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今月のレポート

横浜市

KAAT神奈川芸術劇場KAATキッズ・プログラム2018 「キッズ・サマー・パーティー in KAAT 高原キャンプ場」

 KAAT神奈川芸術劇場で劇場の可能性を拓く面白い試みが行われた。キッズ・プログラムの一環として企画された「キッズ・サマー・パーティー in KAAT高原キャンプ場」だ。劇場を高原キャンプ場に見立て、野外音楽フェスのような催しを、0歳から楽しめる90分のプログラムとして仕立てた。大人も子どもも引き込むアーティストの力、フィクションをつくり出す劇場の力(音響、照明、舞台美術など)、スタッフのアイデアを総動員して実現した一種のイマーシブ・シアター(*)になっている。7月22日、私も懐中電灯や雨具を持参し、泊りがけのフェスに出かける体裁で劇場に向かった。
 キャンプ場ゲートに模様替えされたロビーには、半パン姿のお父さん、お母さん、リュックを背負った子どもたちが行列。ベビーカーで赤ちゃんと一緒にやってきたお母さんもいる。靴を脱いで人工芝を敷き詰めたスタジオに入ると、スクリーンには高原のイラストが映し出され、動物たちの鳴き声が響き、いくつものテントやステージが設えられていた。みんな思い思いの場所に座り、寝袋を広げる家族もいる。
 しばらくすると賑やかにHei Tanakaのメンバーが登場。コンサート並みに仕込んだスピーカーからはコミカルでノリノリのロックが響き、リアルタイムにオトナ可愛い映像をつくり出すヴィジュアルジョッキーのonnacodomoも加わり、フェス気分にどっぷり。雨乞いの音楽で本水の雨が降り、照明が夕暮れに変わると心地よいスティールパンの演奏が始まり、星がまたたきロケットが宇宙に誘う夜にはザ・ぷーが音楽やコント、パペットをミックスしたパフォーマンスで盛り上げる大騒ぎのパーティーが始まった。

上:「キッズ・サマー・パーティー」会場の様子
下:『不思議の国のアリス』(撮影:宮川舞子)

 プロデューサーの石井宏美さんは「“子どもに開かれた劇場”を目指して当初からキッズ・プログラムに力を入れてきた。でも子どものいる友人に『静かにしていられないから劇場に連れて行くのは無理』と言われ、それなら0 歳から入れて大人も楽しめるものができないかと、パフォーマンス+空間の面白さを楽しんでもらえる企画にした」と言う。
 劇場のノウハウだけでは足りないところをフォローするため、子どものワークショップを展開するNPO法人CANVASと連携。また、他の劇場でもアダプテーションできるよう、人工芝やデザインワークなどのベースを提供し、アーティストに各地でチョイスしてもらうプログラムも準備しているとか。
 このサマー・キャンプだけでなく、KAATでは毎年のように「大人も子どもも満足できるようつくり込んだ」オリジナル作品をプロデュース。バラエティに富んだ舞台にふれてほしいため、ジャンルは固定せず、これまでに演劇『暗いところからやってくる(』12年初演。前川知大作・演出)、ミュージカル『ピノキオ〜または白雪姫の悲劇〜』(13年初演。宮本亜門演出・脚色)、寺村輝夫の人気童話を現代美術家の金氏徹平のインスタレーションで舞台化した『わかったさんのクッキー』(16年初演。岡田利規台本・演出)、ひびのこづえがユニークな造形の衣装を担当したダンス『不思議の国のアリス』(17年初演。森山開次演出・振付・美術)を発表。創造発信に力を入れる公立ホールとして、新しいアーティストが劇場スタッフとの本格的な作品づくりを通じて、子どもという未知の存在(未来)と向き合う機会を提供。コンテンポラリーで創造性溢れる舞台成果を収めてきた。初演した次の年に再演とツアーを行い、今年はアリスを全国17カ所で上演している。
 制作課の職員で演目検討会議を開き、ボトムアップで企画を上げているそうだが、こうしたフラットな企画づくりができるのもキッズ・プログラムだからだろう。実はもうひとつ、技術と制作の壁を越えてスタッフが大切に育んできた事業がある。リアル脱出ゲームを参考にした「KAATthe ツアー」という謎解きをしながら劇場空間を巡るゲームだ。こうしたベースがあるからこそ、新しいチャレンジもできるのだ。
 今回のキッズ・キャンプはそうした力を活かし、物語やテーマを一方的に伝えるのではなく、私が個人的に「広場型演劇」と呼び、世界でイマーシブ・シアターとして注目されている参加者各自が物語をつくれるような世界観のある場になっていた。この可能性をこれからも追求して ほしいと感じた取材だった。 (坪池栄子)

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