一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.2 コンサートを実施する② ポピュラー系興行界の仕組み

前回のクラシック興行界の説明に引き続き、今回はポピュラー系(ポップス、ロックその他の「流行曲」)の興行の仕組みについてみていくことにします。

講師 山名尚志(マルチメディア・プロデューサー)

 

●ポピュラー系音楽市場の概要

 

 1996年の国内におけるコンサート市場の総額は1277億円程度、演歌やジャズなどを含めた広義のポピュラー系のコンサートは、その内835億円程度と推計されます。835億という数字は、音楽市場全体からみればごく小さなものにすぎません。小売りベースでの96年のレコード/CD/ミュージックテープの市場総額は8326億円(内9割以上がポピュラー系)、カラオケの売上げは8763億円。放送局からの収入(楽曲使用料や出演料)やアーティスト関連商品の販売を合わせると、ポピュラー系音楽市場全体の売上げ規模は、推定で2兆円を超えると思われます。

 

  そもそも出演料が高額なポピュラー系では、たとえチケットが完売してもコンサート単体で興行を成立させることが難しい構造になっています。それでもコンサートが行われるのは、レコード販売売上げなど他の収入を増やすための、つまりアーティストを育てて多くのファンを獲得するための営業(セールス・プロモーション)として位置づけられているからです。したがって、コンサートで赤字が見込まれる場合は、音楽ビジネスで儲けている企業が「販促費」などの名目で経費を負担するなどして支えるのが通例になっています。

 

 このようにポップス系のコンサートは、巨大な音楽産業の一部に組み込まれたかたちで成立しています。これが、CDの売上げ規模が小さく、ましてカラオケなどとは何の関係もないクラシック音楽興行界の構造とは全く異なる点です。

 

 

●ポピュラー系音楽興行界の構造

 

 国内のポピュラー系アーティストは通常、「プロダクション」に所属しています。プロダクションの仕事は、アーティストのスケジュールを管理し、音楽活動および売り出しの方針を立て、レコード会社との契約業務をこなし、作詞・作曲した作品を音楽出版社に預け、ラジオやテレビへの出演交渉をし、などなどアーティストの音楽活動を包括的にプロデュースしていくことです。渡辺プロやアミューズなど数百社に及ぶこうした音楽プロダクションは、歌謡曲・アイドル系と、ロック・ニューミュージック系の大きく2つに分かれており、前者は社団法人日本音楽事業者協会(音事協)、後者は社団法人音楽制作者連盟(音制連)という業界団体に所属しています。コンサートの企画もプロダクションの重要な仕事の一つです。いつ、どのようなコンサートを、どういった地域でやるべきか。CD発売やテレビ出演との相乗効果を上げるためにはどういう段取りを組まなければならないか。あるいは、いかにレコード会社からお金を引き出すか、などなど。こうした企画およびプロモーターへの営業交渉までがプロダクションの役割となります。

 

 プロダクションが企画し、売り込んできたコンサートを実際に主催するのが全国各地にいる「プロモーター」です。各プロダクションが売り込んできたコンサート企画を1公演いくらで買い取り、会場を押さえ、広告・宣伝を行い、チケットを販売し、機材やスタッフを揃え、舞台を設営し、警備を雇い、客入れ・客出しをし、アーティストをお世話し云々。コンサートに関わるすべての実務を行い、リスクを負い、その代わりチケット収入を得て商売をしていくわけです。こういったキョードー東京、ディスクガレージなどのプロモーターがつくっている業界団体が社団法人全国コンサートツアー事業者協会(ACPC)です。

 

  近年では、音制連系のプロダクションを中心に、コンサート企画を外部のブッキング・エージェンシーと呼ばれる企業に委託することが増えてきました。これは、特に全国ツアーの場合、各地にばらばらにいるプロモーターに営業をかけ、効率よくスケジュールを組んでいくことが、プロダクションにとって負担の大きい作業だったためです。ブッキング・エージェンシーは、会場でのパンフの販売やツアーの広告・宣伝など、従来プロモーターの業務だった分野にも積極的に乗り出してきており、業界の構造を変えつつあります。

 

 

●海外からの招聘

 

 欧米のポピュラー系アーティストはフリーが基本で、個別に、音楽活動全般の面倒をみてくれるマネジャー、レコード会社との契約を代行する音楽専門の弁護士、そしてコンサート契約を代行する音楽エージェンシーと契約しています。したがって、海外のアーティストを招聘するためには、こうした音楽エージェンシーと交渉することになります(日本国内のみのコンサート契約を請け負っている場合もあります)。

 

 こうした交渉を行い、海外からアーティストを招聘してくるのが、ウドーなどの招聘系のプロモーターです。東京や大阪など集客ができる地域では直接コンサートの主催までを行い、それ以外の地域では、地元のプロモーターと提携したり、あるいは興行売りをしてコンサート・ツアーを実施していきます。

 

 

●公共ホールとの関係

 

 ポピュラー系の場合、各地域の民間プロモーターが主催し、公共ホールを貸し小屋として利用する形態が中心になります。公共ホールが自主事業としてポピュラー系のコンサートを行いたい場合には大きく2つの方法があります。一つがプロダクションやブッキング・エージェンシーが全国展開しているツアーの一部をプロモーターを通して買う、もう一つがアオイスタジオやヤマハ音楽振興会など、公共ホール向けに特別なパッケージ商品を開発している一種のエージェンシー企業(先に述べたプロダクションやブッキング・エージェンシーとはまた違う企業の場合が多い)から興行を買うやり方です。どちらの場合にも、コンサートの実務は外の業者が行うので、ホールとしては、経費を払い、広報・宣伝を行うだけで済みます。

 

 もちろん、公共ホールが本当に今流行っているアーティストの公演を次々に企画していきたいということになると、上記のようなやり方では十分な成果は期待できません。実際にそういったアーティストとマネジメントしているプロダクションなり、ブッキング・エージェンシーと、直接交渉していくことが求められるでしょう。その際には、民間のプロモーターと同じだけの実務ノウハウ、マーケティングノウハウをもっていることが前提となることは言うまでもありません。

 

●ポピュラー系興行界の仕組み(図)

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