一般社団法人 地域創造

常務理事インタビュー「市町村立美術館等活性化モデル事業」

美術部門の文化施設活性化事業、トライアル始まる

 

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先号でもお伝えしたとおり、財団法人地域創造では、次年度からの本格実施を目指して、「市町村立美術館等活性化モデル事業」のトライアルを行います。これは、演劇部門(舞台芸術活性化事業)、クラシック音楽部門(公共ホール音楽活性化事業)と実施してきた「公立文化施設活性化シリーズ」の美術部門にあたるもので、県立美術館との連携により市町村立美術館の活性化と人材育成を図ることを目的としています。本年度は静岡県立美術館、兵庫県立美術館のご協力を得て、両館のコレクションから約60点を両地域の市町村立美術館5館に巡回展示します(詳細はデータ欄参照)。

 今回、財団側のプロデューサーとして現地に赴き調整を行ってきた澤井安勇常務理事にモデル事業の意図するところや現地での取り組みの模様をお話しいただきました。

 

――「市町村立美術館等活性化モデル事業」が企画された経緯を教えていただけますか?

 

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1997年に地域の美術館の現状について調査を行ったところ、全国に290館ある公立美術館の内、展示スペースが500平方メートル未満で収蔵品が500点未満のスモール・ミュージアムが約半数を占めていることがわかりました。こうした小規模な美術館はここ10年ぐらいの短い間に急速に整備されたものが多く、予算や学芸員の数も限られていて、人材育成の面でも課題を抱えています。

 一方、県立美術館などには優れたコレクションをもっているところがたくさん出てきました。今のところ自館での公開に限られていますが、こうした優れた“地域美術品”に他の地域の方々が触れられる機会がほとんどありません。そういう機会がもっとつくれないものか、という思いもありまして、県立美術館などのご協力によって市町村立美術館を活性化するという今回のモデル事業の枠組みが出来上がりました。

 

――今回のモデル事業の具体的な取り組み内容はどのようなものですか?

 

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 地域創造としても、公立美術館としても新しい試みになりますので、初年度はモデル事業として位置づけました。次年度以降の本格的な実施に向けてさまざまなトライアルを行いたいと考えています。

 

 その一つが県域を越えた地域連携による取り組みです。県外の“地域美術品”に触れる機会を提供するという観点から、今回は兵庫県と静岡県にご協力をお願いしました。県立美術館から両地域の市町村立美術館に呼びかけをしていただきましたところ5館が手を挙げてくださり、その中の1館である尼崎市総合文化センターが事務局になって実行委員会をつくりました。

 

 この事業は基本的に市町村立美術館が主体となって取り組むというものなので、県立美術館にはそのサポート役をお願いしています。今回はモデル事業ということもあって県立美術館からの呼びかけというかたちになりましたが、実際の事業については、実行委員会事務局長の岡本健一さん(尼崎市総合文化センター)が大変精力的にコーディネート作業を行ってくださいました。地域連携での取り組みでは、こういうマネージャー役の方が本当に重要だとつくづく実感したところです。

 

――今回の展示内容は実行委員会で企画されたのですか?

 

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今回につきましてはモデル事業ということもあって県立美術館からの提案になりました。コレクションをご提供いただく美術館の方の調整がかなり複雑ですし、市町村立美術館側にまだまだノウハウがないということもあって、しばらくは県立美術館のコレクションの一部を巡回展として展示するということになると思います。各地域の美術館に収蔵された“地域美術品”を県境を越えて紹介する機会はほとんどないため、鑑賞機会を提供するという意味ではこうした「地方美術館展」のような取り組みも重要だと思っています。

 

作品の提供やサポートをお願いする県立美術館には大変な手間をおかけすることになりますが、公立文化施設の一つの役割として、作品をできるだけ外に出して鑑賞機会を増やしていくという姿勢で取り組んでいただければと思います。公立美術館同士のネットワークで地域の美術品が循環しあうような流れがつくれるといいですね。

 

それと、力のある市町村立美術館にはぜひオリジナル企画展にチャレンジしていただきたいと思います。財団としては、そのために民間サイドからも作品調達ができるようなサポート体制が整備できればと考えているところです。

 

――「市町村立美術館活性化モデル事業」で一番ポイントになると考えられている点はどこですか?

 

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 公立文化施設の活性化ということを考えると、単独事業では自ずからやれることに限界があります。今回の事業の一番のポイントは、その課題に県、市町村という枠を超えて地域が連携して取り組むというところにあります。各地の公立ホールではこうしたネットワークによる取り組みがすでに始まっていますが、美術館では馴染みがなく、あまり具体例を聞いたことがありません。今回の事業ではずみがつき、各地で動きが出てくればと考えています。

 

 第5次全国総合開発計画(通称五全総)の中でも掲げられているように、「地域連携」は地域活性化の基本テーマになっています。公立文化施設のネットワークという「文化の地域連携」を図ることによって、情報や人や活動が地域を循環するような新しい地域づくりが求められているのではないでしょうか。

 

 こうしたネットワークが地域の活性化につながっていくためには、各地域や文化施設が個性的であることが大前提になります。個性ある地域や文化施設が自分のところと異なる相手と連携することで相互補完していくような、そんなネットワークができればいいな、と夢を描いています。

 

意欲のある市町村立美術館の方、またこうした事業にご興味をおもちの県立美術館の方、ぜひ担当者までご連絡ください。

 

●兵庫県・静岡県美術館所蔵作品共同巡回展
[日程]尼崎市総合文化センター(9月4日~19日)、西淡町立滝川記念美術館青玉館(9月23日~10月11日)、氷上町立植野記念美術館(10月16日~11月3日)、天竜市立秋野不矩美術館(11月9日~28日)、沼津市民文化センター(12月2日~19日)

 

●市町村立美術館等活性化事業に関する問い合わせ
財団法人地域創造 総務部 振興助成課 羽藤・長内 Tel. 03-5573-4050

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