一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.18 アウトリーチの基礎知識(2) アウトリーチ活動の分類

講師 吉本光宏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)

3タイプからみるアウトリーチの具体例とその対象

 

 アウトリーチ活動は、「アウト」という字面から、狭義には、文化施設から外に出掛けて行く活動、と受け取られることが多い。しかし、ここでは、アウトリーチの概念を広くとらえて、そのベクトルと対象層を手がかりに類型と活動内容の整理を行った(図)。

 

図 アウトリーチの類型・具体例、対象層

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●呼び込み型アウトリーチ

 アウトリーチ活動の1つ目のタイプとして挙げられるのが、最近、各地の劇場で導入されている「バックステージ・ツアー」のような取り組みである。劇場という施設自体に興味を抱いてもらったり、その機構やしくみを知ることで、より親近感をもってもらおうというものだ。

 とにかく劇場や美術館に足を運んでもらうこと、それがまず第一歩であり、そのために、通常の広報やパブリシティとは異なる形で、市民の関心を喚起するための努力─それも広い意味でアウトリーチの一つと考えたい。こうした不特定多数の市民を対象に、文化施設の側から何らかの働きかけを行い、市民をプログラムや文化施設そのものに引きつける取り組みを、ベクトルが市民から文化施設に向かうことから、「呼び込み型アウトリーチ」と名づけたい。

 こうした取り組みには、各地の美術館ですっかり定着した「ギャラリー・トーク」(注)、演劇・ダンスの公演終了後に演出家や出演者によって解説などが行われる「ポスト・パフォーマンス・トーク」、曲目解説などの付いた「レクチャー・コンサート」などが挙げられる。これらは、単独で成立するものではなく、公演や展覧会との組み合わせにより、初めて観たものにも興味をもってもらう、作品をより深く理解してもらう、作品やアーティストと市民との対話を促すなど、市民をアートに引きつける役割を果たしている。

 このほか、親子を対象にした事業も、子どもを劇場に連れて行こうという動機が、両親を初めて劇場に向かわせるきっかけになることから、呼び込み型アウトリーチのひとつと言える。

 

●お届け型アウトリーチ

 2つ目のタイプが、「アウト」の字句どおり、文化施設の側から外に出掛けて行く「お届け型アウトリーチ」である。現在、各地の文化施設でアウトリーチと称しているのは、このタイプのものを指すことが多いようだ。

 その特徴は、地域の施設や団体、機関などと連携・協働して行われる点で、対象は、連携先によってある程度絞り込まれる。現在、最も活発なのが、学校や福祉施設などとタイアップして行われるものである。

 例えば、地域創造が1998年度から実施している「公共ホール音楽活性化事業(通称・おんかつ)」。オーディションを経て登録された若手の有能な演奏家が、ホールでコンサートを開催するのに合わせ、さまざまなアウトリーチに取り組むプロジェクトである。これまで実施されたアウトリーチ先で圧倒的に多かったのが小学校へのアーティスト派遣だった。

 学校での音楽や演劇の鑑賞会は、従来から広く行われているが、ここで取り扱うアウトリーチは、それらとは異なる点も多い。まず、作品や演奏の鑑賞が目的ではないこと、体育館に全校児童を集めて行うのではなく、教室や音楽室で少人数を対象に行われること、演奏家と子どもたちとのコミュニケーションがベースとなっていること、そして、本番の公演は別途ホールで行われること、などである。

 初めて目の前で見るヴァイオリン、聴いたこともないような美しい音色、そして日々の訓練に支えられた演奏テクニックに、子どもたちの目はみるみる輝きを増してくる。こうした現場での子どもたちの反応をつぶさにすれば、体育館などで行われる鑑賞教室とは全く質の異なるものであることは一目瞭然だろう。

 アウトリーチ先は学校だけではない。幼稚園や福祉施設、病院、美術館、博物館、図書館、コミュニティー施設、公民館、市庁舎、町役場、議事堂、寺社仏閣などなど、数え上げればきりがない。最初に、アートを届けたい市民の顔を想定するか、場所や空間の特性から考えるか、アイデア次第で無限の可能性がある。

 具体的な内容は、音楽であれば短い演奏とトーク、演劇やダンスであれば身体や声を使ったワークショップなどが一般的だが、そこは担当者やアーティストの知恵と工夫の見せ所で、いくらでも企画は広がっていく。

 このほか、地元のコーラス団体やアマチュアのアーティストを対象にしたクリニックやマスターコースなども、この「お届け型アウトリーチ」に含まれるだろう。文化施設の中で行われたとしても、劇場やホールがプロのアーティストとその専門知識や技術を地元市民に届ける、という点で同様だからである。ただしこの場合、アウトリーチの目的は観客の開拓ではなく、地元アーティストの育成となる。

 

●バリアフリー型アウトリーチ

 3番目のタイプが、文化施設やアートに対してさまざまなバリアをもつ市民を対象にしたものである。具体的には障害者や高齢者など、芸術にふれたくてもふれられない人、劇場やホールに足を運びたくてもできない人などを対象にしたアウトリーチである。

 福祉施設や病院等への「お届け型アウトリーチ」も、こうした要素をもっているが、ここでは、文化施設の公演や展覧会等の事業そのものに対して、あらゆる市民のアクセスを可能にする取り組みと考えたい。ハードのバリアフリー化も含まれるが、それはごく一部で、ソフト面からバリアフリーを志向する活動が中心となる。

 このタイプのアウトリーチは、国内ではまだ事例が限られている。わかりやすい例として、米国のガスリーシアターのプログラムを紹介しよう。まず、視覚障害者向けのプログラムとして、この劇場ではAudio Described Performanceというイヤホンガイド付の公演が用意されている。これは、目の不自由な観客に、舞台上の動きやセットの様子など、台詞以外の内容をイヤホンでガイドしながら実際の公演を「観てもらう」サービスだ。台詞の邪魔にならないよう、どこでどんな解説を入れるべきか、劇場の専門家が念入りに準備し、本番公演でのリハーサルを重ねて視覚障害者の目になる「影の解説」をつくり上げている。

 このほかにもいろいろな取り組みをしているが、ガスリーシアターでは、これらのプログラムを「Access Program & Service」と称している。誰もが劇場やそこでの公演にアクセスできる権利を有しており、劇場はそのための環境やサービスを整える責務がある、という考え方に基づいて、バリアフリー型の公演やさまざまなツールを用意しているのである。

 このタイプには、美術館の手で鑑賞できる彫刻(タッチ・スカルプチャー)や、手話のギャラリーガイドなども含まれるが、これら障害者へのサービス的なものだけではなく、障害そのものの克服に寄与しようというアウトリーチもある。例えば、発育障害をもつ子どもたちを美術館に招き入れて、機能回復をサポートするようなプログラムを用意したり(メトロポリタン美術館)、女子刑務所に出向いて受刑者と共にダンスワークショップを重ねながら舞台公演に取り組み、受刑者の社会復帰に向けた自信回復を促すプログラム(パット・グラニー・カンパニー)などである。

 

注)わかりにくいとされる現代美術の鑑賞に専門家の解説をつけることで、市民とアートの垣根を低くしたり、作品や作家についてより深い理解を促すという点では、これもアウトリーチ的な要素をもったものであろう。

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