一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.5 ホール・劇場機構編① 劇場の分類と特長

劇場の分類と特長

講師 草加叔也(劇場コンサルタント/空間創造研究所代表)

 

  「ホール・劇場機構編」では職員が基本的に知っておくべきハードの基礎知識についてご紹介します。今回の「劇場」に続いて、第2回では「クラシックホール」、第3回目以降は音響・照明といった舞台技術について取り上げる予定です。どうぞお楽しみに。

 

●はじめに

 

  有史以前の古代社会では、宗教的な様式や政治的な儀礼が、今日の舞台芸術を生み出す要因となり、また劇場という上演空間を生み出すきっかけとなってきたと考えられています。古代ヨーロッパ文明の源と考えられるギリシア文明は、この劇場という建築形態を人類史上いち早く構築してきました。例えば、半円形に開いた野外劇場の客席段床というのは、誰もが見聞きしたことのある古代ギリシアの代表的な劇場形態のひとつです。

 

  このような劇場が古代ヨーロッパに誕生してから二千有余年の間、この地で培われてきた演劇と劇場の長い歴史は、我が国の劇場芸術にも大きな影響を与えてきたと考えられています。もちろん劇場という施設形態にとっても、その影響は少なくありません。

 

  もちろん今日に至る間、舞台芸術そのものや演出の可能性ということが、劇場という建築形態の変遷に多大なる影響を及ぼしてきたということは言うまでもありません。しかし、そのほかにも見逃せない、いくつかの要因が考えられます。例えば、貨幣の誕生にともなう有料化は、古代ギリシアの円形劇場を平面に閉じたものへと変えてきました。また、舞台や客席に対するホスピタリティの追求は、野外劇場に屋根をかけるきっかけとなりました。このことは、自然界から劇場という空間を切り取ることを意味し、舞台照明をはじめとした舞台技術の必要性への一因に繋がったと考えられます。さらに、王族や貴族などという舞台芸術の支援者の獲得は、特に施設面での充足を高めました。私たちが今日でもその豪華さに驚嘆するオペラハウスのいくつかは、このような時代の支援者に負うところが少なくありません。

 

●劇場の分類

 

  劇場をいくつかに分類する方法として、大きく2つの方法が考えられます。その一つは、劇場の活動による分類です。例えば、何を上演しているかということでの分類が考えられます。また、どのように劇場運営が行われているかという分類も考えられるでしょう。次に考えられるもう一つの分類というのは、劇場の形態による分類です。例えば施設規模や舞台機能による分類などが考えられます。加えて、劇場の特長や性格を表す上で根元的な意味をもつ分類方法として、舞台形式による分類が考えられます。

 

  以下には、この舞台形式による分類についてもう少し詳しく説明を加えたいと思います。劇場は、この舞台形式による分類によって、大きく2つの形式に大別することができます。その一つが「プロセニアム形式の舞台」で、もう一つが「オープン形式の舞台」です。

 

  「プロセニアム形式」の舞台は、ルネサンス期にイタリアの劇場で生まれたと考えられています。この形式の舞台の特長は、作品を上演する舞台と、それを鑑賞する観客がプロセニアムという額縁によって基本的に区分けされていることです。また、このプロセニアムによって舞台照明や舞台機構を客席から見えなくする工夫、大規模な舞台転換や仕掛けを隠すことによりスペクタクルな演出をも可能にしています。このことは、客席から見ることができる主舞台周辺に側舞台や後舞台などの副舞台をもつこと、フライロフトや奈落などのように舞台の演出を支援する空間を併せもつことによっても可能になります。

 

●劇場断面(図)

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  次に「オープン形式の舞台」ですが、古代ギリシア・ローマ時代から、シェイクスピア劇場の時代を経て今日までさまざまな劇場形態が試みられてきました。この舞台形式は「ノン・プロセニアム形式の舞台」と呼ばれることがあるように、上演する側の空間と鑑賞する側の空間が明確な区画をもたない、オープンな舞台形式のことをいいます。例えば、青山円形劇場や世田谷パブリックシアターのシアタートラムなどもこの一例です。 この「オープン形式の舞台」は、舞台と客席の関係によって、左記の図に示したようにいくつかに分類ができます。ただし、実際の劇場計画では、ここに示した舞台形式のいくつかに可変できるような舞台機構を計画することが少なくありません。さらに、プロセニアム形式の舞台でも、前舞台の一部を可変させることによってオープン形式に類似した舞台形式とすることが一般的に行われています。

 

●舞台形式による分類(図)

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●劇場断面の特長

 

  舞台形式の分類は、主に舞台と客席の平面的な関係に特色があります。しかし、劇場を特徴づける上で、断面的な要素もいくつか考えられます。

 

  先ず、その一つが客席の断面計画です。比較的規模の小さな客席では、ワンスロープの傾斜をもつ単床式の客席計画が一般的です。我が国では、花道をもち歌舞伎の上演が可能な劇場形式に長い歴史があることから、比較的傾斜の緩やかな客席計画が往々に計画されてきました。しかし、ダンスのようにより足元まで見えることや、より舞台に客席を近づけることが望まれるようになってくると、今までよりはるかに傾斜のある客席が計画されることが多くなってきました。

 

  また、客席の規模が大きくなるに従って、視距離の問題から複数のバルコニー席をもつ複床式の客席がつくられるようになります。このバルコニー席も単に舞台間口と平行に並べた客席を多層化するだけではなく、欧米の劇場客席に見られるような馬蹄形のバルコニー席や、数席単位に区画したボックス席のような客席がつくられる例もあります。

 

  ただし、この多層化が可能になるのは、舞台を見下ろす視線の角度の点から、やはり「プロセニアム形式の舞台」のほうが制約が少なく、「オープン形式の舞台」では、単床あるいは二層程度の客席が限界になります。さらに「プロセニアム形式の舞台」では、主舞台の上部や下部に舞台演出を支援する空間をもち、加えて主舞台面と水平面に複数の副舞台をもつことができることも舞台演出の可能性を高める上で有効な役割を果たすことになります。

 

●劇場平面(図)

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