一般社団法人 地域創造

大阪府 プラネット・フェスティバル

 大阪市森ノ宮に「プラネット・ステーション」という青少年の自主的な文化活動を支援するためにつくられた大阪府の文化施設がある。ここプラネ(若者たちはこう呼ぶ)では、自主事業として年間約20プログラムほど、10代から20代の若者たちの企画による催しものを「イベントすたっふ」というボランティア組織が実施している。どんな若者たちがどのような取り組みをしているのか、ちょうど開催されていたプラネット・フェスを訪ねてみた。

 

 森ノ宮は大阪の表玄関である梅田から地下鉄で5駅、阪神高速に沿って野外音楽堂のある大阪城公園や日生球場などが並ぶ、旧オフィス街と文化施設が混在した地域である。駅から高速沿いに約10分ほど歩くと、唐突に、壁からまるで3個の脳味噌が飛び出したような椿昇さんのオブジェが見えてくる。こういうと何だが、このプラネ名物のオブジェを見つけるまでは、本当にここに若者たちが集まってくるのだろうかと疑問に思うほど周辺は殺風景で、目に入るのは高速と古いビルの灰色ばかり。

 

 ところがプラネの敷地に1歩入ると10代とおぼしき若者たちがあちこちに溜まっているのだ。特に目立つのが、広場や隣接の青少年会館の前で稽古をしている無名の小劇団の俳優たち。「ここは安いし、プラネットの開放しているスタッフ・ルームなどが自由に使えるので、知る人ぞ知る稽古場のメッカになっています」(総合プロデューサー津村卓)。

 

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 炎天下の広場で小道具まで持ち出して稽古をしていたグループに声をかけると、今年の春、高校を卒業したばかりの高校演劇のOBだという。「さっきまで会館でやってたんですが時間切れ。本番が近いんで追い込みなんです」。話を聞いて驚いたのだが、彼らは毎年春に高校生が中心になって行っているプラネット演劇祭の関係者だという。高校演劇のH地区から学校の枠を越えてやりたい人が集まり演劇祭に参加したが、みんな卒業したのを機にその時のメンバーが中心となって新しく演劇集団よろずやを旗揚げすることにしたのだそうだ。

 

  「私は劇団員じゃなくてお手伝いなんですけど」と宇賀治康子さん18才。「卒業しちゃったから学校は使えないし。ここはプラネットの2階も勝手に使えて助かってます。いろんな人間の集まりなんで集まれる時間とかも限られるし、こういう場所がなかったらどこでどうしていたか想像もつきません」。

 

 彼らが稽古していた『スナフキンの手紙』(作・鴻上尚史)は、演劇記者の経験がある私の目から見てもかなりの水準。ここの存在がいかに大阪のアマチュア文化の裾野を広げ、底上げに繋がっているか、垣間みた気がした。

 

  1階アート・マーケット、2階トーク・ショウ、3階ホールはパフォーマンスとフェスティバルが開催されている会場を覗くと、今年はO-157騒ぎで屋台が出せないせいもあってか、こちらはアート系のオシャレな若者たちの溜まり場になっていた。友達3人で出店し、自分の好きな音楽をかけながら木製のロボットを売っていた男の子の1人は、「京都とかここで定期的に売ってる。これは趣味で、生活が不安定になるから本業にしたいとは思わない」とボソボソ。すぐに向かいで古着を売っている知り合いのところに話しに行ってしまった。

 

 「イベントすたっふ」になって2年目の加納二美子さんにとってここはアート関係の友達をつくるための場所だったという。しかし実際に活動するうちにアート以外の分野の人の話が素直に聞けるようになり、考え方が柔らかくなったそうだ。「今度のフェスではじめて自分の企画で運営・実行までやって、実行レベルで自分の甘さに反省することがたくさんあります」。

 

 プラネットを訪れて、ここが文化活動をやるにつけ、人間的な出会いを求めるにつけ、これまでのしがらみから離れて新しい環境で何かやりたいと思っている若者たちの溜まり場であり、目的なく、評価されることなく何かがやれる文化的なモラトリアムが許された場なのだと思った。「イベントすたっふであれ誰であれ、ここにはお兄さんは必要でも主(ぬし)はいらない」と誰かが言っていたが、本当にその通りである。

(坪池栄子)

 

●プラネット・ステーション
1990年に若者文化の発信基地として大阪府が設置。ユースサービス大阪(財団法人大阪府青少年活動財団)が管理運営を行っている。4階建ての施設には、ホール、スタジオ、ミーティング・ルーム、スタッフ・ルームなどが入る。10代、20代の若者が自由にイベントを企画・プロデュースするという全国でも例のない運営を行っている。

 

●プラネット・フェスティバル
[日程]8月3日、4日
[会場]プラネット・ステーション(大阪府立青少年会館内)
[主催]大阪府・ユースサービス大阪

 

地域創造レター 今月のレポート
1996年9月号--No.17

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