一般社団法人 地域創造

平成8年度調査報告書発行 「地域の芸術環境づくりのための基礎調査」より

  地域創造では昨年度、「公共ホール・劇場とボランティアに関する調査」「地域の芸術環境づくりのための基礎調査」「美術館系文化施設の情報システムに関する調査」の3つのテーマで調査研究事業を実施しました。皆様には現地調査やアンケートへのご協力をいただき、本当にありがとうございました。

 

 今回は「地域の芸術環境づくりのための基礎調査」の概要をお伝えするとともに現地調査でうかがった黒部市国際文化センターの事例をご紹介したいと思います。

 

 ●「地域の芸術環境づくりのための基礎調査」

 

 この調査は、魅力的な地域文化施設(※)の整備を行うにあたって、建築・デザインの観点から現状を見直すことを目的に実施されました。

 

 地域文化施設デザインの現状と問題点の調査を進めていくなかで、専門家とのディスカッションと現地視察が行われました。ご協力いただいた専門家の方は、妹島和世氏、内藤廣氏、新居千秋氏(以上、建築家)、榎本文夫氏(インテリアデザイナー)、竹田直樹氏(都市研究家)、中崎隆司氏(建築ジャーナリスト、今回の調査コーディネーター)の6名です。また、現地視察では岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー・マルチメディア工房(岐阜県大垣市)、海の博物館(三重県鳥羽市)、うしぶか海彩館(熊本県牛深市)、黒部市国際文化センター(富山県黒部市)、悠邑ふるさと会館(島根県邑智郡)の計5カ所が対象となりました。

 

 ディスカッションの中で建築家が困っていることとして挙げられたのが、行政に何をつくりたいのか、どう使いたいのかといった施主としての基本的な考えがないままに設計が発注されることが多いということでした。また、現在の建築コンペは基本計画が終わってから行われるために建築家がプログラムづくりに参加できないという指摘もありました。

 

 こうした現状の中で、建築家と地域との協働を模索した事例のひとつが新居千秋氏がプランニングした黒部市国際文化センターです。

 

●黒部市国際文化センター(コラーレ)の場合

 

 黒部市国際文化センターは黒部市の市政40周年記念事業として計画されたものです。当初は40周年記念式典をオープニングで行うことを目指し、基本計画づくりに入りました。

 

 しかし、基本計画を受けて5者の指名プロポーザルの中から設計者に選定された建築家の新居氏が「住民や役所の意見を聞かないと設計できない」と市長に訴え、基本計画をいったん白紙に戻し、「運営企画会議」を開いて地元の人たちとプログラムづくりをするところから再出発。結局、開場予定が1年遅れたという武勇伝をもつ施設です。

 

◎石川幹夫さん(事務局長補佐)

 

 「最初に新居さんから『どういう使い方をしたいかを言ってもらわないと設計はできません』と言われた時は何のことだかわからなくて、何度も説明してもらったそうです。結果、みんなでプログラムづくりからやり直すことになり、地元の人と専門家が一緒に検討する『運営企画会議』を設けました。

 

 正規の会議は4~5回程度ですが、地元だけ、専門家だけなどいろいろな集まりがあったので全体ではものすごい会議数になると思います。市としてはこのプログラムづくりのために2年間で計5000万円の調査費を使いました。

 

 こういう話し合いの中から、『市民によるコラーレ倶楽部が自分たちのやりたいことを実現できるホール』という基本方針が生まれ、オープニングも派手な柿落とし事業はやらずに、住民が少しずつ関わってオープンしていくものにしました。また、事業がない時に鍵がかかっていると気分がよくないという意見が出て、使ってない時の舞台や楽屋を出入り自由にしました。最初の頃は見学者がたくさんいて、今でもカップルが来ています。

 

 ハード面では、ホール数が3つから2つに変わり、クラシック専用の方向からミュージカルまでやれるように幅が広がりました。また、夜遅くまでやっているお店がない、若い男女で行けるところが欲しいという要望から夜10時まで営業している都会的な雰囲気のレストランが生まれました(事業がある時は延長営業)。ちなみにホール自体も夜10時30分まで、土曜日は11時まで営業しています。開館して1年6カ月になりますが、レストランははやってますし、ホールも夜まで開いているのが定着してきたのか、ふらっと訪ねてくる人が増えてきました。

 

 

 ホール事業の成果としては、長い目で見ているので、今の段階で顕著に効果が出ているものというのはありませんが、ボランティアが当初から活動しているとか、市民が企画したコンサートが出てきたりはしています」

 

 こうした建築家と地域との協働の事例をはじめとして、報告書では普段なかなかコミュニケーションできない建築家のナマの声、問題意識に触れていただき、地域を豊かにする空間デザインについて見直す契機にしていただければ幸いです。

 

◎黒部市国際文化センター

 

[開館]95年11月3日
[所在地]富山県黒部市三日市20
[設置者]黒部市
[運営主体]財団法人黒部市国際文化センター
[設計者](株)新居千秋都市建築設計
[総工費]65億9千万円
[施設概要]広い敷地内に大ホール(886席)、ディスコにもなるマルチホール(208席)、能舞台(300席)、展示室、創作室、図書室を併せ持つ複合文化施設。
[住民参加]93年7月より国際文化センター施設運営企画会議を設置、実施設計と同時進行で運営プログラムづくりを行った。94年6月に施設運営企画会議を発展的に解消、そのメンバーを中心にして財団内に運営委員会を設置。95年7月よりコラーレの芸術文化活動を支えるサポーターとして、また将来企画運営にまで参画できる人材育成を目的とした黒部文化倶楽部を設置、開館までに11回のワークショップを実施。96年11月よりコラーレ倶楽部として正式に組織化。現在、会員数約400名。

 

※この調査では、公立のホール、劇場、美術館を「地域文化施設」と称する。

 

●調査報告書の入手方法

 

96年度調査報告書をご希望の方は、340円切手を同封の上、下記までお申し込みください。
〒107 東京都港区赤坂6-1-20 国際新赤坂ビル西館13F
地域創造芸術環境部調査担当

 

●調査研究に関する問い合わせ

 

地域創造芸術環境部調査担当 望月勝司
Tel. 03-5573-4069 Fax. 03-5573-4060

 

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