一般社団法人 地域創造

北海道新冠町 ハイセイコー・フェスティバル 馬頭琴演奏会

  北海道新千歳空港から約2時間。室蘭と襟裳岬の中間にある人口約6300人の小さな町が、「馬と音楽の町づくり」で脚光を浴びている日高郡新冠町である。日高郡は、全国の競走馬の7割を生産する軽種馬(サラブレッドなど1トン以下の馬のこと)の産地。中でも町の農業生産高の7割を生産牧場が占める新冠町は、武田牧場が昭和を代表する怪物ハイセイコー(*1)を産みだしてから全国的に知られるようになり、現在では年間40万人の観光客が訪れている。
 1997年、その「馬」に加え、新たな地域振興施設として建設されたのが、全国からレコードの寄贈を受ける町直営の「レ・コード館」である。レコードを「個人の思い出」として寄贈者別に預かり、音楽愛好家との「縁」をつくって町を活性化するというコンセプトで、以来、その人脈を活かしながら、町にとって必要な刺激を「馬」と「音楽」にひっかけて次々に実践してきた。

 そしてこの5月4日、その2つを繋ぐシンボル、世界初の名馬の馬頭琴(*2)が完成、お披露目コンサートが行われた。

 馬頭琴は馬の毛を使って製作されるモンゴルの伝統楽器。今回、お披露目されたのは、昨年急死したハイセイコーをモデルに、その遺髪と子どもハクタイセイの尻尾の毛を使って製作されたもの。一周忌に合わせて建立された等身大の馬像の除幕式の後、関係者やファン、町民ら約350人がホールに集まり、札幌在住の演奏家嵯峨治彦さんが奏でる、馬の嘶きにも似たハイセイコーの調べに耳を傾けた。

 

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馬頭琴を弾く嵯峨治彦さん

 新冠町では、昨年からコンサートやシンポジウムを催すなど、モンゴルとの文化交流を開始。現在、年度内のナライハ市との姉妹都市締結に向けて調整を進めているという。馬頭琴を企画したレ・コード振興課の堤秀文さんに話を聞いた。

 「新冠は馬産地といっても、そこで生産されているのはサラブレッドのような競走馬であり、たとえると世界最速のF1カーをつくっているようなもの。馬子歌や追分のような生活の中で育まれた馬文化があるわけではない。伝統的な遊牧民の文化や生活を知ることで、自分たちの生活を見直すべきだとの考えから、モンゴルとの交流を始めた。今回、ハイセイコーの死で、かねてから温めていた名馬の馬頭琴が実現することになったが、これからもこの企画を続けて、将来、馬博物館が実現した時のコレクションにできればと思っている。

 そもそもレ・コード館を立ち上げた時に、僕たちが伝えたかったメッセージのひとつが“原点回帰”ということ。レコードはCDに取って代わられたが、レコードの仕組みのようにシンプルな原理に立ち戻ることが、これからの時代を生き抜く知恵として必要になっている。そうやって立ち止まって見直す場所がレ・コード館だと思う」

 今回の馬頭琴を製作したのは、東京から妻のふるさとにIターンして静内町に工房を開いた吉野健さんだ(彫刻は原島義孝さん)。馬頭琴どころか楽器の製作は生まれて初めてという吉野さんは、「箱みたいなものだから」という堤さんの誘いに、何も知らずに引き受けたという。地元の楽器コレクターから本物を借り、それをモデルに嵯峨さんのアドバイスを受けながら約8カ月かけて製作した。塗料会社に務めていた時のノウハウで、楽器全体をハイセイコーの馬体と同じ黒褐色に塗装した。

 なぜモンゴルの専門家に依頼しなかったのか。
 「どうしても地元の人材でやりたかった。嵯峨さんとは町民劇団公演にも出演してもらっている仲だし、吉野さんには町づくりの会で木製看板の製作なども手伝ってもらっている。こういう人材を発掘して引き上げていかないと、町民参加型の町づくりはできない。年度内にホール運営をしているボランティア団体と町民劇団をNPO法人化する計画だが、こうやって地域の中の人材と財源と仕事を組み直して回していかないと、これからの地域経営は成り立たないと思う」(堤)

 地方競馬の閉鎖など、馬産地を取り巻く環境は日増しに厳しくなっている。町としての生き残りをかけて、競走馬のふるさとの新しいチャレンジは続く。

(坪池栄子)

 

● レ・コード館

[開館]1997年6月8日
[施設概要]町民ホール(可動式507席)、レコード・ミュージアム(展示室4)、レコードホール、レコード収蔵庫、図書プラザ、展望タワーなど
[収蔵枚数]約63万枚
[ホール運営の特徴]町民のボランティア団体「自主企画事業運営委員会」が運営。町民劇団ど・こーれ公演、プロ作曲家の高齢者カラオケ指導、ブランド米「レ・コード大勝」の提案など、多岐にわたる活動で町づくりの拠点に。
[所在地]北海道日高郡新冠町中央町1-4

 

*1 ハイセイコー

2000年5月4日死亡。1970年3月6日新冠町武田牧場生まれ。田中角栄内閣時代の1973年に登場。地方競馬から無敗で中央競馬に進出し、中央のエリート馬を打ち負かす姿で国民的な人気馬に。

 

*2 馬頭琴

モンゴルの伝統楽器モリン・ホール(馬の楽器の意)のこと。馬の頭の彫刻が施された、弦と弓に馬の尾毛を用いる二弦の擦弦楽器。由来を伝えた民話「スーホの白い馬」(愛馬の死を嘆く少年の夢に馬が現れ、“私の骨や、皮や、筋や、毛を使って、楽器を作ってください”と告げる)は有名。

 

地域創造レター 今月のレポート
2001年6月号--No.74

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