一般社団法人 地域創造

リージョナルシアター・シリーズ

5周年を迎え、新作短編をプロデュース

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 全国各地の若手・実力派劇団を紹介する「リージョナルシアター・シリーズ」が、2月17日~3月7日にかけて、東京芸術劇場で開催されます。99年に始まった同シリーズも今年で5周年を迎え、紹介した劇団は北海道から沖縄まで計24劇団にのぼります。今号では、津村卓プロデューサーとともに、この10年ほどの地域と劇団をめぐる状況と、シリーズの果たした役割について振り返り、今年の見所について紹介します。

 

─まず、シリーズを始めた経緯から振り返っていただけますか。

津村 地域創造が設立されたのが94年で、その頃から東京以外の地域を拠点にした劇作家の活動が目立つようになりました。特に象徴的だったのが、96年の京都の劇作家、鈴江俊郎氏(劇団八時半)と松田正隆氏の岸田戯曲賞ダブル受賞です。その興奮がさめないうちに深津篤史氏(桃園会/大阪)が同賞を受賞。さらに、日本劇作家協会の新人戯曲賞を長谷川孝治氏(弘前劇場/青森)、泊篤志氏(飛ぶ劇場/北九州)が受賞しました。こうした一連の動きは、東京一極集中の小劇場界にとってまさに“事件”でした。

─東京以外にも面白い劇団があった。

 それまでは、演劇ファンもマスコミも、さらには地元でも“地方の劇団”とみる傾向がありました。劇団側にも「本格的にやるなら東京に出なければ」という意識があった。ところが、90年代に注目が集まった劇団は違っていたんです。地域を拠点にしながら第一線の作品を創る。むしろ、方言を使った作劇方法などにより、地域性が表現の可能性を広げていました。
 公共ホールが全国に整備されて環境が整ったのに加え、こういう地域を拠点にした劇団が育っていけば、早晩、地域が日本の演劇シーンの一翼を担う時代がくるのではないか。そう考えて、99年、7劇団を招いてリージョナルシアター・シリーズをスタートさせました。

─地域劇団を取り上げたシリーズの開始はマスコミでも反響を呼びました。なぜこうした劇団がでてきたのでしょう?

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 一つには、90年代以降、東京の演劇公演が大規模化・商業化していく中で、劇団というスタイルを維持しながら実験的な手法を含めて丁寧に作品を創りたいと考えるところが、戦略的に地域を拠点にしたという面があると思います。弘前劇場や飛ぶ劇場などにはそういう志向があります。また、関西では戯曲賞を制定するなど、才能を発掘・育成する上で劇場が果たした役割も見逃せません。
 また、地域に演劇を事業の柱にした公共ホールや公共の稽古場が整備されて環境が整ったことも大きいと思います。東京の劇団からみればとても恵まれているのではないでしょうか。

─地域の創作環境が充実してきたと。

 ええ。ただ、そこで課題になるのが地域における “批評の不在”“クリエーターとしてのスタッフの不足”ということです。特に質の高い作品を創り続けるためには、マスコミはもちろん、多様な観客にさらされる場が不可欠です。そこに、リージョナルシアター・シリーズの大きな役割があると思います。
 地域で力を蓄えた劇団がシリーズに出ることで、効果的に集客ができる上、批評にもさらされる。また、「リージョナルシアターズ・ミーティング」のような交流事業を実施しているので、関係者や全国の劇場とのネットワークをつくることもできます。

─シリーズが、劇団が地域を拠点にしながら全国に情報を発信するためのステップになっているわけですね。

 OB劇団には、京都の劇団MONOのように、全国数都市のツアーを実現しているところもありますし、文化庁やセゾン文化財団などの助成金を獲得するようになったところもあります。多少とも“リージョナル効果”があったとしたら嬉しいですね。
 そうしたOB劇団の活躍をみて、地域を拠点に全国区を目指す若手劇団が増えてきたように感じます。シリーズでも3回目以降、スクエア(大阪)、芝居屋坂道ストア(神戸)など積極的に若手を紹介していますが、今後も各地の劇場と連携しながらそうした裾野を広げていきたいと思っています。

─地域の劇団が実力をつけることで、地域の公共ホールとの連携も可能になりますね。

 私は伊丹アイホールと北九州芸術劇場のプロデューサーも兼務していますが、地元の劇作家の書き下ろしでプロデュース公演を行っています。地域で戯曲賞を制定して公共ホールが受賞作をプロデュースするところも出てきました。こうした動きを踏まえ、シリーズでは来年度から新たに公共ホール等が製作した作品を紹介する部門も新設する予定です。

