一般社団法人 地域創造

ステージラボ神戸セッション・レポート

ワークショップや演奏会など、生の体験がますます充実

 

 財団が設立されてから10回目のステージラボが震災から4年を迎えた神戸を舞台に開催されました。参加者総数69名中、大阪、兵庫、京都の地元勢が16名を占め、関西弁が飛び交うラボとなりました。ご協力をいただきました皆さま、本当にどうもありがとうございました。

 

●神戸アートビレッジセンターの活動に学ぶ

 

 今回の会場で、共催としてご協力をいただいたのが神戸アートビレッジセンター(通称KAVC)です。活動の中心になっているのが若手アーティストの育成を目的にした学習、創作、発表で、事務所に置かれたチラシにはアトリエ開放やワークショップの文字が飛び交っていました(ちなみに98年度に自主事業で計画されたワークショップは計20件)。1階のギャラリー展示が見渡せるロビーには、イベント好きのマスターが経営するカフェサロンがあり、アート雑誌やチラシがさりげなく置いてあって、若いアーティストの溜まり場的な雰囲気が漂っています。

 

 KAVCのある新開地はかつて大衆娯楽のメッカとして知られたところで、東京でいうなら浅草の六区。昭和10年代の古い地図を見ると、200メートルほどの新開地本通り沿いには、遊園地、聚楽館(大正2年に建てられた豪華劇場)を頂点に、映画館、劇場、演芸場が10数軒も軒を連ね、多数の飲食店とともに一大歓楽街を形成していました。戦後、神戸の中心は三宮に移り、賑わいのなくなったこの地域を文化の町として甦らせようと計画されたのがKAVCです。先日亡くなった映画評論家の淀川長治さんが生まれ、映画と出合ったのもこの新開地で、新たに淀長さんの記念館を町につくろうと商店街の人たちが活動を始めているそうです。

 

 事業担当の岡野亜紀子さんは、「この4月で開館3周年になり、若いアーティストたちが少しずつここを溜まり場にしてくれるようになりました。チャレンジシアターという企画で、結成5年以内で神戸を拠点にしている劇団をサポートしていますが、その中から、雑貨店や商店に勤める地元の人たちに愛される劇団が出てきた。こういう地元に愛されるアーティストをどう育てるかが、新開地という大衆娯楽の町にできた施設の役割かなと思い始めています」と話していました。

 

 毎回、先進的な活動を行っている公立文化施設が会場になりますが、こうした地域での実践を目の当たりにし、担当者と忌憚のない意見交換ができるのもラボならではの生きた研修の一つになっているのではないでしょうか。

 

●ラボ名物、ワークショップを満喫

 

 ラボをスタートして5年。この間に地域創造の研修事業のスタイルと呼べるものが4つできました。1つがホール事業の実践者にプログラムづくりを依頼するコーディネーター制度、2つ目が第一線のアーティストを招いて表現を体験するワークショップ、3つ目がグループに分かれてのディスカッションと最終日の発表会という受講者参加スタイル、4つ目が公共ホールをめぐるホットな話題について参加者全員が共通認識を持つための共通ゼミです。なかでも毎回、楽しみにされているのがワークショップで、神戸でも如月小春(演出家)、井手茂太(振付家)、古谷哲也(コンガ奏者)らによる指導が行なわれました。

 

◎発声から台詞をしゃべるまで

 

 「今回は中高校生を対象に行っているプログラムをダイジェストでやります。この場合、参加者の気持ちにばらつきがあるので、全員が楽しくできるということを一番に心掛けます」――如月さんの優しいオリエンテーションから始まったホール入門コースのワークショップ。声を出すための基本レッスンの後、『ぼくたちの銀河鉄道』の台本を使った本読みに挑戦しました。全員、演劇経験ゼロで、最初は全くの棒読み状態。「子どもだとすぐに感情を込めて読みますが、人前で感情をあらわにしてはいけないと教育されている大人は抵抗感があってできないんです」と如月さん。しかし、「ここは突っ込み。タイミングが勝負!」「周りが子どもとして扱うと子どもの役に見える」など演出的な解説を受けるとみるみる情感が生まれる。

 

 「ワークショップを行う場合、学校に向けて開くと学校で起こっている問題が、市民に開くと町の問題がそのまま入ってきます。そこをよく考えてやる必要があるのではないでしょうか」(如月)

 

◎バレエからイデビアンまで踊ってみる

 

 若手のコンテンポラリーダンスとして、今一番ホットなグループがイデビアンクルーです。振付の井手茂太さんとダンサーの斎藤美音子さんを迎えた約4時間にわたるワークショップは、いきなりクラシックバレエのストレッチから始まりました。イメージ通りに身体が動かない参加者たちはリハーサル室の鏡を前にガマの油状態で、美しく身体を動かすことがいかにプロフェショナルな作業かを改めて実感していました。

 

 そしていよいよ井手さん振付(?)のワークショップに突入。「行きは普通に歩いて、戻りは右手と右足、左手と左足を一緒に出して歩きましょう。自然な感じで、途中でおはようございま~すと、こっちのほうに向かって挨拶しちゃいましょう…」。けむに巻かれたまま、参加者が3人ずつチームを組んで歩き始めると、音楽との組み合わせで、あっという間にイデビアンクルーのダンスの1シーンが出来上がったのには驚かされました。

