一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズ 番外編 美術館情報システムの現状と課題

電子博物館を考えるシンポジウム開催

 

 デジタル通信技術の発達により美術館にも変革の波が押し寄せています。評価の高い作品を収集するだけでなく、画像データの蓄積やオンラインでの情報公開が求められるなど、美術館の役割そのものが見直されているといっても過言ではありません。関連するシンポジウムが各地で開催されるなど関心も高くなっており、今回は「制作基礎知識シリーズ番外編」として美術館をめぐる情報システムの現状と課題を整理してみました。

 

●収蔵品データベース構築の現状

 

 ここ数年、美術館でもコンピュータの導入が進み、収蔵品管理に使用する館が増えています。財団法人地域創造が1996年度に実施した調査(美術館系文化施設の情報システムに関する調査)では、回答のあった館のうち、23.8パーセントが何らかのかたちでコンピュータによる収蔵品管理を行っています。

 

 最近では、画像の取り込みが容易になったことから、画像データの蓄積も積極的に行われています。同報告書によると、96年にリニューアルオープンした広島県立美術館では、収蔵品約3400点の内、2500点ほどの画像データが蓄積されています。95年にオープンした東京都現代美術館では、収蔵品以外の作品も含め、4200点の画像データと、9000点の作品文字情報が蓄積されています。

 

 国立西洋美術館では、94年から本格的な美術館情報システムの構築に着手し、国際的な研究利用や海外との情報交換が可能になるよう、アメリカのジャン・ポール・ゲティ財団が開発した美術人名ユニオン・リスト(UNION LIST OF ARTIST NAMES)などのシソーラス(*)にのっとったデータベースの整備が行われています。現在、収蔵作品2200点の絵画・彫刻データの画像と主要項目データの収録が完了しています。

 

 しかし、地方の多くの美術館の場合、専門的な人材の不足や、財源の不足などから、本格的なデータベース化には着手できない館が多いのが現状です。

 

*シソーラス
データの中から抽出したキーワードを基に,用語同士の関連付けを行った情報検索用の索引。シソーラス中に登録されている用語については,その同義語,下位語,関連語を含めてデータベースを検索することができる。

 

 

●インターネットでの美術館の情報発信

 

 最近のインターネットの急速な普及にともない、ホームページを開設し、インターネットを通じて情報を発信する美術館も増えてきました。当初は、美術館の施設や、展覧会情報などのインフォメーションが中心でしたが、収蔵作品の公開を行っているところも増えてきました。

 

 原美術館のホームページに設けられている「3DWalkthru」のコーナーでは、インスタレーションを含めた収蔵作品を紹介するため、原美術館や分館のハラミュージアムアークの建物を三次元で再現し、バーチャル美術館の中をユーザーが自由に動き回って鑑賞できるようになっています。国立西洋美術館(http://www.nmwa.go.jp/)では、美術館情報システムからのデータを転用し、ホームページ上で主要な収蔵作品を公開しており、現在32点の作品を見ることができます。このほかにも、山梨県立美術館、静岡県立美術館などが作品の公開を行っています。

 

 こうした動きを受けて、現在、文化庁では、各美術館がインターネットで公開した作品についての共通索引を作成し、文化庁の提供するホームページで一括して検索できる「文化財情報システム・共通索引システム」を提案しており、10月21日には横浜で全国の美術館に協力を呼びかけるシンポジウムを開催しました。

 

●電子情報のネットワーク

 

 美術館をめぐるこうした情報の蓄積と発信が進む中で、各館で蓄積された電子情報をオンラインで結び、時間や場所の制約を受けずにどこからでもアクセスできる「電子博物館」が現実味を帯びてきました。

 

 しかし、著作権問題をはじめ共通の分類体系づくりなど解決しなければならない課題が数多くあります。以下、国立西洋美術館の情報システムを構築されている波多野宏之主任研究官のお話をもとに、この2つの問題について現状と課題をまとめました。

 

 

●分類と索引

 