─最後に、今年の見所を教えてください。

 目玉は、これまでシリーズで蓄積した劇団、劇場とのネットワークを生かした5周年特別企画公演です。岸田戯曲賞作家の深津氏、鈴江氏が新作短編を書き下ろし、それぞれをはせひろいち氏(劇団ジャブジャブサーキット/岐阜)、泊篤志氏が演出するという、地域を越えたコラボレーション企画です。
 企画公演のほか、大阪、仙台、横浜から3劇団が登場します。大阪のクロムモリブデンは、音響、照明、美術、映像を駆使し、関西においても独自の路線を築いているパフォーマンス集団で、関西演劇界の層の厚さに驚かされると思います。また、演劇に力を入れている公共ホールの職員が集合する「リージョナルシアターズ・ミーティング」も開催します。ご期待ください。

 

●5周年特別企画「国道、書類、風呂桶 ─短編2作同時上演─」

[日程]3月6日(土)、7日(日)
[会場]東京芸術劇場小ホール2
5周年を記念して、鈴江俊郎(劇団八時半)、深津篤史(桃園会)の新作短編を同時上演するという特別企画公演を実施します。演出ははせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)と泊篤志(飛ぶ劇場)。どちらも三人芝居、キャストにはリージョナル参加劇団一押しのメンバーが勢揃い。地域を越えたコラボレーション公演に注目です。

『いちごの沈黙。』
[作]鈴江俊郎
[演出]はせひろいち
[出演]佃典彦(劇団B級遊撃隊) 咲田とばこ(劇団ジャブジャブサーキット) 中村美保(劇団八時半)
『コイナカデアル。』 
[作]深津篤史
[演出]泊篤志
[出演]江口恵美(桃園会)、寺田剛史(飛ぶ劇場)、中野真希(ク・ナウカ)

 

●5周年企画公演プレイベントリポート

 12月10日、東京芸術劇場で開催された芸術見本市の中で、5周年特別企画をPRするトークイベントを実施しました。パネリストに、脚本を担当する鈴江俊郎氏と演出のはせひろいち氏、泊篤志氏を迎え、今回の作品について語ってもらいました。
 今回競演する短編2作の共通点は「国道」「書類」「風呂桶」というキーワードと、3人芝居であるということ。鈴江氏が執筆中の『いちごの沈黙』について「国道沿いの“ランプの宿”に、書類に追われる仕事仲間の男女3人が慰安旅行にきたという話」と説明すれば、はせ氏は「鈴江さんの脚本はとても演出意欲が湧く作品。その特徴である観客との距離感を大事にして臨みたい」。深津氏の作品『コイナカデアル。』は、人手に渡った元の自宅の風呂場に住んでいる男の話。泊氏は「深津さんの結婚観、夫婦観が現れている脚本だと思う。せりふは表層。そのせりふの底に隠された情報を、僕なりに取り出してみたいですね」。
 シリーズならではの顔合わせにご期待ください。

 

●クロムモリブデン『なかよしshow』(大阪)

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[日程]2月20日(金)~22日(日)
[会場]東京芸術劇場小ホール1
[作・演出]青木秀樹
[出演]森下亮、夏、板倉チヒロ、金沢涼恵、信国輝彦、重実百合、床田光世、奥田ワレタ、冨永茜
◎89年大阪芸術大学OBを中心に旗揚げ。第1回公演は『ナックル』。99年の第20回公演『カラビニラダー雪22市街戦ナウ』で初の東京公演を行う。今回で東京公演は6回目。“トランス・ナンセンス・バイオレンス”をテーマにノイジーな音響や照明、美術、映像を駆使し、関西において孤高の存在として活動を続ける演劇パフォーマンス集団。近年は音楽を多用したスタイリッシュ・コメディとしてエンターテイメント色を打ち出し人気を博している。

[お問い合わせ]クロムモリブデン Tel / Fax : 06-6815-1015/E-Mail : crome@nyc.odn.ne.jp

 

●ペピン結構設計『東京の米』(横浜)

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[日程]2月24日(火)~26日(木)
[会場]東京芸術劇場小ホール1
[作・演出]石神夏希
[出演]中澤大輔、岡本祐介、里見有祐、小林悠、関智美
◎99年に慶応大学藤沢湘南キャンパスの学生を中心に結成され、当初よりサークル活動の域には留まらずに年々活動の幅を拡げている。地元横浜の小劇場STスポットとの協力体制の中で成長し、02年に今回の参加作品、『東京の米』が第2回かながわ戯曲賞最優秀賞を受賞、一気に注目を集めた。作・演出の石神夏希(いしがみなつき)は、若手演出家コンクール2002奨励賞を受賞し、劇作家、演出家、俳優としての今後の活躍に目が離せない若手の一人。

[お問い合わせ]ペピン結構設計 Tel : 080-3271-0319/E-Mail : info@pepin.jp
URL : http://pepin.jp

 

