一般社団法人 地域創造

平成10年度調査報告書紹介 「ホールにおける市民参加型事業に関する調査研究」

市民に新たな交流を呼び起こす試み

 

 地域創造では、昨年度、「ホールにおける市民参加型事業に関する調査研究」「公立ホールの舞台技術に関する調査研究」の2つのテーマで調査研究事業を実施しました。皆様にはアンケートや現地調査などでご協力をいただき、ありがとうございました。

 

 今回は「ホールにおける市民参加型事業に関する調査研究」の概要をお伝えするとともに現地調査でうかがった佐敷町シュガーホールの事例をご紹介したいと思います。

 

●調査の目的と方法

 

 近年、各地の公立ホール・劇場では、ボランティアやワークショップ、市民オペラや市民ミュージカルなどさまざまなかたちで市民参加による事業が行われるようになってきました。本調査研究では、こうした市民参加型事業のうち、何らかのかたちで「市民が舞台に立つ」事業を対象として、現在の問題点や課題を分析・整理し、望ましい市民参加型事業のあり方や方向性を見出すことを目的に行いました。

 

 調査では、全国の公立ホール・劇場で行われている市民参加型事業から125事業を抽出してアンケート調査を実施し、94事業について回答を得ました。この結果を参考に5つの事例について、事業の担当者や参加している市民の方にインタビューを行いました(※1)。また、こうした調査と並行した研究会(※2)により討議を行い、これらの結果を報告書にまとめました。

 

●市民参加型事業の現状と課題

 

 市民参加型事業を現在も実施している84事例のうち、約4分の3の事業が1990年以降に開始されていることからわかるとおり(図1)、市民参加型事業は極めて新しい事業形態と言えます。しかし、回答のあった事業の約1割が現在では実施されておらず、事業の継続が必ずしも容易ではないことがうかがわれます。

 

 事業を始めたきっかけは、「市民や市民団体の要望」、「ホールと既存市民団体のタイアップ」など、市民側の意向が入ったものが2割強であるのに対して、「ホールの自主事業」「ホールの開館記念事業」「市や教育委員会の文化事業」など、ホールや地方公共団体等の主導で始められるケースが6割近くに達していました。その目的は、「市民の自主的な文化活動を育成する」「市民が芸術文化に触れる機会を増大させる」「市民とホールのつながりを密接なものにする」などで、ホール側が市民と積極的に関わっていこうとする方法として、市民参加型事業を実施していることがうかがわれます。

 

 運営の主体は、「ホールが企画・主催」するものが36.9%と最も高くなっていますが、業務に関しては「企画・制作」から「当日運営」まですべてにわたって市民が主体的に関わるケースが多く、出演者以外の面でも市民が重要な役割を担っています(図2)。また、8割以上の事業で外部の専門家の協力を得ており、舞台をつくりあげるにあたっては、外部専門家のさまざまな専門知識や技術が不可欠になっています。

 

 事業の効果としては、「市民同士の新しい交流や自主的な活動が生まれた」「市民とホールのつながりがより密接になった」「芸術に関心を持つ市民が増えた」など、前述した目的についての効果は上げているものと考えられます。このほかに、参加者からは、「新しい仲間と出会えた」「地域に対する誇りができた」など、人間的な充足感を得られたという声が多く聞かれました(図3)。

 

 参加者の問題点として、「年齢や性別が偏りがち、固定しがち」などが課題としてあげられており、ホールを運営する上においては、「他の事業とは質が異なり多様である業務に十分な対応ができないこと」が大きな問題となっています。

 

●佐敷町シュガーホールの取り組み

 

 佐敷町は沖縄県の南部、那覇から車で30分ほどの所にある人口約1万2千人の町です。その町のホール「シュガーホール」が、96年、小学生から70歳の老人までを巻き込んだ町民参加ミュージカル『ぐわんぐわんタンメーちゃーがんじゅう(元完おじいちゃん、いつまでもお元気で)』に取り組みました。

 

 シュガーホールがオープンしたのは94年。その後、クラシック音楽主体の事業に反発する若者たちが「シュガーホールを取り戻す会」を結成したことをきっかけに、「文句があるならやりたいことを提案してほしい」と、ホール側と町民が会合を重ね、市民参加型事業をスタートさせました。作品形態は、町民の文化活動の特徴を生かし、コーラス、琉球舞踊、吹奏楽などさまざまなジャンルを取り込んだミュージカルに決定。当時国内最長老だった佐敷町在住の男性を主人公としたオリジナル作品をつくることになりました。

 

 この事業の成果の一つとしてあげられるのが、町民同士の交流が活発になったことです。稽古期間中、子どもは昼、大人は夜に練習していましたが、知らないうちに稽古場に子どもと大人の壁通信ができるなど、世代を超えてのコミュニケーションも深まっていきました。

 

 ミュージカル実施をきっかけに、青年会、ジュニアコーラスなど市民の文化団体の個別の活動が積極的になったそうです。98年11月には、ミュージカルをきっかけに結成された町民劇団による旗揚げ公演も行われました。

 

 佐敷町の市民参加型事業においては、ホールは、町民が個々に活動するエネルギーを集約する機能を担い、そのためにどのように稽古を組むか、外部の専門家の力をどうとらえて取り込んでいくかなどが制作のポイントとなりました。何より、事業運営にあたっては、町の人たちが潜在的にもっているものをゆり動かしていくという謙虚さや、町民との信頼関係をホールがもっていることが重要な前提となっています。

 

 市民参加型事業は、ホールのほかの事業との関連のみならず、福祉、教育、国際交流など幅広い分野への広がりをもち、大きな可能性を秘めていますが、ほとんどの事業が新しいものであるため、まだ試行錯誤の段階にあります。

 

 ともすれば、事業の内容や目的、方向性があいまいになりがちですが、この報告書がそれぞれの地域のホールにおける望ましいあり方を見出すために役立てば幸いです。

 

※1 インタビュー調査対象施設及び事業
遠野市民会館(遠野市民センター)『遠野物語ファンタジー』/滋賀県立八日市文化芸術会館「東近江創作ミュージカル」/河内長野市立文化会館(ラブリーホール)「マイタウンオペラ」/佐敷町文化センター(シュガーホール)「町民ミュージカル他」/世田谷パブリックシアター「ワークショップ事業」

 

※2 研究会委員(五十音順)
如月小春(劇作・演出家/劇団NOISE代表)
坂田裕一(岩手県演劇協会副会長/元盛岡劇場事業係長)
関水秀樹(藤沢市芸術文化振興財団プロデューサー)
扇田昭彦(演劇評論家/朝日新聞編集委員)
平田オリザ(劇作・演出家/青年団主宰)

 

●調査研究に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部調査研究担当 細野毅
Tel. 03-5573-4069 Fax. 03-5573-4060

 

●平成10年度調査研究報告申込方法
1)「ホールにおける市民参加型事業」
2)「公立ホールの舞台技術」
1冊の場合は310円、2冊ともの場合は340円分の切手を同封し、希望報告書番号、住所、氏名、電話番号、ファックス番号を明記の上、下記の申し込み先へ郵送にてお送りください。
[申し込み先]
〒107-0052 東京都港区赤坂6-1-20 国際新赤坂ビル西館13F
地域創造芸術環境部調査研究担当

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