一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.7 舞踊編③ コンテンポラリーダンス公演の制作

講師 市村作知雄(芸術振興協会)

 

 ダンスの公演をやろうとする場合、すぐに2つの困難に遭遇するはずだ。ひとつは、どうしたら客が入るのかわからない。もうひとつは、どんなダンスグループをやればよいのか、皆目見当もつかない。にもかかわらず、ダンスはなんとなくブームだし、自分のホールでも取り上げていいような気がする。要するに、周りにダンスの制作について知っている人材が全くいないということである。

 

  ところでテレビ番組でもCMでも、ダンスは日常的に目にするようになったけれど、そしてちょっとはブームだとは言っても、これまでダンス公演などほとんどやったことはなく、つまりダンスを見た観客などほとんどいない地域で、どうしたら客が入るのか、などと短絡的なことを考えてもほとんど無駄である。ホールマネジメントとはそんなものではないはずではないのか。

 

  私は、ダンスという身体表現は将来的にはきちんと日本の文化=芸術の中に定着していくと考えている。かなりの努力と柔軟な企画力および持続力は必要だが、やれば相当のリアクションは期待される。土を耕し、種を植えて、世話をしなければ、実はならない。

 

●何から始めるか

 

  もちろん最初にやるのは、制作担当者がダンスについて学ぶことである。いくつかのやり方が考えられるが、手っ取り早いのは講師を呼んでレクチャーをさせることである。その場合、できるならば、バレエテクニックとモダンダンスのグラハムメソッドとそれ以降のダンスのワークショップを付随させることが望ましい。丸1日ダンス漬けになれば、どこに入り口があるかは理解することができるだろう。このレクチャーは、ホール担当者だけを対象にした「制作者ワークショップ」にするほうがより具体的なものになるだろう。それが困難な場合は、一般観客も募集してより幅の広いものにしてもよいだろう。

 

  また講師は、学者や研究者は望ましくない。制作者にとって、学者や研究者はアートを貫く論理や歴史性を検証してくれる有益なパートナーである。制作者はそれに社会性・時代性というフィルターを加えて、社会へとアートを開く役割である。このレクチャーはあくまでも現場の制作者の立場でやるものだから、やはり経験ある現場の制作者を講師にすべきである。

 

●情報はどこから得るか

 

  制作者はいつでも情報戦争のただなかにいる。基本的には、情報は人的なつながりから得られる。とは言っても、どうしたらそのつながりの中に入ることができるのか。どこにアプローチすればよいのか。

 

  ダンス関係を専門にする情報紙(誌)には「ダンスカフェ」(隔月刊)と「DANCEART」(季刊)の2つしかなく、どちらもダンスカフェ社による発行である。やはりこれらは制作ルームに常備すべきである。最大手の月刊誌「ダンスマガジン」はあくまでもバレエを中心に編集されている。ニフティサーブには舞踊フォーラムがあるが、これはきわめてマニアックな同好者のフォーラムと言えるだろう。

 

  最近ダンス界で話題になっているのが、ネットワーク型組織 Japan Contemporary Dance Network(JCDN)である。現在立ち上げている最中で、どうなっていくかはまだよくわからないが、ぜひ力を合わせて確立していきたいものである。

 

  その他関西では、伊丹アイホールのダンス部門のディレクター志賀玲子氏(ヴィレッヂ)やトリイホールのプロデューサ大谷燠氏が重要な役割を果たしている。

 

  関東では、JCDNの東京方面での世話人を務める「伊藤キム+輝く未来」のプロデューサー高樹光一郎氏(Hi! Wood Co.,Ltd)の活躍が期待される。その他ダンス関係の制作団体として、アン・クリエイティブ(代表・永利真弓)があり、ここはアメリカ合衆国への強いルートをもつのが特徴である。

 

  また、私が主宰するAPA(芸術振興協会)にも遠慮なくアプローチしていただければ幸いである。APAではダンスに限らず、メセナやNPO関連のお問い合わせにもできるかぎりのお答えするつもりである。

 

  そしておそらく最も多く情報をもち、かつ重要な役割を果たしているのは財団法人セゾン文化財団である。財団法人セゾン文化財団(事務局長・片山正夫)は若手の育成に力を注ぐ有能な人材の集まった組織なので、そことは友好的な関係を結ぶことが大切である。

