一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.21 邦楽の基礎知識(1) 邦楽の分類と流派による違い

 講師 杉浦 聰(埼玉大学講師)
 成立した時代と支持者の好みによって細分化

 

●邦楽と流派
 日本には数多くの伝統音楽があります。邦楽とは「本邦(わが国という意味)の音楽」「近世邦楽」を略した呼称といわれ、広義には雅楽や声明などの古代の音楽、能狂言や平家琵琶などの中世の音楽も含みますが、一般的には江戸時代以降に生まれた、三味線による音楽、箏による音楽、尺八による音楽、琵琶による音楽などを指しています。
 音楽文化は生まれた時代の庇護者によって、後の時代も守られました。雅楽は宮中や寺社仏閣によって、能楽や平家琵琶あるいは琵琶楽や尺八楽は武士(明治以降は上流市民)によって、三味線音楽は江戸市民(明治以降は一般市民)によって、です。成立した時代の好みや支持者の好みによって音楽の表現が異なったということも、たくさんの芸能が平行して続いてきた理由でもあります。

 

●三味線音楽の分類と流れ
 ひとくちに三味線音楽といっても多くの流派が存在します。さまざまな分け方がありますが、これを「その音楽がどのような場で演奏されるのか」という観点で分類したのが【表1】です。劇場音楽(その中でも歌舞伎で演奏される音楽か、人形芝居で演奏される音楽か、ということがあります)、非劇場音楽(純演奏を楽しむ音楽)、その他労働の場で歌われた音楽など、といった分け方です。ただし、これも創立当初は劇場音楽であったものが、時代が経つにしたがって活躍の場を非劇場に移した、というものも多くあるので注意が必要です。
 三味線音楽は中国から琉球を経て日本に16世紀半ばに三味線が輸入される以前にあった芸能、例えば「浄瑠璃」とか「流行り歌」などといった同じ祖先をもつ一族から、やる気のある人々が独立分派したので、血縁関係がある音楽として整理することもできます【表2】。血縁関係ですから、曲調などは似ているのですが、その音楽の支持層の嗜好にあうように表現を変えていった結果微妙な違いが生じ、今ではそのわずかな違いがそれぞれの流派のアイデンティティとなっています。そのため、専門家以外にはその違いがわかりにくいという面があります。
 ちなみに「流派」という言葉は、【表1】や【表2】で示した名称を「流」とすると、流がさらに分かれて同じ流の中で複数の家元がいる場合、その家元に率いられている小グループを「派」として使い分けをしています。

 

表1 三味線音楽の演奏の場による分類

112.png

 

表2 邦楽(三味線・箏・琵琶・尺八の音楽)の流れ

02_2_2.gif

図表の見方
系統図の中で実践で結んであるものは親子関係にあります。点線で結んであるのはさかのぼると祖先になるという関係です。名前の書かれたものは全て現存する流派です。なお、うたいものと語りものは歴史的な視点によるジャンルわけで、内容によるものではありません。語りものの中の浄瑠璃は、三味線と結合して以来、江戸前期に次々と分派していったために、たくさんの流派があるのです。

 

演目(曲目)の違い
 三味線にしろ箏曲にしろ、たくさんの流派がありますから、例えば有名な『春の海』という曲を習いたくて箏を習い始めたが、習った流派のレパートリーの曲ではなかったので習えなかった、という笑えない話を時々聞きます。また、新曲の場合も西洋音楽と違い、その曲を外部の作曲家に委嘱した流派、あるいは作曲した演奏家の系統以外の流派では演奏されない、ということも多いのです。
 つまり、有名な曲でも、その曲をレパートリーとしている流派はひとつだけしかなく、同じ名前の曲があったとしても内容は別の曲であることがほとんどです。演奏家自身についても、二流派以上を掛け持ちしている人はほとんどいないため、ひとりの演奏家に長唄の越後獅子と津軽三味線の演奏を頼んで、両方とも演奏できるということはありません。

 

演奏形態の違い
 目的によって音楽が違うという歴史があるため、演奏形式も異なっています。例えば「長唄」は歌舞伎上演の際に劇場専属の音楽として舞踊の伴奏やBGM用の音楽として発達してきました。しかし、歌舞伎そのものは中世に出来た能狂言の演出を取り入れたため、能狂言で用いる囃子(笛、大鼓、小鼓、太鼓)をも採用したので、長唄は歌と三味線のほかに囃子も取り込んでいます。そのため長唄のみ舞台でこの三者が同時に出演し、他の三味線音楽は歌と三味線の二職のみで行われています。また、歌と三味線の人数も流派ごとに違いがあります。
 劇場音楽に分類される三味線音楽は「役者と違う世界」で演奏するという意味で、舞台上に演奏用の台を組み、その上で演奏しますが、この演出法は演奏会の時も踏襲されています。それに対して地歌箏曲や琵琶楽は、元来室内楽として畳の上で行われたものなので、演奏会のときは舞台に直接(あるいは薄い台……所作台を置き)座って演奏します。邦楽にはこのような過去の演出形態に基づく演出の約束事というものも存在します。逆にこうした約束事や見台(譜面台)の形状の違いで、いま行われている音楽を見分ける、ということもできるのです。

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2004年度地域創造レター8月号-No.112制作基礎知識シリーズVol.21 邦楽の基礎知識(1) 邦楽の分類と流派による違い