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今月のレポート

広島市

広島県民文化センター「広島神楽」定期公演

 海外からの観光客に向けたコンテンツとして、また東京2020の文化プログラムとして、祭りや神楽などの豊かな地域文化に注目が集まっている。公立ホールとしてどのような取り組みが考えられるか─その参考例のひとつが、広島県民文化センターのホール神楽定期公演(4月〜12月の毎週水曜夜7時開演、入場料1,000円)だ。
 9月6日、取材に出掛けると、開演1時間前には文化センター前広場に敷かれた緋毛氈の上で呼び込みのパフォーマンスが始まった。文化センターは平和記念公園からも徒歩15分、繁華街の一画にある。通行人や外国人観光客が見守る中、富士神楽団がお囃子を演奏し、和紙と竹でできた大蛇の蛇胴の着付けを公開し、舞を披露。大蛇との記念撮影も行われていた。

 神楽定期公演がスタートしたのは2014年。前年に中国放送傘下のRCC文化センターが指定管理者になってからだ。同社(旧RCC総合企画)は、1999年から2,000席規模の大ホールに約10団体の神楽団が揃う「RCC早春神楽共演大会」を開催してきた。その企画を立ち上げたのが、指定管理者として文化センター初代館長に就任した林秀樹(現・NPO法人広島神楽芸術研究所理事長)だ。
 「神楽の競演大会を観に行ったら、茶髪の若いカップルが同世代の舞手に声援を送るなど盛り上がっていた。市内ではなかなか観ることのできないこうした神楽は舞台公演としても楽しめるのではないかと思った。無料で見られる神楽にチケット代を払う人はいないと言われたが、5,500円で超満員になった。文化センターの指定管理者公募に際し、『広島県の伝統芸能を広める自主事業』として神楽定期公演を提案した」と振り返る。 広島は県内で約300の神楽団が活動する日本有数の神楽どころだ。大きくは5つに分けられ、最もエンターテインメントなのが石見神楽の流れを汲む県北西部の「芸北神楽」と言われている。定期公演ではその芸北神楽約120団体に呼びかけ、20〜30団体が出演している。
 ホール神楽の舞台制作者でもある広島神楽芸術研究所の増田恵二事務局長は「芸北では戦後から地域毎に競演大会が催されるようになり、今年で70回を数えるところもある。伝統的な旧舞を伝承するだけでなく、競演大会の優勝を競う中で演出も磨かれ、テンポも速い新舞が発達していった。それを“スーパー神楽”として市内で上演する神楽団が出てくるなど、独自の文化をつくり上げてきた。こうした創造的伝承が広島神楽の特徴になっている」と言う。

上:エントランスでのデモンストレーション 下:『葛城山(土蜘蛛)』を熱演する富士神楽団

 本番では土蜘蛛や大蛇との派手な立ち回りが見所の『葛城山(土蜘蛛)』『八岐大蛇』が上演されたが、約200人の観客の内、2割が外国人観光客だった。司会による英語混じりの解説、日英併記の無料パンフレット(HPにも英語専用サイトがある)などインバウンド対応に力を入れ、終演後には舞台上で撮影会などの交流も行われていた。定期公演2度目の出演だという富士神楽団の石川泰典代表は、「20歳代の若いメンバーが多く、こうしたホールでの上演機会はとても励みになる」と話していた。
 今年度は、県からの新たな委託事業として、広島県立美術館講堂で外国人を対象にした神楽公演も行われた。神楽事業を担当する砂田充教は「人気神楽団は仕事をしながら厳しい稽古を行い、年間50回以上の公演を行うなど過密状態になっている。後継者育成や神楽ファンの高齢化も課題だ。文化センターとしてできることは、繁華街にある立地を生かした定期公演を通じて観客を増やし、神楽ファンを開拓することしかないと思っている。ここを入り口に県内各地の神楽の本場に足を運んでもらえれば」と言う。
 定期公演の会場で、黄色い揃いのはっぴを身に着けたカープ女子ならぬ“ひろしま神楽女子”と出会った。代表の須美ひろ江は、「神楽を舞っていた祖父の影響で神楽好きになり、14年7月にフェイスブックで広島近郊の神楽女子が集まるコミュニティを立ち上げた。競演大会も追っかけで行っている」と笑顔で、仲間と一緒に楽しそうに呼び込みをしていた。現在、登録メンバーは約250人。こうしたファン・コミュニティを“見える化”できたのも、定期公演のひとつの成果ではないだろうか。(田中健夫)

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