一般社団法人 地域創造

高知県高知市 高知県立美術館製作映像作品『HEAVEN−6−BOX/天国の六つの箱』

 映像作品の製作が館内でもち上がったのは1994年の6月に遡る。翌年2月開催予定の企画展の担当学芸員から「美術館はすでに評価の定まった作品を漫然と並べるのではなく、新しい美術状況に積極的に関与しなければ」と提案があったのである。私は直ちにこの企画に賛同した。というのも私はその年の4月に、美術館に併設されているホール事業の企画を中心に、ソフトを担当する専任職員として配属され、高知県立美術館としての特色を出すためには、映画については上映だけでなく、製作にも乗り出す必要性を感じていたからである。白羽の矢が立った大木裕之は、旅行中に高知が気に入り、高知に移り住んだ東京出身の映像作家である。当館ではホールのお披露目も兼ねた開館記念特別上映会でも撮り下ろし作品の上映をしていたし、「地味だけれども質的に高いものを芸術文化事業の一環として上映する必要がある」との観点から、年6回の企画上映を始めた矢先の提案であった。

 

 予算は展覧会開催費から捻出することや、フィルム料、現像料などの実費以外に監督料を計上すること、展覧会終了後も作品の流通に最大限努力することなどを確認し、製作の依頼が決定した。映画製作という未知の分野に乗り出すことができた要因として、1.財団という小回りのきく組織(当館の管理運営を高知県文化財団が受託)で、意志決定手続きがスピーディだったこと 2.展覧会開催は県からの受託事業ながら、企画内容にはあまり意志介入しないという県の姿勢があったこと 3.館長をはじめとする学芸スタッフに映画芸術への関心と理解があったこと 4.開館以前から映画に関するノウハウやネットワークをもった職員が継続的に配置されてきたこと 5.美術館と映画のリンクという新しい流れが全国的に展開しはじめていたこと、などが挙げられる。

 

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 撮影は9月、10月、11月の3カ月間県下各所で行われた。橋本大二郎高知県知事や中学校音楽部、ロックバンド、前衛美術作家をはじめ、なにげない町の光景や人々の表情、さらには非常に私的な部分に至るまでフィルムに刻まれていった。美術館として公序良俗に反しない限り自由な制作を保証したが、プロデューサーの役割を担った松本教仁学芸員は、展覧会の労力の大半を映画製作に費やすはめになった。

 

 さて、展覧会での上映後、ほどなく海外からのFAXが飛び込みはじめた。我々が思っていた以上に、大木監督は新作が待ち望まれていた作家だったのである。加えて、公立美術館の映画製作が注目されたのであろうか。上映希望の増加によるプリントの焼き増し、宣材(ビデオ、スチル写真)の作成、上映希望の調整、フィルムの保存方法など次々と予算的、労力的難問がもち上がった。費用は館で出すことができたとしても、海外との対応に追われ本来の業務ができない事態となった。そこで、かねてよりこの作品に興味を示していた東京の配給業者に協力を要請し、将来配給を委託することを前提に海外との折衝をお願いした。並行して県内部で配給委託契約の手続きを進めたが、事業としては展覧会への納品で完了した映画作品を、あえて観客の見る機会の確保や、作品や作家生命のために配給委託することの必要性に対する合意形成や、県の予算で作った作品を使って民間業者が配給収入を得るのは不都合などの意見を調整するのに相当の時間を要した。

 

 その間映画は世界を駆け巡り、完成から1年後の96年2月、世界三大映画祭のひとつ、ベルリン国際映画祭でNETPAC賞佳作賞を受賞するに至る。この作品が話題になり高い評価を得るに至った要因として、大木監督が優れた作家であったことが第一であるが、「町おこし映画」「お役所発の映画」といった発想から離れ、学芸員の企画として純粋に美術状況の一端を担うべくクオリティを重視したことに加え、ホールでの上映活動を通じて興行の発想、すなわち見る側のニーズ、感覚をもち、流通を重視したことが挙げられると思う。

(藤田直義・高知県立美術館アートコーディネーター、高知県文化財団企画課長)

 

●『HEAVEN-6-BOX/天国の六つの箱』
高知県立美術館が昨年の2月から3月にかけて開催した企画展「TOSA-TOSA'95 クールの時代/美術のノイズ・ミュージック」の出品作品として製作した大木裕之監督作品。16ミリ。カラー。60分。第46回ベルリン国際映画祭ヤング・フォーラム部門でNETPAC賞(アジアで最も優れた作品に贈られる)佳作賞受賞。「映画の新しい領域を開く驚くべき作品」との評価を得る。バンクーバー国際映画祭、ケララ映画祭(インド)、サンフランシスコ・アジアンアメリカン映画祭招待。今後ニューヨーク、シドニー、ダンケルク、パリ、ロサンジェルスでも上映予定。国内では年内に都内の映画館でロードショー公開予定。

 

地域創造レター 今月のレポート
1996年6月号--No.14

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