一般社団法人 地域創造

富山県利賀村 樹恩ネットワーク 「廃校を問い・過疎を考え・未来をデザインする」

 1982年に日本で初めての国際芸術祭、利賀フェスティバルがスタートしてから7年間、夏には利賀村に取材に行くのが恒例だった。初めて村を訪れた年、街灯は1本もなく、漆黒の闇の中で欅(けやき)に蛍が群がり、まるでクリスマスツリーのようだった。樹の名前が思い出せなくて、常宿にしていた「七」の親父さんに電話したら、「あんな光景を見たのはあの時だけだったよ」と元気な声が返ってきた。

 

 久々の利賀は、JR越中八尾駅から山道を車で約1時間、村営バスは1日2便と、アクセスの悪さは相変わらずだったが、道路や新しい施設が次々に整備され、今回もトラックがやたらと目についた。「八尾から利賀へ抜ける栃折峠のトンネルをつくるのに道をつけとるがや」とタクシーの運転手さん。利賀フェスで全国区になったこの村では、今も、過疎地の攻防戦が続いているのだ。

 

 今回の利賀行は、村が廃校を改装し、大学生協と組んでこの4月からはじめた研修宿泊施設「Starforest 利賀」を会場にしたシンポジウム「廃校を問い・過疎を考え・未来をデザインする」に出席するのが目的だった。少子化に伴い、過疎地だけでなく町中にも廃校が増え、京都の明倫小学校が若手アーティストの稽古場として試験的に運営されているように、拠点が欲しいアーティストと廃校の関わりが深くなっているように思う。こうした傾向はこれから強くなっていくのではないか、今、廃校をめぐってどのような人々がどんな議論をしているのか。それを確かめたい――。

 

 会期は10月29日、30日。地域の実践者約70名が集まったシンポジウムでは、どこにいても情報が入手でき、発信できる新しい時代の過疎の捉え方について問題提起された後、各地の事例報告とディスカッションが行われた。

 

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 約2億円の改装費を利賀村が負担し、学区の住民ほとんど(約100戸)と大学生協北陸事業部が出資した組合が運営する「Starforest 利賀」、120年間の歴史を持ちながら96年に休校になった高知県大正町の中津川小学校をインターネットでシミュレーションした「電脳中津川小学校」(生徒を募り、ネット授業を行い、実際に町まで行くスクーリングもある)、99年4月に子どもたちの体験型宿泊施設としてオープンが予定されている高知県西土佐村の「四万十楽舎」、早稲田演劇博物館館長の伝統芸能・演劇関係の蔵書の寄贈を受けて開設された図書館&研修所の「猿八山舎」(新潟県佐渡畑野町)など。直接、アートに関わる施設は少なかったものの、廃校が地域に新しく開け放された“窓”となり、これまで地域になかった文化や価値観や人材を受け入れ、そこからさまざまな交流が生まれる可能性を強く感じた。

 

 今回のシンポジウムを主催し、こうした活動を支援しているのが、大学生協の支援を受け、過疎地と学生を結んだ新しい地域づくりを模索している非営利団体「樹恩ネットワーク」(欄外参照)である。全国大学生協連専務理事でこのネットワークの仕掛人である小林正美さんは、「生協が、学生に安く商品を提供するというディスカウンターとしての役割だけに限定される時代は終わった。阪神・淡路大震災の時、学生ボランティアの支援と被災した学生のための仮設学生寮の建設を行い、場ときっかけがあれば何かやりたい学生がたくさんいるということと、これからの生協は大学に閉じこもらず地域全体と一緒に考えて行動すべきだということを実感した。生協として、どういう自分になりたいのかわからずにいる学生の人間形成を支援する事業がやりたい、そこにこれからの生協の存在意義がある。そのためのフィールドとして地域と学生が共助するネットワークをつくろうと、樹恩を立ち上げた」という。

 

  廃校を通して仲間が生まれ、廃校ができて逆に地域が活性化する――国際交流員としてニュージーランドから利賀村役場に派遣されているクリス・ボーマンさんが「過疎は世界中どこにでもある。問題がどこにあるかはわかっていても、そう簡単に解決できることではない」と言っていたが、仲間ができれば、難問に取り組む時も淋しくはない。

(坪池栄子)

 

●「廃校を問い・過疎を考え・未来をデザインする」
[日程]10月29日、30日
[会場]富山県東砺波郡・Starforest利賀
[主催]樹恩ネットワーク(東京都杉並区和田3-30-22 大学生協会館内 Tel. 03-5307-1102)
[共催]利賀村、全国大学生活協同組合連合会

 

●樹恩ネットワーク(JUON NETWORK)
[設立年]1998年4月
[設立趣旨]都市と農山漁村の人々をネットワークすることで、環境の保全改良、地方文化の発掘と普及、過疎過密の問題解決に取り組むことを目的に、大学生協の支援を受けて設立された非営利団体。現在の会員数は大学生協20団体、その他団体会員80余、個人会員700余名。
[廃校活用の主な支援]コープビレッジ神泉(埼玉県神泉村の廃校になった小学校を活用した早稲田大学生協運営のセミナーハウス)/鳥越文庫「猿八山舎」(新潟県佐渡畑野町の廃校に早稲田大学演劇博物館館長鳥越文蔵氏の蔵書2万冊を収蔵した演劇図書館・研修所。老朽化した分校の後利用を町が住民に委託。移住してきた文弥人形の人形師、西橋健さんが4年前に母校の恩師、鳥越氏に相談したのがきっかけ)/Starforest 利賀(研修・宿泊施設。学生が地区を回り、家の記念写真を収集してインターネットに写真館をアップ)など

 

地域創造レター 今月のレポート
1998年12月号--No.44

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