一般社団法人 地域創造

第1回地方都市オーケストラ・フェスティバル

すみだトリフォニーホールが全国プロ・オーケストラを紹介

 

初年度は5団体が出演、3年にわたり開催

 

 10月26日にオープンしたすみだトリフォニーホールで、来年1月から「第1回地方都市オーケストラ・フェスティバル」が開催されます。これは、東京以外の地域を拠点に活動するプロ・オーケストラ14団体(予定)を今後3年間で3回にわけて招聘するという企画です。初年度の1998年は、群馬交響楽団、山形交響楽団、九州交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、京都市交響楽団の5つのオーケストラが出演します。それぞれに、魅力的なソリストをゲストに迎え、多彩なプログラムを用意しての登場です。このように、同一会場で連続して地方のオーケストラの演奏が楽しめる機会はなかなかなく、今から注目を集めています。

 

 主催はすみだトリフォニーホールと各出演団体で、財団法人地域創造は共催団体として同フェスを支援することになっています。今号では、地方のオーケストラの現状を紹介するとともに、フェスティバルについてご案内したいと思います。

 

 

●地方のオーケストラの現状

 

 現在、社団法人日本オーケストラ連盟に加盟するプロ・オーケストラは23団体で、年間公演数は延べ2846、1団体あたりの平均は124公演となっています。その内、東京以外の地域を拠点に活動する14団体の公演数は延べ1596、平均114。3日に1度は演奏している勘定ですが、多くの団員を抱えるオーケストラは、年間数億~10億円以上の運営経費が必要であり、事業収入だけでは運営できず、在京、地方を問わず外部の補助を受けて運営されているのが現状です。

 

 国や民間の補助が中心の在京オケに対し、地方では、拠点となる市や県が地域の芸術文化振興の核となる団体として、オーケストラを支援してきました。1947年には、初の地方オーケストラとして民間と大阪府、大阪市の補助を受けて関西交響楽団(現大阪フィルハーモニー交響楽団)が誕生、1956年には、自治体直営のオーケストラとして京都市交響楽団が設立され、その後も県および市の補助を受けたオーケストラが各地で誕生しています。最近では、地方公共団体の建設したコンサートホールのソフトを担う団体として、定期演奏会場の協力など、公共ホールと直接的な協力関係を持つ団体も出てきました。

 

 さまざまな公的な支援を背景に、各地方オーケストラは、地域の学校を対象とした音楽教室、巡回コンサートや、ホールとの共同企画など地域の音楽文化の普及と振興のためのプログラムを積極的に展開し、市民に身近なオーケストラとして親しまれています。

 

 そうした地方オーケストラにとって、東京公演は、団員が刺激を受ける貴重な機会ととらえられており、ほとんどの団体が1年から数年に1回は東京で自主公演を行っています。しかし、交通費等経費がかさむため、スポンサーがつかないと経済的にはかなり厳しいのが実状です。

 

 

●地方都市オーケストラ・フェスティバル

 

 これら東京ではなかなか聴く機会のない地方のオーケストラを一挙紹介し、ひろく皆様に知っていただこうというのが今回の「地方都市オーケストラ・フェスティバル」です。

 

 フェスを企画したすみだトリフォニーホールでは、新日本フィルハーモニー交響楽団がフランチャイズ・オーケストラとして地域に根ざした演奏活動を展開していく予定で、すでに、出前コンサート、小中学校オーケストラ鑑賞教室などの活動を開始しています。

 

 すみだトリフォニーホールの西田透さんに、今回のフェスティバルの狙いについてうかがいました。

 

 「地方のオーケストラの場合、実質的なフランチャイズとして、長年ホールや地域に根ざした特徴のある活動を展開しているところが多い。今回、フェスを企画したのは、なかなか聴く機会のない地方オーケストラの演奏活動を紹介すると同時に、そうした地方オーケストラのあり方に我々も学ぼうという側面もあります。

 

 一方、地域で決まった聴衆を相手に演奏しているだけでは、質的な向上には限界があることも事実です。今回のフェスは、東京公演というだけでなく、各オケの競演でお互いが刺激しあえますし、お客様にも聴き比べの楽しみがあります。できれば、こういうフェスティバルを5年、10年と継続して、地方オーケストラ全体の底上げにつなげたいですね。それから東京には各地域の出身者がたくさんいます。そうしたこれまでクラシックにあまり興味のなかったお客さんも、自分の出身地のオケ、ということで気軽にホールに足を運んで欲しいと思っています」。