 

 「基本的な動きをちょっと変えるだけで面白い動きが発見できる、それを音楽と合わせるともっと面白くなる――そういうリズム感の面白さをちょっとやってみました。それとイメージ。イメージトレーニングじゃないけど、イメージするだけで身体の動きは変わってきます。今回のワークショップでも言葉でいろんなイメージを伝えながらやりましたが、稽古場でもたとえ話ばっかりなんで、みんなにうるさがられてます(笑)。僕は、誰にでもその人の味があって、それを引き出すのが振付だと思ってる。その味を見せながら、群舞も見せるというのが、僕らのやっていることです」(井手)

 

◎演奏家を知り、企画し、トラブルを解決する

 

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 音楽コースでは3人の演奏家によるワークショップとミニコンサートが行われました。受講生は3グループに分かれ、最終日の発表会でそれぞれの演奏家のためのコンサートを企画するという、ワークショップと企画づくりの連動に挑戦しました。マラカスを手作りし、リズムワークショップを行ったコンガ奏者の古谷哲也さんを担当したグループは、「古哲のええ音おしえたるぜ~みんなおいで、コンガで夏祭り」という企画を発表。コンガコンサート、楽器づくり、ダンスなど、全身で生の音を体感してもらおうというさまざまなアイデアが満載でした。

 

 ワークショップではないものの、音楽プロデューサーの山形裕久さんによるトラブルシミュレーションも体験型研修としては楽しいものでした。実体験に基づいたトラブルを出題、受講生が相談して答えるというもので、「悪天候で機材車が時間になっても到着しない。連絡もつかない。さて、どうする」という難問に四苦八苦。公演は中止して日程を振り替える派、あくまで実施を前提に現地で機材を調達するなど対策を練る派。山形さんの答えは、「振替にするとプロモーターのコスト負担が増えるため、あくまで実施を前提にしてやれる方法を考える」そうで、実際に公演開始3時間半前まで現地の機材をスタンバイして待ったことが過去に3回もあるとか。

 

 「こういうトラブル時にはコンサートの構成を変えて対処するなどツアースタッフの力量が試されます。と同時に、ホールには搬入スタッフの増員ができるか、音響照明会社、楽器店などの情報をもっているかなどのバックアップ体制が求められることになります。日頃から心掛けておくといいでしょう」(山形)

 

●共通ゼミのテーマは市民参加

 

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 本年度の調査研究事業の成果を踏まえたシンポジウムでは、作曲家でシュガーホール芸術監督の中村透さん、藤沢市民オペラプロデューサーの関水秀樹さん、演劇の広場づくり事業を実践してきた盛岡劇場元事業係長の坂田裕一さんが一堂に会し、地域での取り組みを披露。市民参加事業の目的、評価軸などについて公開討論が行われました。

 

 特に事例として興味深かったのはシュガーホール(沖縄佐敷町)で行なわれている町民ミュージカル『ぐぁんぐぁんタンメーちゃーがんじゅう』(「元完おじいちゃん、いつまでもお元気で」の意)。「市民参加型事業にスタンダードはありえない。町の歴史や文化といった地域の特徴が市民参加の枠を生み出す」という中村さんが、佐敷町の特徴を徹底的に分析した上で、門外不出の芸能、琉球舞踊、三線、クラシック音楽、モダンダンス、新劇などをちゃんぷるー(ごたまぜ)にして小学生から70歳の老人までを巻き込み、ミュージカルづくりに取り組んでいるというものです。最初はホールの事業に反対していた住民に「シュガーホールに文句を言う会」を結成させ、文句を言うだけでなくやりたいことがあるなら提案してほしいと、そこを母体に市民参加事業をスタートさせたいきさつに至っては、会場から「ホーッ」と声にならない称賛のため息が漏れていました。

 

 このほかにも、ホール計画コースで「僕ら地域プランナーにとってはどれだけ地域を知っているかがバックグラウンドになる。知っているからテーマが出てくるし、意志がでてくる。そうして初めて参加が生まれる」と示唆に富んだ地域論を聞かせてくださった結城登美雄さん、午前2時まで脚本づくりに没頭し、新作狂言仕立て、演劇仕立てで「子どもの劇場」の企画を発表したサービス精神あふれる入門コースの受講生の皆さん等々。見どころ、聞きどころの多いラボとなりました。

 

 如月さんが計画コースの講義で「地域にたくさんの公立ホールが建設されているという新しい環境の中で、アーティストと行政と住民が歩み寄らなければならないのが今の現状。その中であれをやって、これをやってと、一番焦っているのが行政ではないでしょうか」と言われていましたが、今回のラボが、長い目で地域と芸術の関係づくりについて考え直す機会になれば幸いです。

 

●ステージラボ神戸セッション
[日程]2月2日~5日
[会場]神戸アートビレッジセンター

 

●コーディネーター
○ホール計画コース
松井憲太郎(世田谷パブリックシアター プロデューサー)
○ホール入門コース
津村卓(財団法人地域創造 チーフディレクター)
○演劇・ダンスコース
市村作知雄(東京国際舞台芸術フェスティバル事務局長)
○音楽コース
村地孝明(財団法人大阪狭山市文化振興事業団(SAYAKAホール)事務局参事プロデューサー)

 

●ステージラボ神戸セッション 全体プログラム

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