 

●ダンスカンパニーへのアプローチの仕方

 

  ダンス・カンパニーの制作は急速に社会化が成し遂げられた。資料やビデオはほとんどのカンパニーが取り揃えているので、請求すれば送ってくるだろう。ただし、誰が、なぜ必要なのかはきちんと説明するのが礼儀だろう。

 

  公演やワークショップを依頼する場合、事前に少なくともビデオはみて、カンパニーの概要を知っておくべきである。本来ならば、まずそのカンパニーについての情報を集め、ビデオや資料をみて、何人かで討議し、関心が深まれば、実際の公演をみることが望ましい。公演やワークショップを依頼する場合、その位の準備はすべきだろう。自分の周りに信頼できる鑑識眼のある人材をネットワークしておくことは制作者の重要な仕事であり、そのような人材と討議することは絶対に必要である。依頼したカンパニーに対する自信がなければ、観客を集めようにも、腰が引けてしまうに違いない。

 

  ほとんどのアートカンパニーは、時間さえ合えば、どこにでも行って、公演を実現したいと思っているので、気後れすることなくアプローチしてほしい。

 

●どのプログラムから始めるか

 

  運営する会場の大きさ、予算の額、周辺地域の規模や質、制作のレベル等不確定要素が多くあるので、何から始めるべきか決めつけることはできない。予算規模も会場も大きい場合は、やはりかなりのビッグネームから始めるほうがよいだろう。山海塾、勅使川原三郎、ダムタイプなどである。その場合でも、観客向けのトークセッション等を企画すべきである。契約書にその旨を入れ込むことがコツである。契約がすべて終わった後で、トークショー等を新たに依頼するのは、やはりルール違反と言えよう。

 

  現在私の関心は、もう少し若い振付家にある。会場や予算もそれほど大きいものは必要としない。将来性に期待して、今彼らに投資しようとする心構えが必要である。それにビッグネームとは違って、かなりいろんな要望を出すことができる。ワークショップやトークセッションなど、地域の観客サービスに彼らの才能を利用すべきである。観客の増加はそのような努力の結果である。

 

  多様な観客サービスに応えられる柔軟性を持ちながら、とっつきやすい作品をつくることができるのは伊藤キムとイデビアン・クルーの井手茂太だろう。この2人は、21世紀の日本のダンス界をリードしていくと信じたい。もう少し上の世代ながら、観客とのコミュニケーションに特異な才能を発揮するのは岩下徹である。子どもから老人まで楽しく自分の世界に引き込んでいく。舞踏をワークショップの形で、体系だって解説できるのは和栗由紀夫をおいてほかにない。

 

●将来のための投資の時期

 

  ダンスは、おそらく21世紀の初頭には日本の芸術社会で本格的な市民権を獲得していくに違いない。公共劇場にとって、伝統芸や音楽や演劇と並び、もうひとつダンスが柱になるならば、こんな大きな成果はほかにないだろう。そのためにはまだまだ投資をし続ける必要があり、今まさにその時期にあると言えよう。

 

●関連団体連絡先一覧
◎ダンスカフェ社(代表・安田敬) 
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-22-23-306
Tel. 03-5449-4927 Fax. 03-5449-4907

 

◎JCDN(代表・佐東範一)
〒600-8092 京都市下京区神明町241 オパス四条501
Tel. 075-361-4685 Fax. 075-361-6225

 

◎APA(芸術振興協会)
〒150-0036 東京都渋谷区南平台町4-13 南平台ハイツ3F
Tel. 03-5456-8280 Fax. 03-5456-8281

 

◎財団法人セゾン文化財団
〒104-0031 東京都中央区京橋1-6-13 アサコ京橋ビル5F
Tel. 03-3535-5566 Fax. 03-3535-5565

 

◎ヴィレッヂ Tel. 06-6377-5450

 

◎トリイホール Tel. 06-6211-2506

 

◎Hi! Wood Co.,Ltd Tel. 03-3320-7217

 

◎アン・クリエイティブ Tel. 03-5458-0548

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