●きらく企画『沸騰』(仙台)

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[日程]2月28日(土)、29日(日)
[会場]東京芸術劇場小ホール1
[作]瀧原文法
[演出]いとうみや
[プロデュース]鈴木拓
[出演]原西忠佑、三浦ひろえ ほか
◎仙台高等学校演劇部出身の鈴木拓、原西忠佑を中心に99年8月第1回公演『ホウル』上演後演劇企画集団として活動を開始。03年までに計8回の公演を行う。現在も年2~3本のペースでプロデュース公演を企画・上演。現在メンバーは6人。映画の手法を取り入れた巧みな映像と舞台の融合等、独自の空間創作にも力を入れる。原西忠佑が03年秋、劇都仙台2003演劇プロデュース公演『闇光る』(作:キタモトマサヤ/演出:宮田慶子)に出演するなどメンバーの客演活動も積極的に展開。

[お問い合わせ]きらく企画 Tel / Fax : 022-278-4120/E-Mail : info@project-kiraku.com
URL : http://www.project-kiraku.com

 

●リージョナルシアターズ・ミーティング

5周年特別企画~公共ホールと演劇の関係は進化しているか?
[日時]2月20日(金) 13:30~17:30
[会場]東京芸術劇場B2F 中リハーサル室

 

セッション1「進化する稽古場施設運営~作品づくりのプロセスをどうサポートするか?」

この10年、金沢市民芸術村をはじめ、京都芸術センターや、せんだい演劇工房10BOXのように、各地で創作プロセスを支援する施設の整備が進んできました。新しくオープンする施設は先行事例を参考にしながらさまざまな工夫を重ねています。施設が演劇作品づくりのプロセスをどうサポートしていくか? 進化する運営の工夫と課題について議論します。
[パネリスト]八巻寿文(せんだい演劇工房10BOX 演劇振興係)、丸井重樹(元・京都芸術センター アートコーディネーター)、籾山勝人(長久手町文化の家 事業係長)、久保田修治(POP THEATRE Я代表・劇作家・演出家)、深津篤史(桃園会代表・劇作家・演出家)

 

セッション2「劇団の発掘・ステップアップに劇場が果たす役割とは?」

劇団の発掘、ステップアップのためにホールや劇場が果たす役割とは? そのために、どのような仕掛づくりが有効なのか?若手劇団のメッカとなっている各地の劇場の事例を踏まえ、その役割と効果について検証します。
[パネリスト]山口英樹(伊丹アイホール事業担当)、岡野亜紀子(神戸アートビレッジセンター)、岡崎松恵(BankART1929 Yokohama代表)、津村卓(地域創造プロデューサー)、岩崎正裕(劇団太陽族代表・劇作家・演出家)

 

●〈フリンジ参加〉Ort-d.d+こふく劇場

『so bad year』(東京+宮崎)
[日程]2月17日(土)、18日(日)
[会場]東京芸術劇場小ホール1
[作]永山智行(こふく劇場)
[演出]倉迫康史(Ort-d.d)
[出演]三村聡(山の手事情社)、あべゆう・上元千春(こふく劇場)
◎宮崎の劇作家・永山智行の代表作で、'01年に愛知県文化芸術財団主催の第2回AAF戯曲賞優秀賞を受賞した作品を、次世代を担う演出家として注目を集める倉迫康史が演出。宮崎+東京のコラボレーション公演。

 

リージョナルシアター・シリーズ出演劇団

◎第1回(1999年10月17日~31日)
弘前劇場(青森)、劇団カタコンベ(新潟)、劇団ジャブジャブサーキット(岐阜)、MONO(京都)、199Q太陽族(大阪)、桃園会(大阪)、飛ぶ劇場(北九州)
◎第2回(2000年11月6日~26日)
A.G.S(札幌)、劇団赤い風(盛岡)、POP THEATRE Я(山口)、劇団異国幻燈舎(滋賀)、劇団八時半(京都)、PM/飛ぶ教室(大阪)
◎第3回(2001年10月30日~11月21日)
TPS(札幌)、伊沢勉の会(名古屋)、スクエア(大阪)、芝居屋坂道ストア(神戸)、演劇企画魚の目(沖縄)
◎第4回(2002年11月21日~12月8日)
劇団B級遊撃隊(名古屋)、劇団Ugly duckling(大阪)、POP THEATRE Я(山口)、こふく劇場(宮崎)、飛ぶ劇場(北九州)
◎第5回(2004年2月17日~3月7日)
きらく企画(仙台)、クロムモリブデン(大阪)、ぺピン結構設計(横浜)
※名称は出演時のもの

 

リージョナルシアター・シリーズに関する問い合わせ

地域創造芸術環境部 宮地・富士原 Tel.03-5573-4065

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