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制作基礎知識シリーズVol.45
変わる文化庁と文化政策[2] 暮らしの文化と障害者への取り組み

講師 山名尚志
(株式会社文化科学研究所代表)

 前回(*)概要を説明したとおり、文化庁の京都移転と文化芸術基本法の成立を契機として、我が国の文化行政は大きな転換期を迎えている。その最大のポイントは、文化行政の従来の所管を越えて広がり、文化庁が横串となって総合的な施策推進の調整役としての役割を担うことが文部科学省設置法に示されたことである。 では、こうした文化行政は、具体的には、どのように展開されていくのだろうか。ここでは、実際に動き始めた例として、暮らしの文化の振興と、障害者への取り組みの2つを紹介する。

暮らしの文化への取り組み〜個別活動の支援から文化全体の総合的振興へ

 文化庁では、文化芸術基本法第12条の記載にある「生活文化(茶道、華道、書道、食文化その他の生活に係る文化をいう。)」及び「国民娯楽(囲碁、将棋その他の国民的娯楽をいう。)」や、「人々が文化的な営みを行う上で欠くことが出来ない文化芸術の観点から、祭礼、年中行事などの有形・無形の文化財等」を「暮らしの文化」と定義し、その振興を図る方針を打ち出している。 実は、この「暮らしの文化」と言われる分野については、これまで、関連省庁による個別の支援が行われてきた。例えば、伝統的な食文化については農林水産省が食育の施策を展開してきているし、工芸品については経済産業省製造産業局で振興施策が実施されている。文化庁では1986年から「国民文化祭」において生活文化に関する展示・実演機会を提供するなどの普及支援を行ってきた。こうした個別施策ではなく、文化庁の新たな役割として、この分野の総合的な振興を図ろうというのが地域文化創生本部の「暮らしの文化・アートグループ」の新たな取り組みとなっている。 そのための第一段階として、文化庁では、はじめて網羅的な実態把握をするため2017年から「生活文化等実態把握調査事業」を実施している。17年に実施した調査結果を見ると、茶道・華道・書道・食文化関連団体や囲碁・将棋・昔からの遊びなどの国民娯楽団体の現況は、会員の過半が60歳代以上で、会員数の減少も著しく、生活文化等団体による努力で継承することは限界に近づいている実態が明らかとなった。一方、支援の状況を見ると、各地域独自の暮らしの文化については地方公共団体等による取り組みが進みつつあるものの、若者世代が暮らしの文化等を体験する機会を創出するなど全体として取り組むべき施策も明らかとなった。 こうした状況をどう打開し、伝統的な暮らしの文化の継承と新たな創造を支援していくべきか。文化庁としての施策を開発・実施すると同時に、調整役として各省庁や各地方公共団体で独自に展開されている施策や事業全体を取りまとめ、大きな穴がなく、全体としての方向性が整ったものとして体系化していくことが求められる。加えて、その施策の実施にあたっては、「暮らしの文化の振興」に留まるのではなく、基本法の理念に則り、それを通じて地域の経済や社会にどのように寄与するかについても問われることになる。 新たな分野である「暮らしの文化振興」は、そのまま、文化芸術に関する施策を総合的に推進していくという文化行政の新たな姿を示すためのモデルケースにもなっているのだ。