 

 

●地方のオーケストラの活動~九州交響楽団の場合

 

 今年の出演団体の1つである九州交響楽団は、1953年創立。九州唯一のプロ・オーケストラとして、活動エリアを九州地区に絞った独自の活動を行っています。現在、音楽監督は石丸寛、常任指揮者は山下一史、楽団員は73人。九響の96年度の活動を例にとって、地方オーケストラの活動の実際を紹介しましょう。

 

 九響は本拠地を福岡市におき、福岡市のほか、北九州市、福岡県、日本芸術文化振興会、地元企業などから幅広く出資を受けて活動しています。収入に占める地方公共団体からの補助金総額は全体の経費の約45パーセントを占めています。練習施設、定期演奏会場などで特に公共ホールとの協力関係はなく、アクロス福岡、福岡サンパレスを借りて定期演奏会を行っています。

 

 次に、公演の内容をみると、自主公演が49公演、委託公演が65公演、年間114回の公演を実施しています。自主公演は、自らの主催公演で、96年度の内訳は定期演奏会10回、巡回演奏会10回、移動音楽教室25回、特別演奏会4回となっています。

 

 定期演奏会は、地元ファンを対象に開催される、言わばホームゲーム。どの団体も力のはいったプログラムを披露しますが、九州交響楽団も華やかなソリストを招きファンの期待に応えるコンサートを工夫しています。巡回演奏会では、新しい聴衆の開拓に力点がおかれ、福岡県内の6会場での公演に加え、福岡市中心部で「天神でクラシック」と題したコンサートシリーズを開催。「タイムスリップ200年」というテーマでハイドンほかを特集したり、ユニークな企画で好評を得ています。また、福岡県からの補助金を背景に、自主公演として福岡県内25会場での移動音楽教室に取り組み、低料金での学校コンサートを実現しています。

 

 地方オケの事業収入の中心を占めているのは、地方公共団体からの依頼公演や、企業の冠による協賛公演です。九響では委託先との共同企画も多く、九州ならではのユニークな公演を多く行っています。九州電力が主催の「親子ふれあいコンサート」は、九州各地の小中高校生のソリストと九響が共演するコンサート。また、福岡市が「アジアに開かれた都市」として毎年9月に開催している「アジアマンス」では、福岡市との共同企画でアジア各国のオーケストラ奏者を招き、九響と合同で「アジア・フレンドリーコンサート」を開催、アジアマンスのオープニングを飾るコンサートとして市民に親しまれています。

 

 今回の地方都市オーケストラフェスティバルについて、事務局次長の石川純一さんは「こうしたフェスティバルが開催されることで、各地方オーケストラの特徴、在京のオケにはないよさが分かってもらえると思います。九響は、よく南国らしく、熱のこもった情熱的な演奏だと言われるんですが、そうした九州交響楽団の演奏を東京の皆さんにも味わってほしいですね」

 

1996年度 社団法人日本オーケストラ連盟加盟団体公演回数一覧表

31let02_1.gif

 

 

●第1回地方都市オーケストラ・フェスティバル
○群馬交響楽団 1月18日(日)
指揮=高関健/ソプラノ=豊田喜代美ほか
プッチーニ:歌劇「トスカ」(演奏会形式)

 

○山形交響楽団 1月25日(日)
指揮=村川千秋/ヴァイオリン=千住真理子
ノルトグレーン:山形交響楽団委嘱作品
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47
シベリウス:交響曲第4番イ短調 作品63

 

○九州交響楽団 2月14日(土)
指揮=石丸寛/ヴァイオリン=豊嶋泰嗣
チャイコフスキー:スラブ行進曲
チャイコフスキー:弦楽セレナードより 第3楽章"エレジー"
グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品82
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調 作品47

 

○関西フィルハーモニー管弦楽団 3月1日(日)
指揮=ウリ・マイヤー/ピアノ=有森博
パガニーニ:常動曲 作品11
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調 作品27

 

○京都市交響楽団 3月8日(日)
指揮=井上道義/ソプラノ=中丸三千繪
R.シュトラウス:4つの最後の歌
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

 

●入場料
各1回券:S4,000円/A,3000円/B2,000円
5回セット券:S16,000円/A12,000円/B8,000円

カテゴリー