一般社団法人 地域創造

熊本県荒尾市・熊本市 UWPミュージカル公演日本ツアー

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 これほど舞台と客席とが一体になったパフォーマンスはプロの公演でもめったに観られないだろう。アップ・ウィズ・ピープル(Up With People)の“ふれあいツアー'99”の棹尾を飾る熊本県荒尾市でのミュージカル『ロード(道)』のファイナル公演は、観客席も巻き込んでおおいに盛り上がった。(12月8日所見)

 

 アップ・ウィズ・ピープル(以下UWP ※)は、アメリカ合衆国コロラド州に本拠を置く非営利の国際教育団体で、毎年世界中から約700名の若者たち(年齢は17歳~27歳)が参加し、5グループに分かれてホームステイをしながら世界各地約5万キロを旅する。行く先々の地域の学校や医療福祉関連施設、企業などを訪問し、人々との交流を通してさまざまな文化・生活様式を経験し肌で学ぶ。今年度の日本ツアーでは、日本人6名を含むグループ124名が、2月下旬からアメリカ各地と北欧など約80都市を廻った後、10月初めから12月半ばまでの2カ月半の間に日本国内の9都市で、地域でのふれあい活動やミュージカルの上演を行った。今回の来日グループのゼネラル・マネージャーを務めるUWP本部スタッフの西村紀公さん(荒尾市出身)によれば、UWPのやり方は、「地域に入り込んで地域の人たちとともに地域や世界について学びあう」もので、そのことによって、地球的視野を身につけた若者が育ち、国際的な相互理解が得られるという。

 

 UWPのツアーは教育プログラムであり、ミュージカルを上演することが主目的ではない。とはいえ、言葉の違う人たちとの間でのコミュニケーションには、やはり音楽が大きな力を発揮する。UWPが上演するミュージカルはアメリカ仕込みの素晴らしい音楽・演出に加え、異なる肌の色や文化背景を持つ大勢のキャストが一体となって舞台上で繰り広げる歌と踊りの迫力が観客に強烈なインパクトを与える。第1幕も第2幕も、大勢のキャストが客席通路に降りてきて客席内で歌い踊って終わる演出になっていて、その場にホスト・ファミリーが親子連れで駆けつけてキャストメンバーと抱き合ったり、記念写真を撮ったりする光景が会場内のあちこちで見られ、それが独特の一体感を醸し出す。

 

 どの都市でも、ホームステイを受け入れてくれるホスト・ファミリーの募集や学校や福祉施設などへの訪問の機会のセッティングなど、地元の受け入れ体制づくりが成功のカギを握る。行政の立場でこれをバックアップした荒尾市役所企画調整課の浅田敏彦さんは、「これだけ大勢の外国人が市民と直接交流の機会をもつということは荒尾のような地方都市ではあまりないので、いい刺激になる」し、この活動を通じて「国際化時代にふさわしい人材が地元に育ってくれることを期待している」と話す。

 

 熊本市では、熊本青年会議所(JC)が97年以来ずっと主催団体として運営に加わっている。熊本青年会議所の清水浩次さんは、「費用の面で大変」だが、ひとづくりの観点から「最低でも3年から5年は続けたいと思って始めた」と言う。UWPの活動は、国際交流活動でもあり、芸術文化活動でもあり、さらには福祉やボランティアなどの市民活動でもあるというようにクロスオーバーな点に特色がある。受入側も、この「熊本ケース」のように、JCのような民間経済団体、地元の市民、企業、行政(市、県)などさまざまな人たちが分野横断的に関わる共同作業になる可能性が高い。同じく熊本青年会議所の上土井章仁さんは、地元の有志が民間行政を問わず協力しあう「プラットフォーム」(共通の場)が出来てきたことを指摘し、そのことが将来的にこの事業のみにとどまらない可能性の拡大を地元にもたらすとみている。「これからの時代は、行政も民間企業も、個人が組織の外へ出て、外と組織をつなぐことが重要だ」(上土井氏)。この視点は、熊本に限らずどこであっても、地域活性化の実をあげるための大きなヒントになるに違いない。

(舞台芸術コーディネーター 曽田修司)

 

(※)アップ・ウィズ・ピープルの来日は、1965年の初来日から数えて今回が10度目。1995年には、日本での活動を支援するためのアップ・ウィズ・ピープル日本委員会が結成され、翌年からは毎年日本を訪れている。また、今年は日本からUWPへの参加は、50名以上にのぼる。参加希望は、日本オフィス内アドミッションチームで随時受け付けている。資格は高校既卒の17歳~27歳。強いモチベーションとチャレンジ精神が参加の条件、だそうだ。

 

●「ふれあいツアー '99」開催都市
奈良市、長野県小諸市、長野県丸子町、東京都、京都府、愛知県豊田市、長崎県(ハウステンボス等)、熊本市、熊本県荒尾市

 

●アップ・ウィズ・ピープルについてのお問い合わせ
Up With People日本オフィス
〒150-0012 東京都渋谷区広尾2-15-9
Tel. 03-3400-7495 Fax. 03-3400-7496
http://www.upwithpeoplejapan.gr.jp

 

地域創造レター 今月のレポート
2000年1月号--No.57

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