一般社団法人 地域創造

調査研究事業報告 建築の視点から 公立文化施設の現状と見方

建築ジャーナリスト 中崎隆司

 

  本年度の調査研究事業では、「建築からみた芸術環境づくり」と題して、地域の公立文化施設の調査を行っています。そのコーディネーターであるジャーナリストの中崎隆司氏に「公立文化施設の現状と見方」について原稿をお願いしました。

 

 私は次のような2つの視点から建築をみるようにしています。ひとつは都市とどのような関係性をとっているか。もうひとつはどのような新しい空間体験をさせてくれるのか。そしてそれらとは別に楽しみにしているのが、「建築7つ道具」をいくつ使っているのかを探すことです。

 

  「建築7つ道具」とは私が考えたもので、現代の建築によく使われている空間の構成要素のことです。具体的には列柱、コンクリートフレーム(金属フレーム)、大階段、アトリウム(吹き抜け)、ブリッジ、らせん階段、ピラミッド型のガラスの明り取りです。

 

  建築本体である立体とこの建築7つ道具を組み合わせればそれなりの建築をつくることができます。例えば、2つの立体を間隔を置いて並べます。立体は四角でも三角でも、円筒でもなんでもいいのですが、他の建築と差異をつけるためにはなるべく不整形なものがいいようです。それに建築7つ道具を組み合わせます。まず列柱ですが、アプローチや回廊をつくる時の常套手段です。敷地が広ければ長いアプローチに沿って置けばいいですし、そんな余裕がないなら軒下をいかせばいいのです。次にフレームです。コンクリートフレームや金属フレームは立体のまわりに取り付けます。そうするとただの立体が違って見えます。さて内部に入る手前まで来ました。劇的にしたいのなら立体と立体の間に大階段を持ってくることです。代わりにブリッジをかけるとゲートをイメージさせる造形をつくることができます。そして人々を招き入れるエントランスホールはアトリウムが流行です。何層の吹き抜けかが勝負どころで、巨大なアトリウムならさきほどの大階段やブリッジを内部に持ってくることもできます。空間にもっと変化をつけたいと思ったら、らせん階段がいいでしょう。造形的におもしろく、アイキャッチになります。最後の7つ道具であるピラミッド型のガラスの明り取りの使い方はこうです。これは自然光を室内に取り入れるためのものですが、外部から見えるところにつけることがポイントです。無駄に使ってはいけません。

 

 この「建築7つ道具」は私の建築の楽しみ方ですが、人にはそれぞれの建築の楽しみ方があっていいと思います。なぜこのようなことを書いたかといいますと、いま公共文化施設にいちばん必要なことは地方自治体の担当者をはじめ関係者が建築をつくることを楽しむ心を持つことではないかと感じているからです。それは建築を見ることを楽しむことから始まるのではないでしょうか。

 

 毎年数多くのホール・劇場、美術館、博物館といった公共文化施設がつくられています。その大半は「箱物」とやゆされています。建築物は立派だが独自の運営ソフトを持たないもので、単なる貸ホールや貸ギャラリーとしてのみ利用されている、あるいはほとんど利用されていない、10年1日のように展示内容が変わらないなどと言われてきました。このような「箱物」に対して市民やマスコミなどから批判がでました。たぶん行政や公共文化施設の内部でも議論されてきたと思います。最近はその反省から建設までに誰のためのものなのか、何をここで行うのかなどの協議を重ね、独自性の高い自主企画を行っているホール・劇場や美術館、博物館も少しは増えてきています。このようなプロセスを踏むことが重要であることを誰もが認めるようになってきているのです。

 

  ただこのような議論も運営というソフトの問題だけに片寄っているのではないでしょうか。自主企画さえ行われていればそれでいいとは思いません。「箱物」とやゆされている建築そのものの質を問うことが忘れられています。「立派な箱物」には空間やデザインが優れたものとそうでないものがあります。「独自性の高い自主企画を行っている文化施設」にも建築的に空間やデザインが優れているものとそうでないものがあります。

 

 人間は3次元空間のなかに存在するものです。つまり環境は非常に重要なものであり、その質を問う必要があります。特に文化環境、芸術環境はその質を問う必要があります。ところがその点について議論すること、そのための知識と情報を得る機会をつくることがこれまで少なかったのではないでしょうか。公共文化施設の関係者から建築の空間やデザインについての議論をほとんど聞いたことがありません。専門家にまかせておけばいいという雰囲気を感じます。

 

  建築を設計する専門家は建築家です。建築のことは建築家にまかせているわけですが、その能力を最大限発揮できるような状況になっていないのです。指名参加願という制度があります。建築家が発注者の自治体に出し、役所内部で資本金や一級建築士の数、実績などでランクをつけます。これで建築家を知ることができるのでしょうか。建築家についての知識・情報を得るための努力が非常に足りないのではないかと感じます。指名参加願は入札を対になっています。入札で選ばれた、設計料の金額で選ばれた建築家?が設計した建築の質を問うことなどできるのでしょうか。発注者から出された与条件やスペックに応えただけのそれこそ「箱物」ができてしまいます。金額から決められた音楽家の演奏会や芸術家の作品を誰が聞きに行ったり見に行ったりするでしょうか。最近は入札に代わって、プロポーザルやコンペなどの方法を使って設計者選定が行われるようになってきました。しかしそのような選定方法で選ばれた建築家がとまどうのがさきほどの与条件やスペックです。それに従うとやはりどこにでもあるような建築になってしまうのです。またホールや劇場、美術館、博物館で重要な空間は、劇場コンサルタントや博物館コンサルタントなどにまかされているケースが多いのです。建築家が腕をふるうのは外観だけとなってしまいます。

 

  芸術環境としての質を問える公共文化施設をつくるためには、与条件づくりから建築家が参加する方法を考える必要があるのです。つまり建築に入る前に発注者と建築家が十分にコミュニケーションを行う機会をつくることを考えなければならないのです。その議論にはできるだけ多くの分野の人の参加が望まれます。そして異なる分野の人々を合意に導いていく努力が必要なのです。真に求めたい公共文化施設は、建築的に優れたものであり、かつ独自性の高い自主企画を行う能力のある建築=文化運営施設です。

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