障害者と文化芸術活動〜福祉と文化をどう繋げていくか

2018年6月、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(以下、障害者文化芸術推進法)が公布された。その目的は、「文化芸術基本法」と「障害者基本法」の2つの法律の理念に基づき、「障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進」し、「障害者の個性と能力の発揮及び社会参加を促進」すること。つまり、障害者による文化芸術活動については、文化行政と福祉行政が連携して推進しようとしているのだ。これに則り、文化芸術基本法と同様、「文化庁、厚生労働省、経済産業省その他の関係行政機関」による「障害者文化芸術活動推進会議」の設置が定められており、省庁を跨がる推進体制が構築されている。19年3月には、同推進会議の下で、文化庁と厚生労働省の共同開催による「障害者文化芸術活動推進有識者会議」の検討を経て、「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本計画」が策定され、公表された。
 同法の、内容面での最大の特徴は、基本理念(第3条 下記参照)、基本施策(第9条〜19条)において、障害者の文化芸術の鑑賞・創造・発表機会の確保・拡大だけでなく、その結果として制作された作品等の評価のための環境整備・権利保護・販売支援・サポート人材の育成にまで踏み込み、国、地方公共団体、関連機関が連携して必要な施策の総合的かつ計画的な推進を図るとしたことだ。障害をプラスの多様性として評価するという同法の考え方及びそれに基づく政策内容は、これまでの文化行政や福祉行政における障害者施策のあり方とは一線を画すものとなっている。
 全く新しい方向性を提示しているだけに、円滑な実現への不安もある。すでに基本計画策定の段階で、有識者会議から「他の文化芸術から分断された『障害者の文化芸術』という分野ができてしまうのではないか」、「特定の評価のみを前提として『芸術上の価値』が決められてしまうのではないか」などの懸念も指摘されている。また、そもそも文化行政と福祉行政という、これまで交わることの少なかった2つの行政領域、施策のあり方をどうすり合わせるかという課題もある。
 障害者文化芸術推進法には、地方公共団体における基本計画の策定(努力義務)についても記載されている。これまで、障害者福祉については、庁内の福祉部局や社会福祉協議会、そこに所属する社会福祉法人などが基本的に担当し、個々人の多様な障害者の状況に向き合ってきた経緯がある。そうした関係性の中に、文化担当セクションとしてどのように分け入っていくことができるのか。単に両者の施策を調整するということで済むのか。それとも、現場組織を含めた体制を再構築し、全く新しい体系をつくって進めていく必要があるのか。その際のお手本はどこにあるのか。
 障害者文化芸術推進法の成立は、国の文化行政だけでなく、地方公共団体の文化行政、福祉行政のあり方にも大きな変更を迫るものになる可能性を孕んでいる。

文化行政の今後〜「総合」の中身をどうつくっていくか

 暮らしの文化にしても、障害者による文化芸術活動にしても、その内容は複数の行政領域に跨がっており、施策や事業の実施にあたっては総合的な調整が必須となる。これは、この2つの事例に限った話ではない。文化財行政については、かねてより観光行政との連携が非常に強く言われてきているし、他の文化芸術分野についても、社会的・経済的価値の推進(他の行政分野に係わる領域への寄与)を考慮して推進していくことが求められている。
  問題は、では具体的に何をどうすれば「総合的に推進」することになるのかということだ。あくまで文化行政上の目標を第一義としつつ、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業などの行政上の目標とすり合わせるにはどんな推進体制で臨むべきか。過渡期とはいえ、予算のあり方、事業のあり方、効果測定まであまりにつかみどころがなく思える。京都に先行移転した新組織・地方文化創生本部はそうした「総合の中身」をどうつくっていくかの最大のトライアルなのだ。
  今後、各地方公共団体の文化セクションも、同じ課題に直面することになる。地域における文化行政の「総合化」とは何か。それぞれの回答が求められている。

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(基本理念)

 第3条 障害者による文化芸術活動の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
1 文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民が障害の有無にかかわらず、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるよう、障害者による文化芸術活動を幅広く促進すること。
2 専門的な教育に基づかずに人々が本来有する創造性が発揮された文化芸術の作品が高い評価を受けており、その中心となっているものが障害者による作品であること等を踏まえ、障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援を強化すること。
3 地域において、障害者が創造する文化芸術の作品等の発表、障害者による文化芸術活動を通じた交流等を促進することにより、住民が心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現に寄与すること。

*本項は文化庁にご協力いただきました。改めてお礼申し上げます。

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