 各館が独自のルールで蓄積した情報を、単純にネットワークでつないだたけでは、精度の高い検索は望めません。基本的データの表記を例にとると、例えば、作家名では、同一作家でも、俗称・通称・略称など何通りも表記の仕方がある場合があります。技法についても、油絵、油彩、オイルペインティング・・・と何通りも表記の仕方があります。より精度の高い検索をかけるには、こうした情報が比較対照できるシソーラスが必要となってきます。

 

 現在、欧米の作品に関しては前述の美術人名ユニオン・リストや、地名シソーラス、美術・建築シソーラスなどシソーラスが開発されており、一部がフロッピーディスクの形で購入できます。また、さらに詳しい検索が可能なデータベースを想定する場合、作品の内容についての分類も、各館が共通のルールに則って行い、検索ができるようにすることが課題です。ヨーロッパでは、オランダで開発された、ICONCLASSなどの画像分類ツールが開発されていて、いくつかのデータベースに応用されています。

 

 日本では、美術作品についてのシソーラスの開発や分類法の開発は不十分で、特に東洋美術、日本美術に関しては統一的なシソーラスがありません。シソーラスや、美術品の分類ルールについては、これから議論を重ねて整備していかなくてはならない、というのが現状です。

 

 

●著作権

 

 絵画を写真、映像などで複製しようとする場合、著作権の許諾を得なくてはいけません。現在の著作権法では、当然著作者の死後50年まで著作権が保護されますから、現代美術のほとんどは著作権がかかることになります。

 

 著作権のある作品は、著作権者の許諾を得る必要があります。どういう形(大きさ、精度)でデジタル化するのか、期間など具体的に話をした上で、デジタル化し、公開することになります。ただし、インターネットで公開されるデジタル映像は、誰でも容易にダウンロードし、加工することが可能なため、美術館が収蔵する作品が自由に加工されて、悪用されることも考えられます。そうしたトラブルを想定して、現在、インターネットで公開している公立館の場合、著作権が切れた作品に限って公開している事例がほとんどです。

 

 一方、著作権の切れた作品の扱いをどうするのかというのも問題になっています。現在、収蔵作品のデジタル映像について、美術館の責任と権利については明確なルールがありません。波多野さんによれば、「収蔵作品については、美術館がしかるべき機器をつかって、しかるべきフォーマットでデジタル化する責任があると同時に、デジタル化した権利というのは保護されるべきだと思います。画像データの中に、デジタル化クレジット、そのデータをダウンロードする際の問い合わせ先などを埋め込む技術なども開発されていますので、そうした技術を活用し、デジタル画像の取り扱いに関するしっかりとしたルールつくる必要があります」。

 

 しかし、そうしたルールのない現状を踏まえ、意図的に高精細の画像は公開しない館も多く、また、国立西洋美術館では、インターネットで公開している収蔵作品の画像の下に<Copyright (c) 1997 国立西洋美術館>のマークをつけるなど、各館が独自の対策をとっています。

 

 

 著作権の問題やシソーラスの開発などは美術館単館では解決できないため、現在、こうした問題を議論するさまざまな研究会やフォーラムが活発に開催されています。12月18日、19日にも大阪府吹田市の国立民族学博物館で「電子博物館シンポジウム」が開催されます。美術館・博物館の情報とネットワークについて、総合的な議論が行われる予定です。

 

●電子博物館シンポジウム
[日程]12月18日、19日
[会場]国立民族博物館(大阪府吹田市千里万博公園内)
[主催]アート・ドキュメンテーション研究会、情報処理学会(人文科学とコンピュータ研究会)、記録管理学会
[プログラム]
12月18日(木)
基調講演「電子博物館のゆくえと民博における取り組み」杉田繁治(国立民俗博物館)
研究発表1~4
12月9日(金)
研究発表5
パネルディスカッション「電子博物館はどこへゆくー360度の視点からー」
[問い合わせ]
〒577 大阪府東大阪市小若江3-4-1 近畿大学短期大学部 田窪直規 Tel. 06-721-2332(代) Fax. 06-728-7546
E-mail:tntakubo@cced.kindai.ac.jp

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