一般社団法人 地域創造

愛知県長久手町 長久手町文化の家 長久手ダンスシアター 『蜜の歳月─みつのとしつき』

  愛知県の「長久手町文化の家」で、1月17日、18日に、非常に興味深いコンテンポラリー・ダンスの公演『蜜の歳月』があった。メインとなる出演者は、地元に住む50歳以上の男性12人、女性25人。コンテンポラリー・ダンスは初めての人ばかりである。

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 長久手に住む中高年のポートレイト写真のスライド投影からスタート。幕が上がると、50~70歳代の体格も多様な人たちが登場し、それぞれのダンスを踊る。片腕を挙げる、肩をまわす、といったシンプルな動きを繰り返す女性。童心に戻ったように飛行機の真似をして走り回る男性陣。ひとりの女性がモノローム的に若い頃のバスガイド時代を語る場面もある。もちろん、若いダンサーならすらりと伸びるはずの腕が曲がっていたり、タイミングがずれることもある。だが、美しい。年齢を重ねたその人自身の存在感が舞台からあふれ出てくる。

 フィナーレでは、新聞紙の紙片をまき散らしながら、全員が踊り回る。みんないい笑顔だ。観客席から手拍子が湧きあがる。最後は、観客も巻き込んでの大騒ぎ。晴れやかな笑い声がいつまでも続いていた。

 「長久手町文化の家」としてはコンテンポラリー・ダンスへの取り組み自体初めての試みである。

「開館5周年を迎えてこれまでの音楽と演劇に加えて新しい展開を考えた時に、コンテンポラリー・ダンスが候補にあがりました。私は何も知らなかったので、知人のクラッシックバレエのダンサーに相談したら、『歩くことや洗濯物を干す動作も意識すれば表現になる。何でもありだ』と言われたんです。これは、面白い。コンテンポラリー・ダンスなら、日常と地続きで一般の方にも開かれたことが出来るのではないかと思いました」と事業係の生田創さんは言う。

 同公演の企画・振付は、新進のダンサーであり、振付家でもある山田珠実さんに一任された。50歳以上の人たちを対象にする提案は、山田さんから挙がった。

 「以前から電車や美術館で見かける中高年の方の動きが美しいと感じていました。練習すれば自在に身体が動かせる若い人たちでなく、思うように動かない身体の中にも可能性があるのでは、と思ったんです」と山田さん。

 出演者の募集にはかなり苦労した。公募で呼びかけても馴染みのないコンテンポラリー・ダンスへの反応は鈍い。当初は、舞台美術に使うポートレイトの撮影を依頼し、山田さん自身が写真を撮りながらコミュニケーションをとり、「この人は!」と思う人に声をかけていった。一方で、初心者向けのワークショップを催し、受講生の中からひとりずつに出演を依頼していった。中には、道ですれ違った女性に惚れ込み、スカウトしたというエピソードもある。

 「山田さんの熱意には感服させられました。9月頃から始めて、11月、12月は毎日朝から晩まで来られていましたから」と生田さん。

 その熱意が伝わり、次第に出演者たちものめり込んでいった。郷原照子さん(72歳)は、健康づくりのつもりでワークショップに参加。「身体が動かなくなった時の思い出づくりに」舞台出演を承諾した。中野喜美子さん(65歳)も「人前に出るなんてとんでもないと思っていましたが、一歩踏み込むと人生が変わるものですね」と充実した笑顔。

 山田さんは、個人レッスンの時間を多くとり、ひとりずつの個性を見いだしながら振付の構想を練っていった。「今までは、より完成度の高い作品を上演する目的で練習を重ねてきたけれど、今回は、練習の時の一瞬の動き、この人たちと過ごした時間そのものが大切になった。私にとって発見の連続でした」

 出演者たちも山田さんによって自分自身を発見し、それを他人に伝える喜びを実感した。作品だけでなく、互いの人生まで踏み込んだ希有なコラボレーションがここに生まれた。

(山下里加)

長久手ダンスシアター『蜜の歳月-みつのとしつき』
 [主催]長久手町文化の家
 [日程]1月17日、18日
 [会場]長久手町文化の家 森のホール
 [企画・振付]山田珠実

 

 

地域創造レター 今月のレポート
     2004.2月号--No.106

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