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