一般社団法人 地域創造

平成12年度調査報告書「アウトリーチ活動のすすめ」紹介

●「地域文化施設における芸術普及活動に関する調査研究」

 

地域創造では、昨年度、「地域文化施設における芸術普及活動に関する調査研究」のテーマで調査研究事業を実施しました。皆様にはアンケート調査や現地調査などでご協力をいただき、ありがとうございました。今回は調査報告書の中から実践的な事例を紹介します。

 

●調査研究の目的と方法

 最近になって、公共ホール・劇場、美術館などの文化施設では、演劇や音楽の公演、美術展覧会といった芸術鑑賞事業のほかに、芸術を広く地域や市民に結びつけようとする芸術普及活動が実施されるようになりました。これからの地域文化施設の役割を考えると、こうした活動の重要性はますます高まるものと考えられます。『地域文化施設における芸術普及活動に関する調査研究』では、積極的に活動を行っている文化施設の現状と課題を把握することで、芸術普及活動の意義や重要性、将来目指すべき方向性などを「アウトリーチ活動のすすめ」として整理しました。
 今回の調査にあたっては、全国の公共ホール・劇場、美術館のうち、何かしらの形で芸術普及活動を実施している施設(192館)を対象にアンケート調査(劇場・ホール:118館、美術館:74館)を行い、その回答のあった施設から特徴的な事業を実施している11カ所(劇場・ホール:6館、美術館:5館)で実際に行われている普及活動を見学したのち、芸術普及活動の内容や現状の課題点、事業の効果、今後の方向性について、施設の担当者やアーティストの方々にヒアリング調査を実施しました。
 また、並行して「専門家研究会」を設け、音楽、演劇、美術等で実際に芸術普及活動を行っている方々を委員に招き、調査方法や調査結果について専門的な観点からご意見を頂き、報告書の作成に至るまでご協力いただきました。
今回の報告書は、各項目のポイントを要約にまとめるなど、読みやすいよう工夫をしていますので、ぜひご覧ください。

 

●アウトリーチ活動のすすめ

73glaph-1.jpg

 今回の調査によると、多くの施設が芸術普及活動に取り組みだした時期は比較的最近で、1990年代以降に実施したケースが全体の7割を占めています。
 活動の内容(図1)は、事業の対象や形態、手法などによって多種多様で、「子ども、青少年、親子向け鑑賞事業」、「体験・創作型ワークショップ」、「教養型セミナー・講座事業」、「地域派遣型事業」等が半数の施設で行われています。
 なかでも子どもを対象とした芸術普及活動は、最も多くの施設で実施されており、従来行われてきた鑑賞型の事業と異なる点は、(1)少人数で行われている、(2)ワークショップやワークブックなど体験・鑑賞するためのツールが用意されている、(3)アーティストや作品により身近な形で触れられることなど、子どもたちに芸術により親しんでもらえるような内容になっていることです。
 一方、実際に芸術普及活動を行う専門の担当者がいる施設は、劇場・ホール、美術館とも各10件のみで、人材不足により十分な活動ができないという問題点も指摘されました。まだまだ課題が多いのが現状ですが、芸術普及活動を行うことで、芸術に対する市民の理解が促進され、地域における文化施設の役割や方向性が明確になったとするところも多く、公演や展覧会事業では得られない効果があることがアンケート調査(図2)からもうかがえます。
 今回ヒアリング調査を行った中から、演劇を中心とした事業を行っている厚木市文化会館と、芸術普及活動自体を市民組織“IFS”との連携により進めようとしている佐倉市立美術館の事例をご紹介したいと思います。

 

