一般社団法人 地域創造

平成29年度「邦楽地域活性化事業」報告

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左上:全体研修会(2017年8月9日/熊本県立劇場)
右上:山鹿市立平小城小学校で行われたアウトリーチ(左から本間貴士、多田彩子、澄川武史)
左下:荒尾市立平井小学校で行われたアウトリーチ(左から渡部祐子、本田浩平、田辺しおり)
右下:天草市立浦和小学校で行われたアウトリーチ(左から田嶋謙一、神令、青木琳道)

 邦楽地域活性化事業は、地域創造の支援により都道府県・政令指定都市(もしくは設置したホール)が主催し、市町村ホール等と連携して邦楽の魅力にふれる機会とノウハウを学ぶ機会を提供する事業です(詳細は枠組み参照)。邦楽が義務教育化されるなど、伝統文化への関心が高まっていることから、公立ホールでも一層の取り組みが求められています。今年度は、鈴木健二元館長の時代から、地域の伝統文化の掘り起こしや市町村ホールとのネットワーク構築に取り組んできた熊本県立劇場の主催により、天草市(天草市民センター)、荒尾市(荒尾総合文化センター)、山鹿市(八千代座)で実施されました。今回は尺八奏者3名による珍しいアンサンブルで事業を行った天草市の取り組みをご紹介します。

邦楽の新たなアンサンブルにふれる

平成22年度に次いで今回2度目の主催となる熊本県立劇場の本田恵介事務局長は、「来年度60回を迎える熊本県芸術文化祭のオープニングステージを邦楽で企画したいと考えており、今回の事業がそれに繋がればと思っています。2月の派遣演奏家によるガラコンサートには地元の箏の先生にも出演していただく予定です。この事業が、熊本箏演奏者協会との新たな関係づくりのきっかけになればと思っています」と事業の積極的な活用について話していました。
邦楽地域活性化事業では、演奏家3名がアンサンブルを組んで参加するのが大きな特徴となっています。平成21年度にモデル事業としてスタートしてから昨年度までに、箏や三曲(箏、尺八、三味線)を中心に24組のグループが参加。今年度は、津軽三味線、琵琶、二十五絃箏、横笛といった邦楽器や尺八だけのアンサンブルなどこれまでにない編成で新たな邦楽の魅力にふれる機会となりました。
天草市では、尺八奏者3名(神令、田嶋謙一、青木琳道)が1月11日、12日に小学校3校でアウトリーチを行いましたが、不思議な竹の音に子どもたちは興味津々でした。今年限りで閉校になる浦和小学校では、4・5年生と6年生を対象に実施。姿を見せないままベランダや教室の外から尺八の音を響かせて、風の音を聴くように子どもたちの耳を尺八に集中させたオープニングに始まり、自己紹介を兼ねたソロ演奏、尺八アンサンブルでの『アメージンググレース』、長さの違う尺八の音比べ、尺八の代表曲『鹿の遠音』など、景色や自然をとらえる尺八の魅力を飽きさせることなく伝えていました。
神さんは、「アウトリーチだと3種類の楽器を紹介できる三曲スタイルが多いですが、それだと尺八に特化した魅力を伝えることができません。尺八は唄のない器楽であり、歌詞のない音を純粋に聴いてもらいたくて尺八だけのアンサンブルにしました。今の子どもたちはCDも買わず、ヘッドホンで音楽を聴くことがほとんど。すごく限られた指向性で音をとらえていて、そういう音楽環境は異常だと思います。今回は子どもたちの周りを歩きながら演奏するなどサラウンドで音を聴いてもらう試みも行いましたが、聞こえてくる音に意識をもつことを体感してもらえたのではないでしょうか」と手応えを感じていました。
今年度から天草市民センターの指定管理者になり、今回の事業を担当した一般社団法人天草市芸術文化協会の湯貫登さんは、「天草市は市民の文化活動が盛んで、文化協会はそうした団体による会員組織です(ちなみに私もアマチュア劇団で活動しています!)。熊本県が2013年に立ち上げた『くまもと子ども芸術祭』の第1回開催地になったのをきっかけに、『あまくさ子ども芸術祭』が始まりました。こうした芸術祭や今回のアウトリーチなどにより衰退している伝統文化が子どもたちに普及できればと参加しました。これまで邦楽にはかしこまったイメージがありましたが、今回の事業でとてもハードルが下がりました」と言い、ホールコンサートでは地元箏曲家との共演に挑戦していました。
荒尾市や山鹿市の担当者は「慣れない事業で最初は緊張していましたが、専門家の派遣や研修があって助かりました」「アウトリーチに目を輝かせる子どもたちの姿に感動しました。本当にやってよかったです」と声を揃えていました。
2月4日には、熊本市男女共同参画センターはあもにいで3組が出演するガラコンサートが開催されます。邦楽事業に興味のある近隣ホールの方はぜひご来場ください。

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