●厚木市文化会館~演劇出前ワークショップ

73glaph-2.jpg

 厚木市文化会館では、99年度より劇団扉座の協力を得て、演劇を中心とした芸術普及事業「厚木シアタープロジェクト」に取り組んでいます。
 厚木市文化会館では、開館(78年)以来鑑賞型のプログラムを中心に事業を展開しており、子どもを対象とした鑑賞公演にも早くから取り組んできました。94年からは子どもミュージカルなど参加型の事業も行っています。その成果を踏まえ、開館20周年を迎えるにあたって従来の事業について見直しをかけ、4つの事業をスタートさせました。そのひとつが「厚木シアタープロジェクト」です。劇作家で劇団扉座を主宰している横内謙介氏と文化会館、市民応援団の3者で展開しているプログラムで、文化会館で扉座の公演を行うほか、シアタートーク、演劇体験講座、演劇出前ワークショップなど、子どもが演劇に触れる機会をつくり、将来的な演劇ファンを育てることを目標に多様な普及事業を展開しています。
 演劇出前ワークショップは、小学校の体育館で授業時間の2コマを使って実施しています。指導は横内氏と扉座の劇団員9名。本格的な音響機材を持ち込むのが特色で、前半は「音を聞いて想像してみよう」、後半は「さよなら先生」という短い台本をもとに、1グループ10名程度に分かれ、台本を読むことから演じることまで一通り体験し、最後に発表するというプログラムになっています。当初は、対象学年を絞らずに実施していましたが、現在はプログラムの内容との兼ね合いで、5・6年生に絞って行っています。

 

◎佐倉市立美術館~市民組織との連携

 今回の調査では、芸術普及活動自体を、市民との連携により実施している事例も複数ありました。
佐倉市立美術館では、夏休み期間中に、見るだけではなく、五感を使った体験を重視したワークショップ・プログラム「体感する美術」を普及活動として実施しています。その企画、運営に携わっているのが、市民ボランティアの集まりIFS(Inter-art Forum Sakuraの略)。
 95年にスタートした「体感する美術」は当初、企画会社に委託して実施していました。ところが、97年の「体感する美術 '97─まちへ出よう─風と精霊と人の声」の際に、アーティストのアイデアで準備段階から市民スタッフを募り、当日のワークショップ・プログラムをつくった時、「事業の実施に向かうプロセス自体も普及活動ではないか」と担当学芸員が実感。そこで98年度は当初から市民スタッフを公募、企画段階から巻き込んでいくようにしたことが、IFS誕生のきっかけになりました。
 現在、美術館から企画会議等の案内を送付しているIFSメンバーは50名ほど。IFSの組織化により、会員を通じた子ども会とのつながりなど、美術館活動の間口が以前より広がった点が大きな成果だと言います。また、IFSという市民組織が生き生きと活動することが、美術館内部の評価にもつながっているということでした。

 

●報告書の構成

[要約]アウトリーチ活動のすすめ

[第1部]地域文化施設における芸術普及活動の現状と方向性

I 芸術普及活動の導入と位置づけ
II 芸術普及活動の内容
III 芸術普及活動の運営
IV 芸術普及活動の意義とこれからの地域文化施設の方向性

[第2部]調査事例資料集

[第3部]アンケート調査結果

 

《専門家研究会 委員》

熊倉純子 ((社)企業メセナ協議会プログラム・ディレクター)
坪能克裕 (作曲家、サンシティ越谷市民ホール芸術監督)
中山三善 ((株)キュレーター・オフィス代表取締役、浜田市世界こども美術館学芸課長)
松井憲太郎(世田谷パブリックシアター 学芸課長)
山本育夫 (ミュージアム・マガジン・ドーム編集長)

 

《現地調査対象施設》

【劇場・ホール】

・ 仙台市青年文化センター(宮城県)
・ 越谷コミュニティセンター サンシティ越谷市民ホール(埼玉県)
・ 世田谷パブッリクシアター(東京都)
・ 厚木市文化会館(神奈川県)
・ 小出郷文化会館(新潟県)
・ 門川町総合文化会館(宮崎県)

【美術館】

・ 佐倉市立美術館(千葉県)
・ 名古屋市美術館(愛知県)
・ 刈谷市美術館(愛知県)
・ 岡山県立美術館(岡山県)
・ 浜田市世界こども美術館(島根県)

 

●報告書申込方法

送料のみご負担していただきます。氏名・所属・役職・郵便番号・住所・電話番号・「アウトリーチ活動のすすめ希望」と明記の上、切手340円分を同封して、郵送でお申し込みください。
2冊以上をご希望の方は下記までお問い合わせください。

 

◎問い合わせ・申込先

〒107-0052 東京都港区赤坂6-1-20 国際新赤坂ビル西館13F
地域創造芸術環境部 坂田・内田 宛
Tel. 03-5573-4076 Fax. 03-5573-4070

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2001年度地域創造レター5月号-No.73平成12年度調査報告書「アウトリーチ活動のすすめ」紹介